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フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです

作者:ブラバ
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間章 過去編
  第55話 妖精の翼

カムラの里。人口は竜人族を含めておよそ150人。
そこは、豊かな水量を湛える大河のほとりにあり、門の外には青々とした木々の並ぶ森が広がっている。
カムラの里で産出される『たたら製鉄』という名の鉄は、異国の商人も舌を巻くほどの仕上がりであり、その良質な鋼と風光明媚な景観で外部に知られている。
他にも、うさ団子、米、炭、焼き栗、傘、お面、顔料などの名産がある。
アレン・イーグルは、生誕からこのカムラの里で暮らしており、『ウツシ』という師匠の元で、幼少期からハンターとしての鍛錬を積んできた。
そのかいもあってか、アレンは若干12歳という若さでハンターになり、その二年後の14歳で上位ハンターに、17歳の時にはマスターハンターへと昇格を果たす。
カムラの里以外にも多くの村落が存在し、その村々にそれぞれハンターが存在している。そんなハンターたちは、それぞれの村落にある『集会所』から仕事を請け負い、日々狩猟に当たっている。
そんな各集会所、引いてはハンターをまとめる組織が、『ハンターズギルド』と呼ばれる組織であり、それぞれの地域に複数存在している。
このカムラの里の集会所は、ユクモ村にある集会所と共に、『ロックラック』というギルドの支部に当たる。
そんなロックラックであるが、同様規模のハンターズギルドがいくつか存在しており、それら全てを統括しているのが『ギルド総本部』と呼ばれる場所である。
しかし、このギルド総本部は、特に各ハンターズギルドに対して大きな力を持っていることはなく、各ハンターズギルドとの懸け橋程度を行っている機関であり、ハンターズギルドを支配している、などということはない。
だが、そんなギルド総本部が有する、唯一の重要な事柄がある。それは、マスターハンターの承認と把握、そして序列の決定である。
カムラの里が存在する世界の総人口数はおよそ100万人。ドラゴンやモンスターが生態系のトップに君臨していることもあり、人類の繁殖はこの程度に留まっている。
また、その中でも、ハンターとして登録が為されているのはおよそ1万人。その中の大半が下位ハンターが占めており、人数はおよそ9000人。上位ハンターが1000人ほどとなっている。つまり、マスターハンターと呼ばれるハンターは指で数えるほどしか存在しない。人数にして十数名程度。
その十数名程度のハンターである『マスターハンター』は、各里に名前が轟くほどの勇名を誇っており、その強さも圧倒的である。その証拠に、マスターハンターの名を冠するものは、少なくとも一つの村落において『英雄』と呼称されていることが多く、アレンに関しても、カムラの里を襲う『百竜夜行』を解決せしめたと同時に、ギルド総本部からマスターハンターへの昇格を果たした。
さて、そんなマスターハンターであるが、十数名しかいないなかでも、実績と強さに応じて『序列』というモノが存在する。アレンがマスターハンターとなった際にマスターハンターの名を有する者は合計で8人存在していた。そんな8人の中で、アレンは様々な観点から『序列3位』の称号を得て、その後もカムラの里を起点にモンスターハンターとして活動をしていた。
…さて、そんなアレンは、17歳の時に百竜夜行を終息へと持ち込み、平穏なる日々を送っていた。そんな風にして1年を過ごし、18歳となった春…。

この過去の記憶は、アレンがカムラの里で過ごす、とある一日の物語である。

輝かしいほどの朝日が昇り詰める晴天の日。
アレンは、自宅のベットで寝転げながら、浅い睡眠に身を預けていた。そんな矢先、共にモンスターの狩猟を行っているガルグが、泣き声をあげながらアレンの身体を揺さぶる。
「んっ…んー…」
