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英雄伝説~西風の絶剣~

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第74話 帝国からの増援

 
前書き
 イース8のキャラが出てきますのでお願いします。また原作とは内容などが一部変化する可能性もありますのでお願いします。 

 
side:フィー


 夢を見ていた。空に浮かぶ大きな島、そこに大きな塔のような場所があって沢山の人が集まっていた。そして青い髪の女の子が光り輝く大きな珠に祈りをささげている。


 そして女の子が何かを集まっていた人達に伝えると人々から喜びの喝采が湧きあがった。人々は女の子を空の巫女と呼び敬っていた。


 そして女の子が塔の中に戻ると豪華な部屋に向かった。さっきまで威厳たっぷりだった表情をヘニョンとだらけさせて溜息を吐いている。


「あ~、疲れた……」
「お疲れ様です、ダーナ様」


 ベットに倒れこむ女の子を侍女の人がいたわるようにそう声をかける。


「この後の予定は何だっけ……?」
「この後は女王様との謁見、その後現在リベルアークで起こっている問題を解決する優先順位を決める会議がございます。更にその後孤児院への顔出しと貴族の方々との食事会です」


 仕事が沢山あるらしく、ダーナと呼ばれた女の子がげんなりとした顔をする。


「面倒だな~、もう一気に輝く環にお願いして全部解決してもらえばいいんじゃない?」
「いけません、ダーナ様。輝く環は空の女神エイドスより授かった至宝なのです。至宝は正しく使わなければ争いの元となります、だからこそ輝く環をコントロールし悪用されない為に貴方様がいるのですよ?」
「それはそうだけどさ~……」
「貴方様は女王様が選んだ空の巫女です、もっとその自覚を……」
「はいはい、分かってるよ。ちょっとだけ寝るから時間が来たら起こしてね~」
「かしこまりました」


