フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです
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第9章 解散編
第42話 翹望
マグノリアの街がクリスマスに沸いていた日から数日後…。
フィオーレ王国西方の辺境の地に、深く大きな森がある。まるでジャングルのような森の中を突き進んでいくと、一軒の小さな家が見える。その家は、小さいながらも、森の中にあるとは思えないほど精巧な作りをしていた。加えて、その家の周りには、井戸や畑など、これまた丁寧に手入れされているものが見て取れる。恐らく、ここに住む住人は、森でとれる食場や動物含め、自給自足の生活を送っていることが分かる。
そんな人里離れ、森の中にポツンと鎮座する家に、一人の少女と思しき人物が入っていく。その少女は、青いニスデールを羽織っており、身体の殆どを確認することはできない。だが、その背丈から、少女が12歳程度の体格であることがわかる。
少女は、家の中に入ると、青いニスデールを脱ぐことなく、家の中を見回す。そして、奥のソファに寝っ転がる男を見つける。
年のころは40歳ほどの精悍さを見せる人物であった。
その男を視界に捉えると、少女はゆっくりと靴を脱ぎ、男の傍らへと移動する。暫く男が気持ちよさそうに寝ているのを眺めていた。そして、少女はゆっくりその男の口元へ手を下す。と同時に、大声で声を張り上げる。
「すどーーーーーーンッッ!!!!!」
「ゴヘッッッーーーーー!!!!!!!」
その少女は、こともあろうに寝ている男の口の中に、思いっきり手を突っ込む。手を突っ込まれた男は、ガバッと飛び上がり思いっきりむせて見せる。
「おっす。今帰ったよ」
「ゴホッ!ゴホッ!!」
男に帰宅を報告する少女であったが、男はそんな状況ではないとばかり咳き込んでいる。
「ゴホッ…お前は普通に起こせねえのか…」
「昼間っから寝てるあんたが悪いんでしょうが」
男は涙を目に浮かばながら、少女へと視線を向ける、そして、家の中だというのにニスデールを深く被っている姿を見て目を細める。
「家の中なんだから、そのコート、脱いだらどうだ…」
「ああ、そういや忘れてたわ…」
男の声を聴き、少女は思い出したようにニスデールに手を掛けてガバッとそれを剥がす。
ニスデールがはがれると、見立て通り、年端の行かぬ少女であることが見て取れる。ウェンディと同じくらいの身長と胸。薄い緑掛かった長めのショートカットに、胸と股を隠すような白い服装。加えて腕と足の大部分を覆うような独立した服が見て取れた。だが、それ以上に、少女が先ほどのニスデールを羽織っていた意味ともとれる箇所が二つほど見て取れる。
丁度鳩尾の部分にぽっかりとあいた黒い穴。そして、頭全体を覆うような白い兜のような仮面があった。まるで兜のような白い仮面の右側には強大な角が生え、左側の角は根元で切れたような様相を見せている。加えて、仮面は少女の左目にまで達し、左目は存在しないのか、鳩尾に空いた穴と同じようにして黒く塗りつぶされたような様相を見せていた。
「…で、うまくいったのか?」
「あったりまえよ!フェアリーテイルにきっちり依頼出しといた」
少女のそんな人間離れした姿に、特に驚きを見せなかった男は、布団を剥いでゆっくちと起き上がる。すると、その男胸の中心には少女と同じようにぽっかりと黒い穴が見え、首元には猛獣の下あごを思わせる白い仮面が見られる。
その姿から、先の少女と男が、ウルキオラと同じ種族である破面であることが見て取れた。
「そんじゃ、あとは待つだけってことだな…」
「でもさ、なんでわざわざこの近くの廃教会を選んだわけ?ここに来てもらう方が楽じゃない?」