ガルグが激しく身体を揺らしてきたことにより、アレンはパチッと目を覚ますことになる。
「ああ…どうしたんだよ…おい、何だよ…ったく…」
アレンが目を覚ましたのを確認したガルグは、アレンの身体に顔を擦り付けて甘えてくる。そんなガルグを見て、アレンは身体を起こして、両手でもって撫でまわして答える。
「ははっ…ったく、しょうがないやつだなー…」
アレンはそんな風にしてガルグを撫でまわしていたが、朝食の準備のために火元を見ていたアイルーが何かに驚いた様子を見せることに気付く。
と同時に、そんなアイルーに対し、口元に指を添え、『シィー…』と小さく呟く女性がいた。アイルーより少し遅れ、その存在に気付いたアレンは、それを認知すると、ため息をついて呆れた様相を見せる。
「あっ…」「あぁ…」
女性は2人でアレンの自宅へ入ってきた様子で、アレンに気付かれたことを悟り、見合わせるようにして視線を交差させる。
「あらあら、気付かれてしまったわ、ミノト」
「無念です…ヒノエ姉さま」
アレンはヒノエとミノトの言葉を聞きながら、ベッドから身体を持ち上げ、ゆっくりと2人の元へと歩み寄る。
「完璧に気配を消していたのに…」
「完璧な忍び足だったのに…」
「「さすがは、カムラの里の英雄!」
「まだまだ、私達は修行不足のようです…」
そう言い終えると、ヒノエとミノトはまたも目線を合わせて嬉しそうに微笑む。そんな2人を見て、アレンは一つため息をつくと、呆れたように口を開いた。
「ヒノエ姉さん、ミノト姉さん…また勝手に入ってきて…」
「勝手に入ってきてはダメですか?いやですわっ!同じ里のよしみ、家族のようなものじゃないですか!」
アレンの些少の怒りにも、ヒノエはのほほんとした様子で口を開く。
「私たちがアレンさんの家に来るなど、毎日のことではありませんか」
「いくら家族みたいなものだとは言っても、俺も男なんですから、少しは気を使ってくださいよ…」
ミノトの続けざまの言い訳に、アレンはまた一つため息をつく。
「あら、何かいかがわしいことでもしていたんですか?♪」
「その…もし差し支えなければ…私たちがお手伝いを…」
ヒノエはアレンをいじるように、ミノトは少し恥ずかしそうに口を開く。
「なーに馬鹿なこと言ってんですか…で、今日は何の用ですか?」
アレンの言葉に、ミノトは少し不貞腐れたようにして見せると、ヒノエが思い出したように口を開く。
「ああ、そうでした。妖精の翼のお2人が、集会所にお見えになっていますよ」
「カリンとコウタか…」
「支度が済みましたら、参りましょう…」
アレンはその言葉を聞き、少し面倒くさそうに頭を掻いて見せると、身支度を整えるため装備を取り出そうする。だが、そんなアレンの姿を見てもその場から離れないヒノエとミノトに、またも怪訝な様相を見せる。
「…あの、着替えるんで、一旦外にでてもらっていいですか?」
「あら、アレンさんの着替えなど、幾たびも見ております故、お気遣いなく♪」
ヒノエは、アレンの身体を見つめるようにして言葉を発する。
「いや、俺が気を使うから出てけって言ってんの!」
「…もしよろしければ、私がお手伝いさせていただきます」
「結構です…」
ミノトの着替えお手伝い発言に、アレンはゴミを見るような目で返して見せる。
「あらあら、辛辣ですわ…アレンさん…」
「辛辣も何も…なら、お2人は着替えの際に俺が目の前にいても気にならないんですか?」
アレンは思いついたように言葉を放つが、それはアレンが思っている者とは別の意味での返答となってしまう。
「んー、気にはなりますが…アレンさんが見たいと仰られるのであれば…」
「…何言ってるんですか…マジで…」
「少し、いえ、大分恥ずかしいですが…アレンさんの頼みとあらば…」
ミノトが胸元の着物を脱ぐ動作をしたことで、アレンは焦ったように身体を動かす。
「ちょ、ほんと何してんの!やめてくださいよ!」
「あらあら、焦っちゃって…可愛らしいですわ♪」
「はい、姉さま」
アレンの焦りを見てか、はなから脱ぐ気がなかったのか、ミノトは胸元から手をどけると、ヒノエと顔を見合わせてふっと小さく笑いかける。そんな2人を見て、アレンは眉間に皺を寄せて声を荒げた。
