英雄伝説~西風の絶剣~
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第69話 姫の恋
前書き
空の軌跡で海賊にまつわるサブクエストがありますが、こちらの作品ではイース8に出てきたキャプテン・リードというキャラで話を作っていくのでお願いします。
side:フィー
「いやぁ、まさかエステルちゃんとフィーちゃんにまた会えるなんて嬉しいわ!これも空の女神のご加護って訳やな」
「調子いいこと言うね。身内にも似たような人がいるよ」
「そうなんか?そりゃ俺みたいなイケメンさんなんやろうな~」
「ん、やっぱり似てる。胡散臭い所とか特に」
「いやなんでやねん!?」
わたしとエステルは子供達を連れてマーシア孤児院に向かっていた。でも何故かケビンまで一緒に付いてきている。
「なんで一緒に付いてくるの?」
「つれない事言わんといてや。前に相談受けた仲やろ?」
「まああの時は助けられたけどそれとこれとは話が別、何が目的なの?」
「女の子や子供達だけやと不安やしな、まあ二人は強いのは分かっとるけどそれでも魔獣に囲まれたとか不意を突かれたとかもしもの事があったら大変やろ?授業を受けてもらった以上子供達を安全に返すのも巡回神父の務めさかい」
「へー、良い所あるね」
「あと孤児院の先生がえらい別嬪さんやって聞いたからお顔を見ておこうかと思うてな」
「宣言撤回、やっぱり胡散臭い……」
うーん、やっぱり怪しいよね。見た目の軽さに騙されそうになるけど凄く鍛えている。この場で戦闘になったらマズイくらいには強いよ、この人。
「フィルお姉ちゃんはケビン先生と知り合いなの?」
「うん、前にちょっとね」
マリィがわたしとケビンの関係を聞いてきたのでとりあえず肯定しておいた。
「そういえばフィル、リート兄ちゃんとヨシュア兄ちゃんは一緒じゃないのかよ?」
「えっと、今二人は別のお仕事があって別々に行動してるの」
「そっか、二人にも孤児院が元通りになったのを見てもらいたかったんだけどなぁ」
「残念です……」
リィンやヨシュアがいないことに子供たちは残念そうにしていた。
リィンは兎も角ヨシュアは今はいないから会わせることが出来ないんだよね、エステルも複雑そうな顔をしてるよ。
「大丈夫よ、今度また二人も一所に会いに来るから」
「ん、約束するよ」
わたしとエステルがそう言うと子供達も納得してくれた。その後孤児院に戻ったわたし達はテレサからお昼ご飯をご馳走してもらいポーリィから白い影についての情報を教えてもらうことが出来た。
「そういえばマリノア村で幽霊船を見たって話を聞いたんだけど皆は何か知らない?」
「俺は知らないぜ、前に夜中に見に行こうとしたらテレサ先生に怒られたんだ」
「当たり前でしょう?夜中に外に出たら危ないじゃない!」
エステルが幽霊船について聞くとクラムがそう話す、それを聞いていたマリィが溜息を吐いた。相変わらずしっかりしてるね、マリィは。
「確か灯台のお爺さんが最初に見つけたって聞いたよー」
「ダニエル、それ本当?」
「うん、村の人たちがそう言ってたよ。ねっ、ポーリィ」
「うん、仲のいい子に教えてもらったのー」
ダニエルとポーリィから灯台のお爺さんが最初に幽霊船を見つけたと教えてくれた。わたしたちはテレサと子供たちに惜しまれながらも別れて灯台に向かうことにした。
「それでなんでケビンまで付いてくるの?」
でも何故か関係の無いケビンまでわたしたちに付いてきた。
「二人は遊撃士やから教えるけど俺は唯の神父じゃないんや」
「えっそうなの?」
「せや、俺は古代遺物を回収したり怪しいモンを調査する役目もあるんや。ルーアンに来たのは古代遺物を回収する為でもあってな、前の市長だったダルモアってゆう男が所持していた封じの杖を取りに来たって訳や」
「あっ、それって……」