 ダーナがそう言うと侍女の人は部屋から退室した。


「あ~あ、空の巫女って大変だな~。最初は凄く名誉で誇らしい気持ちだったけどこうも毎日毎日お仕事ばっかりじゃ嫌になっちゃうよ……」


 相当疲れているらしくダーナはまたため息を吐いた。


「……でもそんなこと言ってられないよね。私が頑張ることでお父さんやお母さんが良い暮らしできるし困ってる人達も助けられる……よーし、頑張るぞー!」


 ダーナが腕を上げて自分を鼓舞する。


 そこでわたしの意識は薄れていった……


―――――――――

――――――

―――


「……夢?」


 目を覚ましたわたしはさっきまで見ていた夢の内容を思い出そうとする。でも青い髪の女の子が何かを祈ってるのは覚えてるけど後は忘れてしまっていた。


「う~ん……」
「すぅ……すぅ……」


 隣を見るとリィンとラウラが一緒に寝ていた。


「そうだ、昨日はラウラと一緒にリィンを分からせたんだった……」


 いっぱいキスした後リィンを挟むように寝たわたし達、でもまだ朝ではないようだ。


「もう一回寝ちゃおうっと」


 わたしの見た夢が余りにも具体的だったから気になったけど、思い出せないからもういいやと思いリィンの腕を枕にしてまた夢の世界に旅立った。


 その後わたし達は目を覚ましてシャワーを浴びる、リィンと一緒に入ろうとしたけど流石に断られた。だからラウラと一緒に入ったよ。


 さてと、今日も一日がんばろっと。


―――――――――

――――――

―――


 朝の海道、人気のない浜辺で激しい戦闘音が鳴り響いていた。


 わたしは日課である朝の戦闘訓練をリィンと一緒にこなしている、面倒だけど強くなるためにはそんなことは言ってられないからね。


「やあっ!」
「ふっ!」


 わたしは双剣銃を振るいリィンに斬りかかる、リィンはそれをいなして反撃してくる。


 リィンの反撃をバックステップで回避した後、牽制で銃弾を撃ち込んだ。リィンはそれを太刀で切り払うと飛ぶ斬撃を放ってきた。


「やるね、リィン」
「フィーもな!」


 飛んできた斬撃を双剣銃で十字をかくように斬り付けて四散させる。そして分け身を使い3人になったわたし達は右、上、左からリィンを攻めた。


 でもリィンも同じように分け身を使い3人になってそれぞれがわたし達の攻撃を防いだ。


「スカッドリッパ―!」
「疾風!」


 高速で動きリィンと激しく切り合っていく。足場の悪い浜辺だけどまるで残像が躍るような攻防をリィンと繰り広げた。


「クリアランス!」


 銃弾を弾幕のように放ちリィンの動きを封じる、更に巻き起こった砂煙がわたし達の視界を隠した。


 その隙をついてエリアルハイドで気配を消してリィンの死角に移動する。そして分け身を使い挟み撃ちにした。


 それに対してリィンは「残月」の構えをとる。あれは相手の攻撃をいなしつつ攻撃するカウンターだ。


 わたしはカウンター対策として攻撃が当たる直前にタイミングをずらしてカウンターをさせないようにする。でもリィンはそれに上手く合わせて紅葉切りで反撃してきた。


 でもそれは全部分け身、わたしはリィンに生じた一瞬の隙をついてエリアルハイドを解除してリィンの死角から攻撃を放った。


 だがリィンは鬼の力を解放して闘気の嵐を巻き起こした。その衝撃で大勢を崩したわたしは少しよろけてしまう。


「チェックメイトだな」


 そして背後からリィンに太刀を突き付けられてしまった。負けちゃったか……


「リィン、それはズルいんじゃないの?」
「使っちゃ駄目だなんて言われていないからな。猟兵だからこそあらゆる手を使って勝ちに行く、そうだろ?」
「それはそうだけど……むぅ、やっぱりズルく感じる」
「ははっ、もっと精進するんだな」


 本気でズルいとは思っていないけどわたしもああいう応用の効く技が欲しくなるよ。差し出された手を掴んで立ち上がるけど得意げに笑うリィンにちょっとムカッときた。


「生意気。昨日はわたしとラウラのキスでトロけた顔してたくせに」
「そ、それは仕方ないじゃないか!あんなこと刺激が強すぎるだろう……!」


 リィンが顔を真っ赤にしてそう叫んだ。


 リィンが言ってるのは耳をふさいでするキスのことだよ、シェラザードやアイラに教えてもらったんだけど二人曰くヤバイと聞いていた。


 実際にやってみたけど……ヤバイね。夢中になってやり続けたらリィンがトロ~ンって惚けた顔をしちゃったの。


 ラウラが止めてくれなかったら襲ってたかもしれない。


「大体何処であんなことを覚えたんだ?またゼノか?それともオリビエさんか?」
「シェラザードとアイラに教えてもらった」
「よりによってシェラザードさん達かよ!ラウラも意外にノっていたし……出会った頃とは変わってしまったな」
「そりゃそうだよ。女の子は男の子が思うより早く変わっていくものなんだから。ラウラだって恋をしたら変わるよ」


 最初はそういうのが苦手だったラウラもリィンに告白してからは吹っ切れたのか割とスキンシップをするようになった。


 リィンの手を握ったり人前でハグしたり……昔のラウラを知ってると確かに驚きだよね。


「さて、あっちはもう終わったのかな?」
「いや、激戦を繰り広げているぞ」


 わたし達の視線の先にはラウラとエステルが模擬戦をしていた。スタッフと大剣がぶつかり激しい衝撃が走る。


「見事だ、エステル!」
「ラウラだって流石だわ!」


 エステルの連続攻撃をいなしたラウラは飛び上がって鉄砕刃を放つ。それに対してエステルは金剛撃で対抗する。


 凄まじい衝撃と共に二人は大きく後退する。そして互いに地裂斬と捻糸棍を放ちまた相殺した。


「桜花無双撃!」
「洸刃乱舞!」


「エステルちゃん、頑張れー!」
「ラウラさん、凄いです……!」


 模擬戦を終えたのかアネラスとクローゼがその戦いを観戦していた。


 えっ、アネラスは兎も角どうしてクローゼがいるのかって?それはクローゼも強くなりたいから朝の特訓に参加させてほしいって言ってきたの。


 クローゼも協力員としてわたし達についてくることになったの。その理由はいずれこの国の女王となる身として、結社の事を知っておかなければならないらしい。


 あとはエステルの力になりたいって言ってたよ。やっぱりクローゼは優しいね。


 だからこれからはわたしも気合を入れて行かないといけないね、未来の女王様を守るのも仕事の内だ。なによりわたしも友達であるクローゼの助けになりたいと思っている。


 もう怪盗紳士の時みたいな過ちは犯したりしない、クローゼはわたしが守るよ……!


