麗しのヴァンパイア
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第四百七十九話
第四百七十九話 漱石を読んで
カーミラはブリテン四ヶ国の民謡を聴きながら安楽椅子に座って紅茶とお菓子を楽しみつつ漱石を読んだ。
そうしてだ、一冊読み終わって使い魔達に話した。
「こころはいいものね」
「代表作の一つでしたね」
「そうでしたね」
「代表作の多い作家ですが」
「そのうちの一作ですね」
「ええ、恋愛にルールはないと言うわ」
カーミラはクールな顔で述べた。
「俗にね」
「恋愛と戦争にルールはないですね」
「イギリスの諺だったでしょうか」
「確かに言われますね」
「その様に」
「けれど後悔はするものよ」
ルールはないといえど、というのだ。
「出し抜いたり騙したりするとね」
「それで恋愛を成就しようとも」
「親友を裏切れば」
「そして死なせれば」
「そうなってしまうとね」
こころにある様にというのだ。
「後悔するものよ、それこそ一生そうなって」
「何もしたくなくなる」
「完全に無気力になる」
「そうだというのですね」
「この作品の先生の様にね。恋愛は手に入れても」
それでもというのだ。
「その代わりに親友そして残りの人生全てをね」
「失った」
「そうなりましたね」
「こころの先生は」
「そうなったわ、ただね」
カーミラはこうも言った。
「そうなるのは良心があるからよ」
「その人にですね」
「それがあるからこそですね」
「後悔し気力を失い」
「そうなるのですね」
「良心がないのなら」
先生がそうした輩であったならというのだ。
「平気なまま生きていくわ、けれどね」
「けれど?」
「けれどといいますと」
「これは人間には出来ないわ、私もね」
「ご主人様もですね」
「同じですね」
「吸血鬼になっても人間ということね」
その心はとだ、カーミラは微笑んで言った。そうして使い魔達に本棚を置かせてまた一冊読むのだった。
第四百七十九話 完
2022・6・12
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