魔弾の王と戦姫~獅子と黒竜の輪廻曲~
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第29話『天翔ける流星!甦る暁の一振り』
前書き
久しぶりの投稿で短めで申し訳ありませんが、一読していただけると幸いです。
魔物を狙うヴァレンティナ=グリンカ=エステスの視線に――
闇と影の竜具、魔物を穿つ弓へと姿を変えたその鏃の視線に――
赤子を人質にとる魔物ヴォジャノーイが気づいた。
同時に、『疑似鍛冶場で鍛錬を慣行する』刀鍛冶とその小さな助手の姿にも気づいた。
だが、魔物は迷うことなく刀鍛冶ルーク=エインスワーズの元へ強襲する!
この魔物には勝算があった。
自身の肉体の強度には自身がある。オルメア会戦終戦後の夜襲にて、かつて凍漣の主と対峙したとき素手のみで振り払ったことがあるのだから、この虚影の主の竜具も問題にならないはずだ。
それに引き換え、刀鍛冶の精製する『刀』だけは絶対に破砕しなければならない。恐らく、あの手に収まるであろう勇者の元へ届く前に!
竜具に比べて、か細い『力』しか感じぬ刀だが、間違いない。竜具よりもはるかに危険な存在だと!確実に自分の身体を切り裂くものだと訴えかける!
「ルーク!」
「一歩遅いよ!銃!」
奪われる勝機。崩れ行く未来。奪われていく赤子の命。
勇者、獅子王凱は人を超越した存在だ。それでも目の前の絶望的な状況に追いつくには至らない。それが何と悔しい事か。
ほんの一瞬でもいい。魔物の強襲からルークを庇うことが出来れば……あるいは!!
そんな凱の願いに呼応したのか、セシリーがルークの前に仁王立ちで立ちはだかる!
「思い出してくれ!ガイ!これが……セシリー=キャンベルだ!」
自分にできることは少ない。むしろ、たった一つしかない。自分にあの蛙の魔物を打ち滅ぼす力などない。
そして、自分が求めた勇者に思い出してほしい。
もう、「あのとき」の勇者に守られるだけの少女ではない。今、この瞬間だけは、勇者を守る騎士だと。
あのとき、果たせなかった約束を、今!ここで!
「鬱陶しいね!消えてもらうよ!」
歪な笑顔を浮かべる蛙の魔物の口から吐き捨てられる酸液の唾!紫と紺が入り混じる毒々しい色!
たかが人間一匹の障壁など魔物にとっては羊用紙に等しい。排除など造作もない。魔物は勝利を確信した。
散弾銃のように飛びついてくる魔物の唾は、確実にセシリーの四肢を穿ち、傷つけ、殺せる……はずだった。
ただセシリーはじっと耐えている!ルークを狙うはずだった魔物の散弾唾は全てセシリーに防がれる!
「――――!!」
彼女は倒れない!終われない!守ること!そう宣言したのだから!
(……なぜだ!?)
直立不動を続けるセシリーを凝視して、魔物は一瞬焦りを覚える。過去に一度、凱に膝を突かせたこともあるのに。
ほんの一瞬の時間稼ぎにすぎない。だが、十分でもあった。刀鍛冶が鍛錬を終えるまでは。
そして、声が聞こえた。
「セシリー……お前のおかげで完成した!」
刀鍛冶はただ前を見ていた。
「ルーク……」
倒れるセシリーの背中を、ルークが支える。
片手には、不純物一切含まぬ直刀が一本。素粒子の跳ね返りで輝く側面は、この場にいる全員の意識を支配する。
光の……いや、違う。これは『暁』の神剣――
(駄目だ!あれだけは絶対に粉砕しなければ!!)
完成したばかりの神剣を目の当たりにしてヴォジャノーイは焦り、上空へ跳びルークへ強襲する。
だがルークは動かない。セシリーも抱きかかえたままだ。でも動じないのは何故だ?まるで、ギリギリまで引き付けるかのように。
「ルーク!?」
たまらず凱が叫ぶ。しかし、この距離では一足飛び間に合わない。そしてこの後、凱はルークの……そしてヴァレンティナの真意を知ることとなる。
――――突如、閃光が空間を奔り、魔物の頬を切り裂いて勇者の手元を目指す!
「ガイ!!そいつを使え!」
たった一人のために、獅子王凱のために、勇者のために作られた一振りの刀身!
それは、凱の生き方を肯定する『殺刃なき直刀』の剣!それがたった今、凱の手に届けられた!
「当代の刀鍛冶!!お前はここで!!」
片付ける。そう言い放とうとした『矢先』、ヴァレンティナの構えし竜具の『矢』がヴォジャノーイを穿つ!
案の定、黒き弓のように倒せるわけではない。それは分かっていた。しかし、ひるませることはできた。
(こうなれば!せめて坊主を!!)
もはや巻き返しが効かないと判断したのか、魔物は標的をルークから赤子コーネリアスへ視界を切り替える。
だが、既に時遅し。
勇者、騎士、刀鍛冶、戦姫が繰り広げた幕劇の裏側で、フィグネリアが赤子をしっかりと抱きかかえて身柄を確保していたのだ。
もう、勇者を縛るものは何もない!ただ目の前の魔物を成敗するのみ!
そしてこの勝機を、凱が見逃すはずがない!!
「ルーク!ありがたくこの『神剣』使わせてもらうぜ!!」
繰り出されるは、独立交易自由都市、騎士団習得必須技能。
天翔ける銀の流星にして竜星よ!力を!
竜の舞闘を模倣した長剣様式の竜舞!その名は――――
―――銀閃殺法!海竜閃!銀之竜星!!―――
頭上数回転から繰り出される斬撃と朱い煌めきが確実に魔物の身体を、まるで夜空を切り裂く無数の流星として切り裂いていく!
「……があ!!」
断末魔、と捉えられそうな呻き声をあげ、蛙の姿をした魔物はそのまま地に伏せる。
勇者達は、勝利を手にしたのだ。
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