フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第8章 冥府の門編
第39話 悲壮
アレン・イーグル誘拐を皮切りに、マグノリアの上空で発生した大陸最強のギルト『フェアリーテイル』と闇ギルドバラム同盟最強の『冥府の門』の全面戦争に加え、三天黒龍の内の2体、黒闇竜アクノロギアと煌黒龍アルバトリオン、そしてそれまで一切の姿を現さなかったウルキオラ・シファーに加えて、黒魔導士ゼレフと天彗龍バルファルク。更には正体不明のドラゴン5体、炎竜王イグニール、天空竜グランディーネ、鋼鉄竜メタリカーナ、白鳳竜バイスロギア、影翔竜スキアドラムを主体として起こった『ファースト・ディマイス・ウォー』は、多大な被害を出しながらも、終息を迎えた。
後に評議院が得た情報は、大陸全土を駆け巡り、その悲惨なまでの戦いは、全ての人々を戦慄させる。
アレン・イーグルを含めたフェアリーテイルとイグニールを含めた5体の竜。
vs
黒魔導士ゼレフとウルキオラ・シファー、そしてバルファルクと冥府の門。
vs
アクノロギアとアルバトリオン。
評議院はこの戦いを、『三つ巴』と称して関係各所に伝達する。
この『ファースト・ディマイス・ウォー』と名付けらえた戦いは、『フェオーレクライシス』、『ドラゴンレイド』と並び、フェオーレ王国引いては大陸の存亡を脅かした戦いとして数えられる『四凶大戦』の一つとして名を連ねることになる。
この戦いでの被害は、マグノリア及びフェアリーテイルのギルド壊滅に加え、マグノリア近辺の大地崩壊などとなった。アクノロギアとアルバトリオンの出現に対して、圧倒的に被害を抑え込めたのは、アレン達の功績と言えるだろう。
しかし、この戦いにおいて出した死傷者は多く、冥府の門のほぼ全員に加えて、マグノリアの街で魔障粒子の回収および調査を行っていた王国兵士や評議院関係者ほぼ全て。さらに、後に人類側と称され、神のように崇められることとなるイグニール、グランディーネ、メタリカーナ、スキアドラム、バイスロギアと確定される。
また、この戦いにおいて敵と認するものの殲滅が敵わなかったことに、深い恐怖と絶望が生まれることとなる。
…しかし、評議院が敵として認知している黒魔導士ゼレフ、黒翼の悪霊ウルキオラ、天彗龍バルファルク、黒闇竜アクノロギア、煌黒龍アルバトリオンの襲撃及び戦いは、そう遠くない未来で発生することを知るのはまだ先の話であった。
フィオーレ王国国王トーマは、自らが派遣した王国の兵士達のほぼすべてが全滅し、命を落としたという報告に、絶望と戦慄を覚えた。
数少ない生き残りと、評議院から齎された情報から、煌黒龍アルバトリオンの一撃、『エスカトンジャッチメント』という、数多の命を一瞬にして奪い去る攻撃によるものだと聞き、息をするのも忘れるおど驚いた。
その報告の際に、ヒスイがフェアリーテイルの魔導士とアレンの息災を心配していたが、これに関してはアレンが発動した凄まじい魔法によって、無事であるという報告を受け、安堵の表情を浮かべることとなる。
しかし、アレンが大怪我を追っていること、フェアリーテイルのメンバー肉体的精神的ダメージが大きいことを聞くと、再び塞ぎこむようにして悲痛の表情を浮かべる。
王国側は、できる限り兵士の遺体を回収し、その家族へ還すとともに、街の復興と今後の対策に全力を注ぐべく、迅速な対応を開始した。
イグニールを下したアクノロギアと、メタリカーナ、スキアドラム、バイスロギアを下したアルバトリオンは、静かにマグノリアの街から遠ざかるようにして姿を消した。
その気になれば、その場にいるもの全員を滅することもできた両者の撤退に、アレンは怪訝な表情を浮かべるが、それを幸運ととらえ、とくに引き留めることはしなかった。
