Fate/WizarDragonknight
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三つの光
イリスの感情を、可奈美達が読み取ることは出来ない。
だが、見滝原を揺らすイリスは、明らかに怒りを露わにしているように見えた。
よくもアカネを奪ってくれたなと、よくも邪魔をしてくれたな、と。
アカネを背負うアンチは、未だにイリスの腹の上。自らの体であろうと、例えマスターが巻き込まれようともお構いなしに、触手を打ち放つ。
「アンチ君!」
「危ない!」
友奈を追い越し、可奈美はアンチの前に回り込む。
迅位の速度でアンチの前に割り込み、襲い来る触手を斬り弾いた。
「友奈ちゃん!」
「うん!」
可奈美に続いて友奈もイリスの体を駆け上がる。
「アンチ君、大丈夫?」
「俺はいい。それよりも、新条アカネを……」
「うん」
「アカネちゃんはわたしがッ!」
友奈とともに並んだ響が、アカネを引き受けた。
「ありがとう響ちゃん! 可奈美ちゃん、こっちはもういいよ!」
「うん!」
イリスの触手を捌き切った可奈美の背後で、アンチとアカネを抱えた二人が飛び降りる。
可奈美は太阿之剣で独楽のように回転、迫る触手を引き離した。
ジャンプしながら体を捻り、着地した可奈美は、イリスの足元にある大穴を見下ろした。
「ハルトさん……」
トレギアとともに落ちていったその名を口にしながら、可奈美はその無事を祈り、イリスを見上げた。
すでにアカネを失ったイリスには、ギャオスを繁殖させる能力はない。アカネとの三度目の融合を図り、安全地帯へと離れていくアンチたちへ進もうとして来る。
可奈美はそんなイリスへ千鳥を向けた。
「みんな! ……行くよ!」
「っしゃあ!」
「うん!」
「はいッ!」
「了解!」
可奈美の掛け声に、龍騎、友奈、響、えりかは応える。
『ファイナルベント』
この戦いを終わらせる。
龍騎が持つ最大の力が発動した。
それとともに、龍騎はドラグレッダーへの舞を開始する。
両手を突き出し、同時に右へ両腕を組みかえる。
すると、イリスはその危機察知能力を発揮した。
全ての触手を、龍騎に向けている。
だが、龍騎の前に可奈美、響、友奈が立ちはだかる。
「太阿之剣!」
「我流・星流撃槍!」
「勇者パンチ!」
三人の主力技が発動する。
触手を弾き返し、そのまま三人はイリスへ飛び掛かる。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
「だああありゃああああああッ!」
「根性おおおおおおおおおおお!」
可奈美、響、友奈の三人は、どんどんその力を強めていく。
徐々に押されていく巨大なサーヴァントは、やがて押されていく。
だが、それだけではまだイリスは倒れない。吠え、触手と口から超音波メスを打ち鳴らす。
あちらこちらに超音波メスが突き刺さり、それは壁を、参加者を、当然今イリスを攻撃する三人の体にも強くのしかかる。
「ぐうううっ!」
「だとしてもッ!」
「なせば大抵、なんとかなる!」
三人は更に叫ぶ。
やがて、三人の力は、イリスを駅ビルの壁へ押し付ける。
大きな轟音を轟かせ、イリスはぐったりと力が抜けた。
だが、イリスの超音波メスもまた、可奈美たちに多大なダメージを与えた。
可奈美、響、友奈もそれぞれ生身に戻って倒れ込む。
「シールドレイ!」
「ブライナックル!」
だが、そこに閃く、青と紫の攻撃。
光と拳が、二方向からイリスへ注がれていく。
「ありがとうございます!」
「……フン」
えりかの感謝へ、ブライは見向きもしない。
彼はただ、手にしたラプラスソードを、イリスに向けて投影した。
「ダンシングソード!」
まさに名前の通り、ラプラスソードは生きた剣として、的確にイリスの触手の動きを弾き阻んでいく。
ならばとばかりに、イリスはその口から超音波メスを放つ。
「チッ……」
ジャンプで避けたブライは、そのまま上のフロアへ移動。
そしてそれは、イリスの目を完全に龍騎から離させることに成功していた。
「真司さん……!」
「あとは……!」
「お願いッ!」
「しゃあっ!」
役目を果たした三人に応じる龍騎。
龍へ捧げる舞を終えた龍騎は、両足を合わせて飛び上がった。
体を回転させながら、龍騎はイリスへ跳び蹴りの姿勢を取る。同時に、ドラグレッダーもまた、その背へ炎の息を吐きかけていく。
もうそれを防ぐのは無理だと、イリスも判断したのだろう。
先ほど飛行の時のも使用した、触手の間に張られる虹色の幕。それを最大限に広げたイリスは、それを無数に重ねる。
「だああああああああああああああああああああああっ!」
そして発動する、ドラゴンライダーキック。イリスの虹色の幕に命中したそれは、これまでの中で最大の爆発を引き起こす。
駅ビルが、内側から破壊されていく。
