自身の像
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第一章
自身の像
アウグストゥス、その尊称に彼は満足していた。
オクタヴィアヌスはローマのプリンキケプスそしてインペラトールとなってだった。
元老院からその尊称を贈られた、彼はローマの統治者としてその名を得たことに満足していた。そうしてだった。
彼は廷臣達にこう命じた。
「統治には権威も必要だ」
「はい、それを掲げて治めることも重要です」
「国をまとめる為には」
「そして今オクタヴィアヌス様はそれを得られました」
「アウグストゥスとしてのそれを」
「そうだ、だからだ」
それでとだ、オクタヴィアヌスは話した。
「その権威をローマの全てに行き渡らせる為にだ」
「その為にですか」
「まさにその為にですか」
「私の像を造り」
そうしてというのだ。
「私の権威をローマの隅から隅に行き渡らせてな」
「そうしてですか」
「ローマを治める手段の一つにされますか」
「そうお考えですか」
「私は権威になった、なら私の像もだ」
これもまたというのだ。
「そうなる、その権威をローマ中に行き渡らせ」
「ローマを治め」
「この国を平和にし栄えさせる」
「そうされるのですね」
「そうだ、もう内乱は起こさせない」
ローマを長きに渡らせて乱したそれはというのだ。
「長く平和にし栄えさせる」
「まさにその為に」
「ここはですね」
「オクタヴィアヌス様の像をローマ中に立てる」
「そうされますね」
「そうする」
やや面長で穏やかな感じの整った顔で語った、そうしてだった。
彼は自分の像を造らせそれをローマ中に置いた、ガリアやエジプトといったローマの領土となった土地にもそうしてであった。
アウグストゥスの権威を示してローマを治めていった、彼の統治は長く続いた。その中で当然彼も老いていったが。
彼の像は彼がアウグストゥスになって暫くのものであった、年齢にして三十代半ばの頃である。そのことについて。
ローマのある者は首を傾げさせて言った。
「おかしくないか?」
「どうしたんだ?」
「いや、オクタヴィアヌス様の像だよ」
友人に彼のそれを見ながら話した。
「あの方今お幾つだ」
「もう六十代だな」
「長生きされてるな」
当時としてはだ。
「お身体は弱いそうだが」
「食も細くてな」
「しかし健康に気をつけておられてな」
「まだお元気だな」
「ああ、しかしな」
それでもというのだ。
「あの方ももうな」
「六十を過ぎられているな」
「けれど像のオクタヴィアヌス様はな」
像をまた観て話した。
「お若いな」
「この像は建てられたばかりだがな」
「何で像のオクタヴィアヌス様はいつもお若いんだ」
「そのことが不思議か」
「ああ、どうしてなんだ」
首を傾げさせて言うのだった。
こうしたことはローマの領土の中で時折言われた、そして宮廷にも届いていたがこのことについてだ。
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