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フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです

作者:ブラバ
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第10章 アルバレス帝国編
  第46話 真相

カラトール島にて、スプリガン12の一人、ブランディッシュとその部下であるマリンと交戦をしていたエルザ達の元に、第1十刃でスタークが参戦を果たす。そんなスタークはエルザとブランディッシュとの間に割り込むようにして佇み、ブランディッシュと互いに睨む合う形で立ち尽くしていた。暫くしてブランディッシュが諦めたようにため息をつく。
「…マリン、撤退よ…」
「ブランディッシュさまー…」
ブランディッシュは怪訝な表情を浮かべながら、そう呟いた。
「…ウルキオラ様をも超えるような相手…私たちじゃ太刀打ちできない」
「賢い姉ちゃんで助かるぜ…」
スタークは小さく呟くと、ブランディッシュはマリンの空間魔法によってその場から姿を消した。
スタークはそれを見届けると、エルザへと向き直る。
「とりあえずは、無事でよかったぜ…」
「…すまない、スターク…」
「あー、気にすんな…たまたまだからよ」
スタークはエルザの言葉に、頭を掻きながら口を開いた。
「そんなことより、お前ら、マカロフを救いに来てんだろ?」
スタークの言葉に、エルザ達は目を見開いた。自分たちの行動と目的を見透かされていたことに、酷く驚いたのだ。
「なら、早くした方がいい…」
「どういうこと?」
リリネットが続けざまに口を開くと、ウェンディが首を傾げて声を発する。
「…アルバレスのスプリガン、その正体は黒魔導士ゼレフだ…」
スタークの言葉に、エルザ達は大きく目を見開く。
「つまり、アルバレスにはウルキオラやバルファルクもいる…あんたらのギルドのマスター、今すぐに救い出さないと…あっちゅうまに殺されるわよ…」

エルザ達は、スタークとリリネットに窮地を救われたのち、アルバレス帝国についての驚愕の事実を聞かされ、すぐさまアルバレス帝国の首都に向けて出発し、その近くの森にてメストの瞬間移動の魔法を用いて、ゼレフに殺されそうになっていたマカロフをすんでのところで救い出すことに成功する。
スタークとリリネットは、アレンの無事をエルザ達に伝えるのと同時に、今はどこにいるのか認知していない旨を版下。そして、アレンやフェアリーテイルの仲間だと公言はしたものの、共に行動することはなく、マカロフ救出後は別行動となった。エルザ達は、マカロフ救出、並びにスタークとリリネットと別れた後、急ぎイシュガル、マグノリアへと帰還を果たす。

エルザ達は、救出したマカロフと共に、魔道四輪を使ってアルバレスの首都から遠ざかるように逃亡を開始する。しかし、後を追ってきたスプリガン12が一人、アジィールによって邪魔立てされてしまう。だが、フェアリーテイル解散後、青い天馬に所属していたラクサスと雷神衆の駆り出しに成功したガジル達、それにアレンを捜索していたウル達が乗った魔導飛空艇クリスティーネが駆けつけたことで、何とかすんでのところで難を逃れた。
それでもクリスティーネへと砂の魔法を用いて攻撃を仕掛けてくるアジィールに、ラクサスはとんでもない規模の落雷を浴びせる。そうして完全にアジィールの追跡を逃れたマカロフとエルザ達は、再会を喜び合っていた。
「それで、アレンは探し出せたのか?」
「痕跡を辿っては見たのだが…ダメだった…」
「…そうか…」
エルザは、ウル達がアレンの捜索をしていたことを聞き、その結果を聞いたが、それが失敗していたことに、些少の落胆を見せる。そんな時だった。
「おい…まさか…あいつは…」
グレイが遥か遠方から飛来する赤い火の玉のようなものを見つける。それは信じられないような速度でこのクリスティーネに近づいてくる。その様子を見て、マカロフが苦悶の表情を浮かべる。
