無茶振りに応えるレストラン
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第一章
無茶振りに応えるレストラン
宮沢賢治の作品に注文の多いレストランというものがある、この時大久保信明はこの作品のことを思い出していた。
それでだ、チーフシェフの掛布豊樹に話した。大久保はレストランの支配人であり丸い顔に小さい目でふっくらとした身体をしている。背は一六九位で愛嬌のある顔立ちで蝶ネクタイとタキシードという恰好だ。
「あの、もうね」
「これ以上ですか」
「あのお客さんが変なこと言ったら」
店内の安土桃山時代からタイムスリップしてきた様な派手な服装の男を見て言う、頭は髷にしていて長方形の顔で明るい顔立ちなので余計にそう見える。
「断わってね」
「いえ、私もです」
掛布は大久保に真面目な顔で答えた、背は大久保と同じ位で年齢はやや上な風だ。四角い顔で猿に似た顔立ちで髪の毛は上は先だけ残っている。
「お客様に約束しましたので」
「どんなものでも出すと」
「はい、ですから」
「注文の多い料理店じゃなくてだね」
まさにこの話を出した。
「無茶ぶりを受ける」
「それが多い料理店ですね」
「それでもいいんだね」
「はい、折角イベントをして」
「うん、抽選をしてね」
「それに当選したお客様にはどんな食材のどんなお料理もお出しする」
「お金さえ払ってくれたらね」
それならというのだ。
「そうだけれど」
「あのお客様お金はです」
「カードで持ってるしね」
「はい、ですから」
この条件を満たしているからだというのだ。
「もうです」
「いいんだね」
「何でも作ってみせますよ」
掛布は大久保に笑顔で答えた。
「最初はオマール海老のスープで」
「ブルゴーニュ産の海老のね」
「その前はスパゲティで」
「北海道の蟹とイタリアの生クリームを使ったものでね」
「イカスミ入りの和風サラダもあって」
そうしてというのだ。
「七面鳥のグリルも注文を受けて」
「特上の松坂牛のステーキもね」
「五百グラムのフォアグラとトリュフも添えた」
「ムニエルとフライはです」
「北海のタラに」
「はい、黒海の鱒のもので」
「キャビアも注文して」
この珍味もというのだ。
「刻んだ玉葱等と混ぜて」
「パンの上に乗せて食べるって言ったね」
「そちらも用意しました」
「凄いね、ワインだってね」
飲む方もというのだ。
「トカイの最上級をね」
「二本目ですね」
「そうだから」
それでというのだ。
「凄いよ」
「無茶振りばかりですね」
「全く、東京だからね」
この街だからだとだ、大久保は話した。
「世界中から食材が集まってるから」
「支配人さんのつてもあって」
「食材は調達出来てね」
そしてというのだ。
「掛布さんの腕があるから」
「調理出来ていますね」
「けれどこれ以上言ったら」
大久保は眉を顰めさせて話した。
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