ファイアーエムブレム聖戦の系譜〜選ばれし聖戦の子供たち〜
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第一章:光をつぐもの
第2話:峡谷の戦い
セリスたちがイザーク討伐隊に対し見事な勝利を飾ったティルナノグに到着した一団の姿があった。一団は千騎ほどのきへいであり皆剣と槍、斧や弓などで武装している。勝利の歓声を挙げるセリスたちの姿を見て先頭の男が困惑した顔で呟いた。
「しまった、遅かったか」
かつてシグルドの下で若き軍師として名を馳せ、今はセリスの第一の臣として主君を全幅の信頼を受ける男、オイフェである。ランゴバルトとの戦い直後、シグルドによってシャナンと共に幼いセリスと子供たちと一緒にイザークへ逃した。その地においてセリスを育て守り続けた。騎士としても優秀であり、剣の腕はシャナンに勝るとも劣らない程である。性格は実直的にして若い解放軍を手綱を締める役割を果たしている。濃いオリーブ色の髪と同じ色の瞳を持った純正な顔立ち、丈の短い黒い軍服に白いズボンと黒いブーツ、裏が灰地の赤いマントという騎士と呼ぶに相応しい出で立ちである。特に口髭が印象的である。その口髭が不安そうな表情で温もらせてるのを見て馬を述べている騎士がそれを打ち消すべく言った。
「けれどいずれこうなることはご承知だったんでしょ?それが早くなっただけですよ。気にかけることはありませんよ」
リーゼントか角刈りに近い髪型をした金髪碧眼の精粋な顔立ちの騎士である。黒い軍服に白いズボンという出で立ちで鋼の剣を身に着けている。名は、デルムッドという。馬上で剣を振るい解放軍の騎兵隊でも名の知られた若い騎士である。
「そうですよ、それにセリス様たちは勝たれておられますし、まずは良しとすべきです」
茶色の髪と瞳に颯爽とした青い服を着た若武者がデルムッドに同情した。デルムッドの好敵手と称されるトリスタンという騎士である。
「まあ打って出るって言い出しのはラクチェだろうな」
彼と同じく茶色の髪と瞳を持ち、まだ子供っぽさが残る顔立ちで、緑の服に胸当ての鎧を身に着けた騎士が笑いながらトリスタンに続いた。名は、ディムナという。解放軍のシスターであるマナの兄であり弓の使い手として知られている。
「それでスカサハが押されてラドネイとロドルバンがラクチェにつく。いつものパターンね」
濃い茶髪と瞳をした闊達しそうな少女が見抜く。それは的中していた。ピンクの鉢巻に丈の短い同じ色のワンピースといった格好が良く似合っている。解放軍のジャンヌである。彼女はトルバドールであり、トリスタンの妹でもある。
「まあ、始まったことは仕方がない。後はこれからどうやって戦うか。そうでしょう、オイフェさん」
青い髪と瞳に凛々しい顔立ちを持ち、丈の短い青い服に白いズボンを着た騎士レスターである。手には鋼の弓がある。彼の言葉は五人の総意でもあった。
「ううむ・・・・・・」
少し苦い顔してオイフェは頷いた。
「じゃあ早く行きましょう。セリス様たちと合流してイザーク軍と戦うために」
「あ、待て!」
オイフェの言葉も耳に届かず五人はセリスたちの方へ馬を走らせた。
「全く気楽なものだ。これからの苦労を知らずに」
とため息つくオイフェであった。そして後ろに控える騎士の方へ振り向いて言った。
「済まないな、大変な戦いに巻き込んでしまう」
と申し訳無さそうに言った。しかしその騎士は明るい笑い声をあげて言った。
「何言ってるんですか。俺は解放軍に志願して入ったんですよ」
明るく笑顔が似合う若者である。明るい金髪碧眼、茶色の革鎧の下に水色の服と黄色の服を着ている。
「帝国、特にここのダナン王やフリージ家の兄嫁ヒルダとその下にいる連中の酷さは口で表わせません。俺は大陸中を回ってそれをよく見ましたよ」
それまで明るかった騎士の表情が暗いものになってきた。
「そんな連中は滅んでしまえばいい。罪のない人たちが虫ケラみたいに殺されていくのはもう見たくないんですよ。だから俺は解放軍に入ったんです。解放軍ならあの連中をぶっ潰せる。オイフェさんたちを見てそう感じたんです」
