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Fate/WizarDragonknight

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公私混同

「はい。ラビットハウスです。はい、出前ですね」

 可奈美が電話に耳をかけながら、メモを取り始めた。
 カウンターのこの場所からだと、彼女の一生懸命動く後ろ姿が微笑ましく思える。
 ハルトは欠伸をかみ殺しながら、ラビットハウスの外に目をやる。
 春。まだ今年の桜の開花宣言はされていないが、今日にいたるまでにポツポツと桜の開花そのものは目にしていた。だが、今日この降りしきる雨の中だと、おそらく明日には桜はほとんど残っていないだろう。

「出前か……じゃあ、俺が行くことになるのかな?」

 ハルトはそう言いながら、腰からコネクトの指輪を取り出す。
 雨の日ということもあって、わざわざラビットハウスなどという喫茶店には来ないのだろう。
 そんなことを考えていると、店のベルが鳴った。

「いらっしゃいませ」

 ハルトは即座に欠伸を止め、笑顔を見せた。だが、入って来た客を見て、ハルトはすぐに笑顔を真顔に変えた。

「……よっ!」
「お前かよ」

 多田コウスケ。
 ハルトや可奈美と同じく、聖杯戦争の参加者の一人。数日前にハルトが見滝原南で時を共にした響のマスターでもあり、このラビットハウスにも定期的に訪れている。

「お、今日人いねえのか」
「うるさいよ。カウンター前でいいよね?」
「おお」

 コウスケは頷いて、ハルトの前に腰を落とす。

「この前は響が世話になったそうだな」
「ああ、見滝原南のアレね」
「ああ、それってこの前の?」

 可奈美が話に入ってきた。

「可奈美ちゃん。電話は出前?」
「うん。チノちゃんに伝えてきたよ。ココアちゃんと張り切って作るってさ」
「分かった。それじゃ、俺が行くんだね」
「うん。でも、ちょっと時間かかるってさ。それでさ、今の話ってこの前ハルトさんが二日間かけて蒼井晶ちゃんを探してたときの話だよね?」

 蒼井晶。
 一度は聖杯戦争から脱落したのに、自らもう一度参加を選んだ少女。
 フォーリナー、時崎狂三と呼ばれるサーヴァントと契約し、当然その情報は仲間内では共有している。

「俺自身はどちらかと言うと響ちゃんに助けてもらった側なんだけどね。響ちゃんには本当に助かったよ」
「ああ、皆まで言うな。同じこと響にも言われたんだ。お前ら揃いも揃って謙遜しすぎじゃねえか?」
「そうかな?」

 でも実際そうだったんだから仕方ないじゃん、とハルトは付け加えた。
 アンチのことは余計な心配事として響と相談して伏せることにしたが、見滝原南に現れた怪鳥のことは包み隠さずに伝えてある。

「あはは……それよりハルトさん、コウスケさんの注文取ろうよ」
「ああ、そうだね。何頼む?」
「ああ……いつもの」
「どれだよ」
「アイスコーヒーだね!」

 ハルトの困惑を、可奈美が引き継いだ。
 笑顔を浮かべながらスタスタとカウンターの奥へ戻っていく。
 コウスケはコーヒーを淹れる可奈美の後ろ姿を眺めながら、にやりと笑みを浮かべた。

「なあ、ハルト」
「何?」
「可奈美って結構可愛いよな」
「いきなりだね」

 ハルトもコウスケと同じく可奈美の後ろ姿へ目をやりながら呟いた。
 可奈美の赤いラビットハウスの制服は、元々このラビットハウスに備え付けてあったものだった。聞けば、ココアの母親が友達のためにと無数に用意していたらしい。

「なあ、なあ」

 コウスケがにししと白い歯を見せながら、口元を抑える。

「お前、可奈美となんか間違いとかねえのか?」
「何期待してんの」
「お前そりゃ、同じ屋根の下で暮らしていて、何もねえなんてことはねえだろ?」

 間違い。間違い。

「……間違い!?」

 ようやくその言葉の意味を理解したハルトは、器官に水を入れてしまった。
 咳き込み、大きく背中を正した。

「びっくりした……何を言い出すかと思えば……そんなの、ないよ」
「お前マジかよ!?」

 コウスケはカウンターを叩いた。

「お前実は、世の中の男子が夢見る生活をしてるって自覚ねえな?」
「夢見る生活?」
「はいコウスケさん! アイスコーヒー」

 可奈美がコウスケが座るカウンターにアイスコーヒーを置いた。

「何? 何の話してるの?」

 至近距離にいたのに、話を聞いていなかったのか、彼女はぐいっと顔をハルトとコウスケの間に埋め込んできた。
 ハルトは手を振り、

「いや、何でもないよ? 別に……」
「何でもないってことはねえじゃねえか? 丁度いい」

 逃げようとするハルトの首を、コウスケがフックで引っ掻ける。
 小さく「グエッ!」と悲鳴を上げるハルトだが、コウスケは構わない。

「ぶっちゃけお前、ハルトのことどう思ってんの?」
「へ?」
「ストレートすぎるだろ! その反応次第で今後の俺と可奈美ちゃんの関係にヒビが入る可能性だってあるのに!」
「どうって……大好きだよ?」
「おおっ!」