「…そうか、皇帝がゼレフじゃったということは…やつもアルバレスの一員ということか…」
マカロフの言葉と共に、船に乗る皆がその赤き火の玉のようなものを見て、その正体を認識する。
「嘘だろ…」
「まさか…」
「くそが…」
エルフマン、ナツ、ラクサスが息を漏らすようにして声を発する。
「バルファルクッ!!!」
エルザがその迫りくる火の球のようなものの名を口にするのと同時に、バルファルクは大きく槍翼を広げ、クリスティーナの元へと飛来する。
「久しいな、フェアリーテイルの魔導士共…」
バルファルクは、笑いかけるようにして言葉を掛ける。バルファルクが眼前へと現れたことで、皆は驚愕と畏怖を抱いたような表情を見せる。
「アジィールから逃げ切ったようだが…我からは逃げられんぞ…」
「くそっ…!」
「やるしかねえのか…」
バルファルクの言葉に、フリードとジェラールが魔力を込めながら睨みつける。そして、バルファルクがクリスティーナに攻撃する直前、船に、何かが衝撃するような音が響く。その音を聞き、バルファルク含め皆がその場所へと視線を移す。クリスティーナの甲板の上。エルザ達とバルファルクが対峙する丁度中腹の真横に飛来したそれは、フェアリーテイルの者からすれば希望であり、バルファルクからすれば目的の人物であった。
その人物は、一本の日本刀を右手に握り、バルファルクを睨むようにして仁王立ちしていた。
「よう…久しいな…バルファルク…」
「…貴様…」
その男は、低く唸るようにして言葉を発した。そして、その男を視界に捉えたフェアリーテイルのメンバーに、驚きと喜びに似た表情が浮かぶ。そんな感情を代表するかのように、エルザが小さく呟く…。
「ア…レン…」
エルザが小さく呟くと、先ほどまでバルファルクを睨みつけていたアレンは、ゆっくりと視界をエルザへと向ける。そして、小さく笑いかけた。
「久しぶりだな…エルザ…みんな…」
アレンはそう呟き、またもバルファルクへと視線を向ける。
「場所を移すぜ…バルファルク…俺はここでは戦いたくねえ…」
アレンの言葉に、エルザが更に目を見開いて口を開く。
「ま、まて、アレン!まさか…一人で戦うつもりか!!」
エルザの叫びに肯定の意を示すようにして、皆も驚いた表情をアレンへと向ける。
「ああ…お前らは先にマグノリアに戻ってろ…心配すんな…後から追いつく」
アレンのシンガリを務めるかのような発言に、皆は狼狽した様子を見せる。
「よせっ!アレン!!お前は今…片腕を失ってんだぞっ!!」
ナツの悲痛の叫びに、アレンが片腕を失っているという情報を得ていなかった者が表額の表情を浮かべる。そして、マントで見え隠れするアレンの左腕へと視線を移す。
驚く。
ナツの言う通り、アレンの左腕は肘の少し上から先が見て取れない。それを認識し、更なる驚きを見せた先の者であったが、それはバルファルクの言葉によって遮られる。
「ここでは戦いたくないか…案ずるな…この船が、お前の仲間が死ぬまでもなく、お前は…ッ!」
バルファルクがそう言葉を発したが、それはアレンが圧倒的なスピードと力によって遮ることとなる。
アレンはバルファルクの頭部に瞬間移動したかと思うと、右腕に携えた日本刀をもってバルファルクをクリスティーナから引きはがす。そして、アレンはバルファルクを押し流すようにして、空を飛翔するかのように飛び立っていく。
「「「「「「「「「「アレンッ!!」」」」」」」」」」
一瞬にしてバルファルクとアレンが遠ざかる様を見て、皆は驚きで声を張り上げる。だが、頭の中に流れ込んでくる声に、更に驚きの表情を見せる。
『さっきも言ったろ…後から追いつく』
「こ、これは…」
「アレンの…声…」
「…ッ!首都クロッカスの時と同じ…」
その声に、エルザ、ウルティア、カグラが狼狽した様子を見せる。
『大丈夫だ…絶対に追いつく…先にマグノリアに、フェアリーテイルに戻ってろ…』
