真・恋姫†無双 劉ヨウ伝
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第24話 正宗の子房
アタシは劉ヨウから聞いた自分の将来に悲嘆していた。
覚悟はしていたが、それでも酷い未来だった。
以前から、アタシは仕官しても碌な将来はないと思っていた。
いくら栄達しても、尽くした主君に警戒されるなんて虚しいだけだ。
私が想像していた未来より酷いものだった。
私の子供2人は簒奪を計画し、その孫が簒奪者になるそうだ。
劉ヨウは私が簒奪者じゃないと言っていたが、そう割り切れるものじゃない。
劉ヨウ達の未来は戦乱の世の倣いなので、私の場合とは違うと思う。
「袁紹は大陸の北を、私は大陸の南を制し、私と袁紹の子に天下を一つに纏める役目を託したいと思っています」
劉ヨウはいきなり話題を変えてきた。
「戦乱の世になれば、明日はどうなるかわからないと思います。仮に、私が道半ばにて死ぬ事があった場合、司馬懿殿には袁紹と共に、大陸を一つにして欲しいのです」
己が死すとも、袁紹が生き残る道を模索している訳ね。
袁紹が羨ましい。
劉ヨウはアタシに自らの大陸統一への道筋を話した。
伴侶とともに、北と南に別れて覇道を歩み、自分達の子に統一を任せる。
随分と奇抜な発想だと思う。
普通、思いつかない。
夫婦で天下を治めるという考えを持つ人間はいない。
袁紹は袁家の財力が強みとなるだろう。
希有な人材を集めることができるかが鍵だと思う。
袁紹という人物の王者の資質は未知数だ。
面識がないので、はっきり断言できないが、袁紹が北を制することは不可能じゃない。
問題は劉ヨウの方だ。
彼は皇族とはいえ、後漢の皇族という訳ではないので、強い権力も持っている訳じゃない。
劉ヨウには超えなければいけないことがある。
彼の家は名門であるし、司馬家の情報網によれば、彼自身は「山陽郡の麒麟児」の異名通り武官としては一流、文官としては一流とはいえないが優秀であることは間違いない。
彼が一大勢力になるには、今後、地盤を手に入れ、人材を手に入れる必要がある。
これは袁家の支援があれば上手くいくはず。
経済的にも袁家の支援が見込めるだろう。
しかし、何も無いところから、劉ヨウが強固な地盤を築くには時間がかかる。
それまで、戦乱の世が待ってくれるかということだ。
それに、戦乱の世になれば、不確定要素が多くなるだろう。
最終的にどうなるか分からない。
「劉ヨウ殿の想いはわかりました。あなたが大業を為すというなら、成し遂げられるという証拠を見せてくださいませんか?」
劉ヨウの言葉は、大志だと思うが、それは誰でも言えること。
それを成し遂げる気概がお前にあるか知りたい。
さあ、どうする気?
「私の言葉が信じれぬと仰るなら、これを受け取ってください。そして、私の側に居て、私が下らぬ妄言を吐く痴れ者と思われたら、これで私の命を奪ってください」
劉ヨウは思い詰めた顔をしていたかと思うと、彼の懐から短剣を取り出し、アタシに突き出してきた。
劉ヨウの表情は覚悟を決めている人間の者だった。
そうまでして私に仕官して欲しいわけね・・・。
「己の命を懸けてでも私の才が欲しいのですか?」
「はい、司馬懿殿でなければいけないのです」
「何故です?私でなくとも有能な人物は巨万と居ますよ」
そうアタシでなくても、有能な人物は居る。
「私は天下を統一したいと言った筈です。私と袁紹が安寧に暮らせる世を実現したいのです。だからといって、私は民を蔑ろにするような国にする気はないです。私が望む世は民が少しでも苦しまぬ国を作りたいのです。頑張った者が報われる世を作りたいのです。その為には、あなたのような天下一の才人がどうしても必要なのです」
天下統一の為に天下一の才人のアタシが必要ね。
アタシが天下一の才人かどうかは置いときましょ。
ふふ、ここまで本音で言ってくる人間には初めてあった。
天下を纏め上げる理由が自分の伴侶と安寧に暮らせる世を実現するため。
その上で、民達が苦しまぬ国を作りたい。
アハハハハ、自分達の安寧を実現するためとは笑えるわ。
でも、この劉ヨウという人物は、アタシの所に行脚してくる豚どもような欲に取り付かれているようには見えない。
彼のいう安寧とは別に贅沢がしたい、権力が欲しいとかじゃないと思う。
ただ、平和に日常を送りたい。
そのための国をつくりたいと思っているだと思う。
ある意味贅沢じゃない。
良いんじゃない。
随分と庶民臭い王になるかもしれない。
それでいい。
アタシも平穏に日常を送れる生活を送りたい。
劉ヨウの言葉通り、いずれ戦乱になるとアタシも思う。
そうなれば、いずれ好む好まざるに関係なく仕官をせざる負えなくなる。
ならば、少しでも気の会いそうな人物の下で働く方が良い。
「劉ヨウ様、この司馬懿、仕官のお話を謹んでお受けいたします。これよりは私のことは揚羽とお呼びください」
アタシは劉ヨウ様に真名を預けて、頭を平伏し仕官の話を受けた。
「ほ、本当ですか?ありがとうございます」
「敬語は不要です。それに劉ヨウ様に仕官するには条件があります」
「条件?私にできることであれば何でもするよ」
劉ヨウ様、言質は取りましたよ。
「劉ヨウ様が納得していただければ問題はありません。劉ヨウ様は私に仰りましたね。自分が道半ばで、夢を実現できぬときは、袁紹殿と手を取り合って、国を統一して欲しい。それをやり遂げるには私があなたの家臣では不都合です。正室の座は袁紹殿に譲りますから、私をあなたの側室にしてください」
アタシは仕官の条件に、劉ヨウ様の妻にして欲しいと頼んだ。
劉ヨウ様に惚れた訳じゃない。
ただ、そうしたいと思っただけ。
それを惚れたというのかもしれない。
劉ヨウ様はご自分の運命を変えようとしている。
その彼と共に歩みたいと思ったことは確かなこと。
後書き
司馬懿が主人公の嫁宣言をしました。
麗羽はこのことを知りません。
波乱の予感がします。
多分、これ以上嫁は増えないと思います・・・。
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