展覧会の絵
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第十一話 ノヴォデヴィチ女子修道院のソフィアその一
第十一話 ノヴォデヴィチ女子修道院のソフィア
藤会の本部事務所の中は警察官達でごったがえしていた。彼等はあまりにも陰惨な状況の事務所の中を見回してだ。顔を顰めさせていた。
床も壁も天井も血で赤く染まり掛け軸や装飾具もだ。真っ赤だった。
そして何よりだ。その中にあるものは。
「これ、手だな」
「ああ、手首だな」
人の右手首がだ。壁に貼り付いていたのだ。制服の警官達はそれを見て顔を顰めさせていた。
「刀か何かですぱっとやられてな」
「飛んで何かの弾みで貼り付いたな」
「そんな感じだな」
それでだ。手首が怪奇映画の様に壁から出ている様に見えたのだ。
そして手首だけでなくだ。他のものもあった。
「胴を真っ二つか」
「これもすぱっといったな」
胴を切られだ。内臓を出しながら苦悶の顔でうつ伏せにこと切れている若い、柄の悪い男の骸も転がっていた。その切り口は見事なまでだった。ただその骸は背中から刃を無数に突かれていた。ただ切られているのではなかった。
しかし警官達は今はその切り口を見てだ。こう言ったのである。
「一撃で切ってるな」
「ああ、本当にいったな」
「これだけの剣の腕の持ち主なんてな」
「そうはいないだろ」
「おまけにな」
刀だけではなかった。他にはだ。
蜂の巣にされて椅子に座っている死体もあった。今度は初老のスキンヘッドの男だ。
男は脳味噌を撃ち抜かれそのうえで内臓を引き出されていた。苦悶の表情であるところを見るとまずは腹を割かれ内蔵を引き摺りだされてからだ。
それから脳味噌を撃ち抜かれたらしい。しかもだ。
その脳味噌も割られたところから無造作に引き出されていた。そしてそのうえで床に灰色の脳漿を撒き散らしたうえで転がっていた。
その無残な死体を見てだ。警官達は嘔吐を堪えながら言った。
「おい、そういえばな」
「ああ、最近なりを潜めていたけれどな」
「ちょっと前にあったよな」
「ホテルとかでな」
謎の連続殺人事件のことがだ。ここで話された。
「それとそっくりだな」
「ただ殺してるだけじゃないからな」
「相手を苦しめ抜いて殺す」
「そんなやり方だな」
「こっちも凄いな」
彼等は廊下を見た。廊下ではだ。
断末魔の顔の首があった。その首はというと。
傍に胴体が転がっている。両手両足の腱が切られているのが見える。
何よりも問題はその首だった。何とだ。
「ねじ切られてるぞ」
「首を回転させてそれでか」
「首を切るのならまだわかるけれどな」
「ねじ切ってるなんてな」
首は何度も回されそうしてだ。切られていたのだ。それで男の顔は断末魔の顔のまま凍りついたのだ。これも実に無残な骸であった。
その骸を見てだ。また言う彼等だった。
「こんな殺しもな」
「俺はじめて見たぜ」
「俺もだよ」
警官達はうんざりとした顔で話す。
「ここまでえげつない殺しはな」
「というか最近続くよな」
「ああ、暫くなりを潜めていたと思ったらな」
「またかよ」
こう話しながらだった。周囲を見回していく。するとさらにだった。無残な死体が転がっていた。その無残な死体がどういったものかというと。
舌を引き抜かれだ。片目もない。耳を両方共そぎ落とされている。
そして喉を掻き切られてだ。達磨にされていた。そしてやはり恐ろしい顔でこと切れていた。
「両手両足切断か」
「実際に見たのははじめてだな」
「しかも何だよ。耳だの舌だの引き抜いてな」
「無茶苦茶じゃねえか」
この死体も無残なものだった。そしてだ。
組長の席もだった。そこに座っている男こそは。
「で、藤会の組長もかよ」
「こんな有様か」
「こりゃまたひでえな」
「何だよこれ」
警官達は組長の席に座っているかつて生きていた何かを見た。
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