男はそう言ってソファに思いっきり身体を預けながら言葉を発すると、少女が疑問をぶつけるようにして呟く。
「もし戦闘にでもなったら、めちゃくちゃになるだろうが…」
「あー、それもそうか…。確か、ウルキオラとやり合ったんだっけ?えーと…ア…なんだっけ?」
少女は噂の絶えない男の名前を思い出そうとするが、中々記憶を探れずにうーん、と唸って見せる。そんな症状の様子を見かねて、男が口を開いた。
「アレンだ…聖十大魔道士序列特位、竜の天敵、アレン・イーグル。この世界じゃあのアレンと同格の力を持つ奴って認識だが、俺からしたらあのウルキオラと互角にやり合ったって方が驚きだ…」
「ま、人間だしね…でも、評議院が言うんだから間違いないでしょ」
先日、評議院が大陸全土に流した情報を思い起こす。アレンという男は、人間の身でありながらウルキオラと互角の戦いを見せ、更には虚化という改造を受けてなお、それをその身に抑え込んで見せたというのだ。その情報を聞いた2人が、驚いたのは無理もない。
「しっかし、あいつも無茶するわ…。アレンやフェアリーテイルとは完全に対立してんでしょ?」
「ま、ウルキオラだしな…」
男は怠そうに髪を掻くと、少し真剣な面持ちを見せる。
「まあ、これで運よくアレン本人が来てくれれば話は早いんだが…」
男の言葉に、少女は首を傾げて怪訝な表情を浮かべる。
「なら、フェアリーテイル限定じゃなくて、アレン指名にすればよかったんじゃない?」
「アレン指名の依頼は評議院の審査が入るんだと…それに、通ったとしても請け負われるのは遠い未来になるそうだ」
少女はなるほどー、といった雰囲気を見せるが、またしても一つの疑問が生じる。
「だったらさ…あんたが直接フェアリーテイルまで行けばよかったんじゃない?」
少女のもっともな意見に、男は返す言葉がないように目線を反らす。
「…それはめんどくせー…」
男の言葉に、少女は呆れたように大きくため息をつく。
「全く…ウルキオラといいあんたといい…ほんと、仕方ないんだから…」
少女は不満そうな表情を見せ、再度口を開く。
「とりあえず、もう昼過ぎなんだから、そろそろ起きな…スターク」
「…わーたよ、ったく…」
スタークと呼ばれた男は、ゆっくりと身体を起こして立ち上がる。
「…リリネット…お前は…」
スタークは、少女の名前を小さく呟く。リリネットと呼ばれた少女は、そんなスタークの言葉を聞き逃さず、振り向いて答える。
「なにさ…」
「…いや、なんでもねえ…」
スタークは、言いかけていた言葉をとめ、気怠そうにリリネットと一緒に外へと向かった。
クリスマス、そしてアレンにとって最も苦しい記憶が蘇る期間を終え、早2週間が経とうとしていた。あの日、アレンとウルキオラが思わぬ会合を果たした日、アレンがまさかのエルザの唇を奪うという行為に、最初の3日間程、エルザはまともにアレンの顔を見ることも出来なければ、会話することもできない様子を見せていた。だが、それとは裏腹に、いつものように声を掛けてくるアレンに、エルザは「私の唇を奪っておいて、なんでそんなにいつも通りに生活できるんだ!」と激高したのは言うまでもない。ウルティアやカグラなど、アレンに恋心を抱くものは、「なんでキスしたの!!」とアレンに詰め寄ることになるが、「え…、いや。その場の雰囲気で…」というアレンの言葉に、むぅ…と不満を露にする。さらに、ミラが「なら私ともチューして!!」とアレンに詰め寄るが、アレンに断られてしまったことで、更に不満を募らせることとなっていた。
さて、だが、そんな様相も2週間も経つと落ち着きを取り戻し、それぞれ思うところはあれど、少しずつ平常心を取り戻していた。
そんな折、ミラが一件の奇妙な依頼書を発見する。ミラは怪訝そうにその依頼を眺めていると、エルザが疑問をもって声を掛けてきた。
「どうした?ミラ?」
