――2021年、9月3日。
明智天峯を筆頭とするノバシェード三巨頭との戦いから2年が経過し、世界は徐々に、そして着実に「平和」を手にしようとしていた。
昨年のクリスマスには仮面ライダーケージこと
鳥海穹哉と、仮面ライダーオルバスこと
忠義・ウェルフリットの活躍により、ノバシェード残党のニューヨーク支部が壊滅。
世界中に散らばった「仮面ライダー」達の手で、全ての残党が撃滅されるのも時間の問題となっていた。
(……あそこですか。ノバシェードの
潜伏先になっているという、元研究所というのは)
その一員としてブラジルに滞在し、現地の残党を追跡していた
水見鳥清音も、この南米に根を張る悪の根源を追い詰めようとしている。
アマゾンの密林に隠された古びた建物を発見した彼女は、遠方から双眼鏡でその様子を観察していた。
その傍らに停車している専用のマシンGチェイサーは、装備ラックが設けられた物々しい外観となっている。
(やはり……今年に入ってから、ノバシェードの構成員達が徐々に手強くなって来ています。その「異変」の秘密が……もしかしたら、あそこに在るのかも知れませんね)
数日前――サンパウロのホテルに滞在中、独りシャワーを浴びていた清音はそのタイミングで、残党による「奇襲」を受けていた。
一糸纏わぬ、女として最も無防備な瞬間を狙われたのである。
ノバシェードの構成員は半端な能力しか発現していない「怪人未満」が大半であるため撃退は容易だったのだが、「貞操の危機」だったことには違いない。
不意を突かれ、そのグラマラスな肉体を組み敷かれた時は、歴戦の女傑である清音も「覚悟」を迫られたほどだ。咄嗟に蹴り飛ばすことが出来なければ、今頃どうなっていたことか。
これまでもノバシェードの構成員達から、その豊満な肉体を狙われることは何度もあった。が、彼らは改造人間としてはあまりにも「お粗末」な
性能であり、基本的には撹乱も撃退も難しいことではない。
明智天峯、
上杉蛮児、
武田禍継。彼ら3人の強さがあまりにも突出していただけで、ノバシェードの怪人達は本来、その程度の力量なのである。
そのノバシェードの構成員達の動きが――今年に入ってから、妙に
冴えて来たのだ。彼らは戦闘員として、確実に「成長」し始めていたのである。
(これまで、彼らが私達の動向や拠点を察知出来たことなど無かったのに……。一体、彼らに何が起きているというのでしょうか)
組織の壊滅が目前に迫っている事実に直面したことで、必死に特訓するようになったためか。あるいは、改造人間としての性能を底上げ出来る技術でも得たのか。
いずれにせよ、その原因を突き止めねば今年のうちに平和を取り戻すことは難しくなるだろう。今この瞬間も、力無き人々は改造人間の脅威に震えているのだ。
警察官として、仮面ライダーとして。一刻も早く、その脅威を排除せねばならない。
その思いを豊満な胸の奥に宿し、見張りが居ないことを確認した清音は、素早く腰を上げる。
そんな僅かな身動ぎだけで、雄の獣欲を掻き立てる安産型の桃尻と爆乳が、ばるんっと弾んでいた。怜悧な佇まいとは裏腹に、その熟れた極上の肉体からは芳醇な女の香りが滲み出ている。
「では、そろそろ『ご挨拶』に参りましょうか」
迷彩服を内側から押し上げる、色白の肉体。その透き通るような柔肌を伝う汗が、芳醇な女の香りを漂わせている。
ノバシェードとは無関係な現地の男達からも注目されていた、透明感溢れる清音の肌は――月光を浴び、艶やかな煌めきを放っていた。
その鋭い双眸は、使われなくなって久しいという元研究施設の建物を、静かに射抜いている。
◆
戦闘時に清音が着用している
G-verⅥのスーツは潜入捜査には不向きであるため、この場では使用出来ない。
加えて清音自身の格闘能力は、「同僚」の仮面ライダー達と比べれば低い部類に入る。
そのため極力建物内での遭遇戦を避けるべく、清音はダクトの穴から内部に侵入するルートを選んでいた。
狭い通路に豊満な肢体を滑り込ませ、彼女はするりと施設内に潜入して行く。
(見張りどころか人の気配すら……。いえ、しかし……)
むっちりとした爆乳と桃尻を擦らせながらも、くびれた腰を蠱惑的にくねらせダクト内を進んで行く清音。
彼女は建物内にも全く見張りの類が見えないことに、言いようのない「不穏」を感じていた。
人の気配は全く感じられない。だが、ここが何も無いもぬけの殻だとも思えなかった。
奥に進んでも人の姿は見えないが――血の匂いが、徐々に濃くなっていたのだ。
「……っ」
やがて、ダクト内から真下の廊下を見渡していた清音の視界に――血みどろの男性の遺体が映り込む。
その状況を確認するべく、彼女はダクトの外枠を外してするりと廊下に着地していた。着地の弾みで、迷彩服を押し上げる爆乳と巨尻がぷるんと躍動する。
周囲に敵がいないことを確認しつつ、清音は遺体の傍らで片膝を付き、そこから汲み取れる「情報」を観察する。
白衣を着ているところを見るに、どうやらこの施設の研究者だったようだ。何か鋭利なもので、肉体を袈裟斬りにされたような痕が窺える。
この男性の遺体は、まだそれほど時間が経っていないらしい。身に纏っている白衣は真紅の鮮血に染め上げられているが、体温はまだしっかりと残っている。
白衣の下に隠されていたセキュリティカードは血で汚れていたが、辛うじてそこに記されていた名前を読み取ることは出来た。
(ノバシェードアマゾン支部所属・怪人研究所所長
斉藤空幻……それが、この男の名ですか)
斉藤というこの男の遺体に残された大きな傷跡は、怪人の仕業によるものと考えられる。研究中に暴走事故が起きていた可能性を想定した清音は、鋭く目を細めて薄暗い廊下の先を見据えていた。
(……この先のようですね)
斉藤がここで力尽きるまでに遺して来た血の跡と、奥のフロアから漂って来る匂いに誘われるように。
清音は太腿のホルスターから引き抜いた
自動拳銃を構えながら、ゆっくりと歩みを進めて行く。血痕を残した張本人の足跡を辿る彼女の足音だけが、この通路に響いていた。
やがて、斉藤のものらしき血痕が――とある一室の入り口で途絶えてしまう。恐らく彼は、この先で致命傷を負ったのだろう。
入り口のドアの向こう側からも、人の気配は感じられない。だが、吐き気を催すほどの血の匂いは、ここから来ていたようだ。
「……ッ!」
清音は意を決して、遺体から手に入れたセキュリティカードでドアを開き、自動拳銃を構える。そして、その先に広がっていた「殺戮」の現場に――思わず言葉を失ってしまうのだった。