そして、この戦いにおいて、アレンは初めての大敗北を感じる。もし、ゼレフが、ウルキオラが、バルファルクが、アクノロギアが、アルバトリオンが撤退という選択を取らなかった場合、どのように足掻いても勝ち目はなかっただろう。屍鬼封尽という最終手段はあったが、精々2人が限界であり、そうなった場合にはウルキオラとアルバトリオンを封じ込める算段であったが、それでも自身の死という結果に変わりはないため、一先ず安心を漏らす。
そんな折、アルバトリオンの攻撃をくらった3体の竜、メタリカーナとバイスロギア、スキアドラムが、苦しそうに身体を持ち上げ、フェアリーテイルの近くにいるグランディーネの元へと歩み寄る。
「…どうやら、我らの敗北のようだな…」
「…不覚…」
「これほどまでとはな…」
「だが、最後に相応しい戦いだったわ…」
バイスロギア、メタリカーナ、スキアドラム、グランディーネは、口々に言葉を漏らす。
「最後…どういうこと?」
ウェンディはどこか不安そうに言葉を発する。その言葉を皮切りに、4体の竜は静かに口を開いた。
なぜ滅竜魔導士のもとから姿を消したのか、そして、今になって姿を現したのかを。
「つまり…もうすでに…」
ガジルは静かに、それでいて悔しそうに言葉を発した。
「そうだ…我らはすでに魂を抜き取られておる。我らも、そしてイグニールも死せる前の最後の力だった」
メタリカーナは抑揚をつけずに言葉を漏らす。
「どうか、炎竜王の尊厳に傷をつけることなかれ。イグニールほど勇敢で、人間を愛したドラゴンはいなかった…」
スキアドラムは、真っ黒に焼けこげ、地面へと伏しているイグニールへと視線を向けて言葉を放った。
その傍では、ナツが膝を着いている後姿が目に映る。それをみたアレンは、目を細め、ぐっと拳を握りしめる。
グランディーネはそれを見届けると、ゆっくりと目を閉じ、意を決したように口を開いた。
「もう、我々の命は数分と持たない…ですが、その前に…あなたの手で殺してはもらえないか…」
その言葉に、その場にいる全員が目を見開く。それはアレンも同様であったが、誰よりも早くその驚きを鎮める。
「そうか…やはり…知っていたのか…」
アレンは低くそう呟くと、ヒノエとミノトはどこか納得したように表情を戻す。
だが、ウェンディは信じられないと言った様子で口を開く。
「な、なにを言ってるの!グランディーネ!!」
他のメンバーも、ウェンディの言葉と同じ気持ちであった。
「我々ドラゴンは…アレンの大切なものをすべて奪った…」
その言葉に、皆は更なる衝撃を受ける。
「両親も、姉も、妹も、友も…そして…愛する女も…」
バイスロギアが、苦しそうに言葉を発する。その言葉を聞き、アレンは俯き、歯をギリッと噛みしめる。握った拳が震える。
その様子を見て、皆は掛ける言葉もなくただただ立ち尽くす。
「あなたは…我々ドラゴンを憎んでいる…そうですね?」
グランディーネの言葉を皮切りに、アレンは一本の太刀を換装して、ゆっくりと歩みを進める。俯いているせいか、その表情は見えない。そんな風にして歩みを進めるアレンに、フェアリーテイルのメンバーは何とか声を絞り出し、アレンを止めようと声を掛ける。
「お、おい…アレン…」
「な、なにを…」
「や、やめて…」
エルザ、ミラ、カグラが、目尻に涙を浮かべながら、ゆっくりとアレンに近づく。頭では分かっている。今のアレンに声を掛けてはいけないことを。先の話が事実であれば、私たちが干渉していい問題ではない。だが…だがここでもしアレンがあのドラゴン4体の命を刈り取れば、ウェンディ達との確執が生まれるのは必然だ。そんなことになって欲しくはない…。
ただその一心でアレンへと歩みを進めていたが、それはある2人の人物によって制止される。
「これ以上は…」
「進ませません…」
それは、ヒノエとミノトであった。その2人を見て、3人は理解する。そうだと…、この2人はアレンの過去を知っているのだと…。そこで、3人は歩みを止めてしまう。他の皆も、どうしたらいいのかわからず、絶望に似た表情を浮かべる。
アレンがゆっくりと、着実にグランディーネたちの元へと近づく。
