DQ11長編+短編集
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悲劇と悪夢と
前書き
マルティナが世界の異変後にグロッタではなくネルセンの宿屋で見た夢の方が気になりユグノア城跡に向かったという設定。
ジュイネ達は世界の異変後に噂になっている、泊まった者が皆同じ夢を見るというネルセンの宿屋に向かった。
そこで聞いた話では、美人の女武闘家も泊まっていたらしく、夢を見た直後飛び出すようにしてネルセンの宿屋を出て行ったのだという。
「(美人の女武闘家って、マルティナのことじゃ⋯⋯。とにかく仲間のみんなとネルセンの宿屋に泊まってみよう)」
どうやら皆同じ夢を見るというのは本当らしく、口惜しいと嘆く戦士の風貌の男性と、その戦士を救ってほしいと願う女性の声を耳にした。
ロウが言うには嘆きの戦士の鎧の紋章に見覚えがあるようで、バンデルフォン地方の南西にユグノア地方への道が世界異変によって通じたらしく、ユグノア城跡へ向かう事となる。
───避難通路として使われていたというユグノア城跡の地下通路に続く扉が崩れぽっかりと空いており、そこを下って行った奥地にネルセンの宿屋で夢に見た嘆きの戦士が片膝を付き俯いていて、そのすぐ近くにはマルティナの姿がありぐったりと横たわっていた。
「マルティナ⋯⋯!? どうして夢の中の戦士の傍に」
「口惜しい⋯⋯あぁ、口惜しい⋯⋯!」
「気を付けるのじゃジュイネ、その戦士からは禍々しい闇を感じる⋯⋯まずは鎮めるのが先じゃ!」
嘆きの戦士と闘い鎮めたのち、ジュイネはマルティナに駆け寄って上半身を抱き起こし呼び掛ける。
「マルティナ、マルティナ⋯⋯! しっかりして」
「う、ん⋯⋯エレノア、様⋯⋯アーウィン、様⋯⋯ジュイネ⋯⋯」
「何事かうわ言を述べられているが、姫様の意識は戻らない⋯⋯この嘆きの戦士のせいなのかッ?」
「あらん、ザメハも効かないみたいね⋯⋯どうしましょ」
グレイグとシルビアもマルティナを案じ、ロウは見解を述べる。
「ふむ⋯⋯戦闘で鎮めても根本的解決にはならんようじゃの。それにどうやらこの嘆きの戦士は⋯⋯我が娘エレノアの婿にしてジュイネの父アーウィンの骸のようじゃな⋯⋯」
「(ユグノア王家の甲冑姿の嘆きの戦士が、僕の父親⋯⋯)」
「ユグノアの悲劇の際わしは別行動をとっておった為に知らなんだが、ここで果てていたとすれば無念も相当なもの⋯⋯。この場所にずっと囚われておったんじゃな。──ジュイネよ、実の息子のお主ならば声が届くかもしれん。アーウィンの骸に語り掛けてやってくれんか」
「うん⋯⋯。グレイグ、マルティナをお願い」
「うむ⋯⋯」
マルティナをグレイグに預け、ジュイネは片膝をついている嘆きの戦士と同じ姿勢をとり、戸惑いながらも語り掛ける。
「えっと、父さ⋯⋯父上、って呼んだ方がいいのかな。あなたにとっては赤ん坊の頃の僕しか知らないと思いますけど⋯⋯良識のある人に拾われてここまで育ちました。あなたの息子の⋯⋯ジュイネです」
『ジュイネ⋯⋯ジュイネ、そうだ⋯⋯我が息子は───』
嘆きの戦士が俯いていた顔を上げ、その兜の中を目にしたジュイネからすると顔ははっきり見えず、代わりに視界が暗闇と共に渦巻き意識が遠のいてゆく。
──────────
───────
─────
「ん⋯⋯あれ、ここは⋯⋯?」
『───アーウィン様!』
「⋯⋯え?」
『ご子息の御誕生、おめでとうございます! 何でも、勇者の紋章を携えてお生まれになったとか⋯⋯!』
『ユグノア王家に勇者様の生まれ変わりのご子息が誕生なさるなんて、命の大樹信仰の賜物ですわね⋯⋯!』