「そうか・・・・・・」
オイフェはレスターたちの行方を見た。仲間の歓声をもって迎えられている。
(大切なことを忘れていたようだな)
騎兵隊の方へ向き直るとオイフェは号令をかけた。
「全軍進め!セリス様と合流するぞ!」
彼らも歓声をあげ走り出した。それはまるでエインヘリャルの如く勇ましくかつ堂々たるものだった。
ーティルナノグ城東ー
「ラナ、無事だったか」
レスターは馬から飛び降り自分の肩ほどの高さの少女の肩を抱いた。
「ええ兄様、私は無事よ」
「そうか、心配したぞ」
隣ではディムナがマナを抱いている。話の内容はレスターたちとほとんど同じである。
「ジャムカ父様とエーディン母様は?」
「ご無事よ」
「そうか、良かった」
城の方を見てレスターは安堵の笑みを浮かべた。
「まあ、お前はラクチェと喧嘩して勝つ位だから父様ら手が悪いし母様は優しい方だしな。万が一のことがあったらと・・・」
「あら兄様、さっきと言った話が違うじゃない」
眉をピクリとさせた妹に兄は慌てて弁明した。
「おいおいむくれるなよ。そりゃラナだって心配さ。何を言っても妹だし・・・!?」
妹の顔を何か見つけたようである。
「どうしたの?兄様」
「お前・・・可愛くなってないか!?」
「えっ、嘘」
「いや、本当に。誰か好きな人でもできたのか?」
ラナの顔が赤くなった。
「ちょ、ちょっと!そんな訳・・・」
「まあいいけどな。相手が余程変な奴でもない限り俺は反対しないよ」
「兄様・・・・・・」
「まあ、あの鬼娘のラクチェもやっと女の子に見えないこともなくなったしラナも成長したということか・・・・・・うわっ!」
レスターの足元に短剣が突き刺さった。レスターは短剣の飛んできた方を見た・・・そこには鬼娘がいた。
「誰が鬼娘ですって!?」
「そ、それは・・・・・・あっ、シャナン王子!」
「えっ、まさかもうおかえりに・・・・・・あっ!」
ラクチェが気づいた時にはレスター既にその場から逃げ去っていた。
「待ちなさい、レスター!」
「誰が!」
所々再開を祝う声がする中、オイフェはセリスの下にいた。
「セリス様、ついに始まりましたな」
深刻な表情のオイフェにセリスは、申し訳無さそうに頭を下げた。
「ごめんオイフェ、オイフェたちが来るのを待てなかったんだ」
「これから・・・・・・」
「はい、私もいささか弱気になっておりました。ですが今は敵を倒すことを考えなければなりません」
「うん」
オイフェは壊から一枚の地図を取り出した。それはイザークの地図だった。地図を広げオイフェはイザーク北西部の部分を指差した。
「今我々は峡谷を挟んで敵と対峙しております。敵は緒戦で遅れを取りましたが明日は数を頼み峡谷を突き進んで来るでしょう」
「敵は一万五千、騎兵隊を入れても三千、つらい戦いになるね」
「いえ、この戦いで勝てます」
「えっ!?」
オイフェは峡谷の入口を指差した。
「セリス様はここで防衛線を敷いてください。ここならば敵は数を頼みません」
次にオイフェは峡谷の北側を指差した。
「私は騎兵隊を率いて迂回し敵を衝きます。敵は我々が帰ってきたことを知りません。その我々が奇襲を仕掛ければ敵は大混乱に陥るでしょう」
「なるほど」
「そこでセリス様は攻勢に転じてください。そうすれば我が軍は必ずや勝利を収めます」
「そうか・・・じゃあそれで行こうか」
「御意。では今日はもうお休みください。明日は戦ですぞ」
「わかった・・・・・・オイフェ」
「はい」
セリスは一礼して下がろうとするオイフェを呼び止めた。
「勝とう。そしてイザークの民を、いや帝国に苦しめられている民を救うんだ!」
「は・・・はい」
オイフェは思わず敬礼した。左の拳を右肩につけるシアルフィ式の敬礼である。
「じゃあお休み。ゆっくり休もう」
立ち去るセリスの後ろ姿を見たオイフェはかつての主君と今の主君に想いを寄せた。
(シグルド様・・・・・・。セリス様は今羽ばたきました。貴方様のように)
