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展覧会の絵

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第十三話 ベアトリーチェ=チェンチその五

「己の父を殺した罪に泣く彼女と同じくね」
「けれどそれだけじゃないっていうのは」
「彼女に罪を犯した父親は彼女よりも遥かにね」
 それ以上にだというのだ。ベアトリーチェよりも。
「地獄に落ちて罪を償うべきだよ」
「そうそう、そうだよね」
 和典もだ。希望の今の言葉に大きく頷く。まさにその通りだというのだ。
「佐藤君の言う通りだよ。その父親が絶対に悪いじゃない」
「地獄の裁判官ミノスの判決を受けて」
 ダンテの神曲の話も出た。この物語はそのままキリスト教の地獄の世界にもなっているのだ。尚地獄だけでなく煉獄や天国のことも書いている。
「そのうえでね」
「永遠に裁かれるべきだよね」
「その通りだよ。だから」
 十字はだ。また言った。
「彼女の父親の様な輩こそ。神は」
「裁くんだね」
「そうだよ。神は彼女を裁かない」
 ベアトリーチェを見てだ。十字は言っていく。
「その代行者も同じだよ」
「本当に悪い奴こそが裁かれるべきだよね」
「その通りだよ。神は全てを見ておられるからこそ」
 何処までもだ。十字はカトリックの思想だった。
 そしてその確固たる思想からだ。こうも言った。
「かつてトマス=アクィナスは悪魔を必死に探したけれどね」
「ああ、あのスコア哲学の」
「その大成者である彼もね」
 その時代のカトリックの大学者だ。まさにその時代の権威であったのだ。
「悪魔を探したよ。そして悪魔は何処にいたのか」
「人の中かな」
「日本人の思想だね」
「ううんと。ゲームとかでそうなっていったかな」
 十字は自分のそうした悪魔は人の心の中にいるという考えの根拠をそういったものの中にあると述べた。
「小説とか漫画からもね」
「知っていったんだね」
「知ったっていうか影響を受けたっていうか」
 この辺りはだ。和典も曖昧だった。
「自然となったっていうかね」
「そうしたことから何でもわかっていくよ」
「じゃあこれでいいんだ」
「いいし正解でもあるよ」
 十字は絵、その少女を観ながら話した。
「悪魔はね。心の中にいるよ」
「やっぱりそうなんだ」
「人は善でもあり悪でもある」
 今度はこう言う十字だった。
「そういうものだからね」
「じゃあ天使もいるのかな」
 悪魔と対極にある存在のこともだ。和典はその話に出して来た。
「やっぱり」
「天使だね」
「悪魔もいるってことは天使もいるよね」
 善悪が共にあるのならだ。善の象徴である天使もまた、だというのだ。
「そうだよね。それじゃあ」
「いるよ」
 その通りだとだ。十字も答える。
「人の中にね」
「やっぱりそうなんだ」
「そう。そしてね」
「そして?」
「両者は互いにせめぎ合っているよ」
 天使と悪魔の戦いはだ。人の心の中でこそ行われているというのだ。
「そしてそれにより人の心は形成されていくんだ」
「そうなるんだね」
「そう。ただ」
 ここでだ。十字はその言葉を一旦置いた。それからまた述べたのだった。
「善のみになった人もいればね」
「完全に悪になった奴もいるんだ」
「完全な悪。邪悪」
 完全な悪をだ。十字はこう表現した。
「それは絶対に許してはならない」
「うん、じゃあそういう奴が」
「彼女の父だったんだね」
 また絵の話に戻った。ベアトリーチェ=チェンチの。
「この絵には邪悪は存在していないけれど邪悪は描かれているよ」
「描かれていないけれど存在しているんじゃなくて?」
「絵にいるのは彼女だけだよ」
 存在しているのはだというのだ。 
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