魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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GX編
第132話:出てきた男
時は少し遡り、キャロルの行動阻止の為クリスを始めとした4人が深淵の竜宮へと到着していた。近くまで本部の潜水艦で接近し、内部には小型の潜水艇を用いて入る。
「ここが深淵の竜宮?」
「だだっ広いデース!」
調と切歌は、聖遺物や危険物が大量に収容されているという海底の施設に興味津々と言った様子で周囲を見渡している。
場所が場所だからか、ここには人っ子一人いない。施設維持の為に電力は回ってきているが、警備員が常駐している訳ではないのか人の匂いが全くしないのだ。その異様さに、ここが海底の施設であるという事を嫌でも実感する。
「ピクニックじゃねーんだ。行くぞ」
物珍しそうに周囲を見る後輩2人を、クリスが軽く叱り先へと進む。
先頭を進むのは透だ。危機察知能力に加え身体能力・反射神経にも優れた彼は、敵の待ち伏せによる奇襲などへの反応が早い。斥候役としては打って付けだ。
だがこの配置に最初クリスは苦言を呈していた。先頭を進むという事は真っ先に危険に晒されると言う事。ここの所クリスの中で透に危ない目に遭ってほしくないという思いが大きくなってきたのか、最近はこう言う過保護な言動が目立った。
とは言え、クリスに危ない目に遭ってほしくないという思いは透も同じであり、尚且つ自分の能力と役割を自覚している彼は斥候の役目を譲らなかった。危うく押し問答になりかけていたが、そこは弦十郎の一喝により収束を見せた。
4人が施設内に入り、そのすぐ外では本部が待機しており発令所ではオペレーター2人が4人を支援するべく施設内のデータの取得に追われていた。
「施設、構造データ取得しました」
「侵入者の捜索急げ!」
S.O.N.G.がキャロル達に対して大きく勝っているところと言えば、こういった情報戦だろう。彼らは必要とあれば施設の情報にアクセスし、内部の状況や何処に誰が居て何があるかを知る事が出来る。
「キャロルの目的は、世界の破壊。ここに収められた聖遺物、若しくはそれに類する危険物を手に入れようとしているに違いありません」
エルフナインはもう一度、施設内に収められている聖遺物・危険物のリストに目を通した。先程はじっくり見れていなかったし、ウェル博士が居る事の方に意識が持って行かれていたので詳しく内容を覚えられていなかった。
4人が施設内を進んでいる間に、エルフナインがキャロルが目的とするだろう聖遺物を探していると、ある物が目に入った。
「ハッ! 止めてください!」
流れていたリストを見ていたエルフナインが何かを見つけた。言われるがままにリストの流れが止まると、エルフナインはそのリストの中にある一つの名前を指差した。
「ヤントラ・サルバスパ!」
「何だ、そいつは?」
「あらゆる機械の起動と制御を可能にする情報集積体。キャロルがトリガーパーツを手に入れれば、ワールドデストラクター……チフォージュ・シャトーは完成してしまいます!」
これでキャロルの目的は分かった。どうやってかは知らないが、キャロルはそれの存在を掴み手に入れようとしている。
ならばそれを防ぐのが最優先だ。
「ヤントラ・サルバスパの管理区域、割り出しました」
あおいが素早く検索し、何処に物があるのかを見つけ出した。場所が分かればこっちのもの。
「クリス君達を急行させるんだ!」
素早く指示を飛ばし、4人をナビゲートし一早くヤントラ・サルバスパの確保を行わせようとする弦十郎だったが、動きはキャロル達の方が早かった。
クリス達が到着するよりも先に、キャロルが件の聖遺物を手に入れているのを施設内の監視カメラが捉えていた。
「あれが?」
「ヤントラ・サルバスパです」
「クリスちゃん達が現着!」
一歩遅れて現場に到着したクリス達は、キャロルの手に聖遺物が握られている事に表情を険しくさせた。
「チクショウ、間に合わなかった!?」
「まだです! ここから持ち出させなければ!」
「そうデース!」
「!」