 コウスケがさらに身を乗り出す。

「だって、いつも剣術の鍛錬に付き合ってくれるし! ハルトさんの剣にはいつもビックリだよ! やっぱり、魔法が混じって来ると普通の剣術とは全く違う引き出しがあるよね! この前の鍛錬の時も、色々……」
「だああああああっ!」

 可奈美が少しでも剣に関することを語り出したら止まらない。
 それを理解しているコウスケは、話を中断させるためにカウンターへヘッドバッド。
 大きな音が立つとともに、可奈美は体をずらして驚愕の表情を浮かべた。

「うわっ! 急にどうしたの?」
「カウンターを壊さないでね」
「そうじゃねえだろ!」

 悲痛な叫びを上げるコウスケ。

「なあ! ハルト!」
「何?」
「可奈美といい響といいあと友奈といい! 何でオレたちの周りの女子はこうも色気や浮いた話がねえんだよ!」
「ココアちゃんやチノちゃんも無さそうだしね」
「?」

 可奈美がはてなマークを浮かべている。

「あれ? 私、コウスケさんの質問に答えたよね? 私、ハルトさんのこと大好きだよ?」
「うん、ありがとう。でもそれはコウスケが望む答えじゃないってことは間違いないね」
「だああああああああっ!」

 再びどころか、コウスケは何度もヘッドバッドを繰り返す。

「もっとよぉ! 今時の若者らしく、もうちったあ浮いた話の一つや二つねえのかよ!?」
「俺たちに求められても困るよ」

 ハルトは可奈美と顔を見合わせる。
 可奈美は何が何だか理解していなさそうな顔でハルトを見返す。

「第一、お前だって響ちゃんとの共同生活長いでしょ? お前だってこそ、響ちゃんとなんかないの? ……そもそもサーヴァントとそういうのっていいのか?」
「バッカ言ってんじゃねえ! 響は確かに色々相棒としてはいいんだけどよ。こういう女って見方をすると……」

 コウスケが手で何かを示している。だが、ジェスチャーでは何も伝わらず、ハルトは「何?」と促した。

「響といると、全然女といると思えねえんだよ!」
「可奈美ちゃんもそんなタイプだと思うけど」

 ハルトは可奈美へ視線を流す。

「可奈美ちゃんも花より団子派だよね。……そういえば、刀使ってそういう浮いた話ないの?」
「浮いた話……?」

 そもそもそういう単語にさえ心当たりがない、という表情をしている可奈美に、ハルトは思わず噴き出した。
 そのとき、店の奥から新たな店員が姿を現す。
 水色の長髪が特徴の少女。現在ラビットハウスのシフトにいるメンバーの中では最も長らく働いているが、その外見は他の誰よりも幼く見える。
 ラビットハウスの看板娘であるチノは、ハルトを見上げながら言った。

「ハルトさん、注文のランチ出来ました。出前をお願いします」
「ああ、了解」

 ハルトは頷いてキッチンへ向かう。
 厨房に置かれているアルミ製の出前箱。その中にしっかりと保温材と注文のメニューが入っていることを確認し、抱え上げた。

「それじゃ、行ってくる……」
「コウスケさん、響さんはいないんですか?」

 出前箱に備えてある紐を伸ばし、肩にかけたところで、そんな会話が聞こえてきた。
 ハルトが目線を投げれば、チノがコウスケへ詰め寄っている。

「き、今日は来ねえよ。アイツに会いたいのか?」
「ええ……! とても!」

 チノの目がキラキラしている。決して他の人には見せないであろう彼女の表情を発動させる条件はただ一つ。

「相変わらず響ちゃんにお熱だね」

 ハルトは思わず微笑んだ。
 ハルトと可奈美が聖杯戦争に参加した最初の戦いで、チノは響に助けられた。その時、彼女は響に、同性ながら惚れてしまったようだった。

「アイツ今日はバイトだ。貧乏学生にアイツを養う余裕なんてねえよ」
「響ちゃんもバイトしているんだ」
「何のバイト?」

 可奈美も興味を持って尋ねた。
 コウスケはチノの顔を抑えながら、ため息をついた。

「コンビニだとよ。何でも、父親もコンビニで働いていたとかなんとか」
「どんな家庭事情だったんだろ?」
「さあな?」
「どちらですか? 響さん、どちらのコンビニで働いているんですか?」