 因みにオリビエも協力員として付いてくることになったよ、リィンは嫌そうな顔をしていたけどね。


 その後わたし達は朝練を終えてホテルに戻りまたシャワーを浴びた。その後店に行って朝食を食べることにした。


「やあリィン君、昨日はお楽しみだったみたいだね」
「朝から変な事を言わないでください」


 先に来ていたオリビエがわたし達に挨拶してきた。


 因みにオリビエが言ってるのは、丁度リィンがわたしとラウラの泊まっている部屋から出てきたのを目撃したことだよ。


 まあ知らない人が見ればそういうことしてるとしか思えないよね。


「リィン君も隅に置けないね、フィ―君とラウラ君を両方頂いちゃうなんて……どうだい?今夜僕とも熱い夜を過ごさないかい?」
「そろそろ斬りますよ?」


 オリビエとリィンがいつものやり取りをし始める。リィンは嫌がってるけど見てる分には面白い。


「リィン君、昨日フィーやラウラと何かしたのかしら?」
「え、えっと……」
「あはは、エステルちゃんは気にしなくていいと思うよ……」


 エステルはわたし達が何をしたのか想像したが、多分意味は分かっていない。クローゼとアネラスはそう言う事を想像しちゃったのか顔を赤くしていた。


 一応わたしが一緒に寝ただけ、変なことはしていないとフォローするとエステル達は納得してくれた。まあキスは一杯しちゃったんだけどね。


 テーブルに座り店のマスターに大自然の恵み水とハーブサンドを注文する。そしてわたし達の元に料理が運ばれてきた。


「頂きます」


 まずハーブサンドを一口齧る。


 んっ、フレッシュハーブのほのかな苦みが癖になるね。しゃっきり玉ネギのシャキシャキ感とほっくりポテトのほくほくとした触感が柔らかいパンと相性抜群だ。


 そして大自然の恵み水を飲む……爽やかな風味で口の中もさっぱりした。良い組み合わせだね。


「あー、いっぱい運動した後のご飯ってどうしてこうも美味しいのかしら」
「やっぱり食事の最高の調味料って愛情と空腹だよね!」


 美味しそうにハーブサンドを食べるエステルとアネラス、それに対してラウラとクローゼは流石貴族と王族の生まれ、上品に食事をしていた。


「そういえばケビンさんは一緒じゃないんですか?」
「ああ、彼は早くに出ていったよ。予定があるらしくてね」
「そうなんですか、ちゃんとお礼を言いたかったんですけど……」
「本人も暫くはリベールにいるみたいだからまた会えるって言っていたよ」
「ならまた出会えた時にお礼を言うことにしましょう」


 オリビエとリィンの会話が聞こえた。ケビンがいないのは既にどこかに向かったようだね。


「……リィン君、君はもう既に気が付いていると思うが彼は唯の神父じゃないよ。夜中に一度外に出ているんだがその時の雰囲気が全く違っていたんだ。間違いなく尾行はバレると思って何もしなかったけど……いやはやあの時は冷や汗を流したよ」
「俺もあの人が只の巡回神父でないことは把握しています。恐らく古代遺物を密かに回収する教会の裏の仕事をする人間だと思っています」
「やはり組織と言うのはそういう裏の顔を持っているというものか……とにかく彼には気を付けた方がいい、怪しいからね」
「俺としては貴方も怪しいのですが……」
「え~、そういう事言っちゃうの~?リィン君のいけずー」
「うるさいですよ」


 リィンとオリビエが小声で何か話していたね。あとで何を話していたのか教えてもらおう。


「あ~、リベールのお酒も中々の物ね。本当はビールが良いんだけど……」


 カウンター席から女の人の声が聞こえてきた。どうやらカクテルを飲んでるらしい。


 朝からお酒だなんて良い身分だね……ってあれ?あの服装何処かで見た事があるような……


 わたしはその女性の事が気になり近くに行ってみる……やっぱりそうだ。


「こんなところで何をしてるの、サラ?」
「えっ、フィー!?なんであんたがリベールにいるのよ!?」


 そこにいたのはわたしの知り合いである遊撃士、サラ・バレスタインだった。


―――――――――

――――――

―――


「えー!?じゃあ貴方が史上最年少でA級遊撃士になったサラ・バレスタインさんですかー!?」
「あたしも知ってるわ!帝国にいる凄腕の遊撃士ってシェラ姉から聞いてたのよ!」
「ふふん、あたしも有名になったもんね」


 サラを皆に紹介すると遊撃士組であるアネラスとエステルは目を輝かせた。わたしはだらしない所とかしか見てないけど史上最年少でA級になった存在が目の前にいればそりゃ騒ぐよね。


