戦姫絶唱シンフォギアGX~騎士と学士と伴装者~
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第22節「騎士たちの想い」
前書き
ハッピーハロウィーン!!
皆さんトリックオアトリート!お菓子くれたら甘いの書くぞ!
先日、ノートPC買いました。
これでスマホよりも執筆速度が上がるぜヤッホイ!
でもソシャゲやPS4にかまけて結局変わらない可能性もあるぜドンマイ!
そんなこんなで第22節。オートスコアラー対決です。お楽しみください。
「じゃりんこども~。あたしは強いゾ?」
「余所見してんじゃ……ねぇッ!」
「ありゃ?」
地面に立てたカーボンロッドの上で片脚立ちしていたミカの頭上から、ダインが身の丈を優に超す氷の大剣が振り下ろす。
否、それは剣と言うにはあまりにも大きすぎる。大きく、分厚く、重く、そして大雑把なそれは……もはや氷塊と表現した方がいいだろう。
しかし、あまりにも大雑把なその一撃は、ミカに直撃することなく躱された。
「そんな攻撃、当たらなけりゃ隙だらけだゾ」
「当たらなけりゃ、なぁ?」
直後、氷塊に亀裂が走り、粉々に弾け飛ぶ。
「ゾッ!?」
粉砕された氷塊は、成人男性の頭程もある氷のつぶてとなり、勢いよくミカの方へと向かってきたのだ。
軌道を読み、カーボンロッドで弾き返そうとするミカ。
だが、その瞬間だった。
「隙だらけだ……ぜッ!!」
背後からダインの声。
思わず振り返るミカ。
直後、その鼻っ面にサッカーボールほどの大きさの氷塊が、勢いよく命中した。
「フガ……ッ!?」
大きく仰け反り、バランスを崩すミカ。
頭から地面へと落下し、バウンドしながら、人間であれば死にかねない勢いで転がっていく。両手に握っていたカーボンロッドも、落ちた際の衝撃で手を離れた。
宙空で氷塊を蹴り飛ばしたダインは素早く着地すると、再び両手に旋棍型の氷剣を握り、ミカの方へと勢いよく摺動する。
「お、か、え、し、だ、ゾッ!」
だが、ミカもそれで終わってはいない。
首をグルンと回してダインを見ると、掌からカーボンロッドを射出し、牽制しようとする。
しかし、ダインはそれすら見越していたかのように、まるでスケート選手のように流麗な動きでそれらを躱し、一切減速することなく接近した。
「遊びは終わりだ、ガキンチョ」
そしてミカの真下へ滑り込んだダインは、足元にスロープを形成し、ミカの腹部に容赦なくサマーソルトキックを叩き込む。
「うぅッ……まだ終わりじゃないゾ!」
「いいや、終わりだッ!」
再び宙を舞うミカの躯体。そのまま地面を踏み付け跳躍したダインは、2本の氷剣を空へと向け、落下してきたミカを刺し貫いた。
〈アイスシュピース〉
刺された箇所からミカの身体が氷結していく。
5秒と立たないうちに全身が凍りつき、ミカは再び落下していった。
「ハァ……これだからガキの相手は疲れるぜ」
氷塊に封印されたミカの姿を確認し、両手の氷剣を消滅させる。
ジャケットの霜を払い落としながら、ダインは他の場所で戦っている兄弟達を想った。
「あいつらも、そろそろ片がつく頃か」
ff
ゲノモスとレイアの戦闘は互角であった。
「オラァ!」
「フッ……!」
ゲノモスの両腕に装着された、ロードローラーほどもある巨大な拳。
それを素早く避けながら、レイアはコインを射出する。
だが、銃弾以上の威力を誇るレイアのコインも、この巨大な岩腕には豆鉄砲にも等しい。
飛ばしたコインは一枚残らず全て弾かれていた。
「なるほど、大振りだが派手な威力。シャトーでの戦いでは、全力を出しきれていなかったか」
「俺様のロックアームズは、周囲の鉱物を素材に形成してるからな。シャトーを壊さず戦うのには向いてねぇんだわ」
「つまり、今のお前は全力か?」
「いいや、だが万全だ。遠慮なく性能を発揮できるからなァ!!」
「フッ……それは面白いッ!」
岩石の豪腕を力任せに振るうゲノモスと、派手でありながらも効率的な動きでそれを掻い潜り、コインによる連射で本体を狙うレイア。
それぞれ派手さに拘りを持つ者同士の、力と技のぶつかり合いが続く。
だが、その中でレイアの中に変化が訪れていた。
(……なんだ、この高揚感は)
ゲノモスと戦う中で、レイアはふとそんな事を思う。
(楽しい。今、奴と戦っているこの時間が、とても楽しい……!)