「いいから出てってください!!」
「あら、少しおいたが過ぎましたね…」
「そのようです、ヒノエ姉さま」
アレンの言葉を聞き、2人はそう言い残し、ゆっくりと退出して見せた。そんな2人の背中を見届け、アレンは大きくため息をつく。
「…はぁ…ったくあの2人は本当に…」
アレンは酷く疲れたように身体を動かすと、お気に入りの装備に身を固めて身支度を整え始めた。

アレンは身支度を整えると、自宅を出て、外へと一歩踏み出す。空は雲一つない晴天であり、春の暖かな陽光が降り注いでいる。
睡眠から幾ばくも時間が経っていなこともあり、アレンはその陽光にまぶしさを覚え、その光を遮るようにして片手を顔の前に添える。そんな風にしていると、アレンの身支度を待っていた2人の女性が声を掛けてきた。
「「さあ、参りますよ♪」」
「ええ」
ヒノエとミノトの催促に、アレンは短く答えて見せる。1年ほど前、百竜夜行が完全に終息したことにより、カムラの里にはいつも以上の活気が戻っていた。
アレンは百竜夜行を退けたとして、里中から信頼され、英雄と呼ばれるまでのハンターとなっていた。
ヒノエとミノトと共に、集会所へ向けて歩いている途中も、茶屋のヨモギや飴屋のコミツに明るく声を掛けられる。アレンはそんな里の住民に軽く挨拶を交わすと、ヒノエとミノトの後を追うようにして集会所へと入っていく。
集会所に入ると、いつも見慣れた景色が広がっており、そこにはアレンを待っていると思しき2人の人物が見て取れた。その2人を見て、最初に言葉を発したのはヒノエであった。
「お待たせいたしました、カリンさん、コウタさん」
ヒノエがそう言葉を発すると、先の2人が振り返るようにして視線を向ける。
1人は女性であり、長い緋色の髪を腰まで流し、キリっともジトっともとれる表情をしていた。もう一人は男性であり、マッシュパーマのような青い髪をしていた。両者ともアレンと近い年の瀬であることが理解できる。
そして、このカリンとコウタという人物は、遠い未来の遠い世界で、アレンが出会うことになるエルザとジェラールという人物に瓜二つの容姿をしている。
「よお、アレン、待ちくたびれたぞ!」
「遅かったじゃない…」
コウタとカリンは、微笑を漏らしながらアレンへと言葉を掛ける。
「わりいわりい、昨日ちょっと遅くなっちまってさ…」
アレンは少し申し訳なさそうに口を開きながら言葉を漏らした。
「確か昨日は、ナルガクルガの討伐に出ておりましたね」
「ええ、少し手間取ってしまいまして…」
ミノトが思い出すようにして口を開くと、アレンはどこか恥ずかしそうにして返答する。
「なんだよ…。腕が鈍ったんじゃないか?情けねえな…」
「あぁ?喧嘩売ってんのか?コウタ!!」
「ああ!やってやろうじゃねえか!!アレン!!」
コウタの発言を発端として、アレンとコウタが頭突きをかましながら睨みあう。そんな雰囲気にヒノエとミノトが少し焦ったように口を開く。
「ア…アレンさん、コウタさん…ッ!」
「おやめください…」
「んん…まーた始まったでゲコね…」
睨みあい、今にも殴り合いそうな2人を宥めようと、ヒノエとミノトがあたふたとして見せる。巨大なカエルのような生き物?に乗っているゴコクは呆れたように口を開く。
そんな、まるで猛獣のような様相を見せているアレンとコウタの頭の上に、何かが降り注いだことで、その様相は収まりを見せることになる。
「「あでっ!!」」
アレンとコウタは、小さく悲鳴をあげると、頭を擦りながらムスッとした表情を浮かべる。しかし、その表情はそう長くは続かなかった。
「うるさい…」
「「…すみません」」
2人の頭に拳を振り下ろしたのは、カリンであった。カリンは2人に、ジトっとした視線を向けながら、威圧して見せる。そんなカリンに対し、アレンとコウタは一切の戦意を見せずに、平謝りして見せる。
「ほほほっ!さすがはユクモ村の英雄にしてマスターハンター序列2位のカレンでゲコな!」
「「助かりました、カリンさん」」
そんな様相を見守っていたゴコクが笑い飛ばすようにして口を開くと、ヒノエとミノトもそれに乗っかる形で礼を述べた。