夕日が落ちてきた。オイフェもその場を後にした。オイフェの予想通り、翌日イザーク軍は全軍を以て峡谷を通った。それに対し解放軍は峡谷の出口で防衛線を張っていた。
「ライトニング!」
ホメロスの腕から大きな緑の光球が放たれ、イザーク兵の胸に直撃した。兵士は飛ばされて地に伏した。
ラルフの鋼の大剣が唸る。一人を袈裟斬りにした後、すぐに別の兵を縦に両断した。
兵士の斧がホメロスを一閃した。だがそこには彼の姿がなかった。兵士が気づいた時には詩人な彼のすぐ後ろにいた。至近でライトニングが放たれる。緑の光球に直撃した兵士はそのまま絶命した。
「見事な腕前だな」
「へっ、あんたもな」
二人は互いに声をかけた。その周りには既に多くのイザーク兵が倒れていた。
「しかし数が多いねえ。持つかな」
「持たせるんだ」
「御名答」
二人は次々と現れる敵兵に向かい合った。この二人ばかりではなく解放軍は一人一人の強さにおいてイザーク軍を圧倒しておりイザーク軍は峡谷を抜けられないでいた。
「まさかこれほどとはな・・・」
峡谷の入口付近で指揮を執るハロルドは歯噛みした。
「それに戦術もいい。容易ならざる相手だな」
「流石シグルド公子の子だけであります。敵ながら見事です」
幕僚の一人が思わず絶賛の言葉を漏らした。
「確かにな。だが、この兵力差は覆せぬ。攻撃の手を緩めるな!集中攻撃をかけよ!」
その時、後方から砂塵が巻き起こった。
「リボーからの援軍か?」
「いえ、その話は聞いておりませんが。ヨハン王子かヨハルヴァ王子の軍ではないのでしょうか」
砂塵が瞬く間に近づいてくる。その旗を見た時、イザーク軍の将兵たちの顔が驚愕と恐怖で凍りついた。
「シ、シアルフィ軍!」
「そ、そんなバカな、奴らはシレジアに行っていたはずだぞ!」
オイフェを先頭に解放軍はイザーク軍へ突き進んでくる。思いもよらぬ敵襲にイザーク軍は、混乱状態に陥った。
「オイフェ様、作戦は成功したようです!敵軍は混乱しております!」
「よし!すぐに攻撃体制の準備に入れ!デルムッドとレスターは右へ、トリスタンとディムナは左へ、フェルグスとジャンヌは私と共に中央だ!一気に敵を叩くぞ!」
オイフェの号令一下に解放軍の将兵たちが動いた。驚きのあまりに動きすら止まったイザーク軍に向けて乗り込んだ。
「死にたくない者は私の前に出るな!」
オイフェが持つ鋼の剣が一閃される度にイザーク兵たちが地に伏していく。馬上から操り出される剣撃は白い輝きを次第に深紅のものとした血煙で戦場を染めていった。
フェルグスは思いっきり剣を振り回した。一振りで三人の兵士が両断される。盾も鎧も通じず熱いナイフでバターを切るように断ち斬られた。そしてジャンヌは素早く剣撃を繰り出しながら杖で傷を癒していく。
彼らの右にデルムッドが鋼の剣で以って敵兵を斬り伏せる。素早く相手の急所を衝く的確な剣技である。
レスターはそれを援護して鋼の弓を放つ。狙い外すことなく一人、また一人射ち倒されていく。
下から突き上げられた槍を切り払いトリスタンは鋼の剣を振り下ろした。甲ごと斬られた兵が己が鎧と地面を朱に染まりながら倒れていく。ディムナの弓がトリスタンをフォローしていく。鋼の矢に頭と胸を射貫かれイザーク兵たちが倒れる。
「怯むな!数では負けてはいない!」
総崩れとなったハロルドは必死に立て直そうとする。だか倒れていくのはイザーク軍の将兵ばかりであり解放軍の勢いは止まることろをまだ知らない。
「将軍!峡谷の反乱軍の攻勢に転じてました!我が軍は押されております!」
「次々と反乱軍に投降する者が出てきております!」
報告の内容はイザーク軍の不利を知らせるものばかりである。
「くっ・・・たかが反乱軍如き!」
戦局はイザーク軍にとって壊滅的な状況であった。ハロルドはガネーシャまでの撤退を考えた。しかしその時だった。
「今そこにいるのは、敵将と見た!解放軍のレスター参る!」
言うが早いかレスターの矢が放たれる。矢はハロルドの心臓を寸分違わず貫いた。
「がはっ・・・・・・」
