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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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金と銀

 あの騒動から少し経って今日は6月最初の月曜日。

 私の部屋争奪戦はなんとセシリアさんが勝利し、その日の内に鉄壁要塞(織斑先生)へ突撃を掛けて見事に玉砕していました。
 会話の一部をどうぞ。

「というわけで私が一夏さんの部屋のとなr……コホン。カルラさんとルームメイトになりますわ!」

「何を勘違いしたのか知らんが却下だ」

「な、何故ですの!? 勝者の私には当然の権r…」

「そもそも部屋の移動は篠ノ之だけの話だ。当然凰も除外だ。どうしてIS勝負で部屋を分ける話になったのかは……まあ、大体の予想はつくがお前ら生徒の間で勝手に決めるな」

「う………」

「それにお前のあの天蓋つきのベッドを運ぶつもりか? さぞかしカストも嬉しいだろうな」

「あうあう……」

 上陸用舟艇で正面が開いた瞬間に要塞からの機銃掃射で一掃されました。
 ちなみにその後セシリアさんの寮の部屋を見せてもらいましたけど本当に天蓋つきのベッドでした。そして相部屋です。
 となれば当然その相部屋の人のスペースはほとんどなく………それを見た私も丁重にお断りしました。

 というわけで結局私の部屋には箒さんが入ることとなり、この騒動は終結。よく考えたら最初から織斑先生に話しておけばIS模擬戦闘になることもなかったんですね。
 でも苦手意識がある人って話かけずらいじゃありませんか!

 ああ、話が逸れてしまいましたね。
 今クラスの話題はISスーツです。今日からISスーツの申し込みが始まるということで、教室では数人で一つのカタログを見てワイワイと騒いでいます。

「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」

「部活の先輩の話だとハヅキのってデザインだけって話だよ?」

「そのデザインがいいの!」

「私ファランクスかなあ」

「ファランクスって言えば……」

 簡単に言えばISスーツは一張羅みたいなものです。
 ISスーツは学校指定のものもありますがほぼ各人で用意します。理由はISが自己学習能力により個人個人で全く違う仕様に変化するものなので早いうちからのスタイルの確立が大事なんです。
 ほとんどのIS関連企業では所属のIS操縦者のためにISスーツを開発していますし、ISスーツ専用の会社もあったりします。ちなみに見た目は全体的にワンピース水着やレオタードに近いものが多いです。理由としてはISは絶対防御があるので動きを阻害しないものが良い、ということでしょうね。

 当然オーストラリアの国営IS企業のジャクソン社でも作っていて、私のISスーツもジャクソン社仕様です。ジャクソン社のスーツはシャツとスパッツがくっついたもののようになっていて、他のISスーツより布地が多めになっています。
 オーストラリアはIS実験時、中央の砂漠地帯でテストを行うことが多くあります。日によっては砂嵐が吹き荒れ、高速戦闘で肌の露出が多いと皮が剥けてしまうのが理由です。

「ねえねえカルラさん! このジャクソン社のISスーツってなんとか安くならない!?」

「えっと……物によりますけど……」

「私この高機動補助型がいいなあ!」

 当初はISの性能は不明な部分が多かったため不測の事態が起きてもいいようにとスーツも考えられたものですが、調査が進むと共に先に言ったようなことは防護フィールドによりありえないということが判明。しかしその方向で開発を進めていたジャクソン社は未だに布面積が多いため、他国に対してほとんど人気はありません。
 なのですけど……

「あー、これいいね! ねえ、私も安くならないかな?」

「うんうん」

 このクラスではジャクソン社は大人気みたいです。恐らく一夏さんがいるからでしょうね。やはりあの水着のような格好は恥ずかしいんでしょう。
 しかし会社の一社員の娘というだけでは流石に値段交渉までは請け負えません。

「聞くだけ聞いてみてもいいですが望み薄ですよ?」

「そうなの?」

「はい。社員の娘という位置づけではそこまでのサービスは……」

 皆さん「そっかー」や「うーん」など声を上げていますがカタログは離していません。やはり気になるようです。質問に答えているうちに山田先生が、その少し後に鉄壁要さ……失礼、織斑先生が入ってきました。

「諸君、おはよう」

『お、おはようございます!』

 朝の雑談タイムがその一言で終了し朝のSHRが始まります。最早軍隊ですね。

「今日から本格的な実戦訓練を開始する。専用機持ち以外も訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように」