 知って何するつもりだ、とハルトは尋ねる口を閉じた。
 すでにコウスケから響のバイト先を聞き出したチノは、可奈美へ振り返った。

「可奈美さん!」
「どうしたの?」
「私今日、シフトを離れます!」
「う、うん……え?」

 その時、可奈美の目が点になる。
 チノは引き続き、ハルトとコウスケに頼む。

「コウスケさん! 響さんのところに連れて行ってください! ハルトさんは、私をバイクに乗せて行ってください!」
「公私混同ってレベルじゃないな……」
「あはは……まあ、私はいいよ。どっちにしろ、この雨じゃ人も来なさそうだし」

 可奈美の快諾に、チノはぱあっと顔を輝かせた。

「ありがとうございます可奈美さん! そうと決まれば、早速行動です!」
「せめて出前を優先させてくれないかな……響ちゃんのバイト先ってどこ?」
「見滝原博物館の近くのコンビニだぜ」
「あー……」

 響と、見滝原博物館。
 それは、響が中心になって行われた聖杯戦争の一幕をいやでも連想させる。
 だが、そんな裏事情などを知らないチノは、水色の傘を持って店頭に立った。いつの間に用意したのか、同じく水色の合羽を着用している。

「こうして見ると、本当にチノちゃんって中学生には見えないよね」
「だよな。小学生には全然見えねえぜ」
「可奈美ちゃんはチノちゃんと同い年だったっけ?」
「同い年だよ」

 店から出ていったチノを見送りながら、可奈美は答えた。

「今年で中三。……私は今休学中だし、ラビットハウスでは16歳ってことにしてるけど」
「ああ……」

 ハルトは苦笑いを浮かべた。出前箱を背中に背負い、雨具を着込んで店の入り口に立つ。

「それじゃ、俺もそろそろ出前に行ってくるね」
「うん。気を付けてね」
「それじゃ、オレも帰ろうかねえ」

 コウスケは可奈美にコーヒー代を渡して、ハルトに続こうとする。

「何だ、もう帰るのか?」
「結局面白い話はなかったしな。お前に響の礼を言うのが目的だったしな」

 コウスケはそう言って、ハルトに続いてラビットハウスを出る。黒い雨模様を見上げ、「ああ……」とため息を付いた。

「傘、持ってきてねえんだよな……」
「予備のレインコート持ってこようか?」
「マジ? 助かるぜ」
「まあ、すぐにレインコートは回収したいから、見滝原公園に行く前に出前終わらせることになるけどいいよね?」
「ああ。全然ありがてえ」

 そうして、ハルトはコウスケに出前箱を背負わせ、二人乗りのマシンウィンガーで出前先へ行くこととなったのだ。 
 

 
後書き
ココア「あれ? チノちゃんは?」
可奈美「あ、ココアちゃん。さっき出ていったよ?」
ココア「ええっ!? どこに?」
可奈美「響ちゃんのバイト先。コンビニバイト始めたんだって」
ココア「うう……妹が、響ちゃんにどんどん傾いていくよ……」
可奈美(もう手遅れな気がする……)

チリーン

可奈美「あ、いらっしゃいませ!」
???1「ああもうっ! やっぱり雨降ってきちゃったじゃない!」
???2「はむ。いっぱい走った。もう疲れた」
???3「わにゃ、ごめんね二人とも。ちゃんと天気予報見てなかったから……」
???1「仕方ないわよ。えっと、喫茶店に飛び込んできちゃったけど……」
可奈美「いらっしゃいませ。こちらの席へどうぞ」
???1「ど、どうすんのよ? だれか、お金持ってきてる?」
???3「ご、ごめんなさい。すぐに出ますので……」
ココア「可愛い! 新しい妹たちが三人もやって来たよ!」
可奈美「ココアちゃん! 初めてのお客さんにいきなり抱き着かないで! あ、驚かせちゃってごめんね。えっと……」
???123「「「……!」」」
可奈美「ココアちゃん、ものすっごく警戒されてるよ!」
ココア「ええ……? でも、可愛い妹たちが……」
可奈美「これ以上警戒されるよりも先にアニメ紹介どうぞ!」



___羽ばたきのバースデイ 行けるよね 未来へとFly High ホラ目合わせて 笑いあったら Go!___



可奈美「天使の3P! あ、ビックリマークまでが正式名称だよ」
ココア「2017年の7月から9月まで放送していたアニメだよ! 可愛い三人の妹たちが……」
可奈美「妹じゃなくて、三人の女の子だよ!」
ココア「バンド活動をしていくアニメだよ!」
可奈美「失意の中に会った主人公、貫井響(ぬくいきょう)くんが、彼女たちと触れ合うことでだんだん気力を取り戻していくアニメだよ!」
ココア「女の子たち三人も、リトルウィングという孤児院で一生懸命に生きている! うん、やっぱり妹にしたい!」
可奈美「ココアちゃん今回なんかヤバイ! あ、大丈夫だよ三人とも。私がいるから、ココアちゃんには手を出させないようにするからね?」
???3「う、うにゃ……」
???2「はむ。通報はしない」
???1「まあ、のぞみの美貌に惹かれるのも無理ないわね!」
可奈美「こっちもこっちで逞しい人多いね」 
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