最悪、破壊してでもキャロルの手に聖遺物が渡る事だけは避けねばならない。そう考えた透は、持ち前の素早さでキャロルに肉薄しその手の中にあるヤントラ・サルバスパを奪還しようとした。
勿論それを易々と許すキャロルではない。迫る透をキャロルは障壁で阻み、動きを止めた所にレイアのトンファーによる殴打が飛ぶ。
トンファーの一撃を障壁を足場に後方に飛ぶことで回避した透だが、そこに追撃でコインによる銃撃が放たれた。透はそれを魔法の障壁で防ぐ。
〈バリヤー、ナーウ〉
攻撃を防ぐ透だったが、レイアの銃撃は激しくマシンガンかと言う様な連射で彼をその場に釘付けにした。このままではキャロルに逃げられる。
だがその時、透の障壁の影からハンドガンが顔を覗かせ引き金を引かれた銃口から弾丸が飛ぶ。弾丸は真っ直ぐレイアの手元に向かって飛び、狙いをズラされ透はコインの銃撃から解放された。
「1人で突っ走るな!」
いち早く動いた事をクリスに叱られ、透は小さく肩を竦める。その横を切歌と調が通り過ぎ、レイアへと肉薄した。
「オートスコアラーは任せてください!」
「キャロルは2人に任せたデス!」
この2人には一度オートスコアラーを倒したという実績がある。それもオートスコアラーの中で最高の戦闘力を持つとされるミカを、だ。
その時は2人だけでなくガルドも居た訳だが、その時の経験は確実に2人にとってのプラスとなっており以前にも増して連携が取れていた。その2人の連携をもってすれば、ミカに劣る戦闘力のレイアを倒せる可能性も十分にある。
寧ろ危険なのはクリスと透の方だろう。キャロルは以前、イグナイト起動前の装者達を圧倒した過去を持つ。今回彼女の相手をするのはクリスと透の2人だけ。状況的には以前よりも悪くなっていると言わざるを得ない。
故にこそ、2人に求められる戦いは速攻であった。
「行くぞ、透!」
クリスの声を合図に透が前に出る。また一足先に魔法使いが飛び出すのかとキャロルは鼻を鳴らした。
しかし今度は違った。先程透はキャロル達の出方を伺う意味で先行したが、今度はクリスとの連携を前提に動いている。つまり、今度は1人で突出している訳ではなく…………
「そこだ!」
「くッ!?」
透の後ろから飛び出したクリスがハンドガン型のアームドギアを構えて引き金を引く。放たれた銃弾がキャロルに襲い掛かるが、先程同様キャロルは障壁でそれを防いだ。
おかしな事に、キャロルはダウルダブラのファウストローブを纏おうとしない。あれはかなり消耗が激しいらしい。この戦いでは極力温存するつもりのようだ。
それならば都合がいい。この機に聖遺物の奪取を防ぐだけでなく、キャロル本人も拘束してしまおう。クリスはそう考え、透の影から出るとアームドギアをガトリングに変えて銃撃をお見舞いした。
ハンドガンの時とは比べ物にならない銃弾の嵐に、キャロルも防ぐのが精一杯の様だ。
「ぐぅ、くっ!?」
踏ん張るのが精一杯と言った様子のキャロル。そこに透が肉薄し、カリヴァイオリンでキャロルの障壁に斬りかかる。斬撃は障壁に阻まれるが、完全に威力を防げた訳ではないようで障壁には罅が入っている。
もう一押しと言わんばかりに、クリスがスカートアーマーから小型ミサイルを発射。不規則な軌道を描きながらも、キャロルに向けて無数のミサイルが飛んでいく。
これ以上攻撃を喰らうのは宜しくないと、キャロルは障壁の展開を止め回避に専念した。ギリギリでミサイルを避け、回避が間に合わないミサイルは錬金術で迎撃し防ぐ。
それだけでなく、逃げる間際にアルカノイズを召喚して時間稼ぎに走る。今の装者達相手だと案山子程度の存在でしかないが、弾避けにはなった。
「! 透!」
障壁を解除し、無防備なキャロルがアルカノイズの召喚結晶を放る。それを見たクリスがある事を考え付くと、透はそれを察し行動に移した。
周囲を取り囲むアルカノイズをカリヴァイオリンで切り伏せる。その最中に彼は、片方のカリヴァイオリンを投擲し離れた所に居るアルカノイズの始末も行った。
投擲されたカリヴァイオリンはブーメランの様に弧を描いて飛び、切歌と調の近くのアルカノイズまでをも切り裂いて行き――――
「……はっ!? マスター!?」
「何ッ!?」
