展覧会の絵
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第九話 聖バルテルミーの虐殺その十八
「そして当時からです」
「正しい信仰を持っている人はなんだね」
「罪を犯していない者には何もしませんでした」
「じゃあこの虐殺にしろ十字軍にしろ」
「異端審問や三十年戦争もですね」
「それはやっぱり」
「正しい信仰ではありません」
虐殺はだ。決してそうではないというのだ。
このことを言ってだ。十字はだ。
再びだ。こう先生に言った。
「僕は常に思っています」
「信仰のことをだね」
「はい、正しい信仰をです」
それをだ。持ちたいというのだ。
「そしてそのうえで生きたいと思っています」
「じゃあこの絵は」
「戒めです」
それだとだ。描きながら言う十字だった。
「この絵の様なことはしない様に」
「罪のない人には何もしてはならない」
「如何なる理由があろうともです」
まさにだ。そうだというのだ。
「それはしてはならないのです」
「真面目だね。それに厳しいね」
「己に厳しくあれ」
この言葉もだ。十字は先生に対して出した。
「そして戒めをです」
「それを忘れたら駄目だね」
「特に僕の様に神に仕える者は」
「教会にいるのも大変だね」
先生は顧問として十字の事情を知っていた。それでだ。
彼のそうしたことを聞いてだ。そのうえで言ったのである。
「何かと制約が多いよね」
「律することですね」
「うん。結婚はできないし」
先生はまずはそこから話した。
「それに生活だってあれだよね」
「質素です」
「修道院なんか凄いよね」
「修道院こそは己を律する場所です」
本来はそうである。そうでもない修道院が多かったのも事実であるが。
「そして僕もです」
「己を律してるんだね」
「そうする様にしています」
「やっぱり凄いよ」
素直な賞賛をだ。先生は十字に対して言った。
「そこまでできるなんてね」
「そう言われますか」
「実際に思うからね。佐藤君は」
先生は絵も十字も見ていた。そしてだ。
今は十字を見てだ。こう言ったのだった。
「それでね」
「それで、ですね」
「うん。この絵を描いたら」
「はい、また別の絵を描きます」
「絵も好きなんだね」
「絵は鏡なので」
だから好きだとだ。十字は先生に返した。
「ですから」
「鏡、そうだね」
「そうです。人の心を映す鏡です」
そうだというのだ。絵はだ。
「そしてひいては人間そのものをです」
「映しているというんだね」
「それが絵です」
「そしてその絵を描いて」
「はい、僕は戒めにもし人も学んでいます。そして」
「そして?」
「何よりも。絵を描くことがです」
それ自体がだというのだ。
「何よりも最高の学問です」
「最高の」
「はい、そうです」
「その言葉は嬉しいね」
先生は十字の言葉にだ。笑顔を向けた。
「美術部の顧問としてはね。そういえば佐藤君は」
「僕が何か」
「この前のテストだけれど」
「学校の、ですね」
「うん。またトップだったらしいね」
「確かそうでしたね」
そのことについては特に興味のない感じでだ。十字は先生に答えた。
「学年で」
「そう。凄いよ」
素っ気無い十字に対してだ。先生はかなり興奮している感じで言う。
「そんな。二回連続トップっていうのも。しかもね」
「しかも」
「全教科殆ど満点だし」
それもまた凄いというのだ。
「佐藤君本当に東大行けるよ」
「東大ですか」
「しかも法学部に」
先生の言葉はさらに興奮したものになっていた。表情も上気したものだ。
だがその先生とは対称的にだ。十字は仮面の顔で言うのだった。
「大学はです」
「大学は?」
「イタリアの大学を」
その大学だというのだ。十字は。
「それがいいです」
「海外かい?」
「イタリアの大学が好きですから」
だからだというのだ。
「そう考えています」
「凄いね。まあとにかくね」
「はい、頑張ります」
こう話してだった。十字はだ。
勉強のことは特に意識せずに絵に専念した。そうして描きながらだ。絵の中にあるものについて考え動こうとも考えていたのだ。絵を描きながら。
第九話 完
2012・3・20
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