「エルザ…いや、珍しい依頼だなと思って…」
ミラとエルザの会話に、ナツが割り込んでくる。
「どんな依頼なんだ?」
「うん…竜の調査と情報を求むって依頼なの…」
ミラの言葉に、ナツが大きく目を見開き、ミラからその依頼書を奪い取る。
「おい、ナツ…」
「竜…ドラゴンの場所かなんかか!!」
エルザはナツの行動を咎めようとしたが、すぐにナツの心情を察し、言葉を詰まらせる。
「ミラッ!この依頼、俺が引き受ける!」
「ちょっと、ナツ!ほんき?もしかしたら、強力な竜かもしれないわよ!」
ナツの言葉に、ミラは怒ったように言葉を放つ。
「関係ねえ!黒竜について、何か重要な手掛かりが見つかるかもしれねえ!」
「気持ちはわかるけど、少し冷静になって…。その依頼、ちょっと変なのよ」
ナツの気持ちを抑えるようにして、ミラは語り掛ける。
「変?竜について調べてくれっていうのが変な内容、という意味ではないのか?」
「それもあるんだけど、依頼書の一番下を見て」
エルザの疑問に、ミラはゆっくりと言葉を放つ。そして、ナツとエルザはその言葉の通り、依頼書の一番下に書かれた文字を見つめる。
「『フェアリーテイル魔導士限定?』…どういうことだ?」
「この依頼書は、正式に受諾されたものだけど、フェアリーテイルの魔導士のみに充てられたものなのよ…。つまり、フェアリーテイルに対して何らかの意図を持ってるかもしれないってこと…。内容も内容だし、警戒するに越したことはないわよ…」
ミラの言葉に、エルザは少し考え込むが、横から現れた男によって決意を固める。
「正式に受理されているなら、問題ないだろう。それに、複数人で、相応の戦力をもって当たれば、危険も少ない」
「ジェラール…そうだな。ナツ、その依頼、私たちもついていくぞ」
ジェラールとエルザの参戦に、ナツはニヤッと笑みを漏らす。
「よっしゃー!!折角だ、他の奴らにも声かけようぜ!!」
ナツの提案を皮切りに、この奇妙な依頼には、ナツ、エルザ、ジェラールに加え、グレイ、ジュビア、ルーシィ、ハッピー、ウェンディ、シャルル、カグラ、ウルティア、リオンの12名という大所帯で挑むこととなった。
竜の調査と情報を求める、フェアリーテイルのギルド指名の奇妙な依頼を請け負ったナツ達は、依頼主に指定された場所に向けて出発した。場所はフィオーレ王国内でも辺境の地とされている西方方面。その中でも西端に位置する『ロンリネスの森』へと向かっていた。距離はマグノリアから1000㎞程であったが、辺境の地ということで街道の整備は殆どなされておらず、1週間ほどかけて目的地に達した。
且つて、そこそこ大きな町があったとされているロンリネスの森であったが、今は見る影もないと言った様子であった。
依頼主から指定されたのは、その廃街となった街の一角にある教会。その教会にたどり着いたナツ達は、ボロボロになった扉を開けてゆっくりと中に入る。
「邪魔をする。依頼を請け負ったフェアリーテイルの者だ」
「誰かいるか?」
エルザとジェラールは、寂れた教会内に向かって声を張り上げるが、返答はない。そんな風にして教会内へと足を踏み入れるも、誰かが出てくる様子はなかった。
「んだよ…場所間違えたのか?」
「いや、ここであっているはずなんだが…」
グレイとカグラが、怪訝な様子を浮かべるが、それはある男の声によって否定されることとなった。
「いや、ここであってるぜ…」
聞き覚えのない男の声に、ナツ達はバッと後ろを振り向く。先ほどの声の主であろう男の横には、ウェンディと同じくらいの背丈をした子どもの姿が見て取れる。だが、どちらも青く深いニスデールを被っていることで、その身体と表情は見て取れない。そんな姿に暫く呆気に取られていたナツ達であったが、ルーシィがいち早く正気を取り戻し、質問を投げかける。
「あなたが、『竜の調査と情報を求む』っていう依頼を出した人?」