「(大勢の人に囲まれた中央に居る、王冠を被った王様みたいな人ってまさか)」
『皆様、ありがとうございます。これから四大国会議がありますので、また後程⋯⋯』
アーウィンが宴の席である大広間を出て行く際、近くに居たジュイネには全く気付いた様子なく素通りして行った。
「(あれ⋯⋯もしかして、僕のこと見えてないのかな。ん、大広間の向こうの通路に居るのって、マルティナ⋯⋯!? どこに、向かって───)」
マルティナが入って行った部屋では、赤子のジュイネを抱くエレノア王妃と幼少期のマルティナが楽しげに談笑していた。
「(あの人が、僕の本当の⋯⋯。二人をじっと見つめてる大人の方のマルティナも、僕に気づいてないみたいだけど⋯⋯)ねぇ、ねぇマルティナ⋯⋯僕のこと、見えてる?」
「⋯⋯⋯⋯? 貴方、は───」
マルティナは虚ろな目をジュイネに向けるが、すぐに視線を逸らす。
「貴方に、構っている暇はないの⋯⋯。私は、これから起きる悲劇を⋯⋯今度こそ止めなければ」
「マルティナ⋯⋯?」
そこへアーウィンが現れ、赤子のジュイネをエレノアから預かり四大国会議に出席する為部屋を後にした。
『外が、急に荒れ始めたわね⋯⋯。良くない事が起きなければいいのだけど』
呟くように言うエレノア王妃。
「良くないことって、ユグノアの悲劇の───ここが、繰り返し見ているアーウィン王の悪夢なら⋯⋯悲劇は止められないんだよね」
「⋯⋯⋯⋯。そんな事は、ないはずよ⋯⋯それを私が証明してみせる」
「マルティナ、僕は」
『そこに、誰か居るのですか?』
「!?(今⋯⋯エレノア王妃、と視線が合ったような)」
『どうしたのエレノア様、あたし達の他に誰もいないわよ?』
『今、あの子の⋯⋯ジュイネの気配を感じたような───いえ、そんなはずはないわね。あの子は誇りあるユグノアの王子として⋯⋯希望の勇者として、これからを生きねばならないのですから⋯⋯』
「(───母、上⋯⋯)」
『た、大変です⋯⋯! ユグノア王国に向けて、魔物の大軍が押し寄せて来ております!!』
兵士の一人が慌てた様子で部屋に駆け込んで来る。
「⋯⋯⋯来たわね」
「(マルティナから、すごい殺気を感じる)」
『エレノア様ぁ、わたし達どうなっちゃうの⋯⋯!?』
『大丈夫よ、マルティナ⋯⋯あの人が、アーウィンがジュイネと私達を守ってくれるわ』
『⋯⋯エレノア、マルティナ! ジュイネを連れてすぐに避難を!!』
甲冑姿のアーウィンはエレノアにジュイネを預け、自分は幼少のマルティナとエレノアを先導して城を襲う魔物から三人を守りつつ地下通路へ向かう。
「───邪魔よ、そこを退きなさい!!」
大人の方のマルティナの攻撃やジュイネの攻撃も魔物には通じるらしく、アーウィン達に立ちはだかる魔物は勿論の事、他に襲われている人達を魔物から助けながらアーウィン達の向かう場所まで追い掛けるジュイネ。
避難の為の地下通路の出口まで行くと大柄な三体の魔物が押し寄せ、アーウィンは幼少のマルティナと赤子のジュイネを抱くエレノアを先に頑丈な扉向こうへ逃がそうとする。
「⋯⋯私はこのまま、エレノア様達を追う。貴方は、アーウィン様を⋯⋯お願い」
憂えた表情でそう言って大人の方のマルティナは、エレノア王妃らと共に扉向こうへと姿を消す。
「(マルティナを一人にして、大丈夫なのかな⋯⋯。ここはアーウィン王の、16年前の悲劇の記憶⋯⋯。マルティナの記憶とも連動しているなら、追って確かめるべきだろうけど⋯⋯今はマルティナに言われた通り、アーウィン王の記憶を辿るべきかな)」