「エステルちゃんがかかわっていたことも聞いてるで。ホンマ感謝やわ、おおきにな」
「えへへ、どういたしまして」
オリビエから聞いたけどダルモアが古代遺物を持っていたんだっけ。ケビンは教会の命令でそれを回収しに来たって事か。
「んでそいつを受け取ろうとしてこのルーアン地方に来たら白い影だの幽霊船だのと聞いてな、もしかしたら別の古代遺物が関係しとるかもしれんと思った訳や」
「幽霊が古代遺物と関係がある?それって本当なの?」
ケビンは今ルーアンで目撃されている白い影や幽霊船は古代遺物が関係してるかもしれないと話す。
「せや、こういった摩訶不思議な現象には大抵古代遺物が絡んどる。ほうっておくわけにはイカンやろう?」
「だからあたし達に付いてくるって事ね、理解したわ」
エステルはそう言うがわたしはケビンが付いてくるのは不安だった。リィンの力の事を知られたらそれを教会に報告されるかもしれないからだ。
(でも下手に断ったら勘繰られるかもしれないし……リィンに鬼の力を使わないように言っておこう)
わたしは内心ケビンを警戒しつつ同行してもらうことにして3人で灯台に向かった。
―――――――――
――――――
―――
「ここが灯台か、俺灯台を直に見たのは初めてやな」
「そう言えば前の事件でここに情報部に操られたレイヴンと戦ったのよね」
「クーデター事件の事やな、エステルちゃん意外と凄い子なんか?」
「あはは、あたしが事件に巻き込まれやすいだけよ」
エステルはそう言うが確かにどこに行っても何かしら事件に巻き込まれるのはある意味凄いかも、リィンみたいだね。
「お爺さんは一番上にいたわね、行きましょう」
わたし達は灯台の中に入って幽霊船を見たというお爺さんのいる部屋に向かった。
「フォクトお爺さん、こんにちは!」
「ん?おおっ、お前さんはいつぞやの遊撃士か。久しいな」
エステルと顔見知りだったお爺さんは笑顔で迎えてくれた。
「あの時は本当に助かったよ、ワシがこうして今も灯台守をしていられるのもお前さんのお蔭じゃ」
「そう言って貰えると嬉しいわ」
「それで今日はどうしたんじゃ?」
「あのね、お爺さんが見たっていう幽霊船について話しを聞かせてほしいの」
「幽霊船か……あれを始めてみた時は身震いしたわい」
お爺さんはよっぽど怖かったのか顔を青くしていた。
「ワシが幽霊船を見たのは3日前の夜中じゃった。灯台の光に照らされている海を見ていたら不意に青い炎を纏った船が目に映ったんじゃ」
「あ、青い炎!?」
「うむ、しかも船はボロボロでマストには髑髏のマークが刻まれていたんじゃ。あれは間違いなく大昔にこの辺りを荒らしていたという海賊『キャプテン・リード』の船に違いない!」
「キャプテン・リード?どんな奴なんや?」
キャプテン・リードという言葉にケビンが反応した。わたしもルーアンにそれなりにいた事があるけど聞いたことがないね。
「キャプテン・リードというのは大昔にルーアン地方で活動していた海賊の事じゃ。悪逆非道の限りを尽くしたという恐ろしい海賊だと言い伝えられてきたんじゃ。今ではワシのような老人くらいしか知らんがな」
「そんな酷い人がいたんだ……それでお爺さんはそのキャプテン・リードって海賊が幽霊になってさまよってるって思ってるの?」
「そうじゃ、あの船には恐ろしい骸骨の化け物も乗っておった!3日前から毎晩現れて今はまだ沖の方を徘徊しているだけじゃがもし奴らが村にでも向かったら思うと……」
「怖いね……」
骸骨の化け物か、確かにそんなのがいるって分かったら不安でしかないよね。
「とにかくワシが話せるのはこのくらいじゃな」
「ありがとうお爺さん、凄く助かったわ!」
「そうか?力になれたのなら良かったわい」
お爺さんから情報を貰ったわたしたちは灯台を後にした。
「ケビン、お爺さんの話を聞いてどう思った?」
