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英雄伝説~西風の絶剣~

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第73話 異変を終えて

 
前書き
 欲望の星などはオリジナル設定なのでお願いします。 

 
side:リィン


 気が付くと俺達は海の上に放り出されていた。近くに俺達が乗ってきた導力ボートがあったので、それに乗り込んで一息つくことにした。


「まさかいきなり海に放り出されるなんて……今日だけで何回びしょ濡れになった事やら……」
「暫く海とか川とかといった水場は遠慮したいよ~……」


 3回ほどずぶ濡れになった俺と姉弟子は暫く水場には近寄りたくないと思った。


「そういえばケビンさん、幽霊船はどうなったんですか?」
「姿が見えへんな、古代遺物も見当たらへんしあんなことが起きとったんやからあると思ったんやけど……」


 幽霊船の姿はなく「さっきまでのは夢だったのか?」と思う程海は静かに波をうっていた。


「うわわ!?」
「また地震か!?」


 その時だった、海が激しく揺れてボートが大きく揺れる。大勢を崩しそうになった姉弟子を支えつつ海を見ると、なんと海の底から先程戦ったキャプテン・リードの頭の骸骨が出てきた。


「馬鹿な!?特異点はとっくに無くなったはずや!」
「来ますよ!」


 ケビンさんはあり得ないと言うが俺は武器を構えて警戒する。だが頭はいつまでたっても襲ってこなかった。


『ははっ、中々根性の据わったガキだな』
「えっ!?お化けが喋った!?」


 なんとキャプテン・リードの頭の骨が会話をしてきた。さっきまで唸り声しか上げなかったのに流暢に会話をしてくるとは思ってもいなかったぞ。


「……あなたはキャプテン・リードなんですか?」
『そうだ、俺はこのゼムリアの海を旅する自由の海賊、キャプテン・リードだ』


 どうやら本当にこの骸骨がキャプテン・リードみたいだな。なら猶更油断はできないぞ。


『あん?どうしてテメーらそんなに警戒してるんだ?俺はもうとっくに正気だぞ』
「そんなこと言われても……だって貴方は虐殺や強奪を繰り返した大悪党でしょ?そんな奴を前にして例え幽霊だとしても油断なんてできないよ!」
『はあ?どういうことだ?』


 姉弟子は悪党を前に油断なんてできないと言うが当の本人は訳の分からないという反応をする。俺達はキャプテン・リードという人物はルーアンで恐れられているという事を話した。


『そんなことはしてねえよ。そもそも海賊と名乗ってるが俺や船員たちは冒険と宝が好きなロマンを求めて旅をしていたんだ。略奪もしてねえぞ』
「じゃあどうしてそんな話になったんだ?」
『大方時代が進むとともに話が盛られていってそうなったんじゃねえのか?今はあれからもうなん百年もたってるんだろう?』
「まあよくある話やな、神話とか伝説も大抵人の妄想や盛った内容やし」
「そうなんですか……」


 キャプテン・リードは略奪などしたことが無いと話す。俺はじゃあどうしてキャプテン・リードは極悪人みたいな話が残ってるんだと疑問に思うが、本人曰く話が盛られていったんじゃないかと言うとケビンさんは納得した。


「じゃあ貴方は良い人なの?」
『良い人って自負するわけじゃねえが……まあカタギには迷惑をかけないようにはしてきたつもりだ』


 姉弟子はキャプテン・リードに良い人なのかと聞くと彼は困った様子でそう呟いた。姉弟子って天然だな……


「まあアンタが極悪人じゃないっていうのは分かったわ。でも何で俺らの前に姿を見せたんや?もうアンタを縛るモンは無いんやし成仏したらええやろ」
「どういう事ですか?」
「幽霊っていうのはな、はぐれた魂の事や。人は死後空の女神エイドスの元に行き新たな命として輪廻転生するか煉獄に堕ちて苦しみを味わう、といった二つの道に行くんやけど、稀にそのどちらにも行けない魂が出るんや。それが幽霊やと七曜教会では教えられとる」
「へぇ、そうなんだ!」
「んでそういった幽霊が強い未練や恨みを持っとると悪霊になってしまうんや。まあそういった奴は大抵場所や物に縛られるから自由に動き回ったりできへんのやけどな」