…そして、今度はアレンとグランディーネたちの間に割って入るようにして4人の人影が見える。
バイスロギアの前にスティングが…スキアドラムの前にローグが…メタリカーナの前にガジルが…そして。
「や、やめて…ください…アレンさん…」
グランディーネの前にウェンディが立ちふさがる。なぜアレンがグランディーネ達へと向かって歩いているのか…そして、アレンの過去の一端を知ったウェンディ達は、苦しそうにアレンへと相対するようにして立ちふさがる。
ウェンディの言葉に、アレンはゆっくりと足取りを止める。
「ウェンディ…そこをどきなさい…」
「どかない!!!」
グランディーネの言葉に、ウェンディは涙をボロボロと零しながら大声を上げる。
ガジル達も、苦悶の表情を見せながら、アレンをじっと見つめる。
太刀を片手に、グランディーネ達へと近づくアレン。
アレンを止めようとするエルザ、ミラ、カグラ。
そんな3人を制止するヒノエとミノト。
アレンの歩みを止めようと、自身を育ててくれたドラゴンを守ろうとするウェンディ、ガジル、スティング、ローグ。
まるで、今にでも戦いが、フェアリーテイル同士での殺し合いが起こりそうな様子に、フェアリーテイルのメンバー…その中でも、レヴィとルーシィが涙を流しながら口元を手で押さえ、震えた声を発する。
「な、なによ…これ…」
「あ、悪夢でも…見てるの…?」
その言葉を皮切りに、フェアリーテイルのメンバーは更に苦悶の表情を見せる。
自身の大切なものの仇であるドラゴン…それを滅しようとするアレンの気持ちは痛いほどわかる。だが、同時に、自分たちを育ててくれたドラゴンを守ろうとするウェンディ達の気持ちも同じくわかる。そして、アレンに復讐を…アレンとウェンディ達の間に確執を、生みたくないという気持ちをもって歩みを進めるエルザ達の気持ち、更にはアレンが幼少の頃から関わりのあるヒノエとミノトの、アレンを想う気持ちも痛いほど、苦しいほどに分かるのだ。だからこそ、先のレヴィとルーシィの言葉が、深く胸に刺さる。
…歩みを止めたアレンは、ゆっくりを深呼吸を一つ下かと思うと、換装した太刀を前方へと投げ捨てた。
その様相を見て、皆が驚きの表情を見せる。
「アレン…」
太刀を投げ捨てたことで、グランディーネは小さく声を掛ける。
「…がう…」
「え?」
よく聞き取れなかったグランディーネは、アレンへ疑問を投げかける。
「違う…お前らは…俺の…大切なものを…奪ったドラゴンとは…違う…それに…」
「アレン…」
その言葉を聞き、メタリカーナが小さく呟く。それと同時に、アレンの頬から一粒の涙が零れ落ちる。それに気づいたウェンディ、ガジル、スティング、ローグが大きく目を見開く。
「…俺は…お前らの大切なもの…奪えねえよ…」
ウェンディ達に顔を向け、アレンは震える声でそれを呟く。アレンの左目から、ポロポロと涙が零れ落ちる。その様子を見て、ウェンディは更にボロボロと涙を流し、スティング、ローグ、ガジルの目尻にも涙が浮かぶ。
フェアリーテイルのメンバーも、顔を背けたり、地面に座り込むなどして、涙を流していた。
ヒノエとミノトも、目を見開いて驚いている。
グランディーネは、その言葉に酷く困惑していたが、ゆっくりと目を閉じ、口を開いた。
「ありがとう…」
それを皮切りに、スキアドラム達もアレンに言葉を掛ける。
「お前は、仇であるわし等の言葉を信じてくれた」
「一緒に戦ってくれた…」
「そしてなにより…」
「「「「我らの子どもに、手を出さないでくれた…」」」」
その言葉に、アレンはぐっと握りこぶしを作り、俯く。
「…ウェンディ…どうやら、そろそろお別れの時よ…」
その言葉を聞き、ウェンディはバッと振り向く。
「いや…言っちゃやだよ…グランディーネ!!」
ウェンディはまたも涙を流し、声を掛ける。そんなウェンディの頭にガジルは手を添える。
「見送ってやろうぜ、胸を張ってよ…アレンのためにも…」