「キャプテン・リードかどうかは分からへんけど古代遺物が絡んどる可能性はありそうやな。前に死体を操ってグールにしてまう古代遺物を回収した事があるんよ」
「グールって何?」
「ホラー系の小説に出てくるゾンビみたいなモンやな」
「ゾ、ゾ、ゾンビぃっ!?」
わたしはケビンに質問すると彼は目に似たような古代遺物を回収したと話す、その話の中に出てきたゾンビという言葉にエステルは顔を青ざめて叫んだ。
「ゾンビは嫌よ!まだ触れられない幽霊の方がマシだわ!だってゾンビって噛んだ相手を同じゾンビにしちゃうんでしょ!?」
「それは小説の内容にしかすぎんと思うんやけど……とにかく一回その幽霊船に近づいてみんことには話が進まへんな」
「うう~、ゾンビやだ~……」
余程嫌なのか凄い引き攣った顔でエステルは泣き言を言う。
「まあとにかく今は情報をギルドに伝えに行こう。話は其れからだよ」
「そうね、行きましょうか……」
テンションの下がったエステルを引っ張ってわたし達はルーアンに戻った。
―――――――――
――――――
―――
「ただいま~」
「お帰り、フィー」
ギルドに変えるとリィンが迎えてくれた。先に帰っていたんだね。
「情報は得れたの?」
「ああ、白い影について話しを聞くことが出来たよ」
「そっか、こっちも収穫はあったよ。あと孤児院の子供たちがリィンにも会いたがってたよ」
「そうなのか?なら何処かで時間を作って会いに行かないとな」
「うん、そうしようね」
リィンに孤児院の子供たちが会いたがっていたと話すと彼は時間を作って会いに行こうと言ったのでわたしも頷いた。
「そう言えば知らない人がいるけど……貴方は?」
「初めまして。俺は七曜教会に所属している巡回神父のケビンっちゅうもんですわ」
「あっ、これはご丁寧にありがとうございます。リィンと言います」
リィンは初めて会うケビンとあいさつを交わした。
「もしかして以前フィーの力になってくれた神父の方ですか?その節は本当にありがとうございました」
「かまへんよ、神父として迷える人を導いただけですさかい。所でお兄さんはフィーちゃんのご家族ですか?」
「ん、恋人だよ」
「お、おいフィー!それはまだだろう!?」
「いずれそうなるから」
「なんや、フィーちゃんも隅に置けんなー」
わたしはリィンの腕に抱き着いて恋人だというとリィンは慌ててしまった。そんな様子を見てケビンはニヤニヤと笑っていた。
「ところでエステルはどうしたんだ?なんだかテンションが低いけど……」
「ちょっとね。そういえばアネラスは?」
「姉弟子ならそっちでドロシーさんの取った写真を見てるよ」
リィンが視線を向けた先には二人の男女がいた。あの人達って確か新聞記者のナイアルとドロシーだっけ。ルーアンに来ていたんだ。
「あれ?ナイアルじゃない、どうしてルーアンにいるの?」
「ようエステル、久しぶりだな。俺はドロシーと一緒に選挙について取材しにきたんだが……昨日ドロシーがある物を写真に収めたから情報提供をしにギルドを訪ねたって訳よ」
「ある物?」
「ああ、実際に見て見ろよ。おいドロシー、例の写真をエステル達に見せてやってくれ」
「はいはーい、久しぶりだねーエステルちゃん」
「久しぶりね、ドロシー。一体何を写した……の……」
ドロシーはそう言うと持っていた写真をわたし達に見せてくれた。そこには夜のルーアンの空に浮かぶ白い影がハッキリと映っていた。
「これって心霊写真か?」
「バッチリ写ってるね。これはもう幽霊で間違いないかも……」
「い、いやぁもしかしたらオーバルカメラの故障かもしれないじゃない」
「そんなことないよー、整備もしたばかりだしレンズだって新しいのに変えたから間違いなく本物だよ」
「間違いだって事にしてよー!!」
「エステルちゃん怖いよ……」
がおーと怒るエステルにドロシーはビックリしていた。でもやっぱり白い影の正体は幽霊なのかな?