 ケビンさんが俺と姉弟子に幽霊の事を教えてくれる。姉弟子は楽しそうにそれを聞いている。エステルだったら怖がりそうだな。


『そのおっさんの言う通り俺は病気で亡くなったためこの世に未練があった。だから成仏できずにいたんだが、ある日訳も分からない内にあんな姿になってしまい海をさまよう事になったんだ。もしあの状態が続いていたらそれこそテメーらが言っていた虐殺や強奪をしてしまうくらいには狂ってしまっていたんだ。テメーらのお蔭でそこまで堕ちてしまう事は避けれた、本当にありがとうよ』
「誰がおっさんや……まだ若者やぞ、俺」
「あはは、気にしなくていいよ。お化けにお礼を言われるなんて何だか変な気分だね」
「そうですね」


 ケビンさんの説明が終わると、キャプテン・リードはあの状態になった理由が分からないと話す。最悪あのままだったら民間人を襲っていたかもしれないと言い俺達に礼を言ってきた。


 それに対してケビンさんはおっさんと呼ばれたことに怒り姉弟子は礼なんていいと言う、俺も同意した。


「でもどうしてこの世に未練があったの?恋人とかがいたとか?」
『いや違う、俺が未練を残したのはこの世界の謎を解けなかったからだ』
「この世界の謎?」


 姉弟子がどんな未練を残したのか聞くと、キャプテン・リードはこの世界の謎を解けなかったからだと言う。その言葉に俺は首を傾げた。


『この世界はゼムリア大陸以外に大陸は無いだろう?海をどこまで進んでもゼムリア大陸に戻ってきてしまう。小さな島はあれど大陸はそれしかない。それがこの世界の常識だ』
「言われてみるとまあ確かにそうですね。でもそれの何が変なんですか?」
『俺は納得できねぇんだよ。海ってもっと広くて自由なモンだろう?それなのにゼムリア大陸しか大陸が無いなんて思えなかったんだ。だから俺は海を旅した、その先に何があるのかを確かめる為にな』
「海の先……」


 キャプテン・リードの話を聞いて俺は言われてみるとゼムリア大陸以外に大陸が無い事を意識した。まあそれが常識なんだけどロマンの溢れる話でワクワクするな。


「……まあそんな話はもうええやろう。アンタが俺達の前に姿を見せた理由を話せや」
『ああ、そうだったな』


 ケビンさんはキャプテン・リードがなぜ俺達の前に現れたか理由を話すよう急かした。


『俺が成仏せずにテメーらの前に姿を見せたのは単純に礼が言いたかったのと、古代遺物を渡そうと思ったからな』
「古代遺物だって!?」
『ああ、俺がかつて見つけたお宝の中によく分からねえモンがあってな。ソイツが今も俺のアジトの中にあるはずだ。もしそれが古代遺物なら持って行ってくれて鎌わねぇ、どうせ俺にはもう無縁の物だからな』


 キャプテン・リードはそう言うと何処かに向かって移動を始めた。


『ついてきな、俺の船『エレフセリア号』があるアジトに案内してやるよ』
「あの幽霊船の事?」
『そうだ、もっともお前らが見たエレフセリア号は俺が生み出した幻だったんだけどな。本体はこっちにある』


 俺達が見た幽霊船はキャプテン・リードが生み出した幻だったのか。俺達は古代遺物の可能性があるそのお宝を放っておくわけにはいかないとして彼についていく事にした。


 ルーアン地方でも潮の流れが速いと言われている辺りに来ると洞窟のような場所があった。けっこう強い魔獣も多いし好き好んで近寄る人間はいないとジャンさんが言っていたな。