「ああ、その通りだ、お嬢ちゃん…」
「って、依頼を出したのは私でしょうが!」
ルーシィの質問に、淡々と答える男であったが、隣の少女が異議ありと言った様子で声を荒げる。
「お、女の子?なのか…」
「差し支えなければ、その…ニスデールをとってはもらえませんか?」
リオンが小さい子どもの声を聴き、女の子であること理解する。そして、ジュビアが2人の容姿を確認しようと要望を口にする。
「あー…俺たちはとっても構わねえんだが…飛び掛かってくるなよ?」
「…どういう意味?安心して、依頼主を攻撃したりしないわ」
男の言葉に、ウルティアは安心させようと口を開いた。その言葉を聞き、2人はゆっくちと顔を見合わせると、意図決したようにニスデールに手を掛ける。そして、ガバッとニスデールを剥ぐと…。
「「「「「「「「「「…なっ!!」」」」」」」」」」
2人の容姿を確認し、少ししてナツ達の表情に驚きが浮かぶ。男の方が40代前後、症状の方がウェンディと同じ12歳程度の見た目をしていた。だが、驚きはそこではなく、2人の身体には胸の中心と鳩尾部分に黒い穴が、頭と顎下に白い仮面のようなものが見て取れたからだ。
そう、アレンを虚化させ、剰えアレンと同等かそれ以上の実力をもったウルキオラの特徴と酷似していた。それを理解したナツ達の表情は驚きから怪訝なモノへと変わる。
「…まさか、お前ら…」
「虚…破面、なのか?」
エルザとカグラが警戒心を抱きながら言葉を発する。
「なんだ、やっぱ知ってたのか…。なら情報を与えたのはウルキオラか?…いや、ウルキオラじゃないな…。話したのは黒魔導士の方か…」
男の言葉を聞き、ナツ達は更に怪訝な表情を見せる。だが、そんな2人に構うことなく、男が続けて口を開く。
「あわよくばアレンが来てくれればと思ったんだが…まあ、フェアリーテイルの魔導士が来てくれただけでも御の字だな…お前らに聞きたいことがあって依頼を出したんだ」
男の言葉に、ジェラールがキッと睨みつけながら口を開く。
「お前…ウルキオラの仲間か?」
「仲間…ねえ…。まあ、そうだな」
男の言葉を皮切りに、ナツが拳に魔力を込めて襲い掛かる。その様子を見たフェアリーテイルのメンバーは目を見開く。
「ッ!ま、まて!ナツ!!」
エルザはナツを制止しようと言葉を掛けるが、ナツはそれに従うことはなかった。
「ウルキオラの仲間に…話すことは何もねえ!!」
ナツは男に向かって火竜の鉄拳を浴びせるが、その男はなんと素手でナツの手を受け止める。
「なっ!!」
ナツは自身の攻撃が片手で、しかも素手で受け止められ、驚きを見せる。
「おいおい、急に攻撃してくることはないんじゃなかったのか?」
男はそう言い放ち、受け止めたナツの拳を掴み、まるで虫でも払うかのように横へと投げ捨てる。ナツはあまりの力に再度驚きを見せるが、空中でうまく体制を整え綺麗に着地する。
「仲間って言っても、前の世界での話だ」
「ナツッ!今はまだ手を出すな!!」
男の言葉に反応するように、エルザがナツに向けて声を張り上げる。ナツの攻撃を軽くいなしたその姿を見て、相当な実力者だと察知し、警戒を露にする。その言葉を聞き、ナツはちっと舌打ちをしつつ、男を睨みつけるようにしている。
「…前の世界…そうか、お前も異世界から来たのか…」
カグラが、先の男の言葉に反応するように声を発する。
「ああ、そうだ。…紹介が遅れたな。俺はスターク、んで、こっちの小さいのはリリネットだ」
「小さい言うな!!」
スタークの自己紹介に、リリネットはまたもや異議ありといった様子で声を張り上げる。
「あなた、前の世界ではウルキオラと仲間って言ってたわね…」
「ああ、言ったな…」
「その…あなたたちも…十刃…なの?」
ウルティアは先のスタークの言葉を掘り下げるようにして言葉を発する。その言葉を聞いたスタークは少し目を見開いた後、ふっと笑いかける。
