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イベリス

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第六十九話 恋愛について考えだしてその一

                第六十九話  恋愛について考えだして
 咲は店で速水に話した、夏休み初日に彼女は朝からアルバイトをしていた。
「あの、恋愛って」
「人生には付きものですね」
「はい、そうですよね」
「それにより人は幸せになり不幸にもなります」
「失恋とかですか」
「そうです、失恋絡みの不幸は非常に恐ろしいものです」
 速水は咲に深刻そのものの顔で話した。
「人間が変わる場合もあります」
「そこまでのものですか」
「そうなった人も見てきましたので」
「店長さんはそう言えるんですね」
「左様です」
 その通りだというのだ。
「暗く歪み淀んだ心になった人を」
「それはまたかなりですね」
「ですから失恋した人はからかってはいけません」
「余計に傷付けるからですね」
「自分が言われるとどうでしょうか」
 速水は咲に問うた。
「失恋をして傷付いた時に」
「その傷を抉られるってことですよね」
「そうです、言われるとどうでしょうか」
「凄く嫌ですね」 
 咲は即座に答えた。
「それは」
「左様ですね」
「絶対に嫌です、そうした時って笑いながらしてきますよね」
「悪意を以て」
「そんなことされたら言ってきた相手を怨みますね」
「それで一生怨む人もいます」
 言ってきたその相手をというのだ。
「まさに」
「一生ですか」
「小山さんは一生怨まれたくないですね」
「そんなの絶対に嫌です」
 咲は速水のその言葉に即座に真剣な顔と声で答えた。
「絶対に」
「左様ですね、そう思われるならです」
「絶対に言わないことですね」
「そうです、普段何ともなくとも自分が辛い時にです」
 まさにその時にというのだ。
「そうした人が小山さんを助けるか」
「そんなことは絶対にしないですね」
「そうです、危機は何時どういったものがやって来るかわかりません」
「その時私を一生怨んでいる人が傍にいたら」
「その人は確実に小山さんを突き落とします」
 助けるどころかというのだ。
「それも躊躇なく」
「怨みを晴らす為にですね」
「そうしてきます、そうなりかねないことがです」 
 まさにというのだ。
「人の失恋の傷を抉ることです」
「だから絶対に言っては駄目ですね」
「心の傷は敏感なものです」
 速水は右目を悲しいものにさせて語った、左目は相変わらず髪の毛に隠れて見えない。見えているというがこちらからは見えない。
「そして深く繊細で化膿しやすいです」
「身体の傷よりもですね」
「そうです」
 まさにというのだ。
「遥かにです」
「そうしたものなんですね」
「ですからそっとしておくことです」
「人の失恋は」
「むしろ慰める」
「間違っても嗤ってはいけないですね」
「人を傷付けです」 
 そうしてというのだ。
「一生怨まれかねないので」
「言わないことですね」
「小山さんもそのことはお願いします」
「はい、失恋って誰にもありますね」
「誰にも有り得ることです」
 実際にとだ、速水も答えた。 
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