頭の中に流れる声は、それを皮切りに一切聞こえなくなる。
その後、アレンとバルファルクを追ってアレンと共に戦おうという意見も出たが、結果として、アレンの言葉を信じ、皆はマグノリアへ向けて帰還するに至った。

マグノリアへ無事に帰還を果たしたエルザ隊、ウル隊、ガジル隊は、掃除や補修をして綺麗になったふぁりーテイルの酒場で、ギルド復活を祝して宴を開いていた。エルザが6代目ギルドマスターとなったことで、マカロフの呼び名に困惑を見せるフリードたちであったが、エルザがマスターの座を辞退することで、マカロフが7代目ギルドマスターへと就任する。
それに対し、3度目のマスター就任ということで、いささかざわつきを見せたギルド内であったが、それはすぐに収まりを見せることになる。
「…アレンの奴…無事だといいんだが…」
「…また、助けられちまったな…」
グレイとナツが、どこか悔しそうに言葉を漏らす。
「それに、アレンの左腕が…」
「ヒスイ王女やメストが言っていたことは本当だったということか…」
「アルバトリオンとの戦闘、そしてアクノロギアの乱入によって失ったって話よね…」
カグラ、ウルティア、ミラが悲しそうな表情を浮かべる。マカロフ救出のためにアルバレスへ潜入していなかったメンバーも、アレンが無事だったことの喜びと、左腕を失っていた事実、そしてバルファルクから先のメンバーを逃がすために囮となったことに対するやるせなさで、言葉では言い表せない感情を見せていたが、エルザの力強い言葉により、それはかき消されることになる。
「心配はいらない!アレンは約束した!必ずここに戻ってくると…そして…」
エルザは一度言葉を止め、首から下げ、胸に挟むようにしていた小包を取り出す。
「このいにしえの秘薬があれば、アレンの腕を、引いては目も治すことができる!!だからなんの心配もいらん!!」
エルザの言葉に、皆は一瞬言葉を失ったが、エルザの力強い目と言葉に、それに呼応する形で歓声を上げる。
そうしていると、マカロフが一段高い壇上に身を乗り出し、杖を床へと叩きつける。その音を聞き、酒場には一瞬で静寂が訪れる。
そして、マカロフは皆に謝罪を述べる。フェアリーテイルを解散させたことで、皆の帰る家をなくしてしまったことへの謝罪であった。しかし、それに対する皆の返答は、特に気にしている様子はないものであった。フェアリーテイルの皆を守るために行った行動であったことは、メストの口から伝えられていたからだ。それを聞いたマカロフはゆっくりと壇上から降り、すぐそばにある机へと足を伸ばす。その机には、アラキタシアとイシュガルの大陸が描かれた一枚の地図があり、その上にイシュガルとフェアリーテイル、そしてウルキオラとバルファルクを模した小さな駒が置かれていた。マカロフは手に持つ杖をその地図の上に乗せると、小さく口を開いた。
「…皆も聞き及んでおると思うが、アルバレスの皇帝は黒魔導士ゼレフじゃった…。故に、天彗龍バルファルクと、アレン以上の力を有するウルキオラも共に行動しておる…。それ故、わしの策は無意味じゃった!…アルバレスはここに攻めてくる!!」
マカロフの言葉に、皆は怪訝と驚きを混ぜたような表情を浮かべる。
「巨大な大国が…天彗龍が…黒翼の悪魔がこのギルドに向かい進軍してくる…」
マカロフがそう呟くと、ナツが異議を唱えるように大声を上げる。フェアリーテイルは今まで強大な敵と何度も戦ってきた。今回も皆で力を合わせれば必ず勝てる。そう力強く放った言葉が、マカロフだけでなく、皆を鼓舞するに至る。
「わしも同じ思いじゃ…ナツ…」
それを感慨深そうに噛みしめるマカロフは、低く唸るように呟いた。
「よいか!我が家族に噛みついたことを後悔させてやるぞっ!返り討ちにしてやるわい!!」
マカロフの言葉に、酒場は先ほど以上の活気を生む。それぞれがやる気に満ち溢れる言葉を放っていたが、マカロフは再度杖を床に突き、酒場に静寂を作り出す。
