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夫の実家

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第二章

「けれどな」
「それでもなのね」
「今はな」
「そのよっぽどのことがないから」
「別にいいだろ」
「そうなのね」
「鹿児島は遠いからな」
 夫はまたこう言ってだった。
 自分の実家には帰らないと言って実際にそうしていった、帰るのはあくまで妻の実家だけであった。
 だがだった、夫は自分の兄から父が危篤と聞くと。
 血相を変えてだ、妻に言った。
「親父が危ないらしい」
「そうなの!?」
「すぐに鹿児島に行く」
「お義兄さんから言われたの?」
「帰って来いってか」
「そうなの?」
「そう言われてないけれどな」 
 危ないと聞いただけだった。
「けれどな」
「それでもなのね」
「ああ、親が危なくてな」
「子供が傍にいないとね」
「だからだ、行って来る」
「それなら私もよ」
 流花は強い声で言った。
「行かせてもらうわ」
「お前もか」
「だって夫婦でしょ」  
 表情も強いものだった、それで言うのだった。
「それじゃあね」
「そうか、それじゃあな」
「会社にはお話するから」
「俺も店にだ」
「すぐに行きましょう」
 こう話して夫婦で鹿児島に急行した、その上で親の死に目に会った。
 孝允は後で母のそうした時にも実家に帰った、当然流花も。
 それでだ、流花は夫に言った。
「帰るべき時はなのね」
「帰るさ、流石にな」
「やっぱりそうしないとね」
「駄目だろ」
「ええ、その通りよ」
 夫に笑顔で話した、そうして小樽での生活を続けた。二人の間には子供も出来たが必要な時は夫の実家にも帰った。その様にしてこの街で暮らしていった。


夫の実家   完


                   2022・10・28 
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