 忘れた人は学校指定のものを。それも忘れた人は何と下着でやれとのこと……
 今度からISスーツは授業が無くても着ていましょう、はい。

「では山田先生、ホームルームを」

「は、はいっ」

 織斑先生の連絡事項が終わるといつも通り山田先生へバトンタッチする。

「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します! しかも2名です!」

「え……」

『えええええええっ!?』

 水面に石を投げ込んだように一気に教室中に叫び声が広がります。この噂好きの人たちの包囲網を抜けてどうやって入ったのでしょう? 鈴さんの時も噂だけで出身国さえばれていたというのに……

 かく言う私も開いた口が塞がりません。
 こんな変な時期に二人同時? 波乱の予感しかしませんね。
 IS学園の倍率は通常の受験で約1万倍以上と言われる世界でも屈指の超難関学校です。一夏さんのような特別な人物や国がバックについている代表候補生ならまだしも、こんな時期に転入してくるというのは普通の人ではないと容易に想像できます。事実鈴さんは国に無理やり入れてもらったそうです。他国の影響を受けないと言ってもそこは流石に無理なのでしょう。
 さて、そういうわけでここで思い浮かぶのはやはり代表候補生。もしくは何かしらの特別な存在なわけで……
 まあそうなったらまた一夏さんがらみって言う……ね。

 山田先生に促されて入ってきたのは……えーと……男性の制服を着た……へ?
 ピシリと両足を揃えて軽く一礼をしてから自己紹介を始めます。

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

「お、男の人……?」

 私の口から自然と言葉が出ていました。

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を……」

 礼儀正しい立ち振る舞い、中性的に整った顔立ち、髪は長い金髪でその髪を後ろで束ねています。瞳は綺麗なエメレルドで、体つきは女性と言われれば女性と見間違うほどの華奢さ、でもそれでいてしゅっと伸びた脚が非常に目立ちます。
 この人を見た人は誰でもこう思うでしょう。『貴公子』と…

「きゃ……」

「はい?」

 あ、まずい。私はそう思った瞬間に耳を塞いで次に来る事態に備えます。

「「「「「「きゃあああああああああああ―――っ!」」」」」」

 水面に石を投げ込んだように以下略。

「男子! 二人目の男子!」

「しかもうちのクラス!」

「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!」

「貴様は今まで惚れた男の数を覚えているのか?」

「幽体離脱~」

「ちょ! 逝っちゃダメだってば!」

「はっ! 隅田川の向こうでお婆ちゃんが手を振っていたわ」

「あんたのお婆ちゃん生きてるでしょうが…」

 危うく誰か死にかけたようですが無事戻ってこれたみたいです。

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 いつも以上にヤレヤレといった感じで頭を抱える織斑先生。しかもその声がぼやきに近かったせいで教室の波が収まりません。

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 そう、もう一人。
 こちらも男性用の制服ですが明らかに女性です。腰まである長い銀髪、小柄な体ですけどそれ以前に最も特徴的な、異色の左目の黒い眼帯をしています。昔の軍人映画や漫画で出てくる軍人がしているような目を隠すための眼帯です。
 そしてそれさえも置いて、その人の存在感を出しているのが威圧感。その威圧感は知っています。本国で会ったことのある軍人さんのそれですね。

「…挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

 教官? 今織斑先生のことを教官って言いましたね。

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

『…………』

 自己紹介……終わり?
 一夏さんより短かったような気が……

「あ、あの、以上……ですか?」

「以上だ」

 本当に終わりみたいですね。まあ軍関係者だとすればあれ以上の自己紹介はいらないのでしょうけど。
 山田先生はいつも通り涙目になっています。

「! 貴様が……」

 何かに気づいたようにボーデヴィッヒさんが一夏さんに近づくと……

バシン!

 何故かいきなり一夏さんの右頬を平手打ちしました。

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

「何しやがる!」

「ふん」

 周囲の状況を全く置き去りにしたままボーデヴィッヒさんは空いてる席へとさっさと移動して座ってしまった。
 山田先生は相変わらずあわあわしているし……

 ドゴン

「ぐお!」

 その瞬間にボーデヴィッヒさんの頭部に出席簿の背表紙が振り下ろされ、ボーデヴィッヒさんが声を上げます。

「いきなり何をやっているかこの馬鹿が」

「し、しかし教官……!」

「織斑先生、だ。これ以上貴様一人に時間を使ってる暇はない。HRはこれで終わる。各人はすぐに着替えて第2グラウンドに集合。今日は2組と合同でIS基礎実習を行う。解散!」

 織斑先生の一喝と共にクラス中が慌ただしく動き出しました。

 第二の男性IS操縦者に軍人クラスメートって……もう波乱の予感しかしません。

 どうやら残念ながら私はもう平穏を享受することは出来ないようです。 
 

 
後書き
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