ガジルのそんな言葉に、ウェンディは目を細めながらグランディーネを見つめる。
「我らは、あなたたちに何もしてあげられなかった…でも、あなたたちはきっと、自分たちの道を、自分たちの手で切り開いていける!私たちは…そんなあなたたちをいつまでも見守っている!」
グランディーネはそう言い放つと、ゆっくりと空へと飛翔していく。メタリカーナが、バイスロギアが、スキアドラムが、それぞれに我が子に声を掛ける。そして竜たちの身体は、次第に赤い光に包まれ、その姿を消失させる。少し離れた場所にいたイグニールの身体も、赤い光となって消えていく。
アレンはそれを見届けると、後ろを振り向き、膝から崩れ落ちる。
「ごめんな…カリン…お前との約束…守れなかった…」
アレンは小さくそう呟くと、地面に力なく座り込む。
「ッ…アレン…」
「う…うぅ…」
「くっ…」
アレンの力尽きたような姿に、エルザ、ミラ、カグラは苦しそうに声を漏らし、涙を流す。
そして、ヒノエとミノトが一歩アレンへと近づき、声を発した。
「本当に…本当に良かったんですか?アレンさん…」
ヒノエが悔しそうに言葉を掛ける。ミノトは何も言わなかったが、その顔は険しいものとなっていた。
「それ以上…」
アレンはそんな2人の疑問に答えるようにして、小さく呟く。
「それ以上…何も言うな…姉さん…」
初めて聞く、アレンの弱弱しく、それでいて苦しそうな言葉に、皆は驚き、涙を流す。
そしてそれと同時に、ヒノエとミノトが、アレンの元へと駆け寄り、抱きしめる。
ヒノエとミノトに抱きしめられたアレンは、更に涙を流し、呻きを漏らす。
「うっ…うう…うわああああああっっ…」
そして、アレンの悲痛の叫びが、天高く響き渡った。
戦いの幕が閉じ、避難してきた住民たちが、次の日の朝にはマグノリアの街へと戻ってきた。ハルジオンやオニバスの街に避難していた住民たちは、マグノリアで起こった戦いの一端を映像用ラクリマにて見ていたが、実際に自分たちの街が破壊つくされている様相を見て、言葉を失った。だが、王国から派遣された兵士の助けもあり、次第に皆が瓦礫撤去に勤しむようになる。
フェアリーテイルのメンバーも、日常生活を送るのに支障がない程度には回復していたため、ギルドの瓦礫撤去と並行して街の復興に当たっていた。
「ラクサス…お前、動いて大丈夫なのか?」
「あ?問題ねえよ」
エルザは、メンバーの中でも傷の深いラクサスが撤去作業に打ち込んでいるのを見て、心配そうに声を掛ける。
「ほんと、タフなやつね…」
「無理すんじゃないよ」
ウルティアとウルも、そんなラクサスに呆れたように口を開く。
「…アレンの奴に比べたら、大したことはねえ…」
ラクサスが小さくはなったその言葉に、周りの皆の手が止まる。
「…そ、そうね…」
「ああ…あれからアレンを見ていないな…」
ミラとカグラが、記憶を探るようにして言葉を発する。アレンの過去、その全てを知ったわけではないが、グランディーネなどドラゴンとの会話、そしてアレンとヒノエ、ミノトの反応から大方の様相はついていた。
「アレンは…一度すべてを失っていたのね…」
「…ドラゴンに…その…」
「殺されたってことよね…」
ミラ、カナ、ウルティアが息を漏らすようにして言葉を発する。
「…だからアレンさんは…三天黒龍を…」
「…命を賭けてまで倒そうとする理由が…わかったわんだゾ…」
ユキノ、ソラノも苦しそうに口を開く。そんな風に会話をしていた皆であったが、青い髪を腰まで伸ばした小柄な女の子がゆっくりと近づいてくる。
「…ウェンディ…」
その人物を捉えたエルザが、静かに口を開いた。ウェンディは、どこか絶望に似た表情を浮かべていた。
「わたし…わたしは…」
ウェンディがなぜ、そんな表情を浮かべているのかを察した皆は、すっと視線を下に落とす。
「一体アレンさんに…なんて声を掛ければ…」