もはや壁が残っている方が少ないほどに破壊されつくした建物。
そして。
「嘘だろ……!?」
これまで、誰一人として生きて帰った者がいない、ドラゴンライダーキック。
その触手を犠牲にすることで、イリスは生き残っていた。
だが、龍騎の攻撃によって、イリスの触手は全て焼き切られている。その再生能力をもってしても、未だに完治には時間がかかるのだろう。
「こうなったら……うっ!」
「真司さん!」
もう一歩踏み出そうとした龍騎だが、倒れ込んでしまった。龍騎はそのまま、その身を鏡のように砕かれていき、真司に戻ってしまう。
それは、可奈美たちも同じだった。
可奈美は写シが張れず、響も唱を維持することが出来ず、友奈の花びらも散り、えりかの盾もその機能を停止してしまった。
そして、イリスはまだ、戦う力が残っている。焼き切れた触手も徐々に再生を始めており、あと数秒もすれば決死のドラゴンライダーキックさえもなかったことにされてしまうだろう。
そして、生身の参加者たちへ、その口に超音波メスが準備されていく。
「そんな……ここまで来て……!」
絶望に打ちひしがれる可奈美たち。
だが。
「いや、十分だ」
その声は、キャスター。
イリスの猛攻により、数多の瓦礫の下敷きとなり、身動きが取れなくなっていたはずの彼女は、いつの間にか脱出し、イリスの頭上に回り込んでいた。天井の彼女の背後には、丁度雲間から月が浮かび上がっていた。
そして、そんな夜天の元に浮かぶキャスター。
彼女の傍らに浮かぶ本が、そのページを開いた。それが発動する魔法は。
「夜天の光に……祝福を」
キャスターが、あたかも鏡写しのように分裂していく。同じ影が、合計三人。
三人のキャスターは、同時にその赤い眼を開き、イリスを見下ろす。
それぞれ右手を突き出した彼女たちは、ただ静かに告げた。
「咎人たちに滅びの光を」
中心のキャスターの手に、桃色の魔法陣が浮かび上がる。同時に、左右のキャスターの手にもそれぞれ、黄、白の魔法陣が発生していた。
だが、距離が開いているということもあって、地上の参加者には桃色の魔法陣の詠唱しか聞き取れない。
「星よ集え。全てを撃ち抜く光となれ」
「……! これは……!」
可奈美は気付いた。
自らの体から、千鳥の力がどんどんキャスターに吸収されていくことに。
それは可奈美だけではない。
響からは、黄色い唄のフォニックゲインが。
友奈からは、桃色の花びらの形をした神樹の力が。
真司からは、鏡の破片を連想させる赤いミラーワールドの力が。
リゲルからは、青い粒子状の、ゼクスのリソースが。
その他、えりかやブライ、この場にいないウィザードや狂三、乱入したサーヴァントの力の残滓さえも、キャスターは集めていく。
「なんなの……この膨大なエネルギーは……!?」
リゲルは、残ったリソースでキャスターの魔法を分析する。
だが、その表示されたエネルギーに、彼女は目を大きく見開いている。
「貫け、閃光」
やがてキャスターの元に集まった力は、それぞれ桃、黄、白の光となり、それぞれの魔法陣を描き出す。
キャスターの色とはまた異なる色の魔法陣。それぞれの頂点に円形を描いた三角形の魔法陣から、それは放たれた。
「スターライト……」
「プラズマザンバー……」
「ラグナロク……」
三人のキャスターは、同時に……そして一斉に、唱えた。
「「「ブレイカー」」」
桃、黄、白。
三色の光は、それぞれ極太の光線となり、イリスへ発射された。
触手がまだ再生中のイリスに、それを防ぐ手立てなどない。
「___________」
大きく上がるのは、イリスの悲鳴。
しばらくイリスは耐えていたが、それでもキャスターの光線は底が知れない。その巨体が耐えられる限界を突破するまで、時間はかからなかった。
イリスの体は、三つの光線に満たされ、内側から破裂、爆発。見滝原中央駅の全てを炎で充満させ、あらゆるガラスが砕け散っていく。
「皆さん!」
皆の前に立ち、その盾で衝撃を防いでくれるえりか。
それでも可奈美たちは全員伏せて、来る衝撃から身を守る。
見滝原中央駅と呼ばれる場所が、大きく震えた後、バラバラに落ちていくのはイリスの破片。その音に気付いて、可奈美は顔を上げた。
イリスの破片の雨の中、音もなく降り立つキャスター。
一人に戻った彼女は、肩に付着した汚れを振り払い、イリスの肉片を拾い上げた。無造作にそれを放り投げると、それは白紙を開いた傍らの本に吸い込まれていく。
やがて、白紙のページには、イリスの触手の形をしたマークが記入された。
「収集完了」
何事もなかったかのように、キャスターは呟く。
そしてそれは。
いずれ、可奈美たちが越えなければならない敵が、より強くなったことを意味していた。
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