「た、大変だ!?ラングラング大橋の前でノーマン氏とポルトス氏の支持者たちがにらみ合いを始めたんだ!このままだと暴力沙汰に発展するかもしれない!」
「あんですって!?」
ギルドに一般人が入ってきて橋の前で喧嘩が起きそうだと教えてくれた。それを聞いたナイアルとドロシーは現場に向かった。
「流石記者、動きが早いね」
「一応私達も行こう、喧嘩になったらマズイからね」
「ええ、行きましょう」
流石に放っておけなかったので喧嘩が起きそうになっている場所に向かった。
―――――――――
――――――
―――
ラングラング大橋に向かうとそこには大勢の人間が言い争っていた。ノーマン氏とポルトス氏は比較的冷静だけど取り巻き達が凄い怒っていた。
どうやらノーマン氏側が白い影の騒動をポルトス氏側の勢力の仕業だと言いがかりを付けているみたいだね。言い争いは過熱していっていつ暴力事件になってもおかしくない状況だ。
「どうしよう、止めた方が良いのかな?」
「まだお互い言い争っているだけだしちょっと早いかもしれないね」
アネラスが止めた方が良いかと言うけどわたしは待ったをかけた。今は言い争っているだけだしこの段階で介入すると火に油を注いでしまうかもしれないしね。
「ただ橋の上ってのがアカンわ。直線になってるから人ごみで狭くなっとる」
「ええ、いざ喧嘩が始まったら海に落ちて怪我をしてしまう人も出そうですし場所だけでも移せないですかね?」
「それが良いね」
ケビンの言う通りこんな狭い橋の上ではケンカが始まったら止めるのは難しいね、リィンの提案にわたしは頷いた。
「もう我慢ならねえ!てめぇらみてえな貧弱な奴らが俺達に勝てると思うなよ!」
「そっちがその気ならこっちだって応戦するぞ!」
等々我慢の限界が来たのか取り巻きの人の一人が握り拳を作り威嚇する。それを見た相手側も戦闘態勢に入った。これは止めないといけないね。
「ふっ……哀しい事だね」
わたし達が喧嘩を止めようとすると海の方からボートが流れてきた。その上にはリュートを持った金髪の男性がいてそれを見たリィンは片手で顔を覆い隠して空を見上げた。
「争いは何も生み出さない、虚しい亀裂を生み出すだけさ。そんな君たちに歌を送ろう」
そして金髪の男性はリュートを弾きながら歌い始めた。けっこう上手いね。
「ありがとう、どうやら僕の気持ちは伝わったようだね。それでは諸君の期待に応えて二曲目を……」
「もういい!!」
「げふっ!?」
いつの間にか橋の中央に移動していたリィンが二曲目を歌いだした金髪の男性にドロップキックをかました。
男性はボートから落ちて海に転落してリィンは宙返りしながら橋に降り立った。お見事。
「……なんか冷めたな」
「ああ、俺達も熱くなり過ぎていたよ、済まない」
「お互い様だ。こちらこそ申し訳なかった」
どうやら両方の勢力は頭を冷やしたらしくお互いに謝罪をしていた。そして橋の上から去っていった。
「さて俺達もギルドに帰りましょうか、それぞれが手に入れた情報を合わせないといけないですから」
「いや、あの……彼は助けんくってええんか?」
「何もいませんよ、あそこには。なにもいないんですよ……」
「リィン君、ヘルプミ―!!」
ケビンは金髪の男性を助けないのかとリィンに聞くが彼はそれを無視する。海に落ちた男性はリィンに助けを求めていた。
「相変わらず面白いね、オリビエは」
わたしはそう言って海に落ちた金髪の男性……オリビエを助けることにしたのだった。
―――――――――
――――――
―――
「いやぁ、久しぶりの再会に熱い一撃をくれるなんてリィン君は激しいね♡なんだったら今夜二人でホテルにでも……」
「氏んでください」
「えっ?」
心底嫌そうな顔でそう言うリィン、まあ気持ちは分かるよ。
「なんであんたがここにいるのよ、オリビエ」
「いやぁとあるツテで君たちが帰ってきた事を聞いたから会いに来たのさ」
「相変わらず胡散臭いヤツね、素直に喜べないわ」
教えてもないのにわたし達の行動を把握していたオリビエにエステルが呆れていた。
「でも元気そうで何よりだよ、流石はエステル君だね」
「まあ心配してくれたのは事実だろうしここは素直にお礼を言っておくわね、ありがとうオリビエ」
「なっ、エステル君が素直!?コレはコレでいいんだけどなんだじゃ物足りないな。もっと前みたいに激しく情熱的に僕を攻め立てて……」
「顔を赤らめながら不穏な発言するのはやめい!」