手練のアーウィン王を手助けするまでもないとはいえ、本人には知られずに共闘して大柄な三体の魔物を倒すと、少し距離を置いた場所から自分の娘を案じ呼び掛けるデルカダール王の声が聞こえ、アーウィンは声のする方へ向かいジュイネもそれを追う。
「(───! あれはウルノーガ⋯⋯?! デルカダール王を、闇の力で動けなくして───)」
アーウィンは元よりジュイネも戸惑っている内に嘲笑するウルノーガの姿はデルカダール王に吸い込まれるようにして消えた。
「(あんなふうにデルカダール王に取り憑いて、それからずっと⋯⋯勇者の力を利用して命の大樹の魂を奪い、魔王になるために暗躍していたんだ)」
『デルカダール王、ご無事ですか⋯⋯!? 今のは、一体』
『案ずるな、アーウィン⋯⋯。それよりも、勇者や我が娘は⋯⋯?』
『ご安心を⋯⋯我が息子もマルティナ姫も、エレノアと共にたった今城外へと逃がしました』
「(あぁ⋯⋯ダメだ、そんなこと言ったら)」
デルカダール王に取り憑いたウルノーガはアーウィンの言葉を聞いた直後豹変し鎧をも貫く闇を纏った刃でアーウィンを深く突き刺し致命傷を負わせ亡き者とする。
「(こんな、最期を───)」
『デルカダール王⋯⋯! 到着が遅れ、申し訳ございませんッ』
デルカダール王の傍に倒れているアーウィン王を目にした16年前のグレイグは動揺するも、ウルノーガが取り憑いているデルカダール王にユグノア王家は勇者が生まれた事により狂気に陥り、エレノア王妃にマルティナ姫を連れ去られアーウィン王は襲って来た為に仕方なく倒したと述べた上、ジュイネは世界を救う勇者などではなく闇を引き寄せる悪魔の子と宣い16年前のグレイグに草の根を分けてでも探すよう命ずる。
二人が去った後アーウィンにはまだ辛うじて息はあったが、デルカダール王の言葉を否定して勇者は悪魔の子などではないと呟き、エレノア王妃と息子のジュイネを案じつつもう一度剣を手にしようと手を伸ばすも届かず、絶命した。
「─────。(ここで、アーウィン王の記憶は途切れるはず。だけど僕はまだ過去の記憶の中にいる。今度はエレノア王妃と赤ん坊の僕を追ったマルティナを追いかけないと)」
ジュイネは地下通路から雨の降りしきる城外の森へと出、マルティナを追う。
「(雨がすごくて、視界が悪い⋯⋯。マルティナ達は、どこまで行ったんだろう。───あっ)」
場面が突如、森の一角に切り替わり、両膝と両の手を地面について項垂れ座り込むマルティナと、その目の前には⋯⋯見るも無惨に身体を引き裂かれ絶命している王妃と思われる遺体が横たわっていた。
「どうして⋯⋯どうして、私には何も救えないの⋯⋯ジュイネもアーウィン様も、エレノア様も⋯⋯何度繰り返しても───」
「マルティ⋯⋯」
背後から声を掛けた瞬間、マルティナは弾かれたように振り返り立ち上がる。
「ユグノア王国を滅ぼした悪魔め⋯⋯私は、お前を決して許さない⋯⋯!!」
その顔は雨に混じった涙に濡れ、憎しみの形相で目の前のジュイネを捉え鋭い脚技を放つ。
「ま、待ってマルティナ! 僕は───」
『ゲハハ⋯⋯その女の目に映る今のお前の姿は、悪魔そのもの⋯⋯。深淵の悪夢に、そのまま沈むがいい⋯⋯!』
「!?」
おぞましい声が響き渡った直後、ジュイネは暗闇の只中に居た。
「マルティナ⋯⋯マルティナ、どこ⋯⋯?!」
『あの女は、お前という悪魔を散々蹴り潰した後⋯⋯過ちに気付き絶望するのだ。守るべき者を、亡き者にしたという事実にな⋯⋯』
「どこだ⋯⋯姿を現せ! お前がアーウィン王やマルティナに悪夢を見せ続けてるんだろう!」