口から鮮血を吐きハロルドは倒れた。
「ぐわ・・・何故だ・・・・・・こんな寄せ集めの兵に敗れるのか・・・!?」
小さく呻きハロルドは息途絶えた。弓を高く掲げたレスターに周りの解放軍の将兵から歓声が湧き起こった。それを見たイザーク軍の将兵たちは我先に解放軍へ投降しだした。
ガネーシャの戦いは解放軍の圧倒的な勝利に終わり、参加兵力は解放軍三千、イザーク軍一万五千、イザーク軍は兵力の五分の一にあたる三千近くの将兵及び司令官であるハロルドが戦死して残った将兵は全員解放軍に投降した。セリスは彼らを迎え入れ解放軍はその兵力一万五千と一気に増やした。ガネーシャ城は無血開城とし、解放軍は入城した。
「それじゃあ今後は私たちと戦ってくれるんだね?」
城の一室でセリスは一組の男女と話していた。その男は深緑色の服に象牙色のズボン、茶色の鎧と同じ色のブーツ、黒みがかった長い髪と同じ色の瞳をした顔立ちの若者である。一方、丈の短い朱色のワンピースに白色のズボン、小豆色の鎧と同じ色のバンダナ、そして黄色がかった手袋とブーツ、女は男と比べると小柄であるが歳の割に少し高めの少年のような少女であり黒みがかった短い髪と同じ色の瞳を持った若者である。
「はい。俺も妹のエダもトラキア王のやり方に疑問に持ち出奔した後このイザークで傭兵をしていました。ダナン王の悪辣な行いが納得いきませんでした。もしセリス様が宜しければこのディーンとエダを解放軍の末席に加えてください」
ディーンと名乗った男は渋々とした感じでセリスに参入の希望を述べた。エダは黙して兄の隣に立っている。
「歓迎させてもらうよ」
セリスは微笑んで言った。
「私たちはグランベル帝国の圧政からみんなを救うために戦っている。だがまだまだ力が足りない。私たちと一緒に戦ってくれるのならば、過去や出自はどうだっていい。ただ民衆を苦しめなければね」
「セリス公子・・・」
「君たちも今日から解放軍の一員だ。共に帝国の圧政から民衆を救おう」
「わかりました!」
「はい!」
二人は解放軍の敬礼となったシアルフィ式の敬礼をし部屋を後にした。セリスがその部屋で暫し休んでいると兵士が来客を告げに来た。
「誰かな?」
客が部屋に入ってきた。それはセリスもよく知る人物だった。緑の髪と瞳を持ち凛々しい顔立ちの長身の男である。白で固められた上着とズボン、青と白のターバンにマフラー、青いチェック柄のブラウス。かつてシグルドたちと共に戦った元シレジア王レヴィンである。バーハラの戦いにおいてシレジアは帝国の圧倒的な兵力の前に敗れた後は国を追われ各地を放浪していた。そのレヴィンが今セリスの前に現れた。
「え?・・・あっ、レヴィン!!・・・いや、・・・シレジアのレヴィン王・・・」
「昔のように、レヴィンでいいさ。シレジアはあのバーハラの戦いの後、帝国に占領された」
「でも、貴方はどうしてここに」
セリスの言葉に対しレヴィンは目を閉じ両手を制し首を横に振った。
「私は今もこうして、生き恥を晒しているが、シレジアは母親と共に誇りを持ったまま滅んだのだ。私は今も昔も、間抜けな吟遊詩人。オイフェはどう言ったか知らないが、間違っても私を王などと呼ぶな!」
「レヴィン・・・ごめんなさい・・・」
セリスは項垂れた。
「ははは、これもシャレさ、気にするな。それよりもついに始まったな」
「うん」
「反帝国の兵を挙げるのに、イザークほど都合の良い国はない。帝国本土から遠く民の反帝国感情も強い。それにダナン王の暴政でみんなを苦しめている。あの男は人望がなく戦術戦略もデタラメだ。まさに適地だな」
「うん。ところでなぜここに来たんですか?」
「うむ・・・・・・。実はセリスに頼みがある」
「頼みたいこと?」
「そうだ。それはな・・・ユリア、来なさい」
一人の少女が入ってきた。薄紫色の長い髪にアメジストを薄くしたような神秘的な瞳をした小柄で可憐に美しい少女である。丈の長い白い法衣の上に鼠色の薄いローブを羽織っている。