「戦いの前に…皆に話しておかねばならぬことがある…ルーメンイストワール。正式名称『妖精の心臓』のこと、そして三天黒龍…アレンについてじゃ…」
その言葉に、酒場にいるものは全員真剣な表情を見せるが、壇上に現れた少女によって些少の驚きに変わる。
「妖精の心臓については、私から話しましょう…5代目…いえ、8代目…」
「初代…ッ!」
「(目の前の初代は…幽体…なのか?…それとも…)」
ゆっくりと足取りを止めたメイビスに、マカロフは目を見開いて驚く。妖精の心臓そのものを見ていたエルザは、目を細めて考え込む。だが、それに乗っかる形で話に割り込んでくる者がいた。
「なら、三天黒龍は…俺のことは俺から話すぜ…マスター」
その声は、酒場の2階部分から聞こえた。酒場にいるもの全員が聞き覚えがある声であった。皆は目を見開きながらその方向へと視線を向ける。そして、喜びに似た表情と声を上げる。
「アレンッ!!」
いち早く気づいたエルザが歓喜に満ちた声を上げた。その声を聴き、アレンは気さくな様子で右手を上げて見せる。
「無事だったか…」
「ふっ…」
「まったく、心配ばかりかけて…」
グレイ、カグラ、ウルティアも安心した様子を見せる。アレンは酒場にいるもの全員に視線を送った後、メイビスへと視線を移す。
「とりあえず、先を譲るぜ…初代…」
その言葉を聞き、メイビスはアレン登場にとって驚きを見せていた目をゆっくりと閉じ、小さく口を開いた。
「皆さん…妖精の心臓は、我がギルドの最高機密として扱ってきました…。それは、世界に知られてはならない秘密が隠されているからです…」
メイビスがゆっくりと発した言葉を皆は固唾をのんで聞き入っていた。
「ですが、ゼレフがこれを狙う理由も、皆さんは知っておかねばなりません…。そして、私の罪も…」
「初代…」
メイビスの低く発した言葉に、マカロフは些少の不安をもって小さく口を開いた。
「よいのです…全てを語る時が来たということです…」
メイビスはマカロフの言葉に答え、ゆっくりと目を閉じる。そして、はるか昔の記憶辿るかの如く、ゆっくりと語り始めた。
「これは…呪われた少年と、呪われた少女の物語…2人が求めた、一なる魔法の物語…」
メイビスが語り始めた話に、フェアリーテイルの皆は息を殺すようにして、それを聞くに及んだ。

メイビスから語られた話は驚愕の一言であった。
ゼレフとは100年前からの知り合いであったこと。ゼレフとメイビスはマグノリアの西の森でであったこと。ゼレフはアンクセラムという呪いにかかり、意図せず周りの命を奪ってしまうこと。そしてメイビスの師匠ともいうべき存在であること。そのゼレフから教わった黒魔術『ロウ』を未完成の状態で使用し、仲間と共にマグノリアを救ったこと。その影響でメイビスもアンクセラムの呪いにかかり、成長しない身体になってしまったこと。
マグノリアを救ったのち、マカロフの父であるユーリ、悪魔の心臓のマスターハデスを名乗ることになり、かつフェアリーテイル2代目ギルドマスターとなるプレヒト、聖十大魔道士序列4位のウォーロッドの4人でフェアリーテイルを立ち上げたこと。当時は、各領主の通商権争いによる戦争が相次ぎ、戦争中であったこと。自身にかかったアンクセラムの呪いのせいで、マカロフの母であるリタを殺害してしまったこと。そして、2人は呪いを解くために共に歩むことを決意したこと。…しかし、メイビスのゼレフに対する愛が足りず、メイビスだけが仮死状態となり死んでしまったこと。
そして、その仮死状態となったメイビスの身体は、プレヒトの手によって蘇生用のラクリマに封じ込められたこと。そして、天才と言われたプレヒトが、メイビスにかけられたアンクセラムの呪いに気付き、これを秘匿としたこと。
そして、プレヒトの類まれなる頭脳と知識、メイビスの不老不死がもたらす半永久的な生命の維持…それが融合し、説明のつかない魔法が生まれる。それは魔法界を根底から覆す魔法…。それが、永久魔法『妖精の心臓』であった。
メイビスの話を聞いた皆は、まるで固まったように驚いて見せる。
