魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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GX編
第126話:見えない駒
前書き
どうも、黒井です。
今回は情報整理回の様な感じです。
オートスコアラー・ガリィと魔法使いビーストことハンスの襲撃を退けた颯人達だが、彼らの中に勝利と言う単語を思い浮かべている者は1人としていなかった。
ガルドがハンスを相手に実質敗北し、マリアに至ってはシンフォギアを纏えたにも拘らずガリィ相手に力及ばず。ならばとぶっつけ本番で起動させたイグナイトは暴走し挙句の果てにガリィに敗北を喫してしまった。
幸いなことに2人とも大小様々な怪我を負ってしまったものの、どちらも命に別状はない。特にガルドは、戦いが終わって直ぐにケロッとしていた。顔や腕なんかに絆創膏を貼ってはいるが、それ以外は何も問題はない様子だ。
だが体は大丈夫でも心はそうではなかった。特にマリアはイグナイトを暴走させた挙句敗北した事を酷く気にしている様子だった。
意気消沈したマリアにはセレナが傍に付き、他の者は研究所の応接間に集まり情報の整理を行っていた。
「一体キャロルの目的は何なんだ?」
開口一番、翼が口にしたのはキャロルの目的に対する疑問だった。今颯人達が立ち寄っている研究所は、シンフォギアなどに関してそれほど重要な研究を行っている施設ではない。特に対キャロル・ジェネシス戦において重要な研究をしている訳ではなく、言わば物のついでに立ち寄っただけに過ぎない。
そんな所にまで現れた挙句、戦闘を仕掛けてきたガリィにハンス。一見するとしつこく装者と魔法使いを排除しにやってきたように見えなくもないが、それにしては詰めが甘い。何しろ先程の戦闘で、ガルドはともかくマリアは最後ギアも解除されて無防備を晒していたのだ。幾ら一度はガルドに邪魔された上に奏達が戻ってきていたとはいえ、マリアにトドメを刺す時間は十分にあった筈である。
「どうして優位に事を運んでも、トドメを刺さずに撤退を繰り返しているのだろう?」
「お~、言われてみれば! とんだアハ体験デス!」
「いちいち盆が暗すぎるんだよな」
ガリィ達、キャロル勢の行動におかしな部分がある事に関しては全員が気付いていた。オートスコアラーはそれこそ初戦から装者を戦闘不能にまで追い込んでおきながら、決してトドメを刺すようなことはせずに最終的には逃げている。そのくせ魔法使いは仕留めようとしているのだから訳が分からない。
その議論を颯人は、手に持ったトランプをシャッフルしながら聞いていた。
「気になるのは、マリアさんの様子も……」
しかも問題はキャロル勢の奇行だけではない。目下ある意味で最大の問題はマリアにある。シンフォギアを纏えたマリアだが、イグナイトを暴走させてしまった事は相当に堪えたようだった。
「……力の暴走に飲み込まれると、頭の中まで黒く塗り潰されて……何もかも分からなくなってしまうんだ」
この場に居る者の中で唯一暴走を経験した事のある響の言葉が重く室内に響き渡る。普段明るい彼女が、顔に影を落としてまでそう言うという事は、シンフォギアの暴走は装者にとって相当な負担となるのだろう。
室内に重い空気が漂う。その空気を払う様に声を上げたのは、他ならぬこの男だった。
「ま、そればっかりは俺達がどうこう言っても始まらねぇよな」
その男……颯人の言葉に全員の視線が集まる。全員の視線が集まっているのに気付いてか、颯人は手の中のトランプを扇状に広げるとハンカチを被せ、次の瞬間にはそれを紫のアネモネの花束に変えてしまっていた。
「その言い方は薄情だろ!?」
颯人の言葉に真っ先に噛み付いたのはクリスだった。何だかんだで仲間想いの彼女は、颯人の口にしたマリアを見捨てるかのような言葉が気に入らなかったようだ。なまじっかクリス自身一度はイグナイトの起動に失敗しながらも、それを乗り越えて新たな力を物にしただけにマリアも同様に困難を乗り越えられると考えていたらしい。
