アトラスの願い
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第一章
アトラスの願い
アトラスは神である。
神と言ってもオリンポスの神々の系列ではなく彼等と争ったティターン神族に連なる者でありその身体は大地よりも大きい程だ。
逞しい身体に多しい顔立ちと見事な男を感じさせる髭の持ち主である、その彼はいつも自分のところに来る娘達に言っていた。
「メデューサに会いたい」
「えっ、あの髪の毛が蛇になっている」
「猪の牙に蝙蝠の翼を持つ」
「あの女怪ですか」
「そうだ、あのメデューサにだ」
黄金の林檎を育てるヘスペリアの娘達に話した。
「会いたいのだ」
「またどうしてですか?」
「あの恐ろしいと言われている女怪に」
「この世の果ての島に姉達と共に暮らしているそうですが」
「どうしてでしょうか」
「思うところがあってだ」
アトラスは娘達に答えた。
「それでだ」
「思うところといいますと」
「それは一体」
「何でしょうか」
「わしが思うことだ」
自分より遥かに小さい人程の大きさ娘達に話した、アトラスはその場に立って言っていた。粗末な服を着てそこにいた。
彼は兎角メデューサに会いたがっていた、だが。
この世の果てにいる彼女に会うことは適わらなかった、しかもだ。
「お父様はこれからもですね」
「そこにおられるのですね」
「永遠に」
「そうなっている」
アトラスはこの時も自分のところに来たヘスペリアの娘達に答えた、林檎を育てその木を守る百の頭を持つ竜ランドンを労わりつつだ。
父のところにも来て慈しんでいる、その娘達に語るのだった。
「この世がある限りな」
「私達からお話しましょうか」
「ゼウス様に」
「そうしてです」
「お父様をお救いしましょうか」
「それはいい、わしも意地があるからな」
娘達にこう返した。
「だからな」
「それで、ですか」
「私達にもですか」
「ゼウス様に言われることは」
「しなくていい」
こう言って止めたのだった。
「そなた達はそなた達の務めを果たすのだ」
「ヘスペリアにおいて」
「黄金の林檎とそれを実らせる木を育てる」
「護るラドンを労わる」
「そうすればいいのですね」
「そうだ、そうするのだ」
娘達に穏やかな、父の声で告げた。
「いいな」
「お父様がそう言われるなら」
「そうさせて頂きます」
「これからも」
「そうしてくれ」
娘達は止めた、そのうえで。
アトラスはその場にい続けた、だがある日のことだった。
彼のところにペガサスに乗った整った外見の青年が来た、その手には鎌であるヘルパーがあり足には空を飛べるサンダルがあった。
見れば腰に被ると姿が消える兜があり。
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