戦姫絶唱シンフォギアGX~騎士と学士と伴装者~
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第23節「青い果実」
前書き
今年最後の更新です。
来年もよろしくお願いします!!
猛攻を続けるミカに対抗するべく、調と切歌はLiNKERの追加投与を決断する。
2人を止めようとする弦十郎。しかし、マリアはやらせて欲しいと懇願する。
フロンティア事変のあの日、道に迷い独走した彼女たちだからこそ、今戦うことがその償いだと。
臆病だった過去の自分と決別し、エルフナインがギアを復活させてくれると信じて時間を稼ぐことが、今できる一番の罪滅ぼしなのだと。
ツェルトと共に、血が出るほど唇を噛み締めて訴えるマリアの言葉を、弦十郎は受け容れた。
そして──
「調ちゃんと切歌ちゃんの適合係数、更に向上。しかし……」
「分かっている!奏くん共々、回収の準備を急がせろッ!」
「だったら俺が向かいますッ!」
この後に待つ”時間切れ“に備えて命令を飛ばす風鳴司令に、俺は自ら進言する。
Model-GEEDがなくたって、俺にできることはまだあるのだから。
「ツェルト……」
「マリィも、調も切歌もいい所見せたんだ。次は俺の番だろ?」
「……ほんと、格好つけたがるんだから」
マリィに軽く突っつかれながら、「そんなんじゃねぇよ」と笑う。
以前、風鳴司令が言っていた。子どものやりたい事を全力で支えるのが大人だ、と。
なら俺も、そうありたい。あいつらが無茶しても、無事に帰ってこられるように支えるのが、兄貴分としてのあるべき姿だ。
「格納庫の車両を使うといい」
「ありがとうございますッ!」
そう言って発令所を出ようとした時だった。本部のアラートがけたたましく鳴り響いたのは。
「何事だッ!?」
「本部内から謎の高エネルギー反応ッ!」
「場所は……格納庫ですって!?」
「映像回せ!」
格納庫の映像が映し出される。
そこに映っていたのは、馬のような形をした四足歩行の機械。そして、それに騎乗する人影だった。
片方は髪の長い白衣の男。
そして、もう1人は……。
「翔!?」
「どういうことだ!?」
その場にいた全員が驚愕した。
「ちょっと様子見てくるぜ!」
「僕も行きます!!」
俺と純は顔を見合わせると、発令所から駆け出した。
ff
S.O.N.G.本部潜水艦ネオ・ノーチラス、車両格納庫。
そのど真ん中に、翔とグリムの乗ったスレイプニルは降り立った。
「ここは……本部!?」
「果然、驚くのは無理もない。しかし、この寄り道にもわけがある。君のRN式は最終調整が済んでいないからね」
「最終調整……?」
翔は怪訝そうに眉をひそめる。
「謝意。君のギアを修復する際、プロテクターに大幅な改修を加えさせてもらった。そのため、元のプロテクターからステータスが変動してしまっている。開発者、櫻井了子の協力を仰ぎたいのだ」
「それでわざわざ本部まで……」
いつの間にそんなことを、と驚きつつも納得する翔。
しかし、ヴァンはそこで眉間に皺を寄せた。
「それに、少々懸念もある」
「懸念?」
「確認。君や他の少年達が使っているRN式、あれは君たち伴装者の精神力を聖遺物と共鳴させ、強制的に力を引き出しているのだろう?」
「……分かるんですか?」
「当然。桜井理論は我々が扱う錬金術の理論を、現代科学と異端技術で大幅にアレンジしたものだったからね」
「ッ!?桜井理論が錬金術!?」
「休題。話が逸れた」
話を戻すと、グリムは翔の鳩尾に指先をトンッと突きつけた。
「質問。今の君に、RN式を万全に扱う事ができるか?」