だが颯人はクリスの言葉を受けても肩を小さく竦めるだけであった。
「そうは言ってもさ、実際俺達に出来る事って何かある? マリアに対してさ」
「それは……」
「アタシ達はマリアと付き合いが短すぎる。そんなアタシ達が何をしようが、マリアにとっては逆に辛いだけの慰めにしかならない……そういう事か?」
颯人の返しに言葉を詰まらせたクリスを見て、奏は颯人が言わんとしている事を口にした。それを聞いて颯人は花束を奏に渡す。
「そう言うこった。仲間を思いやる気持ちは大事だが、それに突き動かされてるだけじゃいけないぜ。時には待つ事も大事だ」
「でも、それじゃマリアが辛いだけ……」
「私達に、何か出来る事は無いんデスか?」
颯人の言いたいことは分からなくもないが、さりとて「はいそうですか」と引き下がれないのも確か。何か自分達に出来る事は無いかと言う切歌と調を、颯人は顎に手を当てながら唸った。
「ん~、君ら2人ならワンチャン……と言いたいところだが、マリアにとって君らは仲間であると同時に守るべき存在だろうからな。意地張って気丈に振る舞おうとするかもしれねぇ。端的に言っちまえば、逆効果なんて可能性もありえる」
「そんな……」
「颯人さん、何か案はありませんか?」
自分達は何も出来る事が無いと言われて沈む切歌と調を一瞥し、それでも何か出来る事は無いかと翼が颯人に訊ねる。一度は颯人に悩みを聞いてもらった事もある関係で、颯人なら何かマリアを元気づける方法が思いつくかもしれないと期待したのだろう。
とは言え颯人の本職は手品師でありカウンセラーではない。メンタリストの様な事もするが、本職のカウンセラーに比べれば彼に出来る事など高が知れている。
「俺の手品を楽しんだだけで元通りになってくれるなら何とかするがね。流石にこればっかりは俺でもどうにもできそうにない。もし何か出来るとすれば…………」
両手を肩の高さに上げてお手上げのジェスチャーをしつつ、颯人が向かったのは壁際で寄りかかっているガルドであった。神妙な顔で目を瞑り眉間に皺を寄せていた彼は、颯人が肩に手を置いた事で漸く彼が近付いて来たことに気付き顔を上げる。
「ん? 何だ?」
「……未来の義姉が悩んでんだ。力になってやりな」
颯人はそれだけ言い残して部屋を出て行ってしまった。ガルドは颯人の言葉に一瞬目を丸くし、次いでマリアが未来の義姉と言う言葉に顔を赤くしつつ深呼吸を一つして心を落ち着けた。確かにここに居る面子の中で、セレナに続きマリアと心が近いのは間違いなく彼なのだ。マリアに対して何かしてやれる者が居るとすれば、それは彼以外に居ない。
「……ちょっと行ってくる」
ガルドはそれだけ言い残して颯人に続き部屋を出て行く。彼が出て行ったのを見ると、奏は手の中の花束を一瞥し小さく溜め息を吐くと席を立った。
「こいつ颯人に返してくるよ」
奏はそれだけ言い残し部屋を出ると、廊下を見渡した。すると右手の先に今持っているのと同じアネモネの花が一輪落ちているのが見えた。
それは今翼達が居るのとは別の部屋の扉の前。奏は迷うことなくそちらに向かうと、落ちているアネモネを拾い部屋に入った。
「よ、待ってた」
部屋に入ると案の定そこには颯人がソファーに座って奏の事を待っていた。奏は真っ直ぐソファーに向かうと、颯人に花束を渡しながら彼の隣に腰掛けた。
「……で? 態々アタシを呼び出したのは?」
「ちょっち色々と整理してえんだ。話を聞いてくれる相手が欲しい」
「あそこでやるのはダメなのか?」
「言われなくても分かってるでしょうが。タネ知ってる人間は少なければ少ないほどいい。特に今は」
そう言って颯人は被っていた帽子を奏に被せた。奏は帽子の鍔を指で押し上げ、背凭れに体重を預けながら話を聞く体勢を取る。
「何処まで考えは纏まった?」