『ここは潮の流れが速くてな、流れを知っていないとまともに進むことは出来ねえ。俺についてこい』


 キャプテン・リードの後を突いていくとスムーズに前に進むことが出来た。そして洞窟の中を魔獣を倒しながら導力ボートに乗って進んでいく。


『ほら、着いたぜ』
「あれが……」


 洞窟の奥には広い空間があり沢山の死体とボロボロになった船がたたずんでいた。


「この死体は……」
『俺の子分達の骨だ。コイツらも俺と同じ熱病にかかっちまってな、最後はこのアジトで最期を迎えたんだ。テメーらが特異点で戦っていたのも俺の部下達だ』
「そうだったんですか……」


 どうやらこの白骨死体はキャプテン・リードの部下だったみたいだな。きっと苦しんで死んでいったのだろう。


 それなのに幻とはいえ特異点で俺達が部下を倒すのを見ていたキャプテン・リードの心情は難しい物だと思う。


 俺達はせめて冥福を祈るように手を合わせた。丁度神父さんもいるからな。


『……ありがとうよ。お宝はこっちだ』


 キャプテン・リードは俺達に頭を下げるとアジトの奥に案内してくれた。そこには金銀財宝が山のように積まれていた。


「すっごーい!お宝の山だー!」
『こいつは生前俺達が冒険して集めた宝の山だ。言っとくが持ち逃げしようとは思うなよ?この宝の山には凄まじい怨念が込められている。迂闊に持ち出したら呪われるぞ』
「確かに悍ましいほどの怨念を感じるわ、勿体ないけど持ち出すのは危険やで。間違いなく不幸になるわ」


 姉弟子は目を輝かせて宝の山を見ていた。だがキャプテン・リードはこの宝は呪われているから持ち出すなと言い、ケビンさんも嫌な物を見る目で宝の山を見ていた。


「それで古代遺物はどこですか?」
『そこの赤い宝石だ。ソイツだけ普通の宝石とは違うような気がしてな』


 キャプテン・リードは側にあった赤い宝石を指差した。確かになんか禍々しい見た目をしているな、まるで人の心臓みたいだ。


「ケビンさん、それは古代遺物ですか?」
「……せやな、これは『欲望の星』や。人の願いを叶える奇跡の石って言われとるけど実際は周囲の人間の運を吸い取ってしまうだけの厄介なシロモンや。しかも叶える願いも良い結果やなく滅茶苦茶捻くれて叶えるしな」
「例えばどんなふうに?」
「そうやなぁ、例えるとお金持ちになりたいって願ったら家族や友人、大切な物すべて失ってお金だけが残るって感じやな」
「それは嫌ですね……」


 俺はケビンさんに古代遺物なのかと聞くと、彼は頷いた。


 彼曰くこの『欲望の星』は人の願いをかなえる代わりに他の人間を不幸にするし願った人間も結果的に不幸になってしまうらしい。


『願いか。その石に願った訳じゃねえが俺はずっと仲間達と航海を続けられると良いとは思ってたな』
「なら欲望の石がその願いを叶えて死後も霊となって海を彷徨うハメになったんやろうな。でもこの石事態に特異点を生み出す力は無いはずや。そもそも石が願いを叶えたのはあの灯台にいた爺さんの話やと最近になるはずやし願いは直接石に伝えんと効果は無いはずなんやけど……」
『言っとくが俺は思ってただけでそんな石に願いを言ってねえからな』


 ケビンさんはそう言ってキャプテン・リードの方を見るが彼は頭を横に振って否定する。


「なら誰かが勝手にキャプテン・リードの願いを叶えさせたんか?この石は持ち主だけの願いを叶える訳やない、他人の願いも叶えることが出来る。結果的に不幸になるのは変わりないんやけどな」
「となると……第三者の手が入ってるって訳ですか?」
「多分な。もしかしたら結社って奴らの仕業かもしれへんな」
「結社……」