「「ちっ…暴力女が…」」「…あ?」「「いえ、なんでもありません…」」
アレンとコウタは、息ぴったりにカリンへの悪口を言ってのけるが、カリンの短く、それでいて威圧感たっぷりの声に、またも謝罪の意を述べることになる。
「…全く、全然話が進まないでしょ…」
「わりい…」
カリンの呆れた様子の言葉に、コウタは申し訳なさそうに口を開く。それを聞き、アレンは疑問も含め、2人に言葉を投げかけた。
「あー、そういえば今日はなんでわざわざカムラまで来たんだ?コウタもベルナから随分と遠いだろ、ここまで…」
「…そうね、簡単に言うと『妖精の翼』宛にギルド総本部から直接依頼がきたのよ、そうでしょ?ミノト」
アレンの質問に、カリンは言葉に抑揚をつけずに返答して見せる。
「はい、カリンさん。今回の依頼は、何やら不可解なモノであるらしく、最強のギルドチームである『妖精の翼』のお三方へ依頼するのが最も適切であるとのご判断だそうです」
「チーム指名の依頼ってのは聞いてたが…、よくよく考えれば『マスターハンター』を3人も出張らせるってことは、相当やべえ依頼なんじゃねえの?」
ミノトの言葉に、コウタは顎に手を添え、神妙な面持ちを見せる。
「…なんでも、依頼にある討伐対象は、真っ白なナルガクルガとジンオウガだそうよ…」
カリンの言葉に、アレンとコウタは大きく目を見開いて見せる。依頼の内容を事前に知っていたヒノエ、ミノト、ゴコクは特に驚いた様子を見せてはいなかったが、それでも怪訝な表情を浮かべているのは言うまでもないだろう。
「真っ白?緑と黒じゃなくて?」
「ええ、真っ白だそうよ」
「希少種…変異個体か…?どちらにしろ、未確認の個体であることは確かだな…」
アレンの問いかけにカリンは頷くようにして答える。真っ白な個体と聞き、コウタは憶測を広げるが、楽観できないという状況を理解し、考え込むようなそぶりを見せる。
「なるほど…それで、俺たちに直接依頼が来たってわけか…」
「そうゆうことね」
「でも、ちょっと楽しみだな…真っ白なナルガとジンオウガ…!」
「コウタさん…油断は禁物ですよ」
「どうか、準備等抜かりなく…」
コウタのヘラヘラとした様子に、ヒノエとミノトが釘を刺すように口を開く。
「わかってますよ…ばっちりして見せますって!」
「…そういってお前、前回の依頼、回復薬全般忘れてっただろうが…」
コウタが親指を立ててニコッと笑っているのを見て、アレンは呆れたように言葉を漏らす。
「もう忘れねえって!!…そんなことより、早く準備しようぜ!!」
「…それもそうだな」
コウタの発言に、最もだと感じたカリンは短く答えながら依頼に向けて準備を進める。そんな折、カリンはアレンの顔をじっと眺めることになる。
「…な、なんだよ…」
「…昨日の依頼の疲れは癒えているのか?」
カリンに見つめられたことで、アレンは些少の戸惑いを見せるが、その後に発せられた言葉に、思わず目を見開いて笑いかける。
「なんだ?心配してくれるのか?」
「…当たり前でしょ」
アレンは、思っていた回答とは違う言葉に、思わず顔を赤らめる。だが、それが誤りであったことにすぐに気づくことになる。
「…あんたが死んだら、私の評判が下がる」
「っ!…て、てめぇ…!俺の純粋な心を返せ!!」
「…理由はともあれ、心配してんだからいいじゃない」
カリンの返答に、アレンはプンスカと起こりながら、装備にアイテム、食事など、依頼に必要な準備を進めるに至った。
そんな3人の様子を見て、ヒノエはふふっと笑いかける。
「ほんと、仲がいいですわね♪」
「そうですね、姉さま。あのお三方は、間違いなく最強のチームかと…」
ヒノエの嬉しそうな言葉に、ミノトも乗っかる形で言葉を放つ。
「…ですが…」
「ん?どうしたの?ミノト?」
ミノトの含みある言葉に、ヒノエは小さく首を傾げて見せる。
「…私はカリンさんが少し、羨ましく感じます」
「…あら、それは私も同じですわ…。ミノト」
ヒノエとミノトは、些少の嫉妬心を抱きながら、3人に聞こえないように小さな声で呟いて見せた。 
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