「そして、アルバレス…ゼレフはこの妖精の心臓を用いて、三天黒龍に対抗しようとしている…」
「…逆に言えば、そうでもしないと倒せないってことか…三天黒龍は…」
「そんな…」
メイビスの言葉に、グレイとジュビアが苦悶の表情を浮かべながら言葉を発した。他の皆も同様な様子で、黙りこくったように静寂が生まれる。そんな中、メイビスはスッと2階へと視線を移す。
「アレンさん…あなたは4年前、意図せず100年前の世界に転移を果たした…。そしてそこでゼレフと出会い、共に行動していた…」
メイビスが小さくアレンに向けて呟いたことで、皆の視線はメイビスからアレンへと移る。
「…その通りです…」
アレンは抑揚をつけず、言葉を発する。
「…あなたが来た過去は、私とゼレフが丁度疎遠になっていた頃…。そして再び私とゼレフが関わりを持った頃には、すでにあなたは元の…いえ、この時代に戻っていた…」
「ああ、あなたとはお会いしませんでしたね…初代」
アレンの言葉を聞き、メイビスはゆっくりと目を閉じる。
「当時、ゼレフは私に語ってくれました…。アレンさんのことを…」
その言葉を聞き、皆は些少の驚きを見せる。
「ええ、そうでしたね…」
「…ゼレフにとって、あなたは唯一の親友…そして、あなたにとってもゼレフは友と呼ぶべき存在…そうですね?」
メイビスの言葉に、酒場の皆は息を呑み、表現しがたい感情を生む。先の冥府の門、そしてファースト・ディマイス・ウォーの際に、アレンとゼレフの関係を、触り程度ではあったが、ゼレフ本人から聞いていたのだ。故に、アレンとゼレフが友であることは、皆認知していた。
だが、今回の敵はゼレフ…。それはつまり、友との殺し合い、戦いになる。アレンの感情がどのようなものであるのか、皆は固唾をのんで捉えようとしていたのだ。
「初代の言う通りだ…だが、その点に関しては心配いらない…約束だからな…」
「約束…ですか?」
アレンの言葉に、メイビスは怪訝な様子を見せる。
「『もしお前が大きく道を踏み外したとき…その時は友としてお前に引導を渡してやる』…とな…当時は殺してくれと俺に懇願するゼレフの気持ちを踏みとどまらせるために放った言葉だったが…結果としてその約束を果たさなければならなくなってしまった…」
アレンはそう呟きながら、手すりに身を預け、俯いて見せる。その様子を見て、皆が苦悶の表情を見せる。そして、確信する。アレンにとっても、ゼレフは本当に友と呼ぶべき存在であるのだと…。故に、その友を自身の手で殺すという決意を固めたアレンの姿に、同情と悲しみを持ったのだ。
「それに、恐らくゼレフも俺を本気で殺しに来るだろう…ウルキオラとバルファルクを差し向けてくる可能性もある…」
ウルキオラとバルファルク、その強者の名を聞き、皆の表情が些少の引きつりを見せる。それを見てか、アレンが2階から階段を伝っておりてくる。
「タイミング的に、バトンタッチってことでいいですか?初代?」
「ええ…」
アレンは階段を降りながらメイビスに言葉を掛ける。そして、アレンが壇上に足を踏み入れるのと同時に、ヒノエとミノトがアレンの少し後ろに控えるようにして立つ。
「それじゃあ…俺から…いや、俺たちから話しておかなきゃならないことを話すぜ…」
アレン、ヒノエ、ミノト、3名がフェアリーテイル全員の視線を奪うようにして注目を浴びる。
「アレンさん、そして私達からお話ししなければならないことは4つ。三天黒龍のこと、バルファルクのこと、破面引いては十刃のこと、そして…」
「私たちの元居た世界…竜満ちし世界についてです」
ヒノエとミノトが、そう呟くと、アレンはゆっくりと先の話を語り始めた。

アレンから最初に齎された話は、三天黒龍の中でもこの場にいるもの全員が遭遇した煌黒龍アルバトリオンの話であった。アレンがフィオーレ王国辺境の地にて、煌黒龍との交戦且つ黒闇竜アクノロギアの乱入があった戦いは聞き及んでいた。しかし、アレンから発せられた言葉は、信じられない者であった。