 後輩に慕われているサラは得意げになっている。


「それでなんでサラ姉がここにいるのさ」
「あたしとしてはあんた達二人がリベールにいる事が驚きなんだけど……」


 リィンがサラにリベールにいる理由を聞くと、サラは逆にわたし達がここに居る事を疑問に思ってるようだ。


 まあ猟兵が活動を禁止されているリベールに居ればそうも思うよね。


「俺達は協力員としてここにいるんだ」
「なんで猟兵のあんた達が協力員になってるのよ?」
「まあ帝国で色々あってね……そういえばサラ姉、帝国の方はどうなったの?事件は解決したんだよね?」
「まあね。でもあたしはその事件にはあまり関われなかったんだけど……」
「どういうこと?サラがいれば荒事なんてすぐに解決するでしょ?」


 わたしはサラも帝国の遊撃士ギルドを襲撃した事件に関わってると思ったから驚いた。腕っぷしなら凄く強いから。


「なんか引っかかる言い方ね……まあいいわ。あたしはその時故郷に戻っていたんだけど、帰る途中でハレンチな格好をした女に襲われたのよ」
「サラ姉が?なにか恨みでも買ってたの?」
「知らないわよ、そんなこと。とにかくそのハレンチな女はやたら強くてね……鋼線を巧みに使ってあたしを近づけなかったわ」
「サラを苦戦させるなんて……その女の人は殺し屋だったの?」
「さてね……向こうはあたしを殺す気は無かったと思うわ。どちらかと言えば時間を稼ぐのが目的だったみたいだしね」
「時間稼ぎが目的とはいえ長い間サラ姉を抑えてられる女……まさか結社の人間か?」


 サラは故郷に帰ってたみたいだけど帝国に戻る時に襲われてたみたいだね。相手の女性は殺しじゃなくサラの足止めが目的だったみたい。


 そしてリィンの言葉にわたしも頷いた。サラ程の実力者を抑え込める女性なんて数える程しかいないだろう。


「結社?あの存在するかもわからないって言われている組織の事?なんでそんな組織が出てくるのよ?」
「サラ姉、知らないの?この国でクーデターが起きそうになったんだよ」
「その話は聞いてるわよ。若い遊撃士が中心になって解決に導いたって……もしかしてあんた達の事だったの?」


 わたし達は現在の状況をサラに話す。部外者に話すのは良くないけどA級遊撃士であるサラなら問題無いだろう。


「なるほど、だからあたしがリベール王国に助っ人として派遣されたわけね」
「ああ、助っ人としてきたのか。通りでリベールにいるワケだよ。でもそれなら仕事の方はどうしたの?」
「予定より早く着いちゃったからギルドに向かう前にカクテルくらい飲んでおこうかなって~……」
「呆れた。挨拶よりもお酒を優先するなんて……」
「で、でもビールじゃないわよ!?流石にあたしもそこは弁えてるから!」
「仕事前にお酒を飲もうとしてる時点で一緒だろう……」


 サラは人手不足だから助っ人として帝国から来たみたい、まあサラの実力なら納得だね。


 でも仕事前にお酒を飲もうとしてるのは相変わらずというか……こういう大人にはなりたくないよ。


「でもサラ姉が抜けて帝国は大丈夫なのか?トヴァルさんがいるとはいえ帝国もギルド襲撃事件を終えたばかりだろう?忙しいんじゃないのか?」
「……まああんた達ならいいか。実は今ギルドと帝国政府でバチバチになっててね、最悪エレボニア帝国から遊撃士ギルドが撤廃する可能性もあるの」
「なんだって!?」


 サラの言葉に全員が驚いた。なにせ遊撃士ギルドが帝国から無くなるという話だ、驚かない方がおかしいよ。


「今回の襲撃事件で民間人にも被害が出たの。幸い死者は出なかったんだけど怪我をしたり家を壊されたり……勿論これはあたし達の落ち度よ、非難されるのは当然だわ。でも鉄血宰相が率いる派閥が強く遊撃士協会を非難し始めたの、民間人を守れずあろうことか民が苦しむ原因となった組織など信用できないってね……」
「そんな、おかしいわよ!サラさん達だって頑張ったんでしょ!?なんでそんな……」
「エステルちゃん、ありがとうね。でもあたしは肝心な時にいなかったし彼らの主張も間違っていないわ。ただ今まで何も言ってこなかった政府がいきなり遊撃士協会を非難し始めたのが謎なのよね」