 今回の事件に第三者の可能性が浮かび上がり、俺達は結社の存在が頭をよぎった。


『だが俺が悪霊化する前にも意識があったが誰かが入ってきた覚えはねえぞ』
「じゃあやっぱり別の原因があるって事?」
「もしくはキャプテン・リードですら気が付けないほどの隠密能力を持った人間か……まあここでそんなことを考えても仕方ないですね」


 キャプテン・リードはここに誰かが来た覚えは無いと話した。それを聞いた姉弟子は別に原因があるのかと言うが俺は首を横に振るう。


 結社って奴らがどんな力を持っているのか分からないからだ。もしかしたらとんでもない技術を持ってるのかもしれないし、隠密に長けたプロがいるのかもしれない。


 それこそ幽霊ですら気が付けないほどの凄腕のプロが……


「とにかくコイツは危険なシロモンや。適切な処置をするから待っててくれや」
「了解です」


 古代遺物の事は専門外だからケビンさんに任せよう。それから暫くして古代遺物を回収したケビンさんがこちらに来た。


「回収完了や。これでもう危険はないはずやで」
『ありがとうよ、これで子分達の魂も天に召されたはずだ。俺も漸くあいつらの元に逝ける』
「良かったですね」
『ああ、この世界の謎を解くのはテメーに任せることにしたぜ』
「えっ、俺ですか?」
『ああ、俺をぶっ倒した男だからな。だからテメーに託した』
「勝手に託されても困るんですけど……」


 なんだか幽霊に気に入られてしまったみたいだ。


『じゃあ帰るとするか。また潮の流れを教えてやるから付いてきな』


 俺達はキャプテン・リードの案内で洞窟の外に出ることが出来た。


『さて……これで本当にお別れだな。もうこの世に未練はない、俺の遺志を継いでくれる人間が現れたんだからな』
「いや、勝手に意思を継いだみたいに言われても……」
『俺には分かるさ、テメーもロマンが分かる男だろう?それにテメーは厄介ごとに巻き込まれやすい体質と見た。そういう奴は望まなくても真実に向かっちまうもんだ』
「そういうものですかね?まあ俺自身の問題が解決したら考えておきますよ」


 俺は苦笑いしながらそう答えた。


『それじゃあな、短い時間だったけど楽しかったぜ。テメーらの事は忘れねぇ、もし煉獄に堕ちたら土産話を聞かせてくれや』
「了解です」


 キャプテン・リードはそう言うと空に消えていった。一瞬だけ彼の人間だった姿が目に映ったような気がした、彼はこれで成仏出来たんだろうか?


「きっと大丈夫やろ、夢を引き継いでくれる人間が現れたんやからな」
「ケビンさんまで……その話はもういいでしょう?早く報告しに帰りましょう、場合によってはフィー達の応援に向かわないといけないんですし」
「あはは、そうだね。急いで帰ろうか!」


 そして俺はさっきの洞窟をチラッと見ると頭を下げてそのままルーアンに向かった。


―――――――――

――――――

―――


 ルーアンに着いた俺達は直にギルドに報告しに向かった。


 そこにはすでにフィー達がいて白い影の事件について話していたようだ。


 俺達も幽霊船の事をジャンさんに報告した。


「……なるほど、そんな事があったんだね。まさか大昔の海賊が幽霊になって海を彷徨っていたなんて思いもしなかったよ。しかもその件に結社が関わっていたとはね」
「まあ白い影と違って可能性の話ですけどね。現状結社が一番怪しいっちゅうことは確かですわ」


 ジャンさんにそう説明するケビンさん、今回は彼がいてくれて助かったな。


「でもまさか幽霊船の方は本物の幽霊だったなんて……白い影はブルブランって奴が生み出した幻影だったけどそっちに行かなくて良かったわ」
「あはは……エステルちゃんがいたら何回も気を失っていたかもね」