ウェンディの頬から、ポロっと涙が伝う。それを見て、皆がゆっくりと握り拳を作る。ウェンディは、自身を育ててくれたドラゴンを、グランディーネを守ろうとしただけだ。何も悪いことはしていない。むしろ当たり前の行動であった。だが、それがアレンにとってはどうだったかと考えると…また話は違ってくる。そんな二律背反の様に、ウェンディ含め、皆苦しんでいたのだ。だが、そんなウェンディの頭をそっと撫でる人物が現れる。
「ッ…ラクサスさん…」
「大丈夫だ…心配いらねえ…」
ラクサスはウェンディの頭を優しく撫でながら、ゆっりと語り掛けた。
「ッ…ラクサス…あまり無責任なこと…」
「俺たちのアレンは、そんなに弱い人間じゃねえ!」
ウルティアがラクサスに語り掛けるが、ラクサスはそれをかき消すように声を荒げる。その声に、皆が目を見開いて驚く。
「もしアレンが…本当の意味で憎しみに、復讐に取りつかれていたら…なんでナツは生きてんだ…」
その言葉に、皆が気付いたように目を細める。
「…もし本当に、全てのドラゴンを、その力を持つものを滅するのが目的だったなら、7年前に、ナツはアレンに殺されているはずだ…もちろん、ガジルやウェンディ…セイバーの2人もな…」
ラクサスはゆっくりとウェンディの頭から手をどける。
「だが、アレンはそれをしなかった…。それどころか…ナツの成長を見守り、ウェンディとガジルにも修行をつけた…あのドラゴンたちも言っていただろう…『俺たちの子どもに手を出さないでくれた』…ってよ」
エルザ達は、ラクサスの言葉に、ゆっくりと息を漏らして同意する。
「アレンは…あいつは、物事の曲直正邪がわかる人間だ…ドラゴンにも良い奴と悪い奴がいる…。それが分かったからこそ、ウェンディ達を育て、大切に思うドラゴンを…、そしてウェンディ達に手が出せなかったんだ…。。例えそれが…」
ラクサスは言葉を詰まらせ、ゆっくりと意を決したように口を再度開く。
「愛する女との約束でも…」
その言葉を聞き、ウェンディは膝を着き、両手で顔を覆った。エルザ達も、小さく目尻に涙を浮かべ、ぎゅっと目を閉じる。一体どれほどの葛藤が…執念が…アレンを襲い、絶望が…覚悟があったのか…。エルザ達は、それを想像するだけで、今にも涙が溢れそうであった。ラクサスも同じくそんな気持ちを持っていたが、それをぐっと抑え、ゆっくりとウェンディを見つめる。
「だから、アレンは大丈夫だ…。落ち着いたらまたギルドに帰ってくる…。またいつもみたいに、ナツもガジルも一緒に…皆で笑いあえる日が来る」
「ッ…!はい!ありがとう…ございます…ラクサスさん…」
ウェンディは自信を勇気づけてくれたラクサスに、声を震わせて礼を言う。エルザ達も、ラクサスの言葉に勇気づけられ、ゆっくりと明るい表情を見せる。ラクサスも、そんな雰囲気に暫し感銘を受けていた。そう…それ故に、この後の言葉に、特に考えもせずに、流れで反応してしまった。
「おい、ラクサス、この瓦礫、向こうに持ってってくれ」
「ああ……あ?」
ラクサスは吐き捨てるようにして言われたその言葉に、一度返事を返したが、その声の主を頭で理解すると、思わず疑問を投げかけてしまった。
「ア…アレン?」
「な、なんで…」
エルザ、ミラも酷く驚いた様子で目を見開く。
「なんでって…瓦礫運んできたんじゃねーか…」
アレンは何言ってんだこいつら…と言った様子で怪訝な表情を見せる。
「い、いや…だって…」
「その…」
カグラ、ウルティアもうまく口が回らずにしどろもどろと言った様子であったが、それはアレンの後ろからくる人物により、更なる衝撃を見せる。
「おーい、アレン!俺も瓦礫持ってきたぞー!!」
「ナ…ナツ…」
その言葉に、ラクサスも思わず狼狽する。アレンと同様に、酷く落ち込んでいると思っていた皆も、目を震わせ身体を固める。
「おう、ナツ!ここ置いとけばラクサス達が引き継いでくれっから!」
「おお、そうなのか!わりーな、皆…んじゃ、もういっちょ行くか、アレン!」
思いっきり固まっている皆に特に反応することもなく、2人は会話をしながら、ラクサス達から遠ざかっていく。その場にいるものは皆、2人の背中を見つめるようにして眺める。