右へ、左へ。腕を振り下ろした隙を狙ってコインを飛ばす。
それが防がれ、横薙ぎに振るわれた豪腕を避ければ、今度は頭上からコインの雨を降らせた。
(互いの性能を比べ合う、という経験はガリィ達とはした事がなかったな。それが理由か?)
ヘッドショットを狙ったコインは、ハニカム状の魔法陣に遮られた。
結界での防御も忘れない、隙を生じぬ防御。
人体ではおおよそ不可能な挙動から繰り出される、人形ならではの戦法の数々。
製造されて初めて体験する同じ自動人形同士の戦いに、レイアの高揚感は更に高まっていく。
(ガリィやファラ、ミカとの違いは何だ……?)
次々と迫る攻撃を捌きながら、レイアは考えた。
(奴はマスターではなく、マスターの師匠によって製造されたオートスコアラー。顔を合わせたのも結社に身を置いていた頃から、シャトーでの戦いきりのはず……)
他の3人と、目の前にいる派手好きな同類との差異を思考して……ふと、いつかの会話を思い出す。
(そういえば、いつだったか“妹”に名前を付けないか、などと提案してきた事もあったな……)
結局決まらず仕舞いで、その後はこうして対立してしまっているわけなのだが……。
「どうした、考え事か?」
「むッ!?」
レイアが一瞬意識を向けた瞬間に、ゲノモスの拳が眼前に迫っていた。
咄嵯に身を捩って直撃は免れたが、体勢を大きく崩してしまう。
「くぅ……!」
「余所見してるたぁ、随分余裕じゃねぇの!」
畳み掛けるように間を詰めるゲノモス。
次の一撃は確実にレイアを直撃するだろう。
勝負あったか……と思われたその時だった。
「……お前の方こそ、大した自信だな」
「当然よ、俺様は兄弟の中で一番ド派手な男なんだからなァ!」
「フッ……本当にお前は面白い。だが、それもここまでだ」
レイアは今にも自分を叩き潰さんと迫る左腕に、一枚のコインを射出した。
コインは剛腕に突き刺さるも、それだけだ。
それから僅か、コンマ8秒後……
「ッ!?」
ピシッ、と小さな音が響いた。
レイアの鼻先で、巨岩掌はピタリと止まる。
やがて、音はどんどん大きくなり、ロックアームズは罅割れていった。
「俺様のロックアームズが……!」
「私がただ、いたずらにコインをばら蒔いていただけだと思っていたようだな」
「何度も同じ場所ばっか狙われりゃ、いくら頑丈だろうがぶっ壊れる。派手に陽動して、その実もっと派手な事企んでやがったとはな。やるじゃねぇか……」
残る右腕も破壊せんと、レイアはコインを構える。
狙いを定めようと視線を向けて──彼女は思わず目を剥いた。
「なら、俺様はもっとド派手な花火を打ち上げてやらなきゃなぁッ!!」
いつの間にか、右腕は剛腕から大砲に形を変えていたのだ。
「それは……ッ!?」
「お前のコイン、改鋳させてもらったぜェェェッ!!」
レイアを突き飛ばし、後方へと下がるゲノモス。
金貨を鋳溶して作り出された弾丸を装填し、砲口は灼熱を帯びて輝く。
〈メタルフォイア〉
避けることは不可能だと悟ったレイアは、咄嗟に防御の姿勢を取る。
一瞬の後、戦場にはとてつもない轟音が鳴り響いた。
ff
ファラとシルヴァの戦闘は拮抗していた。
舞うような足運びから繰り出される剣戟はとても優雅でありながら、打ち合う度に空気を震わせる。
2人の戦う姿はまるでデュエットのようで、この場に傍観者がいたならばきっと見入ってしまったであろう。
「見事な剣技ですわね。得物がステッキなのがもったいないですわ」
「貴女に刃物を向けるなど、滅相もございません」
「まあ。それはどちらの意味で?」
「お好きな方に受け取ってください」
微笑みを向けながら小粋な冗句を挟む。
それでいながら2人の目は真剣そのものだ。
ファラは、錬金術で発生させた竜巻と共に大剣を振るう。
卓越した剣技と共に放たれる疾風は大気を裂き、真空波となって何度もシルヴァを襲った。
対するシルヴァもまた、裂風と共にトネリコの杖を振るう。
何の変哲もない杖のようでありながら、しかしてその切っ先は風に乗って飛んできた木の葉を真っ二つに切り裂く鋭さである。
「さすがはお師匠様の手で製造されたオートスコアラー。私たち最新型を相手取ってなお、引けを取らないその性能……お見事ですわ」
「お褒めいただき光栄です」
「ですが……ッ!」