 エステル達の方は結社の執行者という奴が作った幻影だったが、こっちは本物だったからな。もしエステルが一緒だったらもっと大変だったかもしれない。


「それにしてもまさかラウラがこっちに来ていたとは思わなかったよ」
「ああ、修行を終えて大急ぎでリベールまで来たのだ。もう既に夜だったがジャン殿からそなた達がそれぞれ別れて目的地に向かったと聞いていたから近いジェニス王立学園に向かったんだ」
「そうだったのか。ラウラが来てくれたのなら百人力だな」
「ふふっ、その期待に応えられる働きをしよう」


 俺はまさかラウラが着ていたとは思っていなかったので嬉しかった。まあ俺はずぶ濡れなのでハグは出来なかったけどな。


 その後俺達はジャンさんが手配してくれたホテルで休むことになった。部屋割りはエステルと姉弟子、ラウラとフィー、俺とオリビエさんとケビンさんの割り振りになった。


 なんで本来部外者であるケビンさんも一緒なのかというと……


「いやぁ、部外者なのに俺までお世話になってホンマ申し訳ありませんわ」
「いやいや、ケビンさんの協力のお蔭で事件が解決したと聞きましたし、このくらいはさせてください」


 ジャンさんにそう言われたからだ。まあ夜も遅いし今から寝床を探すのは厳しいだろう。彼もそう思ったからか素直にジャンさんの提案を受け入れた。


 その後オリビエさんにハグされかけたりケビンさんにからかわれたりと色々あったけど、二人とも疲れていたのか直ぐに寝てしまった。


 二人をベットに運んで俺も寝ようとしたんだけど、不意に扉が叩かれる音がした。


「こんな時間に誰だろう……はーい」


 俺は夜も遅いのに訪ねてきた人を誰かと思うが取り合えず待たせるわけにはいかないので出迎えた。そこにいたのは……


「やっほー」
「フィーじゃないか。どうしたんだ?」
「ん、ちょっとね」


 訪ねてきたのはフィーだった。もう既に寝ていると思ったのだがどうしたんだ?


「リィン、お腹空いていない?」
「まあ少し……」
「実はリィン達が帰ってくる前に簡単な夜食を作っておいたの」
「えっ、そうなのか。嬉しいなぁ」


 結構ハードに動いたから小腹が空いていたんだよな、嬉しいよ。


「他の皆にも声をかけてくるよ」
「エステルとアネラスはもう食べたよ。ケビンとオリビエは?」
「生憎あの二人はもう寝ちゃっててね……」
「そっか、なら今度また作ってあげるとする。残ってる夜食はリィンが食べちゃって」
「分かった、それで夜食は?」
「ん、わたし達の部屋にあるよ。そこそこ量があるから持ってこれなくって……リィン達を呼びに来たの」
「そ、そうなのか……」


 軽く言ったけどそんなに量があるのか?食べきれるかなぁ?


(まあフィーの作ってくれた食事を残すわけにはいかないし……今は結構お腹も空いてるからいけるでしょ)


 フィーがせっかく作ってくれた夜食を残すなんてとんでもない!そう思った俺はまあ少し無理すれば行けるだろうと思い彼女の後を付いていった。


「リィン、来てくれたのか」
「こんばんわ、ラウラ。御呼ばれされたから来たよ」
「うん、いっぱい食べていってくれ」


 机の上には山盛りのおむすびと卵焼き、そして豚汁が置かれていた。


「お、おお……結構作ったんだな」
「ん、ラウラが少し張り切り過ぎちゃってね」
「えっ?ラウラが作ったのか?」
「うん、おにぎりは私が握ったのだ。なにせ殆ど何もできなかったからな」


 俺はおにぎりの山を見てちょっと驚いた、想像よりも結構な量があったからだ。


 でもどうやらおにぎりはラウラが作ってくれたようだ。


「そんなことないのに……ラウラやオリビエが来てくれなかったら危なかったし気にしすぎ」
「そうは言っても性分だからな」
「えっ、どういうこと?」
「ん、まあそれは後で話すよ。とにかく今は暖かい内に食べちゃって」
「分かったよ」


 少し気になることがあったが今は食事を楽しむとしよう。


 俺はおにぎりの一つを手に取りかじりついた。うん、美味しい!ほのかな塩味と良い感じで握られた米の触感が堪らないね!