別に何事もなかったかのような2人の姿に、ラクサスは思わず引きつった笑いを見せる。
「ま、まあ…俺の予想よりは…持ち直しが早かったってことだな…」
ラクサスの言葉を皮切りに、皆も大きくため息をつきながら安心したようにして座り込み、そしてそれは次第に笑いを生み、陽光たる雰囲気を見せるに至った。そんな雰囲気の中、皆と一緒に笑いを浮かべていたウェンディであったが、思い出したようにしてアレンとナツが遠ざかっている方向へと目を向ける。
アレンは、鉄くずを食べてさぼっているガジルにチョップをかますと、またナツと一緒に瓦礫をもってこちらに近づいてくる。
そんなアレンの姿を目に移しながら、ウェンディは小さく呟いた。
「本当に…ありがとうございます…アレンさん…」
そして、ウェンディはそんなアレンに駆け寄るようにして足を踏み出した。
『四凶大戦』のうちの一つとして数えられる『ファースト・ディアイス・ウォー』から1週間が経った頃、マグノリアの街も徐々に復興の足取りを見せていた。
フェアリーテイルのギルドも、青空天井の仮設途中ではあるが、仕事受注を開始し、騒がしさを見せるようになった。
そんな風にして日常が戻りつつあったが、実は昨日の同じ時間帯、フェアリーテイルの仮設ギルドは、神妙な面持ちを見せていた。
その理由は、いくら相手が闇ギルドであっても、ギルド間抗争の条約に違反してしまったからだ。皆は、一人ずつ事情聴取という形で来訪した評議院の関係者に話を聞かれたが、アレンの誘拐に、その後に起こった竜種等の襲撃など、猶予すべき点が多いということで厳重注意に留まった。
その際、ギルドメンバー全員が一堂に会していることもあり、皆に先の戦いについての皆で情報の共有が行われた。
・ENDというゼレフが作った史上最高の悪魔の存在
・アレンと同等かそれ以上の力を持つ、ウルキオラ・シファーという存在。それに付随して虚と破面という存在。更にはウルキオラよりも上位の破面の存在が3体いるということ。しかし、これに関しては評議院の側も未だ確認していないこと。
・アレンとヒノエ、ミノトの3名は、この世界からはるか遠くの世界からやってきたこと。そして、3人の世界はアースランドにおいて、『竜満ちし世界』と言われていること。伝承にのみ登場してくる世界だという認識のため、詳細な情報がないことが、評議院から齎された。また、ウルキオラに関しては、アレン達のいた世界とはまた別の世界であり、これに関しては一切の情報がないとした。これに関しては、黒魔導士ゼレフが関わっているのではないかと決定つけた。
・アレンの虚化について。アレン本人から話をしたが、暴走を止めることはできたが、力を使いこなすには至っていないこと。自分の中にもう一人の自分がいる感覚を伝えた。
・アクノロギアと、アルバトリオンのこと。そして、バルファルクの生態と弱点など。
・残る三天黒龍の一角であるミラボレアスの情報は今のところ有益なものはなく、現在も評議院が調査中ということ。
など、あげればきりがないが、この戦いで分かったことを皆が意見と情報を出し合いながら
話し合いを進めた。
ちなみに、アレンの過去については、特に話に上がることもなく、皆が以心伝心したかのよ
うに、詮索するような真似はしなかった。
アレンとしても、特に話しても話さなくても意味がないと感じ、また皆の負担になっては
ならないと思い、自分から話すこともしなかった。
さて、そんな風にして昨日は非常に暗く、真剣な面持ちを見せていた仮設ギルドであった
が、そんなことを忘れたかのような騒ぎに、アレンはふっと笑みを零す。そんなアレン様子をミラが、不思議そうにアレンへと問いかける。
「どうかした?」
「んん、いや、やっぱこのギルドは騒がし…あ…」
アレンは、ミラの言葉に反応して見せたが、右側に置いていたカップに手をぶつけてしまい、中に入っていたコーヒーが零れてしまう。ミラはそれを見て、布巾で拭き上げる。