ファラは剣を握る手に力を込め、一気に間合いを詰める。
「これはどうでしょう?」
大剣を振り下ろすと同時に、ファラはいくつもの竜巻を放つ。
竜巻はシルヴァの周囲を取り囲み、彼の視界と足場を同時に奪った。
「これは……」
「フフフ……、これで終わりですわ」
行動を制限され、視界を奪われることで生じた一瞬の隙。
その一瞬の隙を突いて、ファラはシルヴァの死角へと回り込む。
踏み込みと同時に、足裏へと発生させた小さな竜巻で加速。
更には体をひねり、大剣に回転の力を乗せる。
竜巻の合間を抜け、振り下ろされる大剣。
威力、素早さ、タイミング、全てが完璧に揃った最高の一撃。
〈トルネードバイレ〉
――並大抵の相手であれば、この一撃でチェックメイトだっただろう。
「――フッ!!」
シルヴァは素早く反応すると、ステッキを回転させて逆袈裟に振り上げる。
ファラが放った最高の一撃は、回転によって威力を増したステッキの切っ先に受け止められ、その勢いのままに狙いを逸らされた。
「ぐっ!?」
狙いを外し、たたらを踏むファラ。
シルヴァはその隙に彼女の懐に入り、ステッキの柄の部分で腹部を突いた。
「嵐よ、吠えろ」
〈ストームブリッツ〉
「ああああああッ!?」
ステッキの柄から発された竜巻と雷電に呑まれ、後方に吹き飛ぶファラ。
大剣が手を離れ、彼女は地面へと落下していく。
やがて地面に倒れ伏した彼女を見下ろしながら、シルヴァは呟くように言った。
「今のはとてもいい技でした。防御が間に合わなければ、私の頭部は繋がっていなかったでしょう」
「まさか、見切られるとは思いませんでしたわ……。いったいどうやったんですの……?」
「視覚情報を絶ち、動きを封じられれば、次に放たれる渾身の一撃は必殺となりましょう。それを回避するには、視覚に頼らず、最低限の動きでカウンターするしかありません」
「最低限の動きでのカウンターは理解できますが、視覚以外での探知ですの?」
全身から紫電を迸らせながら、ファラは不思議そうに首を傾げる。
「それは、熱源や電磁波などといった精密探知のことでして……?」
「気配、とでも申しましょうか。人間風に言うのであれば……愛でしょうか?」
「なんですの、それ……おかしなひと」
「他に言い表しようがありませんでしたので」
心底可笑しそうに微笑う彼女を見つめ、シルヴァも口元に笑みを浮かべた。
既にファラは動けない状態だ。トドメを刺すのに、これ以上ない機会なのは見て取れる。
「私の敗北、ですわね。悔しいですわ、悪あがきの一つもさせてくれないなんて」
「ええ。名残惜しいですが、これでお別れです」
そう言ってシルヴァは杖を握る。
切っ先は彼女の額へ。狙いは正確に。なるべく一瞬で、確実に停止させてあげられるように。
「さようなら、ファラさん」
別れの言葉の直後、砕ける音が鳴り響いた。
ff
「くッ……!」
崩壊した壁の奥から、奏はようやく抜け出てきた。
槍を杖にし、体を支える。もう立っているのがやっとだ。
既にLiNKERの効果も限界が近い。全身が悲鳴を上げている。
それでも一歩踏み出そうとして……足がもつれた。
……と、その肩を二つの小さな背中が飛び込んだ。
何が起きたか分からず、奏は瞼を上げて左右を見回す。
「奏さん!」
「大丈夫ですか……?」
「調、切歌……」
切歌と調が、奏の身体を支えていた。
思いがけない手助けに、奏は驚く。
「今の内に離れるのデス!」
「LiNKER、もう限界時間ですよね?」
「あたしは……まだ……」
「無理しないでください!」
調の声に、思わず奏は目を見開く。
「あなただけで戦っているんじゃないんです……。今は、みんながいます」
「そうデス!奏さんはアタシ達の大事な先輩なのデス!だから、こういう時くらいは頼ってほしいのデス!」
「……ッ!お前ら……」
自分よりも年下の後輩達から向けられた、予想だにしなかった言葉。
奏はそれ以上、何も言わなかった。
「移動します。歩けますか?」
「なんとか……」
「本部に戻るデスよ!急ぐデス!」
調と切歌の肩を借り、奏は引きずられるように移動し始める。
先ほどまで戦っていたミカの方を見ると、彼女はダインによって氷塊の中へと閉じ込められた後であった。
ダインはというと、こちらを一瞥した後、特に目で追うこともなく視線を外す。