弧を描いたカリヴァイオリンはそのままキャロルの手元のヤントラ・サルバスパへと向かった。まさか弧を描いて飛ぶ武器で狙ってくるとは思っていなかったのでキャロルの反応が遅れる。
それでもキャロルは対応してみせた。ギリギリと言うところでカリヴァイオリンはヤントラ・サルバスパの直ぐ下を通り過ぎていく。危ういところでキャロルが手を上げたからだ。
あと一歩で聖遺物がダメになるかと言う状況を過ぎた事に、キャロルは冷や汗を浮かべた。
「ふぅ……ハハッ、残念だったな?」
相手の策をやり過ごしたとキャロルは安堵する。言葉も交わさずあの行動に移れたことは称賛に値するが、所詮はその程度。詰めが甘かったなと油断していると、次の瞬間手に鋭い衝撃を感じ持っていたヤントラ・サルバスパが弾き飛ばされた。
「なっ!?」
それはクリスによる銃撃だった。透の剣の投擲に視線を奪われている間に、クリスが狙いを定めて撃ち抜いたのだ。
銃弾で弾かれて宙を舞うヤントラ・サルバスパ。そこにダメ押しと言わんばかりに透が残っていた方の剣を投擲し完全に切り裂いた。
「ヤントラ・サルバスパがッ!? くっ!?」
目的の物が破壊された事に動揺しつつ、戻ってきた剣を防ぐ為に障壁を展開する。が、動揺が大きかったのか注意が散漫になっており明らかな隙を生み出していた。
「その隙は見逃さねぇ!!」
クリスはここが決め時と、両肩に大型ミサイル、スカートアーマーから無数の小型ミサイルを一斉に発射した。
[MEGA DETH DUARTET]
無数のミサイルがキャロルに向け殺到するのを見て、レイアは切歌と調を放置しミサイルの迎撃に移った。とにかくコインを飛ばし、ミサイルを片っ端から撃ち落とす。キャロルもまた同様に錬金術を用いてミサイルを迎撃しているが、兎に角数が多い為全てを落としきれない。
そして、迎撃を切り抜けた大型ミサイルの一発が遂にキャロルへと迫る。
「はっ!?」
「マスターッ!?」
あそこまで近づかれては、迎撃すると逆にキャロルの身が危ない。キャロルの方も錬金術による迎撃も防御も間に合わない。手詰まりと言う状況にキャロルは目を見開き、レイアは人形にあるまじき焦りを感じさせる悲鳴のような声を上げた。
ミサイルが命中し、キャロルが倒れる様子を4人は幻視した。ファウストローブを纏っていない状態であれを喰らえばただでは済まないだろう。仮に生きていたとしても、動く事等敵わない筈だ。
そう思っていたのだが…………
「何がどうなってやがる!?」
ミサイルは一向に爆発しない。噴射口からは未だ火を噴き、何かとせめぎ合っているかのようにキャロルの傍で動きを止めていた。
明らかに異様な光景に、クリスが険しい顔で前方を睨み切歌と調が近くにやってくる。そして透がそんな3人を守る様に身構えている前から、笑い声が聞こえてきた。キャロルの物ではない。男性の笑い声だが、それはキャロルの中まであるハンスの声とも違った。
「二へへへへ……ハハハハハハハハッ!」
4人はその声に聞き覚えがあった。
「久方ぶりの聖遺物……この味は甘く蕩けて、クセになるぅぅぅぅぅっ!!」
4人が見ている前で、大型のミサイルが吸い込まれるように消えていった。ミサイルが消えていったのは、キャロルの前に立ちはだかる男の左腕。
そこに居たのは…………
「なぁっ!?」
「まさかッ!?」
「アイツはっ!?」
「お久し振りです。お待たせしました。僕こそ英雄になる男……その名も! ドクター、ウェルゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」
後書き
という訳で第132話でした。
今回は原作で風鳴邸での戦いの合間に起こった戦いを一つに纏めた感じです。原作では調の丸鋸に弾かれて切り裂かれたヤントラ・サルバスパですが、今作ではクリスと透のコンビネーションで失われました。
そしてラストには皆大好きウェル博士の登場です。監禁生活の所為か、とんでもないテンションでの登場でしたね。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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