「……」
思わず息を呑んだ。
まるで、俺の心を見透かしているかのような物言いだったからだ。
「立花響。彼女と何かあったのだろう?」
「……そこまで知ってるんですね」
「ああ。知っているとも」
知られているなら、認めざるを得ない。
だが、これは俺個人の問題だ。命の恩人とはいえ、さっき出会ったばかりの相手に話せることではない。
それを悟っているのか、グリムさんはそれ以上何も言わない。
代わりに、格納庫から艦内へと入るためのドアの方に視線を向ける。
「翔!」
「無事だったのか!」
それから2秒と経たないうちに、ドアが開いた。
「純、ツェルト!?」
驚く俺の元に駆け寄ってきた2人は、俺の肩に思いっきり腕を回した。
「心配かけさせやがって、この野郎!」
「皆、ずっと待ってたんだよ!?」
「痛だだだだ!やめ、やめろって!」
肩を掴む手にかなり力を入れてくる純。
肩を組むついでに首を絞めてくるツェルト。
悲鳴をあげながら2人の手を振りほどくと、2人の顔は安堵の表情で溢れていた。
「ったく……よく戻ってきたな」
「おかえり、翔」
「……ただいま。心配かけたな」
男子3人で顔を見合わせる。
それから、純はグリムさんの方に視線を向けた。
「それで、その人が?」
「ああ、俺の命の恩人だよ」
「ヴァン・フィリップス・グリムだ。櫻井了子女史にお目通り願いたいのだが……」
「あら?私を呼んだかしら?」
「了子さん!?」
振り返ると、了子さんがこちらへ向かってきていた。
「私をご指名だなんて、どういう了見なのかしら?」
「嘆願、ギアの最終調整を頼みたい。君の造ったRN式を修復する際、少々手を入れさせてもらった。その際に──」
「OK、大体読めたわ。翔くんのRN式を調整する必要ががあるのね?」
グリムさんが言い終わる前に、了子さんはあっさりとそれを承諾した。
「り、理解が早い……」
「これが天才……」
「弦十郎くん、いいわよね?」
『ううむ……緊急事態だ。上には俺から話をつける』
「じゃ、行きましょ。積もる話はあるけれど、今はとにかく時間が惜しいわ」
「陳謝、迷惑をかける」
驚く純やツェルトを置き去りに、了子さんはグリムさんを連れてラボへと戻って行った。
後に残されたのは、俺たち3人だけだ。
「どうする?」
「俺はあいつらの回収があるからな。純、お前は翔に……」
「なあ、2人とも……話があるんだ」
「ん?」
「どうしたの、翔?」
2人の視線が俺に集まる。
「実は──」
俺は先程、グリムさんから投げかけられた問いについて2人に話した。
RN式をギアとして纏える俺たちには共通点がある。
それは、それぞれが装者と深い関係にある事だ。
俺に響がいるように、純には雪音先輩がいて、ツェルトにはマリアさんがいる。
伴装者になったきっかけも、戦う理由も、大切な人を守りたいと一心に願う想いにあった。
だから、2人は答えを持っている気がする。
俺は意を決して打ち明けた。
「……俺は響に戦ってほしくないと思う。響が傷つくのが嫌なんだ。でも、響は戦う事で誰かを助けられるなら、迷いながらも戦う。俺は……どうするべきなんだ?」
響を支えると決めたが、彼女に傷ついてほしくない。
望まぬ戦いであるのなら、彼女に拳を握ってほしくない。普通の女の子として生きていて欲しい。
しかし同時に、彼女の夢を応援したいという気持ちが存在する。
彼女が誰かを助けるために戦わざるを得ないのであれば、共に隣で支えるべきだと心が叫んでいる。
相反する感情に挟まれ、胸が重たくて仕方ない。
2人ならどうするだろうか?