変態チックな事を言い出したオリビエにエステルが迫真のツッコミをした。二人で漫才でもしたら面白いかもしれないね。
その後わたし達はオリビエの助言もあり白い影が何処から来たのか絞ることが出来た。その場所は何とジェニス王立学園だったのでわたし達は直にそこに向かう事になった。
ただ幽霊船の方も放ってはおけないのでそちらはリィン、アネラス、ケビンが担当する事になった。三人はジャンが手配してくれた導力ボートに乗ってマリノア村に向かう予定だ。
「んで当然のようにあんたも付いてくるのね」
「そりゃこんなおもしろそうな事を見過ごすわけにはいかないからね♪」
案の定勝手に付いてきたオリビエ、でも言っても聞く人じゃないし監視していた方が良いと同行を許した。リィンは心底嫌そうだったけど。
因みにオリビエはわたし達の方に付いてくるそうだ、なんでも女の子二人だけじゃ危ないから自分が盾になるって事らしい。
まあリィンはわたしやエステルに変な事をするなって脅していたけどね。
「それじゃ私達は幽霊船の方を調査するわね。エステルちゃん達も気を付けてね」
「うん、アネラスさん達も気を付けてね」
そしてボートに乗り込むリィン達、でもわたしはリィンに近寄って耳に口を近づけて小声で話す。
「リィン、鬼の力は……」
「分かってる、ケビンさんがいるときは極力使わないようにするよ」
こちらの意図を直に察してくれたリィンにわたしはうんと頷いた。
「フィー、何をしてるの?」
「何でもないよ、行ってらっしゃいリィン」
エステルに何をしているのか聞かれたので誤魔化す為に彼の頬にキスをする。リィンは顔を真っ赤にしたけど誤魔化すためだからしょうがないよね。
そしてリィン達を見送った後わたしは取材に向かうドロシーを護衛しながらエステルと共にジェニス王立学園に向かうのだった。
―――――――――
――――――
―――
「クローゼに会えるのは嬉しい、元気にしてるかな」
「早く会いたいわね~」
「ふふっ、きっとすっごく喜んでくれるよ」
「僕も楽しみだよ」
「あんたには聞いてないわよ」
ジェニス王立学園にいるクローゼに久しぶりにわたしとエステルは会うのを楽しみにしていた。
そして門の前にわたし達が付くとそこにはある人が立っていた。
「クローゼ!」
「フィーさん!」
わたしはクローゼに駆け寄ると再会のハグをかわした。
「久しぶりだね、元気だった?」
「はい、私の方は変わりなく過ごしていました。フィーさんも元気そうで何よりです」
クローゼはそう言って頭を撫でてくれた。
「クローゼ、久しぶりね!」
「エステルさん……」
「わっ……」
クローゼはエステルに駆け寄るとわたしにしてくれたようにハグをする。
「ヨシュアさんの事を気にして体調を崩していないか不安でしたがお元気そうな姿を見れて嬉しいです。お帰りなさい、エステルさん」
「クローゼ……うん、ただいま」
クローゼはエステルの事凄く気にしていたからね、だから再会のハグもわたしの時よりちょっと長かった。
その後わたし達は学園内に案内されてコリンズ学園長に事情を説明した。そして彼の許可をもらいわたし達は生徒会のメンバーにも協力してもらい手分けして学園内で聞き込みなどの調査をすることにした。
「さて、どこから手を付けようか」
「ん、それよりも聞いておきたいことがある」
わたしはオリビエと組むことにした。聞いておきたいこともあったからね。
「聞きたいこと?もしかして僕の好きな女性のタイプかな?いや~君みたいな愛らしい子にそんな事を聞かれると照れちゃうね~」
「とぼけないで。どうしてオリビエがリベールにいるの?クーデター事件は終わったんだからもうここに居る必要はないよね?」
そう、オリビエがリベールにいる理由だ。オリビエの正体は恐らくエレボニア帝国のスパイだとわたしは思っている。
以前リベール王国に来ていたのもオリビエは帝国にとって敵となるかどうか調べる為だ、その後結果的にクーデターは阻止出来て解決したからオリビエも帰ったはずだ。
それなのに彼はあれからずっとリベールに滞在しているらしい。だから今彼の目的が何なのか聞いておこうと思ったの。
「あはは、流石に鋭いね。まあ確かに僕は唯の旅行客じゃないよ、ここにいるのも目的があるからさ」
「その目的って?」
「君たちが追っている『身喰らう蛇』……通称結社の事だよ」
「っ……!?」
オリビエの言葉にわたしは驚いた。何故彼が結社を探っているの?
