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展覧会の絵

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第十二話 ジェーン=グレンの処刑その十二

「そうなったんだ。彼女に罪はなかった」
「罪なくして処刑されたんだ」
「殺されたと言うべきかな」
 十字は言い換えもした。
「身体もそうだけれど心も」
「心もなんだ」
「女王でなくなりそのうえで全てを否定される」
 ただ処刑、殺害されるだけではなかったというのだ。
「即ち心をね」
「殺された」
「そう。心もまた殺されるものなんだ」
 十字は絵を描きながら淡々と述べていく。
「人はね」
「心もなんだ」
「人の身体を殺すことも罪だよ」
 十字は今度は罪について言及した。
「けれど心を殺すことは」
「それもまた罪なんだね」
「場合によっては身体を殺すことよりも重い」
 心を殺す、その罪はだというのだ。
「僕はそう考えるよ」
「心を殺す、ね」
「そう。心こそがね」
「心こそが?」
「殺されてはいけないものなんだ」
 十字は描きながらだ。和典に話す。
「魂と言ってもいいかな」
「あっ、魂っていうと」
「そう。それだけはね」
「身体もあるけれど」
 和典もわかった。十字が今言いたいことは。
「心がないと。抜け殻になるしね」
「心がないと身体も動かないからね」
「じゃあ人間は心こそが大事なんだ」
「身体を傷つけることも罪」
 十字は今度は罪の話をした。
「けれど心を傷つけることは」
「より重い罪なんだね」
「心の傷は身体の傷より癒されにくいものなんだ」
「そうだね。心が傷つくとね」
「わかるね。君にも」
「心が傷ついたことのない人はいないよ」
 和典は少し寂しい顔になって述べた。
「僕だってそうだよ」
「そうだね。人は生きているとどうしても心が傷つくね」
「失恋したことがあったよ」
 和典は寂しい笑みになった。そのうえで十字に話してきたのだ。
「あれは凄く辛かったね」
「そうしたことがあったんだ」
 ここでだ。十字は和典に顔を向けて問うた。
「君にも」
「中学三年の時にね。告白したけれど」
「受け入れてもらえなかったんだね」
「夏休み直前だったよ。勇気を出して放課後体育館裏で告白したけれど」
 よくある話ではある。告白する場所も。しかしよくある話だからといってそれで心が傷つかないかというとそうしたことはない。心というものはガラスの様なものだから。
 だからこそ何かあれば傷つく。それは和典も同じだったのだ。
「ラブレターを目の前で破られてね。それを顔に叩きつけられて」
「酷いね」
「その後相手に言いふらされて。酷いことになったよ」
「残酷だね。それにしても」
「それにしても?」
「その告白は受け入れられなくてよかったよ」
 そうだったとだ。十字は描く手を止めて和典にこう言ったのである。
「そう思うよ」
「よかったかな」
「僕が聞く限りその人の性格はかなり悪いね」
「今思うとそうだね」
「心が歪んでいる人と付き合うと」
 どうなるかというのだ。その場合は。
「それだけで不幸になるよ」
「だからだね」
「そう。その告白は受け入れられなくてよかったよ」
 こう数の血に言うのだった。 
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