「正直分らんことが多すぎて纏めきれないって感じだな。だが今回の事で一つ確信できたのは、連中は装者に何かをさせようとしてるって事だ」
「何かって?」
「そこまでは。ただ鍵を握ってるのは装者とあの人形どもって事だけは確かだろうな」
これまでの戦いにおいて、オートスコアラー達は極力魔法使いとの戦闘を避ける傾向にあった。止むを得ない場合は迎撃に応じるが、颯人達魔法使いとの戦闘は基本あちら側の魔法使いであるハンスかジェネシスの魔法使いが担当していた。先程の戦闘でも、ガルドがマリアと共にガリィとの戦闘になった際ハンスが飛んできてガルドの行動を妨害していた。
それに颯人がガリィと戦闘になった際も、ガリィは極力逃げに徹しようとしていた。マリアとの戦闘の時の様な攻勢はあまり見せず、ジェネシスの援軍が来るまで回避と防御に専念していたように思える。
「アタシら装者は極力生かして、でも魔法使いは始末したい。純粋に計画の邪魔者を排除したいってのとは違う感じだな」
「そこなんだよ。連中が本気で計画の邪魔者を排除する気なら、初戦でギアを破壊された翼ちゃんやクリスちゃんが見逃されたのがどうにも腑に落ちない。俺に対しては初っ端から殺意全開だったのにだぞ?」
装者に期待出来て、魔法使いに望めない事。それを考えて真っ先に出てきたのはやはり歌の有無であった。魔法使いは錬金術と同じく魔力を用いるが、装者は戦いに際して常に歌を必要としている。
「……歌、か。でもそれなら何で最初翼達はギアを破壊されたんだ?」
「前のギアと今のギアの違いって言えば?」
「…………イグナイト、か」
結論はそこに行きついた。目的が何かは分からないが、キャロル達はイグナイトモジュールを搭載したシンフォギアを必要としているように見える。そう考えるとエルフナインはやはり敵なのかと言う考えが浮上してしまった。
颯人が態々部屋を変えて、奏だけを呼び出したのはそう言う理由だ。こんな話、響やクリス、切歌や調の様な純粋組にはとても聞かせられない。
「あと気になると言えば神社だな」
奏から聞いた話だが、買い出しに向かった先の傍にある神社が何者かにより破壊されていた。それも無数の巨大な氷柱により。魔法か錬金術……ガリィが来ていた事から恐らくは錬金術によるものだろう。
問題なのは、ガリィは何故何の変哲もない神社を破壊したのかという事。
もし颯人達の目を引きたいが為なのだとしたら、もっと派手にやるべきだ。神社の破壊に関しては颯人達も全く気付いていなかった。奏達が買い出しに向かう様な事が無ければ、きっと気付かぬ内に終わっていただろう。
一体何故ガリィは神社を破壊したのか?
何故オートスコアラーは装者を確実に殺そうとはしないのか?
まだまだ疑問は多いが、今は”何故?”が多すぎて答えが見えてこない。まるで相手の駒が見えない将棋かチェスでもやっている気分だ。こちらが適当に動かしている間に、向こうは着々と手を進めているような気がする。
「せめてあの人形の1体でも潰して状況を動かせればなぁ……」
颯人のそんな呟きは、奏以外誰の耳に入る事も無く静かな部屋の中に消えていった。
後書き
という訳で第126話でした。
前半はほぼ原作通り、後半からは颯人と奏だけでの情報整理と言う感じになりました。
颯人は疑うべき時は疑うので、エルフナインに対しても必要とあれば疑惑の目を向けています。ただそれを響達純粋組の前で披露するのは控えたいので、彼が一番信頼している奏だけに自身の考えを明かしています。因みに紫のアネモネの花ことばは、「あなたを信じて待つ」です。
次回は漸くマリアの覚醒と対ガリィ戦の決着になるかな?そうなれるように頑張ります。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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