「この子は、幼い頃にバーハラの都で倒れているのを私が助け、今までシレジアの辺境で保護してきたのだが、そこもいよいよ危なくなってきたのでやむなく連れてきた。何か酷いショックを受けたのか私が助けた時には、何一つ記憶がなかった。セリス、この子を解放軍に入れてほしい。職業はシャーマン、光の魔法と杖が使える」
「光の魔法か、随分と難しい魔法を使えるんだね。しかしシャーマンとはまた珍しい職業だね」
「うむ。私も最初はプリーストだと思ったのだがまさかシャーマンとはな。だがこれで解放軍の戦い方も幅が広がるのだろう」
「うん、今魔導部隊率いるのは今の所、ホメロスしかいないしね。正直言ってこの娘の参加は嬉しいよ」
「そう言ってくれるとありがたい。では私はこれで失礼させてもらう」
「どこへ行くの?」
「ふふふ、ちょっとな」
少年のような悪戯っぽい笑みを浮かべつつレヴィンはワープの杖を取り出した。
「なあにまたすぐに会うさ。お前たちがイザーク全土を制圧する頃には私も戻るさ。じゃ、頑張れよ、セリス」
「レヴィンも、気をつけて!」
白い光に包まれレヴィンは姿を消した。部屋にはセリスとユリアが残った。
「えーと、君はユリア・・・って言ったね」
「はい」
二人はややぎこちなく話を始めた。
「君の参加を歓迎するよ。これから一緒に戦おう」
「ま、まあこれからよろしくね。と言っても戦争ばかりだろうけど」
「いえ、こちらこそセリス様のお話はレヴィン様からお聞きしていました。シグルド様のご意思を受け継がれ立派に戦っておられると」
「えっ、レヴィンが?照れるな」
セリスはいささかにバツが悪そうに赤面した。
「確かに戦ってはいるんだけどね。いつか父上みたいになりたいしね・・・。ユリア」
「僕は立派な父上みたいになるよ。強くて優しかった父上みたいにね。そして帝国からみんなを救うんだ」
「セリス様・・・」
「見ていてねユリア、僕はやるよ」
「はい・・・」
その時オイフェが部屋に入ってきた。
「セリス様、兵の再編成及び武器の購入と修繕、闘技場での戦いなどが終わりました・・・。セリス様、その子は」
「さっきレヴィンが連れてきてくれた娘さ。名前はユリア、職業はシャーマン。我が軍に入ってくれるそうだ」
「シャーマンですか。貴重な戦力ですな」
光の魔法と杖が使えるシャーマンの存在はこの大陸では極めて貴重なのである。
「うん。ところで闘技場の方は?」
「はい。スカサハ、ラクチェの二十五勝を始め皆二十勝を越えております。資金もかなり入りましたしみんなの腕が驚くほど上達しました。正直に申し上げますとこれ程強くなるとは思いませんでした」
謙遜して言う。
「じゃあ後で僕も行くか。ところでオイフェはどうなったの?」
「闘技場お控えの司祭が杖が何本あっても足りないと嘆いておりました」
「ふふふ。じゃあ行こうユリア」
「はい」
ユリアを連れて部屋を出ようとする。
「言ってくるよ」
「はっ」
二人がオイフェの横を通り過ぎた時オイフェはユリアに何かを感じた。
「あの・・・ユリア?」
「はい?」
「君は・・・・・・」
「あの、私が・・・何か?」
ユリアは不安そうな顔になった。セリスがその間に入った。
「オイフェ、ユリアは記憶喪失なんだ。悪いけど遠慮してやってくれないか」
「はっ、申し訳ありません」
「わかってくれればいいよ。さ、行こうユリア」
「はい」
セリスに連れられるようにしてユリアも部屋を後にした。部屋に残ったオイフェはユリアの姿が消えた後、しばし考え込んだ。
(どういうことだ、あのユリアという娘、どこかセリス様に似ている)
口に手を当て哲学者が思考を練るような表情になっていた。
(そしてどこか懐かしさを感じる。ディアドラ様に似た容姿、そしてセリス様からも感じられるあの感覚・・・シグルド様の・・・)
だがオイフェは頭を振り考えをやめた。
(そんなはずがない。お二人はもう・・・・・・)
オイフェは部屋を後にした。跡には壁に飾られたシアルフィの紋章があるのみだった。
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