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ハッピークローバー

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第四十三話 全く以て同感その四

「やっぱり」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「あの作品が最後まで終わって」
「描かれて」
「結末見られたらね」
 それならというのだ。
「私それで幸せよ」
「幸せなの」
「ええ」
 理虹に真面目な顔で答えた。
「そこまで読めたらね」
「そうなのね」
「それだけでね」
「そこまで言うのね」
「いや。思い入れのある作品を最後まで読めたら」
 それが出来ればというのだ。
「そうでしょ」
「それはね」 
 理虹も言われて納得して頷いた。
「私だって今読んでる作品が完結して」
「最後まで読めたら幸せでしょ」
「未完でずっといられるなんて」
 それこそというのだ。
「一番ね」
「嫌でしょ」
「終わったら寂しくなるけれど」
 それでもというのだ。
「けれどね」
「それでもでしょ」
「ええ、終わりまで見られたら」
 それならというのだ。
「私だって嬉しいわ」
「好きな作品を最後まで読めたら」
「それだけでいいのね」
「幸せよ、だからね」
「最後まで描いて欲しいのねあの作者さんには」
「あんな仕事しろ状態じゃなくてね」
 それでというのだ。
「真面目にね」
「切実なのね」
「そうよ、未完の作品を読んでいくことはね」
「辛いわね」
「最後まで読まないとね」
「それはそうね、何かね」
 理虹はここで妹に話した。
「大菩薩峠って小説あるらしいの」
「何か物々しいタイトルね」
「戦前の作品で」
 中里介山が書いていた作品だ。
「三十年以上連載して」
「未完だったの」
「ずっと描いていたけれど戦争になって」
 第二次世界大戦である、この作品も未曽有の戦争に巻き込まれてしまったのである。これも歴史の残酷な一面であろうか。
「未発表の原稿がね」
「燃えたの?空襲で」
「実際にそうなってね」
 妹の言う通りにというのだ。
「それで気落ちして作者さんのお母さんも亡くなったかして」
「余計に気落ちしたの」
「それで書けなくなって」
「未完のままなのね」
「作者さんが亡くなってね」
「そうなのね」
「三十年以上続いたのに」 
 それでもだったのだ。
「終われなかったのよ」
「そんな作品もあるのね」
「聞いた話だと途中でお話がループして」
 そうなってしまってだ。 
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