向かい合ってくれる人
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第五章
「これからも斎藤さんと親しくしていくのよ。それで人との交流を増やしていって」
「そうしていくといいんだ」
「それで失恋のこともね」
「忘れていい経験としてなんだ」
「考える様になってね」
「そうなる様にするね」
「ええ、向かい合ってくれる人がいて」
母は息子に話した。
「その人に心を開いたらね」
「そこから色々なことが起こるんだね」
「そうよ、時には心を開くこともね」
「いいんだね」
「そうよ、覚えておいてね」
「そうしていくよ」
界人はコロッケでご飯を食べながら応えた、そうしてだった。
斎藤とさらに話していった、すると彼との関係はさらに深まりそれと共に他の人との交流の幅も親密さも増していった。何時しか閉ざしていた心はすっかり開かれ。
明るさを取り戻した、それで斎藤に話した。
「斎藤さんと出会えてよかったです」
「そうですか」
「はい、本当にそう思います」
自分と向かい合ってくれている人にとだ、こう言うのだった。そうして神に彼との出会いを心から感謝したのだった。
だがその感謝のことを聞いてだった。
斎藤は微笑んでだ、彼に話した。
「運命を導くのもその人ですよ」
「そうなんですね」
「あの時結城さんが私の財布を拾ってくれたので」
だからだというのだ。
「出会いがありました。実はカード以外にもです」
「一千万以上あったっていう」
「他にも何かとです」
「あのお財布の中にあったんですか」
「その財布を拾ってくれて」
斎藤は話を続けた。
「私を助けてくれた、人を助けられる人はです」
「救われるんですか」
「はい」
そうだというのだ。
「神様と言われましたが」
「神様が見ていて」
「そうしてくれます」
「だから僕は斎藤さんと出会えてですね」
界人は斎藤の話を聞いて言った。
「そうしてですね」
「はい」
そしてというのだ。
「よかったです」
「そう言ってくれますか」
「心から。お陰で僕は救われました」
「救われたのは私ですよ」
財布を拾ってもらってというのだ。
「それは」
「いえ、救われたのは僕です」
「それはどうしてでしょうか」
「また心を開けたので」
笑顔で言ってだった。
界人は斎藤に深々と頭を下げてまた礼を述べた、そうしてだった。
彼はこの時も斎藤と親しく話をした、心を開いて向かい合ってのそれは彼にとってかけがえのないものだった。そして彼は多くの親しい人達に囲まれて幸せな人生を過ごす様になったのだった。
向かい合ってくれる人 完
2022・5・16
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