「そこまで聞いてたのか…姉ちゃんの推察通り、俺は十刃の一人だ…。だがリリネットは違え…従属官ってやつだ」
スタークの十刃発言に、ナツ達は更に警戒を強める。目の前にいるのは、あのウルキオラと同格の存在である。無理もなかった。だが、同時にこうも思った。目の前のスタークという男は、ウルキオラよりは会話になる存在であると。ウルキオラは自分たちのことを『ゴミ』と称し、対等な会話ができない。だが、スタークはこちらの質問にも丁寧に答え、ウルキオラのように見下すような様子は伺えない。そんな風にして考えを巡らせていると、ウェンディが小さく、少し震えた様子でスタークに声を掛ける。
「えっと、その…従属官、とはどういったものなのですか?」
「…そんなに怖がる必要はないぜ…お嬢ちゃん。従属官ってのは、十刃に仕えるやつのことだ…たくさん抱えてる十刃もいれば、俺みたいに一人だけの奴もいる…。まあ、ウルキオラみたいに一人もいないやつもいて様々だがな…」
スタークは、ウェンディの様子をみて、優しく語り掛けるように声を発する。
「…それにしては、仕えてるって感じではなさそうね…」
「ああ、俺とリリネットの関係に上下はねーよ…俺たちの関係はちと特殊だからよ…」
シャルルの言葉に、スタークは抑揚をつけずに言葉を返す。
「特殊…一体どういうことだ…?」
「あー、それについてはノーコメントだ…」
「ってかさ…」
エルザがスタークへと言葉を投げかけ、それに答えるスタークであったが、それに間髪入れずにリリネットが口を開く。
「聞きたいのは私たちの方なんだけど…」
「そうだな…これだけあんたらの知りたいこと、喋ったんだ…俺たちの聞きたいことにも答えてもらうぜ…」
リリネットの言葉を皮切りに、スタークは頭を掻きながらナツ達に問いかける。だが、その言葉に、ナツ達は怪訝な表情を見せる。なぜそんな顔をするのか瞬時に理解したスタークは一つため息をつくと、怠そうに言葉を発した。
「まあ、ウルキオラの件があったんだ…。警戒するのはわかるが、俺たちはなんもしねーよ…。もちろん、アレンにもな…」
「私たちは知りたいのは3つ。アレン・イーグルのこと、ゼレフのこと、そして三天黒龍のこと」
リリネットの言葉に、ナツ達は困惑した様子を見せる。スタークやリリネットとの会話の中で、この2人が悪人であるとは思えない。そして、更にウルキオラと同じ種族であり、かつての仲間という話であったが、ウルキオラのように攻撃的でもない。
しかし、やはり先のリリネットの質問に対して言葉を発することに、一抹の不満を持っていた。
「…なぜ、アレンやゼレフ、アルバトリオンの情報を欲しがる?」
「…俺たちの目的が、煌黒龍アルバトリオンの討伐だからだ」
エルザが投げかけた質問に、対して、スタークは淡々と言葉を発する。だが、ナツ達にとっては驚きの言葉であった様子で、皆が目を見開く。
「俺とアレンの目的は、似たようなところにある。…だから、協力してもらおうと思ってよ。先の依頼を出したのもそれが理由だ…」
「…つまり、味方だと言いたいのか?」
スタークの驚きの言葉に、カグラは怪訝な表情を見せる。
「いや、味方だっていうつもりはねーよ…。ただ、あんたらの敵じゃねえってだけだ。ウルキオラの奴は知らねえがな…」
スタークの言葉に、皆が更に考え込むような表情を浮かべる。そんな中、エルザが意を決して口を開いた。
「いいだろう…私たちが知る限りのことを話そう…」
そんな言葉に、カグラ、ウェンディが抗議の声を上げる。
「エルザ…正気か!?」
「よく考えた方が…」
カグラとウェンディが声を高らかにするが、エルザはそれに反応することなく、言葉を続ける。
「ただし…アレンのことは話せない…。お前の目的がどうであれ…アレンについては口は割らん…例え力づくで聞かれてもだ…」