「……もしかしてエレボニア帝国にも結社が現れた?」
「詳しくは言えないが僕がいずれ敵対するであろう人物が結社と関わりがあるという情報を得てね、だから結社の事を少しでも知るためにリベールに来たんだ」
「……」
オリビエが誰と戦おうとしてるのかは知らないけど多分面倒な事になりそうだね。まあわたし達の邪魔をするようなことが無ければ放置でもいいかな。
「まあわたし達の邪魔をしないなら好きにして。お互いそんなに干渉する必要もないし」
「僕としてはリィン君やフィ―君にも手伝ってほしいんだけどね」
「依頼なら受けるけど内容によるね。そもそもわたしやリィンが勝手に依頼を受けるわけにはいかないしまずは団長に話を通して」
「ははっ、受けないとは言わないんだね。やっぱり君たちは優しい子だね」
「ん、まあ個人的にはオリビエは面白いから好きだしね」
そんな事を話しながらわたし達は生徒達から情報を集めていく。オリビエが女子寮に入ろうとしたのでお尻に銃剣を突きつけたりしたけど何とか一通り情報を集めることが出来たよ。
「さてと、エステル達と合流しよっか」
「確か講堂の方に向かったって聞いたね、そこに行こうか」
「了解」
そして講堂に入るとステージ上でエステルとクローゼが何かを話していた。わたしは二人に声をかけようとするがオリビエに止められてしまう。
「ちょっと待った、フィ―君」
「……なに?」
「今あの二人は青春のひと時を過ごしているんだ。そこを邪魔するのは野暮だろう?」
「青春?」
オリビエの言ってることの意味が分からなかったので、ステージに近い別の入口に回り込んで耳を澄ませて二人の会話を聞いてみる。
「エステルさん、実を言うと私ヨシュアさんの事が好きだったんです」
「へっ……?……えええぇぇぇぇぇえ!?」
クローゼの突然の告白にエステルは大きな声を上げて驚いた。正直わたしも驚いてる。
「えっ?なんで?いつ好きになったの?」
「最初は少し影のある人だなって思ってたんです。でも一緒に過ごしていくうちに彼の優しさや他の人には無い何かに惹かれていって……気が付いたら好きになっていたんです」
「……そっか」
エステルは最初こそ驚いていたが直ぐに冷静さを取り戻していた。
「何となくだけどそんな気がしてたのよね、ヨシュアを見る目が熱っぽかったっていうか他の人とは違ってたから」
「……」
「ん?どうしたの?」
「い、いえ……失礼なことを言いますがエステルさんって他人の恋には鋭いんですね」
「うっ……まあそう言われても仕方ないわよね」
けっこう失礼な事をクローゼに言われたけど、そう言われても仕方ないくらいには自分への好意には鈍感だったからね、エステルって。
「最後のキスシーンなんて心臓が破裂しそうなくらいドキドキしちゃいました。エステルさんに申し訳ないと思いつつもこのまま唇を重ねることが出来たら……なんて本気で思っちゃって……」
「そ、そうなんだ……そんなにもヨシュアの事を……」
「……ただそれだけじゃないんです」
「えっ?」
「……これはフィーさんには言わないでほしいのですが、実はリィンさんの事も気になってるんです」
「……ええっ!?」
これにはエステルだけじゃなく流石にわたしも驚いた。なんとなくヨシュアに気があるのかなって思ってたけどまさかリィンまでだなんて……
「……クローゼって黒い髪の男の子がタイプなの?」
「そ、そういう訳じゃないんですけど……以前グランセル城の地下遺跡で魔獣から助けてもらったことがあるんですけど普段の柔らかい雰囲気から別の雰囲気になって……それがヨシュアさんによく似ていて……」
「つまりヨシュアに似ていたから気になったの?」
「そうじゃないと言いたいんですが……でもリィンさんもリィンさんで凄く優しい人なんです。私の事を慰めてくれたり何の報酬もないのに力を貸してくれたり……彼は彼で凄く魅力的な人だと思います。多分私は自分が持っていない何かを持っている二人に惹かれたんだと思います」
「そっか、リィン君もヨシュアもきっとあたし達が知らない苦労や経験があるはずなのよね。そういう部分に惹かれたのかもしれないわね」
「はい……」
つまりクローゼは危ない雰囲気を醸し出す男の子が好きなのかな?ヨシュアは兎も角リィンにそんなところあるかな……?