「美味しいよ!」
「本当か!まだまだたくさんあるから存分に食べてくれ!」
「うん!」


 お腹が空いていたと言う事もあったがあっという間に一つ食べてしまった。お茶を飲んですぐにもうひとつのおにぎりに手を出した。


「ふふっ、慌てすぎだよ。ほら、おかずや汁物もあるよ」


 俺はフィーがくれた卵焼きを食べる……うん、コレも美味しい!フワフワの卵の触感が口いっぱいにひろがったよ!しかも俺が好きな甘い味付けだ!


 そしてそこに豚汁を飲むと……ぷはぁ~、たまらないね!


 甘い卵焼きの後に豚と野菜の風味がいっぱい詰まった豚汁で流す。そしてまたしょっぱいおにぎりを食べて……無限に食べれてしまうよ!


 あれだけあったおにぎりの山をあっという間に平らげてしまった。いやぁ、満足だよ~。


「ご馳走様でした!凄く美味しかったよ!」
「そうか、喜んでくれて良かったよ。だが私は簡単な物しか作れなかったからな、フィーは凄いよ」
「ラウラは最近料理を始めたんでしょ?ならそんなものだよ。それに料理に大事なのは愛情を込めることだからね、ラウラの気持ちはいっぱい伝わったと思うよ。そうだよね、リィン?」
「ああ、凄く美味しかったよ!また作ってほしいな」
「ふふっ、ならまた作るよ」


 美味しい夜食に満足した俺はその後フィーとラウラと一緒にお喋りをすることにした。今寝たら胃に悪いからね。


「なるほど、そんな事があったのか」
「ん、あの時は油断した。怒りで前が見えなくなるなんて猟兵失格……」
「……そうだな。フィーの判断ミスでクローゼさんが危険にされされたのは事実だからな」


 俺はフィーから話を聞いて彼女がらしくない行動をしたと知った。


 結社の一員である怪盗B……いやブルブランという男は恐ろしいことに俺がエレナを失うきっかけになったあの事件が起きた現場にいたらしく、その時から俺の動向をストーカーしていたようだ。


 そいつが楽しげに俺の過去を話すから頭に血が上ってしまったらしい。正直俺もムカッと来たがフィーが代わりに怒ってくれたためすぐに怒りは引っ込んだ。


 ただ俺は慰めたりせずに厳しい言葉をかけた。


 俺のために怒ってくれたことは嬉しいが彼女も猟兵だ。怒りで視野が狭くなり安直な行動をとれば自分だけでなく仲間まで危機にさらしてしまう。


 このことを団長や西風の皆から耳にタコが出来るほど言われてきた俺は、同じように言われてきたフィーにキツめの言葉をかける。


 それを望んでいるのはフィーだしラウラも理解してるから何も言わなかった。


「今回はラウラとオリビエさんに感謝して反省しろ、そしてもう二度と同じことはするな。いいな?」
「……うん、了解」


 フィーはそう言って立ち直った。猟兵だからこそ切り替えるのは大事だ、反省するのは大事だがそれを引きずってまた違う失敗をしたら意味が無いからな。


 とはいえ俺もフィーのことを同じように言われたらキレてしまうと思う。だからこの言葉は言った俺自身もしっかりと覚えておかないといけないな。


「さて、この話はここまでにしよう。正直そんなストーカーがいた事に身震いしてるしね……」
「そなたはそういう変……ゴホンッ、普通とは違う者にも好かれやすいのかもしれないな」
「そうだね……」