「…つまり、煌黒龍の力は、アレンの全力をも超えるってことか…」
「ああ、卍解状態ですら、アルバトリオンに終始押されていた…。禁忌の龍…想定以上だった…」
ラクサスは苦虫を噛んだような表情を浮かべながらアレンへと言葉を発した。
「…お前たちを巻き込みたくないとほざいておきながら情けねえが…奴は俺一人では勝てない…」
「ッ!アレン1人で戦わせるつもりなど毛頭ない!!」
「力を合わせて戦おう!!」
アレンの落ち込んだ様子に、エルザとカグラが意を決したようにして口を開く。
「ダメだ…奴と遭遇したら、逃げることだけ考えろ…」
アレンの言葉に、皆は目を見開いて驚く。
「何言ってんだ!皆で戦えば…」
「…俺はお前らを失いたくない…」
ナツが激高したように口を開くが、それをアレンが苦しそうに制止する。
「…それは俺らも同じだ…アレンを失いたくない…」
「だから、一緒に戦うんだ…そのために修行してきた…力をつけてきた!」
ジェラール、エルフマンが口々に言葉を掛ける。
「…ッ!わかった…だが、俺が一緒じゃない時は、逃げることだけ考えろ」
アレンは皆の気持ちを受け止め、主張を引く形で口を開いた。
続いての話は、ヒノエが口を開き説明して見せた。バルファルクについてであり、先のマカロフの話と被る部分もあったが、バルファルクはゼレフと手を組んでこのフェアリーテイル、引いてはフィオーレに攻め入ってくるというモノであった。
「バルファルク…アラキタシアから脱出した際に遭遇したが…やはりそうか…」
「スプリガン12にゼレフ…さらにはバルファルクまで攻めてくるってことか…」
「ほんと、厳しい戦いになるわね…」
ウル、リオン、シャルルが目を細めながら言葉を漏らす。
「バルファルクの強さと脅威は、皆さん承知の上だと思います。加えて、ミノトとの調査で、バルファルクの目的が判明いたしました」
ヒノエの言葉に、皆はキリっとした表情を浮かべる。
「奴の目的は2つ…。1つはアレンさんを殺すこと…。そしてもう一つは…アクノロギアの討伐です…」
バルファルクがアレンを敵視していることは、皆分かっていたことだけに大した驚きはなかったが、後者の、アクノロギアを倒すという目的に、酷く困惑して見せる。
「つまり…だゾ…」
「…敵側の目的と私たちの目的が、合致している部分があるってわけね…」
「うまくいけば、敵同士で散ってくれる可能性もあるってわけね…まあ、それをコントロールできないのが一番の問題だけど…」
ソラノ、ウルティア、カグラが考え込むようにして口を開いた。
3つ目の話は、アレンから齎される。冥府の門で出現したウルキオラという破面、そしてその中でも十刃と呼ばれる圧倒的な力を持つ存在の件であった。
「今回の戦いには参戦するつもりはないらしいが…」
「それを完全に信用することはできないわ…」
「ゼレフと共にいるんだろ?なら出張ってる可能性は高い…」
アレンの言葉に、ミラ、ラクサスが口々に言葉を述べる。
「だが、もう一人の十刃スタークとその連れであるリリネットは敵ではない…」
「ああ、皆も知っているように、俺もその2人には救われた…。それに、先の煌黒龍との戦いには手を貸してくれるはずだ…あの2人の目的でもあるからな…」
エルザとアレンがむむっと言葉を発したが、エルザが思い出したように目を見開く。
「そうだッ!アレン!!そのスタークからいにしえの秘薬を貰ったんだ!これがあれば、アレンの腕も目も元に戻るぞッ!」
エルザの叫びに、ギルドの皆も思いだしたように目を見開く。
「…いや、それはこの戦いで使用すべきものがいなかった時にしよう…」
アレンの言葉に、皆は再度驚きを見せる。その驚きをいち早く収め、ラクサスが怪訝な様子を漏らす。
「…片腕を失った状態じゃ、黒龍との戦いにも支障が出るだろう…今飲んどくべきなんじゃねえのか?」
「…いや、その心配はいらねえ…」
ラクサスの言葉に、アレンは失った左腕を皆に見せるようにして掲げる。すると、失った左腕が、オレンジ色の魔力を帯びる。そしてその魔力は失った腕を補うようにして纏わりつき、魔力の腕を生成した。
