イベリス
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第七十六話 狭いが多彩な街その十
「尊敬されるどころかよ」
「馬鹿にされるわね」
「心の底からね」
「そうなるわね」
「それも一生よ」
ただ馬鹿にされるだけでなくというのだ。
「言った相手の人が生きている限りね」
「馬鹿にされるのね」
「そうなるわよ」
こう咲に話した。
「自分が悪いことをした駄目なことをしたやってはいけないことをした」
「そう思っていたら」
「間違っても言えないから」
真顔で自分を尊敬しろなぞだ。
「そんな人が立派な筈じゃないしね」
「かえって馬鹿にされるのね」
「それもその人が死ぬまで徹底的にね」
「そうなるのね」
「そんな人より本当に太宰さんの方がましよ」
「恥の多い一生を送ってきたって」
「自分で言っていたから」
だからだというのだ、人間失格が太宰の自伝的作品であることはよく知られている。彼が生まれ薬物中毒で入院するまでを書いているのだ。
「あの人は反省もしていたし恥もね」
「知っていたのね」
「そのことは間違いないわ」
「やっぱりそうね」
「ナポレオンを破ったウェリントンなんてね」
この名将はというと。
「ある時この世で一番素晴らしい人って言われたのよ」
「ナポレオンに勝ったから」
「それでイギリスを救ったからね」
それ故にというのだ。
「そう言われたけれど」
「それで胸張らなかったわね」
「馬鹿なことを言いなさんなってね」
その様にというのだ。
「その人に返したそうよ」
「そうだったのね」
「本当に立派な人は自分を偉い尊敬しろなんてね」
そんなことはというのだ。
「思わないしね」
「言わないのね」
「そうしたものよ、だから咲ちゃんもね」
「そんな風に思わないで」
「言わないことよ」
「そのことも大事なのね」
「それで今しているね」
愛は周りを見つつあらためて話した。
「東京のあちこちを見て回ることはね」
「コツコツでもよね」
「していったらよ」
「いいのね」
「少しずつね」
「見て回るのね」
「そうしたらね」
それでというのだ。
「見聞を広めることになるわ」
「旅行と一緒ね」
「本当に一緒よ」
咲が今言った通りにというのだ。
「そのことはね」
「旅行ね」
「そうよ、それが日帰りどころかちょっと見て回る位でも」
それでもというのだ。
「東京は色々な場所があって」
「それぞれ違っていて」
「それだけ学ぶものがあるから」
だからだというのだ。
「旅行と一緒でね」
「見て回って私の糧になるのね」
「そうよ、私もそう言ったわよね」
「ええ、楽しくてね」
「自分の成長のそれにもなるからよ」
即ち糧にというのだ。
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