向かい合ってくれる人
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第三章
「そのまま大学に残って」
「大学院にですか」
「そして博士課程まで進んで」
「教授にもですか」
「はい、そしてです」
ここからだった。
老人は大学のことだけでなくこの地域のことも話していった、この時の話がきっかけとなってだった。
界人は老人斎藤杜夫という彼と親しくなりよく会ってそのうえで彼の話を聞く様になった。そうしていくとだった。
彼は次第に口数が多くなり大学でも人に挨拶をしたり話をする様になった、そしてだった。
斎藤に自分のことも話す様になった、すると。
自然とだ、彼は大学で友人が出来てきて斎藤が関わっている様々なコミュニティにも顔を出す様になった。
人との縁が出来ていった、斎藤と親しく話して彼の話を聞いて自分も話をするとそうなっていった。
それでだった。
家でだ、彼は母に食事の時に話した。
「何か斎藤さんと会ってから」
「あんたの大学の教授さんだった人ね」
「この辺りの大地主さんでね」
「かなり広い土地とお金も持っておられるのね」
「あの人とよくお話をする様になって」
それでというのだ。
「僕も随分縁が出来て」
「人とお話する様になったわね」
「友達も知り合いも出来ていったけれど」
晩ご飯のおかずのコロッケソースをかけたそれを食べつつ言った。
「どうしてかな」
「それはあれよ」
母はもやしを片栗粉で固めて炒めた者を食べつつ応えた。
「あんたが自分と向かい合ってくれる人と出会えてね」
「斎藤さんだね」
「その人とお話をしてあんたもね」
界人自身もというのだ。
「心を開いたからよ」
「だからなんだ」
「あんたずっと高校時代のことから心閉ざしてたでしょ」
「そうだったよ」
界人はその通りだと答えた、そしてまだ仕事から帰ってきていない父の席を見てからあらためて話した。
「お父さんとお母さんは別でも」
「失恋してからね」
「失恋のことばかりずっと言われて」
「それでよね」
「皆信じられなくなって」
そうなってというのだ。
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