「腕に関しては魔力を固めて形作れる。それに、右目に関してはもう慣れた…問題ない…」
「し、しかし…」
アレンの言葉に、エルザは狼狽して見せたが、その様子に反応することなく、アレンは言葉を続けた。
「俺のは命に係わる傷じゃない…だが、この戦いで命の危機に瀕する程の傷を負う者がいるかもしれない…それは、その時にそいつに使うべきだ…」
アレンの戦闘能力に大きな支障がないことも理由に挙げられるが、アレンのもっともな言葉に、エルザはそれ以上何も言えなかった。そんなエルザに、アレンは優しく笑いかける。
「エルザ、それはお前がもってろ…。そして、お前の判断で使え…。もしこの戦いで誰も致命傷や危篤にならず使わなかった時…その時は俺がありがたくもらうとするよ…」
「…わかった…いいだろう…」
エルザは些少の異議を持ち合わせていたが、アレンの言葉に納得の意を表した。
4つ目の竜満ちし世界については、ミノトの口から語られた。アレン、ヒノエ、ミノトはこの世界から遥か遠くに存在する世界から来たこと。アレン達が元居た世界は、この世界では『竜満ちし世界』と言われ、詳細は不明であるが、古い文献に記載されていたこと。そして、その世界とはまた違う世界から来た存在であること。さらに…アレン達は『女神』を名乗る存在によってこの世界に来たこと。女神が3人をこの世界に送り込んだのは、三天黒龍の討伐を依頼するためであったこと。それを為せば、3人は元の世界、竜満ちし世界に帰ることができることであった。
その話を聞き、皆が今まで以上に驚きを表したことは言うまでもない…。あのマカロフとメイビスですら言葉を失っていた。
「女神…それが本物だとしたら、3人は神から呼ばれた存在ってことかよ…」
「信じがたい話だけど…」
「3人が言うのですから、嘘ではないのでしょう…」
ビックスロー、レヴィ、ジュビアが酷く狼狽した様子を見せる。
「…なあ、アレン」
「ん?なんだ?」
エルザは不安なようすでアレンに問いかける。
「…ヒノエもミノトもなんだが…その…無事に三天黒龍を倒したら…帰るのか?元の世界に…」
エルザの言葉に、他の皆もゴクリと唾を飲み込んで緊張した趣を見せる。アレンにとっては、竜満ちし世界というのが本当の世界なのだ…。帰りたいという気持ちがないはずはない…。だが、ゼレフも言っていたことではあるが、その世界に自分たちもいけるとは考えられない。わざわざ神が繋げるほどである。人間如きが世界と世界とを繋げる、引いては干渉できるとは思っていなかった。
「…そうだな…正直、難しい質問だ…。お前らのことは大切だし、大好きだ…本当の家族のように思ってるよ…」
アレンの優しい口調で発せられた言葉に、皆は些少の笑みを漏らす。
「だが…元の世界に残してきた人たちも同じくらい大切だ…。何より、あの世界には…俺の本当の家族が…愛する者が眠ってる…帰りたくないわけがない…」
その言葉に、エルザ達は苦悶の表情を浮かべる。正直、アレンにフェアリーテイルを、この世界を去って欲しくはない…。だが、アレンが帰りたいという気持ちを押し殺してまで残って欲しいとも思っていなかった。故に、自分たちの感情がかき乱されていたのだ。
「…俺も、色々考えたんだが…少なくともここでは何とも言えん…それに三天黒龍の残り一体、黒龍ミラボレアスアは姿すら確認できてない…実際に帰るか帰らないかの選択を迫られるのも…まだ先の話だ…」
アレンの言葉を聞き、皆は黙りこくってしまった。
アレンが…そしてヒノエとミノトがその時、どのような判断を下すのか…それを知ることになるのは、今はまだわからない。 
 

 
後書き
次回更新日は、明日の9月19日(月)朝7時となります。
ストック話数は7話分となっております。
よろしくお願い申し上げます。  
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