「大丈夫?」
「わりいな、ミラ…両目があった頃の感覚が抜けなくてよ…」
アレンは暗くなった視界を認識するようにして言葉を漏らした。その言葉に、ミラや周りにいるものの表情が暗くなる。
「その…ごめんなさい…」
「…何言ってんだよ…ミラのせいじゃねえよ」
ミラは、思い出したくない過去を思い出してしまい、ぎゅっと手を握り、小さく震える。そんなミラの手をアレンは優しく包み込む。アレンに手を添えられたことで、ミラは小さく赤面する。そんな風にしていると、斜め後ろからエルザが近づいてきた。
「アレン…いにしえの秘薬は…作れたりしないのか?」
「あー、その点に関しては、ポーリュシカさんに声かけてあるんだ」
アレンの言葉に、ミラは希望を孕んだ声を滲ませる。
「も、もしかして…作れそうなの?」
「んー、現状何とも言えないんだよな…いにしえの秘薬には活力剤ってのとケルビの角が必要なんだけど、このケルビの角ってのがないんだよねー…。俺の世界のモンスターだから、この世界にもいないし…」
アレンの言葉に、ミラとエルザは少し落ち込んだ様子を見せるが、あることに気付いたウルティアがアレンに尋ねる。
「ヒノエとミノトが持ってたりしないの?」
「あー、残念ながら…」
「そうか…」
アレンはその質問に否定で答えると、ウルティアが一つため息をつく。すると、エルザの表情が険しいものになる。
「あの時…私に使っていなければ…」
アレンはその言葉を聞き、突然ガタッと立ち上がると、エルザの前に立ち塞がるようにして距離を詰める。
「ア…アレン…?ひゃっ!!」
そんなアレンの様子に驚いていたエルザであったが、ガバッとアレンに抱き着かれたことで、更なる驚きを見せる。ギルドの皆も、アレンの突然の行動と、エルザの女の子みたいな声に目を見開く。
「お、おい…ひゃって言ったぞ…」
「か、可愛いな…」
いつもまるで猛獣のようなエルザの、乙女の声にナツとグレイが顔を赤らめながら言葉を漏らす。
「ア…アレン…何を…///」
エルザは、強く抱きしめてくるアレンに、思いっきり赤面するが、同時に自身が鎧をまとっていることに気付き、普通の服へと換装しようと考える。だが、そう思った矢先、アレンはエルザから身を剥がしてしまった。アレンの温もりを身体全体で感じるチャンスを逃してしまったエルザは、すこし残念そうにしていたが、その後のアレンの言葉に、そんあ思考は吹っ飛ぶ。
「…ありがとな、エルザ。だけど、もしあの時、俺の目がつぶれるとわかっていても、俺はお前に秘薬を使ったよ…お前の可愛い顔が眼帯で隠れるのは、もったいないだろ?」
アレンはニカッと笑ってエルザにその顔を向ける。エルザは、そんなアレンの言葉と顔に、思いっきり顔を真っ赤に染て俯いてしまう。そんな2人のいちゃいちゃぶりに、ミラは頬を膨らませてアレンに声を掛ける。
「ねえねえ、アレン、私も可愛い??」
「ん?もちろん可愛いぜ、ミラ」
「ふふっ、ありがと!」
ミラは照れくさそうに言葉を発し、顔を少し赤らめる。ウルティアはそんな2人の様子に小さくため息をつくと、何やらアレンが気付いたようにごそごそとポケットを漁っているのが目に入る。
「なにしてんの?アレン?」
「いや…確かここに…あったあった…じゃーん!!」
アレンはまるでお披露目するかのように、ポケットからとあるものを取り出す。
「…眼帯?」
「そうそう…作ってもらったんだよ…」
ウルティアの短い問いに、アレンはゆっくりと答えながらそれを身に着ける。
「どう?いい感じじゃね?眼帯にギルドマークも入れてもらったんだぜ」
まるで新しいおもちゃを買ってもらったように喜んでいるアレンの姿に、3人はふふっと笑いを漏らす。
「なんだよ…そんなに似合ってないか?」
「いや、そんなことないさ…」
「とってもすてきよ…」
「ああ、よく似合っている…」
アレンの不満そうな言葉に、3人は優しく否定するようにして言葉を漏らした。
ページ上へ戻る