エルザの真剣な声に、ナツ達は思わず目を見開く。スタークはそんなエルザの様子を見て、小さくため息をつく。
「そうかい…なら仕方ねえ…ゼレフとアルバトリオンの情報だけでいいぜ」
スタークはそう言うと、一つの小包をエルザへと投げる。エルザはその小包を受けとると、首を傾げて問おうとするが、スタークの言葉に目を見開くことになる。
「それは、いにしえの秘薬だ…。今回の報酬として受け取れ…。金より、あんたらにはこいつの方が価値あんだろ?…アレンの右目の方がよ…」
スタークの言葉に、皆は酷く狼狽した様子でエルザが手に持つ小包に視線を向ける。エルザは落ち着かない様子でその小包を開くと、一つの液体の入った瓶が目に入る。忘れるはずもない…。約10年前、アレンから与えられたいにしえの秘薬…。目の前のビンは、その時のものと全く同じ様相をしていたからだ。
「こ、これは…本当に貰っていいのか?」
「ああ、俺たちの誠意だとでも思ってくれ」
エルザはスタークの言葉を聞き、そのビンを見つめながら、小さく目尻に涙を浮かべた。
スタークとリリネットは、空座町上空にて発生した死神との戦闘時に命を落としたはずであったが、その後奇妙な空間に転移したかと思うと、女神を名乗る者から、もう一度命を授ける代わりに、この世界での煌黒龍の討伐をお願いされたのだ。この願いを達成すれば、スターク、リリネット共にフェアリーテイルの世界で第二の人生を歩めるという話であった。加えて、自身の力によって周りの者が死に絶えることはないという話もあったため、その願いを受け入れる形で異世界転生を果たした。
ナツ達は、スタークとリリネットに対し、自分たちが知るゼレフとアルバトリオン、加えてそれに付随する情報を話した。当初、あまり乗り気ではなかったナツ達であったが煌黒龍の討伐が目的だということに加え、アレンの目を治すことのできるいにしえの秘薬を報酬として提示、受け取ったことで、知りうる限りの情報を提示した。スターク感慨深そうに、リリネットはメモを取りながら話を聞いていた。全ての情報を与えたのち、エルザは少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「…いにしえの秘薬を貰っておいてすまないが、本当にアレンのことについて話すつもりはないぞ」
「ああ、構わねえさ…必要があれば、アレンに直接聞くまでだ」
スタークの言葉に、フェアリーテイルのメンバーは少し怪訝な様子を見せる。それを察したスタークが少し笑いを漏らす。
「心配するな…アレンを取って食ったりはしねー。それに、奴を敵に回せば、俺も相応の力をださねきゃならねー。そんなめんどくさいことはしねーよ」
それを聞いた皆は、少し安心したような表情を漏らす。そして、ナツが興味に搔き立てられたように言葉を発した。
「お前…ウルキオラと同じ十刃なんだろ?…一体何番なんだ?」
ナツの言葉に、皆も興味ありげな様子といった感じであった。
「なんだ…気になるのか?」
「…ウルキオラの奴が4番って聞いたんだが、本当なのか?」
スタークの短い言葉に、エルザも質問を投げかける。
「ああ、本当だ」
スタークの答えに、皆は目を見開く。ゼレフの言葉を信用していなかったわけではないが、目の前のスターク、それも元仲間からも同じ返答が返ってきたことで、それが確信に変わったのだ。
「んで、あんたは一体何番なんだ?」
「8番あたりかしら?」
リオンが急かすようにスタークへ声を掛けると、ウルティアがとんでもなく失礼な言葉を投げかける。
「はぁ…やっぱ下の方に見られんだな…」
その言葉にフェアリーテイルのメンバーは一瞬怪訝な様子を見せる。