 エステルはサラを慰めるが、サラはエステルにお礼を言う。そしていきなり帝国政府が遊撃士協会を非難し始めたことに疑問を感じてると話す。


「遊撃士協会は国の事に関わることはできないけど、エレボニア帝国は色々きな臭い部分もあるからね。前から遊撃士を煩わしく思っていたのかもしれない」
「それで今回の事件を利用して追い出しちゃおうって思ったって事?」
「そこまでは分からないけど……因みにサラ姉、本当に帝国から全部の遊撃士ギルドが撤廃されるの?」
「今はまだ分からないけどこのままだとヘイムダルにはいられなくなるわね」
「そうなったら地方くらいしか残せないかもしれないな」


 帝国の貴族は猟兵を雇う事も多くそれで遊撃士とトラブルを起こす事も結構あった。だから貴族たちからすれば遊撃士は邪魔だと思うのかもしれない。


「でも非難をしてるのはギリアス・オズボーンの率いる組織なんだよね?あの人って遊撃士ギルドにも支援してたと思うんだけど……」
「だからあたし達も困惑してるのよ。前は友好的だったギリアス・オズボーンが急に手のひらを返して遊撃士を非難し始めたんだから」


 貴族たちが遊撃士を非難するならわかるけど、ギリアスは民に寄り添っている革新派の人間だ。遊撃士も同じく民に寄り添う組織だから革新派とは上手くやってると思ってたんだけど、どうして急に非難し始めたんだろう?


「本当にショックだわ、あんな渋いオジ様そうそうにいないのに……今回の件で幻滅しちゃったわ」
「相変わらず年上の男性を狙ってるのか?流石に節操が無さすぎる気がするんだけど……」
「うるさいわね!もう鉄血宰氏なんてなんとも思ってないわよ!それよりもカシウスさんよ、カシウスさん!少し話したけどとっても魅力的なお方だったわ!あれこそあたしの理想よ!」


 そう熱く語るサラにわたしとリィンはげんなりとした顔を浮かべた。


 サラは年上の男性が好みらしくなんと団長にもアプローチをしたことがある。基本的に他の女性と関係を持っても怒らないマリアナもサラだけは嫌らしく出会うと喧嘩ばかりしている。


 因みに何で遊撃士であるサラと猟兵である団長が知り合いかって言うと彼女の過去が関係している。でもこれ以上は勝手に言えないね、プライバシーだから。


 まあとにかくサラはオジ様系の男性が凄く好きみたいで毎回狙った男性にアプローチしては横からかっ触られたりやんわりとお断りされている。


「そういえばエステルちゃんってカシウスさんの娘さんなのよね」
「は、はい!そうです!」
「貴方の事はカシウスさんから聞いてるわ。俺の自慢の娘だって……」
「えっ、父さんが……」


 急にエステルに声をかけたサラがそう言うとエステルは嬉しそうに笑みを浮かべた。なんだかんだいってエステルもカシウス大好きだもんね。


「お母さんの事も聞いてる、本当にすごい子だとあたしは思うわ。あたしも家族を失ってるから貴方の気持ちは痛いほどよく分かるわ」
「サラさん……」
「サラで良いわ。エステルちゃん、あたし達きっと仲良くなれると思うのよ。どう?あたしを二人目のおか……」
「やめろぉ!!」


 エステルにとんでもない事を言おうとしたサラをリィンが口をふさいだ。流石にどうかと思うよ……


「なんて事を言おうとしてるんだ!エステルにそれは駄目だって!」
「ん、いくらなんでも酷すぎる」
「わ、分かったわよ!あたしが悪かったから離しなさいってば!?」


 はぁはぁと息を切らすサラ、いきなりとんでもない事を言おうとしないでほしい。


「えっとサラさん、今何を……」
「エステル、気にしなくていい。いつもの事だから」
「わ、分かったわ……」


 困惑するエステルにわたしはそう答えた。


「えっと……大丈夫ですか?」
「あら、ありがとう」


 息を切らすサラにラウラが水を渡した。


「あら、貴女って確かレグラムの領主のヴィクターさんの娘さんよね?」
「えっ、父上を知ってるのですか?」
「ええ、一度お会いしたこともあるの。本当に素敵な男性だったわ」