『そうだとも⋯⋯我が名はバクーモス。人間の深き絶望を好み喰らうもの⋯⋯。16年前の悪夢を、この地に縛られたユグノアの王の魂に見せ続け、飽きぬ程絶望を喰らい続けてきた⋯⋯。だが流石に、別の味も試したくなってな⋯⋯。そこへちょうど、女が一人やって来たものだから悪夢を見せ続けて絶望を味わっていた所だ⋯⋯。しかし味が似通っていてな、どうやら16年前の当事者の一人らしかった。お前もその一人のようだが、お前の抱える絶望は一味も二味も異なるようだな⋯⋯?』
「何が、言いたい」
姿無きおぞましい声に怯むまいと気を奮い立たせて問うジュイネ。
『ゲハハ⋯⋯! 判らぬか、ならば教えてやろう⋯⋯お前が見て見ぬふりをしている、自分自身の心の悲痛な叫びを⋯⋯!!』
「?!」
意識が急速に、内なる絶望に引きずられてゆく───
(あぁ⋯⋯ダメだ、あの時の記憶が鮮明に、流れ込んでくる⋯⋯見たくない、感じたくない⋯⋯っ)
『世界を闇から救うはずの勇者が、闇を引き寄せ魔王を誕生させた挙句、命の大樹を崩落させ多くの命を奪い世界を壊した⋯⋯』
(違、う⋯⋯あれは、突然現れたウルノーガが僕の中の勇者の力と命の大樹の魂を奪って、勝手に魔王に───誰も、予測出来なかった。命の大樹自体さえ⋯⋯)
『ほう⋯⋯自分のせいではないと? 闇の衣を纏った者の尾行にすら気付かず、仲間を危険に晒し何一つ守れずに無様に敗北しておきながら自らの非は認めぬのか⋯⋯。ならばお前は、命の大樹や他の仲間のせいにしていると? 大樹は事前に危険を知らせてくれず、勇者である自分を守ってくれるはずの仲間は敵の暗躍を察知出来ず、魔王誕生を招いたと⋯⋯そう言いたいのか』
(違う、そういうわけじゃ───)
『何も違わぬ。お前は⋯⋯勇者としての自らの罪から逃れたいのだ。勇者の生まれ変わりとされていながら、魔王を誕生させ多くの命を犠牲にするという罪を犯した無能な勇者⋯⋯それこそ、“悪魔の子”と呼ばれるに相応しいではないか』
(⋯⋯⋯⋯⋯)
『そもそもユグノア王国が滅んだのも⋯⋯勇者の紋章を携えたお前が産まれた事により根深き闇を引き寄せ、大勢の者が死に⋯⋯お前を守ろうとした父と母も凄惨な死を遂げたのだ』
(──────)
『城が多勢の魔物に襲われていた時、既に殺され事切れた者や怯えきった者達をその目で見ただろう⋯⋯。更には命の大樹が崩落し異変に見舞われ壊れた世界で朽ちてゆく無数の命───全ては、勇者として生まれたお前のせいなのだ』
「ごめん、なさい⋯⋯ごめんなさい⋯⋯! 僕が勇者として生まれてこなければ、ユグノア王国が滅ぶことも、魔王が誕生して沢山の人が犠牲になることも、なかったのに───」
疼く胸の痛みに耐え切れず蹲り、啜り泣く様をバクーモスは満足気に暗闇の深淵から黄ばんだ牙を剥き出し獲物を見つめている。
『そうだ⋯⋯抗えぬ絶望の闇に堕ちろ。それが我の糧となるのだ⋯⋯』
(もう、いい⋯⋯もうイヤだ⋯⋯。もう誰も、勇者の僕のせいで犠牲になってほしくない。僕には、何も守れないんだ⋯⋯何も、救えない。闇を払う勇者なんかじゃない⋯⋯闇を引き寄せる悪魔の子、なんだから───)
〖ジュイネ⋯⋯ジュイネ、聴こえますか。どうか、この声が届きますように⋯⋯⋯〗
《オレは信じてるぜ、勇者の奇跡ってやつを》
《安心なさい、あんたはこのあたしが守ってあげるから》
《回復が必要な時は、いつでも仰って下さいね》
《アタシの夢は、世界中のみんなを笑顔にする事よん》
《我が愛しい孫よ、立派に育ってくれたのう》
《お前が世界を救う勇者なら、俺は勇者を守る盾となる》
(───⋯⋯今、のは⋯⋯みんなの、声⋯⋯?)
