イベリス
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第六十四話 期末テストその十五
「今はな」
「行方不明ね」
「本当に死んだかもな」
父は考える顔で述べた。
「そして死んでいてももう誰もな」
「どうでもいいってなっているのね」
「生きていて誰の為に何かをしたことはない」
一切というのだ。
「見事に」
「どうにもならないわね」
「それでそうだったんだ」
「自分はこの世で一番偉いね」
「そう思っていたんだ」
「救い様がないわね」
「だからどうにもならないでな」
咲が今言った通りにというのだ。
「誰も救えないというか匙を投げてな」
「今は行方不明ね」
「死んだのかもな」
父は冷たい声で述べた。
「それで死んでもな」
「誰も同情しないのね」
「好かれてると思うか」
「嫌われてるに決まってるわね」
咲は芽を顰めさせて述べた。
「そんな人は」
「だからな」
「もう死んでいてもなの」
「知り合いどころか親戚全員らしいな」
「そうなのね」
「もう死んでるかも知れないしな」
行方不明になってというのだ。
「それでそうなっていてもな」
「皆同情しないのね」
「こんな下らない人生もないだろ」
娘に酔いながらも真面目な顔で尋ねた。
「そう思うな」
「ええ、お話聞くとね」
「だからな」
「こんな人にもならないことね」
「というか普通に生きてたらならないな」
今話している輩の様にはというのだ。
「それこそ子供の頃からとんでもなく甘やかされてな」
「とんでもなくなの」
「特別扱いで怒られなくてな」
「それでニートだったのよね」
「ああ、奥さんに食べさせてもらってな」
「そうして生きていてなのね」
「なる位でな」
それでというのだ。
「咲なら絶対にだ」
「そんな人にならないのね」
「お父さんもお母さんも別に特別扱いしてないな」
「普通よね」
咲も言った。
「悪いことしたら怒るし」
「そうだな、だからな」
それでというのだ。
「咲もな」
「そうはならないのね」
「ああ、そこは安心するんだ」
「そうだといいけれど」
「そんな風に育ててないし努力もしているからな」
咲自身もというのだ。
「だから大丈夫だ、じゃあ期末テストもな」
「頑張るわね」
「そうするんだぞ」
こう言ってだった。
テスト勉強に向かう娘を笑顔で送り出した、咲も自分の部屋に入ると寝るまで勉強に励んだ。今はそちらに専念していた。
第六十四話 完
2022・5・24
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