 ラウラの父親であるヴィクターを知ってたみたいでラウラに積極的に声をかけていく。


「でもどうして貴方がリベールにいるの?」
「私はリィンとフィーと幼馴染なんです。そのゆかりで私も協力させてもらっています」
「あら、そうだったの?猟兵と貴族……まあ繋がりがあるのは分かるけどヴィクターさんだと不思議に思うのよね」
「まあヴィクターさんが猟兵に依頼するような人だとは思わないしな……ラウラとは昔偶然出会ったんだ、そこから仲良くさせてもらっているのさ」
「あんたも隅に置けないわね~。そうだ、ヴィクターさんと知り合いなら今度あたしと模擬戦してもらえないか聞いてくれない?」
「懲りてない……」


 ラウラにわたし達との関係を聞いてニヤリとしてリィンにそう言うサラ、娘じゃなく今度は知り合いのリィンを利用してヴィクターにお近づきになろうとしてる魂胆が見え見えでリィンは溜息を吐いた。


「そんなんだからいい年して一回も男性と付き合えた事がないんじゃないのか?いい加減自分の身なりにあった男性と付き合いなよ」
「煩いわね、あんたはあたしの親かっての。そもそもあんただって女と付き合った事の無いチェリーボーイじゃない。女の子とキスしてから偉そうなこと言いなさい」
「……そうだね」
「なによ、その反応は……まさかしたの!?」


 リィンとサラは立場は敵対してるけどなんやかんやで気が合うらしく、ヘイムダルで出会うとリィンに借りてる部屋の掃除させたり一緒に飲んだりしている。


 リィンも人が良いから掃除をやってあげたり飲みに付き合ってあげるけど、そのうち親みたいに小言を言うようになった。


 本来なら色気のあるスタイル抜群の女性の面倒をリィンが見てるっていう恋する女の子としては注意するべき人間なんだけど……


 サラがだらしなさすぎるせいか年上に弱いリィンですらまったく靡かない。絶対にデレたりしないんだもん、珍しいよ。


 だからわたしも全然警戒していない。


 サラ自身も自分より年下であるリィンに小言を言われるのは面白くないらしく、その度にあんただって女と付き合ったこともない童貞なんだから偉そうに言うな!と怒るのがパターンだ。


 因みにわたしはこの時童貞って言葉を覚えた。


 ゼノに意味を聞いたら何故か団長とレオが怒ってゼノを連れて行っちゃったの、ボコボコにされてたけどゼノは「俺は無実や~!」って言ってた。


 その後マリアナに誰から聞いたの?って言われてサラって答えたら「あのアホ女め……」と言いながら意味を教えてくれたんだ。


「どういうことよ!あんたみたいなヘタレが一体誰とキスしたって言うのよ!」
「ヘタレって言うな!相手は……その……」
「なんで言いよどむのよ?それにフィーを見て……えっ、まさか……」
「……相手はフィーだよ」
「……この鬼畜野郎!」


 サラは握りこぶしを作ってリィンを殴ろうとした。リィンはそれを回避してサラから離れた。


「い、いきなり何をするんだ!」
「あんた、等々やってはいけないことをしたわね!血のつながってない義理とはいえ妹に手を出すなんて……そんな奴だとは思わなかったわ!」
「誤解だ!俺はどっちかと言うと受けの方で……!」
「言い訳なんて男らしくないわよ!大人しく正義の鉄拳を受けなさい!」
「この人やっぱり酔ってるだろう!?」


 外に出て追っかけっこを始めるリィンとサラ、あれは絶対酔ってるね。


「一応私もリィンとキスしたのだが……言わないでおくか」
「えっ、そうなの!?リィン君ってやっぱり……」
(実は人工呼吸とはいえ私もリィン君とキスしちゃったんだよね……)
「あの、止めなくていいんですか?」
「僕が蚊帳の外だなんて……放置プレイとはやるね、リィン君♡」


 ラウラは顔を赤くしてそう言いエステルはリィンをジト目で見ていた。アネラスはなんかいやんって感じで悶えてるしクローゼはオロオロしてる。オリビエは相変わらずだった。



―――――――――

――――――

―――


 その後わたし達はリィンを追いかけるサラを止めてギルドに向かった。さっきまでと違って頼れるお姉さんオーラを出しながらジャンに自己紹介するサラをわたしはジト目で見ていた。


 それからブルブランが使っていたゴスペルについてラッセルに意見を聞きに行くためにツァイスに向かう事になった。


 旅立ちを前に孤児院と学園の皆が集まってくれた。皆に励ましの言葉を貰いサラも頑張って来なさいって応援してくれた。


 わたし達は皆に見送られながらルーアンを後にするのだった。

 
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