「今度は離さないって、言ったはずよジュイネ⋯⋯。大丈夫、仲間達の声が聴こえているなら、私達は必ずこの悪夢から目覚める事が出来る」
間近に聴こえた凛とした声に顔を上げると、いつの間にかマルティナに強く抱き支えられていた。
「貴方が来てくれたお陰で、私の中の悪夢に区切りをつけられたの。魔族の姿をした幻影を蹴り潰した後、ジュイネの姿になった時は驚愕したけど⋯⋯それはエレノア様の声でこう言ったわ。“やっと、声が届いた⋯⋯あの子が残した、光の欠片のお陰。マルティナ⋯⋯どうか今度は貴女が、悪夢に囚われたあの子を助けてあげて”って」
「⋯⋯マルティナ」
『邪魔をするな女ァ! せっかくの新鮮な極上の絶望が不味くなるではないかァッ!』
醜悪な姿を晒して吠え立てるバクーモス。
「うるさいわよ、黄ばんだ牙のライオンさん。⋯⋯さぁジュイネ、アーウィン様の絶望を私達の希望で光に変え、バクーモスをアーウィン様の中から引きずり出しましょう」
「うん⋯⋯!」
マルティナとジュイネは固く手をとり合い、そこから伝わる互いの体温を感じて心が温かくなり、二人の身体から溢れる光が迸ってバクーモスはアーウィンの骸に留まっていられなくなる。
「───なんじゃ、アーウィンから眩い光が⋯⋯な、なんとマルティナ、ジュイネ!! お主ら、急に姿が見えなくなったから心配しておったぞい!」
「大丈夫?! どこもケガしてないかしらっ?」
「姫様、ジュイネ⋯⋯! 無事なようだな」
ロウ、シルビア、グレイグは寄り添うマルティナとジュイネの姿を確認出来て安堵するが、その直後引きずり出されるようにして絶望を喰らう魔物バクーモスが現れ出る。
「みんな、心配かけてごめん。⋯⋯あいつが、アーウィン王とマルティナを苦しめていた元凶なんだ。バクーモスを倒して、アーウィン王の魂を解放しよう!」
皆力を合わせバクーモスを倒すと、骸に縛られていたアーウィン王の魂は解放され、ほんの一時親子として対面した後、エレノア王妃の魂がジュイネに慈愛に満ちた声で語り掛け、別れの言葉を述べるとアーウィン王の魂と共に天に召されて行った。
「あ⋯⋯ジュイネ、貴方の左手の甲の紋章に光が宿っているわ⋯⋯!」
マルティナの言葉で左手の甲を見ると、一時は力を失い消えかけていた紋章に光が宿り、ジュイネは勇者としての力が身体の内側から湧き出るのを感じた。
「きっと⋯⋯アーウィン様とエレノア様が、ジュイネの勇者の力を取り戻してくれたのよ」
左手に愛おしげに手を添え、親指で紋章をなぞるように触れるマルティナ。
「うん⋯⋯取り戻したこの力で、誕生させてしまった魔王を必ず倒す。壊してしまった世界に、僕は償うよ」
end
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