 ラウラは一生懸命言葉を選んでフォローしてくれたのかもしれないが内心複雑だ。そう言う人はオリビエさんだけで十分だよ……


「リィン、そなたの方は問題は無かったのか?なにやらよく分からない空間に迷い込んだとか聞いたぞ」
「ああ、それは……」


 俺は特異点の事を二人に話した。


「そのような空間が存在するのか。よく無事に戻ってきてくれた、下手をすればそなた達は死んでいたかもしれないからな。本当に安心した」
「ん、わたし達も危なかったけどリィン達はもっとヤバイ状況だったんだね」
「ああ、本当に何でもありの空間だったよ。姉弟子やケビンさんがいなかったらどうなってたことやら……」


 動く骸骨やら巨大な魚に襲われるわ……特異点には今後も気を付けて行かないとな。


 まあ姉弟子とラッキースケベもあったんだけど……ソレは言わなくてもいいよな。


「リィン、今何かイヤらしいこと考えたでしょ?」
「えっ、そんなことはないぞ」
「嘘、だってリィン今目を逸らして頬を掻いたでしょ?リィンが隠し事する時のクセだよ」
「そ、そんなことは……」
「リィン、私達の間に隠し事は無しだぞ。それとも私達には話せないようなことなのか?」
「……話します」


 二人の鋭い視線に耐え切れずに、俺は姉弟子とのラッキースケベも話してしまった。


「……」
「……」
「あの、二人とも……?」


 黙り込んでしまった二人に俺は恐る恐る声をかけた。


「……まあ人工呼吸は良い、人命が一番だから」
「うん、そうだな。だが胸を見てしまったのは駄目だろう、何故隠した?」
「えっと、それは……」


 フィーの言葉を聞いて一瞬許された?、と思ったがその次の後のラウラの言葉に俺は顔を青くした。


「……思わぬ強敵が出てきたね」
「うん、このままでは拙いな」
「ならやるべきことは一つだよね?」
「ああ、その通りだ」


 二人は何かを話し合っていたが直ぐにこちらに振り返った。


「えい」
「うわっ!?」


 そしてフィーにベットへ押し倒されてしまった。


「フィー、なにを……んむッ!?」
「んっ……」


 そしてそこにフィーが覆いかぶさってきて唇を重ねてきた。しかも前と違って舌まで入れてきたぞ!?


 俺はフィーをどかそうとするがラウラに押さえつけられて動けなかった。その間もフィーの小さな舌が俺の舌に絡みついてくる。


 暫くしてフィーも苦しくなったのか口を離した。透明な唾液の橋が俺とフィーを一瞬繋いで途切れる。俺は口元を唾液でべとべとにしながら息を整える。


「フィー、一体何をするんだ……」
「何を休んでいる、次は私の番だぞ?」
「えっ、ラウ……んぶぅ!?」
「ちゅうう……好きだぞ、リィン……」


 フィーに抗議しようとしたが、今度はラウラに唇を奪われた。フィーと比べると激しくないがたどたどしい舌使いがかえってイヤらしい。


「リィンはわたし達の気持ちを知ってるよね?なのに他の女の子とラッキースケベしちゃうなんて悪い子だよ。んっ……」
「ちゅっ……そうだぞ。いくらそなたにその気がなくとも私達からすれば面白くないんだぞ。ちゅう……」
「だからわたし達がどれだけリィンの事が好きなのか言葉だけでなく体に教えてあげるね。れろっ……」


 交互にキスをされるから俺は全く話せない。二人には悪いと思ってるけどあんなの予想できないよ!


 でもそれを言ったところで二人からすれば言い訳にしか聞こえないだろう。


「だいじょーぶ、一線は超える気は無いから」
「ああ、流石に嫁入り前で父上に紹介もしていないのにそのようなことはできないからな」
「だからキスでわたし達の想いを分からせてあげるね」
「今夜は寝かせぬぞ、リィン♡」
「わたし達の想い、ちゃんと受け止めてね♡」
「んー!?」


 その後俺は二人に思う存分分からせられるのだった……

  
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