これで終わったのか。奏はどこか胸につっかえるような感覚を感じながらも脱力する。
――その刹那だった。
「ッ!?」
不吉な音を聞き取り、ダインは素早く飛び退く。
「おいお前らッ!」
「え……ッ!?」
「な、何事デスッ!?」
次の瞬間、ミカを封じていた氷塊が音を立てて粉々に砕け散った。
「な……にぃッ!?」
驚愕するダインの目の前で、ミカの全身を覆う氷の膜が徐々に消えていく。
高熱と共に立ち上る蒸気の中。そこには着衣のみが燃え尽き、髪を下ろしたミカの姿があった。
「バーニングハート・メカニクス。ミカのとっておきだゾ!」
「べらぼうな火力の決戦機能かッ!俺の氷を冷却に使いやがったな、クソッ!」
歯ぎしりしながら再び氷剣を生成するダイン。
だがそれよりも一瞬早く、ミカの放ったカーボンロッドが彼の腹部を突いた。
「ごは……ッ!」
後方に吹っ飛ばされるダイン。ミカは素早く接近すると、今度は彼の横っ腹にロッドを叩き付け、薙ぎ払う。
「アハハハハハ!楽しいゾッ!オマエ、とっても強かったゾッ!でも、ミカの方がもっとも~っと強いんだゾッ!!」
「こンの……クソガキャッ……!」
体勢を立て直す暇も与えず、続けざまに何度もカーボンロッドが叩き込まれる。
ダインも魔方陣を展開して防御するが、断続的に叩き込まれる打撃の連打に耐えきれず、やがて魔方陣は砕け散った。
「これで……ッ、バイナラ~!」
「クソッ!やっぱこいつ、サンディに任すべきだった……がッ!?」
やがて叩き込まれたミカ会心の一撃は、ダインを埠頭の向こうまで吹き飛ばす。
ダインはホームランボールのように飛ばされ、水飛沫を上げながら海中へと沈んでいった。
「うぅ……そろそろお腹が空いてきたゾ……」
ダインが沈んでいくのを確認したミカは、腹に手を当ててポソリと呟く。
それもそのはず。氷塊から脱出する際、想い出を大量に消費したのだ。
想い出の残存量は、そこまで多くはない。
「でも、あと一回くらいなら戦えるゾ~?」
「「ッ!!」」
その上で、ミカはキャロルからの命令を遂行すべく、装者たちへと狙いを定める。
調と切歌は顔を見合わせると、やがて奏に目を向けた。
「奏さん、すみません。少しだけ待っていてくれませんか?」
「お前ら……まさか……!?」
「アイツをなんとかしなきゃ、先に進めないデス!」
「よせ……!お前らも限界近いんだろ!?これ以上……無茶すんな!」
全身を走り抜ける苦痛を噛み殺しながら、奏は叫ぶ。
調と切歌の適合係数は、奏よりは上だ。しかし、それでも彼女らは第二種適合者。LiNKERを使用しなければバックファイアを免れない程度には低い。
その上、今使っているLiNKERは本来、奏専用に調整された旧式モデルだ。
ウェル博士が改良した最新モデルと違い薬害が強く、なにより他人用に調整された薬品を使っているのだから危険度も上がっている。
これ以上の戦闘がどれほど身体に負担をかけるのかは、2人が一番理解しているのだ。
だが……。
「分かっています。でも……」
「無茶でこじ開けなきゃいけない道理が、そこにあるのデスッ!」
「……ッ!」
2人の決意が込められた眼差しを前に、奏は何も言えなかった。
この場において、彼女達の方が正論だったのもある。
今、彼女らの代わりに、先輩として身体を張れない自分自身への悔しさもある。
だが、何より大きかったのは……“あの日”の自分に、2人を重ねてしまったからだった。
(ちくしょう……止められるわけ、ないだろ……ッ)
――奏を壁際にもたれかけさせ、調と切歌はミカを睨みつける。
「じゃりんこども~。もう一度言うけど、あたしは強いゾ?」
「子供だからとバカにして……ッ!」
「目にもの見せてやるデスッ!」
そう言って2人は、追加のLiNKERを取り出した。
後書き
オートスコアラー同士の戦いって、思った以上に描写が大変ですね。
痛覚ないし、ノックバックも一定以上のダメージ与えないと発生しないので、人間とは全然勝手が違う。
その上で終末の四騎士の格を落とさず、さりとて四天の騎士の強さもここで描き切っとかないといけないんで、思った以上に難航しました。
感想いただけると嬉しいです!次回もお楽しみに!
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