いいや、この2人は迷わない。正しいとか間違っているかじゃなくて、愛する人と一緒に傷つきながらでも進める道を探そうとする。
自分の決断に胸を張っていられる選択が出来る強さだ。
俺は……俺自身が傷つくのは構わない。
だけど、響が傷つく事になるのは嫌だ。想像するだけで胸が張り裂けそうになるし、自分が許せなくなってしまう。
どうしたらいいんだ……。
「そんなの決まってるじゃないか」
「ああ、そうだな。らしくない迷い方しやがって」
顔を上げると、俺の隣に移動した2人が肩を組んできた。
訳が分からず惚けていると、先に口を開いたのは純だった。
「翔の迷いは、立花さんを大切に想っているからこそのものだ。だからこそ、立花さんを大切に思うあまり、自分の本当の気持ちが見えなくなってるんじゃないかな?」
「本当の気持ち……」
「そう。肩に力が入りすぎてて、逆にポッキリ折れそうだ。もう少し、立花さんの言葉に耳を傾けてもいいんじゃない?」
前に、姉さんが奏さんから似たような事を言われていたような気がする。
俺の方からも、姉さんに言ったかもしれない。
あまりにも懐かしい言葉に、思わず目を見開いていると、反対側からツェルトが肩を叩いてきた。
「俺の知ってるお前は、響と一緒に歩いていけるいい漢だったぜ。同じ歩幅で、一緒にな。けど、今は焦りすぎて響を置いてっちまってるな。俺もちょっと前、置いてかれた側だからよく分かる」
「俺が、響を……」
「ああ。……自分の気持ちを偽るのは、”漢“じゃねぇんだろ?」
ニヤッと笑いながら投げかけてきたその言葉は、いつか俺がツェルトに投げた言葉だった。
『“漢”ならッ!自分の気持ちを偽るなッ!その迷いを、良心の呵責を、俺に押し付けてんじゃねぇぇぇぇぇぇぇッ!!』
「お前が俺に教えてくれたんだ。愛する事と依存する事は違うってな。今、お前はどうだ?立花響を”愛して“いるか?」
「翔、君のアームドギアを思い出すんだ。その形が君の在り方で、僕達の名前になった事を」
……そうか。俺は、大事な事を忘れてたんだな。
俺とした事が、不甲斐ない。
響に辛い思いをさせたくないと思うあまり、知らぬ間に楽な方へと流されていたようだ。
『辛い思いをさせたくない』ということと『戦わせたくない』というのは、同じようで少し違う。
人間関係は、外交と同じだ。こちらに戦う気がなくても、相手が否応なしに戦う事を強いてくる事がある。
そして万が一、相手が先に手を振りあげた場合、こちらもそれを防ぐために手を出さなくてはならない。
相手が強大な力を振りかざしてそうしてくる時は、こちらもそれに抗するだけの力が必要だ。
交渉とは、両者の力が拮抗しているからこそ成立する。
それは国と国だけの話では無い。人と人、大人同士だけでなく、子供同士でだってそうだ。
それでも、それを理由に暴力を正当化しない。
立花響という少女が苦悩するのは、かつて理由のない暴力に傷つけられたが故の優しさだ。
だから俺は、そんな彼女と共に悩み、彼女が掲げる『拳を開いて繋ぎ合う』という夢を実現させるために戦う。
彼女の理想を、稚拙だと笑わせないために並び立つ。
だから……俺のやるべき事は、俺が本当にやりたい事は、響を戦わせないことなんかじゃないッ!!
「2人とも、ありがとう!俺の本当にやりたい事、お陰で思い出したッ!」
思い出させてくれた戦友の肩に、俺も腕を回す。
ここ数日、胸に燻っていたものが晴れたような気がした。
「俺、響に伝えてくるッ!」
「行ってきなよ。今出られるの、翔だけなんだからさ」
「頼むぜヒーロー!俺達の分まで暴れて来いッ!」
二人に背中を押され、了子さん達のラボまで駆け出した。
外ではミサイルと銃弾の弾ける音、そして風を切る刃の音が鳴り響いている。
おそらく、響もあそこに向かうだろう。
必ず追いつく。そして改めて、響の隣に立つ。
遅れはしない。俺はそのために走るのだ。
「男なら、信じた道を突き進めッ!」
新たなチカラが今、覚醒の鼓動を待ち望んでいた。
後書き
今回は多分、黒バックの特殊ED←
歌詞の一部にするか、そのままサブタイにしてしまうか。サブタイは最後まで迷いました。
でも英雄故事の例もあるし、OKかな~とw
来年には新ギアお披露目して、キャロルちゃんと対話フェーズしなきゃですね。
来年もよろしくお願いします!!
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