「でも安心してください、私はヨシュアさんの事は諦めていますから」
「えっどうして?あたしが言うのもなんだけど恋って早い者勝ちってフィーが言っていたしアタックしてもいいんじゃないの?」
「いいえ、ヨシュアさんがエステルさんの事をどれだけ想っているか分かってしまいましたから」
エステルはわたしとラウラみたいに恋のライバルとしてヨシュアにアタックしないのかと言う。そういう所はエステルのいい所だよね。
でもクローゼは首を横に振った。
「以前エステルさんがダルモア元市長に銃を突き付けられたとき、ヨシュアさんは凄く怖い目をしていました。あんな目をするのはエステルさんが危険な目になった時だけ……つまりヨシュアさんにとってエステルさんは何があっても守りたい大切な存在だという事を見せつけられました。私じゃ勝てません」
「クローゼ……」
「同じ理由でフィーさんやラウラさんにも勝てませんよ。リィンさんにとってお二人は本当に大切な存在で「ああ、絶対に勝てないな……」って思っちゃいましたから。まさかこんな短い時間で二度も失恋をするなんて思っていませんでしたけどね」
……なんて言ったらいいか分からないよ。わたしとしてはクローゼが本気ならラウラと同じように話を持ち掛けたけどかなり難しいよね。
だってリィンは猟兵でクローゼは王女……普通に考えたらまず結ばれるはずが無い組み合わせだ、これならヨシュアの方が立場的には結ばれる可能性がある。
まあヨシュアの性格的にリィンと違って絶対エステル以外を選んだりしないだろうけど……
「だからこれは私の我儘です。今の内にエステルさんに話してスッキリしたかったんです」
「クローゼ……」
「だから絶対にヨシュアさんを連れ戻しましょう。そして幸せになってください、それが私の願いです」
「……うん、約束する」
二人はそう言って抱擁を交わした。まさに友情だね、クローゼが優しすぎて胸が痛くなるよ。
「あれこそまさに青春だね。しかしヨシュア君もリィン君も罪深い……」
「ん、まあヨシュアは兎も角リィンはフラグ立てすぎ」
やっぱりラウラと協力する道を選んでよかったよ、わたし一人だったらリィンの魔の手でいっぱい女の子が落とされて手が付けられない事になりそうだった。
「ただ今の話はフィーさんには……」
「大丈夫、言わないわよ。というかあたしだって決まずくなるし……」
「あはは……」
ごめん、聞いちゃった……とは言えないよね。
「さて、あたし達も情報収集を再開しないとね」
「お時間を取らせてしまって申し訳ありませんでした」
「気にしないで。あたしもこういう話ってあんまりしたことなかったから新鮮で面白かったもん」
おっと、二人が着ちゃうね。流石に今会うのは気まずいからオリビエと一緒に物陰に隠れた。
「……どうしよう、流石に気まずいかも」
「まあそんなに気にしない方が良いよ。意識しすぎるとかえって変に思われるからね」
「貴方のせいだと思うけど」
「おうふっ!」
ムカついたのでオリビエのお尻に銃剣を刺した。まったく、こんな事なら立ち聞きなんてしないほうが良かったよ。
わたしは心にモヤモヤを残しながら情報集めを再開するのだった。
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