スタークはそんなウルティアに怪訝な表情を見せることなく、慣れたような表情を見せ、顔を左手で覆うように上げる。そして、つけていた手袋を外し、手の甲をフェアリーテイルのメンバーに向ける。それをみたフェアリーテイルのメンバーは目玉が飛び出るほどの衝撃を表情に表す。そこには、『1』という文字が刻まれていた。
「悪いな…俺が♯1(プリメーラ)だ」
奇妙な依頼を達成し、マグノリアの街へと向かっているナツ達一行は、未だ先ほどの驚きを浮かべている様子であった。
「まさか…あのスタークって奴が1番だったなんてな…」
「ああ…」
「ほんと、人は見かけによらない者ね…人じゃないけど…」
ジェラール、グレイ、ウルティアが口々に言葉を漏らす。
「だが、それはつまり…」
「あのとんでもない力を持ったウルキオラより3階級も上ってことよね…」
「一体どれほど強いのでしょう…」
エルザ、ルーシィ、ジュビアが少し畏怖を覚えた様子で言葉を発した。
「ウルキオラですらアレンと同等かそれ以上の力を有していたんだ…」
「単純にアレン以上ってことか…」
「…あいつの刀剣解放なんて…考えたくもないわね…」
カグラ、ナツ、シャルルが目を細めながら口を開く。
「だが…不幸中の幸いとはこのことだな…」
「エルザ…どういうこと?」
エルザの発言に、ハッピーが疑問を投げかける。
「もしスタークという男がウルキオラと同じような考えを持っていたと思うと、背筋が凍る思いだ」
「…確かにそうですね…スタークさんに戦闘の意思があれば、私たちは皆殺されていました…」
「…アレンですら、窮地に追い込まれるだろうな…」
エルザが続けざまに言葉を発すると、ウェンディとリオンがそれを補うようにして言葉を漏らした。その後暫く沈黙が続いたが、エルザが気持ちを切り替えるようにして言葉を発する。
「だが、奴の…スタークの目的が本当に煌黒龍の討伐で、アレン含め私たちの敵でないのなら、これほど心強いことはない…それに…」
エルザは含みを持たせるようにして言葉を切る。そして、スタークからもらった小包を優しく抱きかかえるようにして自身の胸へと寄せる。
「…これでアレンの目がもとに戻る…ッ!」
エルザの安心しきったような、嬉しそうな表情と言葉に、皆は思わず笑みを浮かべていた。
さて、行きと同じように1週間かけてマグノリアの街へ帰還したナツ達一行は、先の依頼の詳細やアレンへのいにしえの秘薬含め、足早にギルドへと向かっていた。だが、そんなナツ達の集団に、ギルドの方から走って向かってくるものが目に映る。尋常ではない様相であったその人物たちを、ナツ達が気付くと、少し怪訝な表情を浮かべるに至った。
「ん?あれは…」
「レヴィちゃん?」
「ジェットとドロイまで…」
「どうしたんだ?」
ジェラール、ルーシィ、ナツ、エルザが疑問を口にしていると、レヴィ達はナツ達の前で足取りを止めて、息を大きく荒げていた。
「一体どうしたんだ?」
グレイがそんな3人に声を掛けると、息を整えていたレヴィが苦しそうに言葉を発した。
「はぁ…はぁ…。みんな…アレン見なかった?」
「アレン?見てないけど…」
「ギルドにいるんじゃないの?」
レヴィの言葉に、カグラとウルティアが首を傾げながら言葉を発するが、その表情はすぐさま驚きに変わる。
…レヴィの目尻に小さく涙が浮かんでいたのだ。
「レヴィ!?」
「一体何が…!」
「まさか…アレンさんの身に何かあったんですか!」
リオン、ジュビア、ウェンディが声を張り上げる。そして、その後に発せられたレヴィの言葉に、ナツ達はこれまでにないほどの衝撃を受けることになる。
「アレンが…アレンが…ッ!フェアリーテイルを辞めちゃったっ!!!」
レヴィはナツ達に顔を向け言い放った。そして、目尻に溜まった涙がスゥッと頬を伝い、地面へと落ちた。
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