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忠犬は何処にも

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第二章

「うちの奴と同じだな」
「ハチトとかい?」
「ああ、こいつとな」
 肉を買いに来た客に話した。
「同じだな」
「そうだよな」
「いや、日本のハチ公の話を聞いてな」
 この犬のとだ、グレーと白の垂れ耳の大きな優しい目の雄犬を見て話した。
「そっくりだって思ってな」
「ハチトって名付けたな」
「最初はゴローって名前だったんだがな」
 それでもというのだ。
「親父がな」
「バイクで死んでな」
「ずっとな、待ってるからな」
 今は店の前で丸くなって寝ている彼を見て話した。
「だからな」
「それでだよな」
「ああ、親父が帰って来る時間になったら」
 その時が来ればというのだ。
「いつもな」
「迎えに行くな」
「そうするからな」
「メキシコの子と同じだな」
「犬はそうした生きものだな、大事にしてもらったらな」
 そうしてもらえると、というのだ。
「そのことを忘れないでな」
「一生慕うんだな」
「ああ、そうした生きものだ」 
 それが犬だというのだ。
「だからな」
「それでだな」
「俺としてはな、親父が可愛がっていたし家族だしな」
 だからだというのだ。
「もう五年になるけれどな」
「親父さんが死んでな」
「ずっとハチトと共にいるよ」
「そうするか」
「ああ、ハチトいいな」
 その彼を見つつ言った。
「そろそろ時間だけれど行くな、帰ったらご飯やるからな」
「クゥン」
 ハチトは彼に応える様に一声鳴いてだった。
 そのうえで起き上がって通りの入り口の方に行った、そうしてそこで座って待つのだった。だが待ち人は来ず。
 とぼとぼと歩いて店に帰ってきた、その彼にだった。
 ザビエルはご飯の肉を出してだ、優しい笑顔で言った。
「たっぷり食えよ」
「クゥン・・・・・・」
 ハチトは明らかに気落ちしていた、だが。
 ご飯を食べてザビエルに撫でられて尻尾を振った、ザビエルも客もそんな彼をこの上ない優しい笑顔で見ていた。


忠犬は何処にも   完


                     2022・9・24 
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