SHUFFLE! ~The bonds of eternity~
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第四章 ~魔力(チカラ)の意味~
その二
「ある程度予想はつくが……いくつか聞かせてもらおう」
デイジーの発言に固まった柳哉だったがすぐにそこから復帰し、口を開く。
「この資料には『毎週金曜日に、お昼の放送を始める。学園内でアンケートを取って結果を放送する。時々ゲストを呼んで話を聞く』と書かれているわけだが……」
声に出して読む柳哉と得意げに頷くデイジー。シアは自分がそれにどう関わるのか今一つ分からないらしく、読み上げる柳哉と稟の顔を交互に見ている。
「……つまり、シアをパーソナリティにして、昼の放送をラジオ番組みたいにしたいのか?」
「……へ? えええええ!?」
稟の台詞に驚愕し、三人を順に見やるシア。
「折角正真正銘の王女様が在籍されているんですよ? もっとこう……王女様の足跡を残すようなことをしてもいいと思いませんか?」
「で、でもわたしがいきなりそんなことしても、みんな驚くだけなんじゃ……?」
「私もご一緒させていただきますから、そのあたりは大丈夫です。それに、あくまで“バーベナ学園放送部”としての活動ですから」
しかし、急に動き始めても周囲の戸惑いが大きいのではないだろうか。今までずっと何もしてこなかったならなおさらに。そう口にする稟にデイジーは真剣な表情で答える。
「放送部が何もしていなかったのは、まさに今のため。私とリシアンサス様がお昼の放送をするためです。冬眠……いえ、ずっと充電し続けていたのです!」
「そっか、デイジーちゃんはずっと充電してたからそんなに元気なんだね」
笑顔で納得しているシアに毒気を抜かれたのか、稟も突っ込まない。
「まあその辺はいい。普通に予想もできていたんだが……何で俺なんだ? お前さんなら『栄えある第一回放送のゲストはぜひリシアンサス様に!』とか言いそうなものだが」
黙って聞いていた柳哉の疑問にデイジーが答える。
「はい。そこで先程の『時期を外してしまったので』という部分に繋がるわけです」
元々デイジーはシアが転入してきた六月のうちにこの放送を始めたかったのだが、若干突っ走り気味だったり自爆したりで失敗。今月に入ってようやく念願が叶ったわけだが、あれからすでに三ヶ月が経ってしまっている。
「この三ヶ月ほどでリシアンサス様の人となりは学園の全生徒が知るところとなりました。しかし、それはあくまでも“バーベナ学園の一生徒”としてのものなわけです」
当たり前の話ではあるが、“学園でのシア”が“リシアンサス”という人物の全てではない。“王女としてのリシアンサス”を知りたいと思う者もいるだろう。神族の生徒ならある程度は知っているだろうが、それでも生徒全体の二割ほどだ。
「リシアンサス様のことをもっとよく知りたい、という生徒も数多くいるでしょう。しかし、相手が王女様とあっては、やっぱりどこか尻込みしてしまうと思われます。そこで……」
「まずは俺をゲストとして呼ぶことによってワンクッション置いて、それからってことか?」
転入してきてからまだ一ヶ月弱の柳哉はゲストとしてまさにうってつけというわけだ。理解した稟だが、若干の不満がある。
「でも、それはちょっと柳に対して失礼じゃないか?」
「……はい、実は話しながらそれに気付きまして……」
表情を曇らせるデイジー。確かにそれは第一回放送という名のテスト放送だとも言える。シアがゲストとなる本放送の前座という扱いにもとれる。格下に見られた、と柳哉が感じてもおかしくはない。しかし、柳哉はそんな人間ではない。
「ああ、別に気にしなくてもいいぞ。そもそも俺自身、そんなことは気にしないからな」
それを証明するように明るい声で答え、小さく笑う柳哉。
「それに、おもしろそうだしな」
それだけが理由ではないが。
「……ありがとうございます」
神妙な表情で頭を下げてくるデイジー。
「そんな顔すんな。まるで俺がいじめてるみたいじゃないか」
そう言ってぽんぽんと頭を軽く叩く。
「……」
「どうした?」
「あ、いえ。何と言うか……懐かしさのようなものを感じまして……この学園以外のどこかで会ったことってありますか?」
「……なあ稟。これっていわゆる“逆ナン”ってやつか?」
「俺に聞くな」
「え、そうなの?」
「いえ、違いますからね!?」
そのやりとりによって放送室は笑いに包まれた。
* * * * * *
「それで、これからの予定なんですが。来週の月曜日から木曜日までの四日間で生徒の皆さんにアンケートを取って、それを元に原稿を作ります。本放送は先程も言った通り金曜日から実施します」
「丁度十月の一日か。なかなかキリがいいな」
「はい。それで今日はこれから部室の掃除……はほぼ終わっているので、機械類の操作方法を学びましょう。これが説明書です」
そう言って説明書を机に置く。
「? デイジーちゃんが教えてくれるんじゃないの?」
「あう……。実は……」
どうやらデイジーは機械類の使用方法をほとんど知らないようだ。
「いやちょっと待て。機材の使い方とか、そういうレベルから始めるのか?」
「……そこのスイッチを押すと音がして、マイクから声が出るようになります。ぶっちゃけ私はそれしか知りません」
それでは放送部自体がほとんど知られていないのも無理はない。
「そこで、土見さんにお願いがあります。私の右腕としての初の重要な任務です」
「稟くんに何かお願いするの?」
「土見さん。これの使い方をマスターしてください」
思いきり他人任せである。
「というか、そもそもこれって何の機械なんだ?」
「レコーディングシステムって書いてあります。そこの防音室で出した音を録音できるんですよ」
そう言って防音室を指差す。
「ふーん……まあいいや、マニュアルを貸してくれ」
「ほい」
そう言った稟に柳哉が説明書を渡す。
「? 柳は見ないのか?」
「まあ、見なくても大体分かるけどな。でも……」
「でも?」
「何でもかんでも俺がやったんじゃ、お前のやることが無くなるし、それに……これはお前のやることなんだろう? “部長の右腕”?」
そう言って柳哉は悪戯っぽく笑った。
* * * * * *
紆余曲折を経て、どうにか機材の使用方法を頭に叩き込む。大体の手順さえ分かってしまえば後はそんなに難しいものでもない。
「よし、これで防音室のマイクから録音できるぞ。何か喋ってみてくれ、試し録りしてみるから」
『あー、あー、稟くん、聞こえてる?」
「ああ、バッチリだ」
ヘッドホンからシアの声が聞こえてくる。録音機材も正常に動作しており、問題は無さそうだ。
『マイクチェック1、2。バーベナ学園放送部、お昼の放送のお時間です』
「お、雰囲気出てるな」
一緒に防音室に入っているデイジーもシアに続く。
『この声って今録音されてるんだよね?』
「ああ、多分な。後で確認しないと分からないけど」
『じゃあ……わたしは稟くんが大好きです♪』
「っ……いや、シア。そんな赤裸々な……」
ストレートな告白に思わず赤面する稟。そこへデイジーが追い討ちをかける。
『リシアンサス様がこんなにストレートに愛情表現をされているんですよ。嬉しいなら嬉しいって言ったほうがいいです』
「……なかなかいい性格してるよな、デイジーは」
『褒め言葉と受け取っておきますね』
「……ああ、そうかい……」
にっこり笑って言われてはどうしようもない。
(柳がこの場に居なくてよかった……)
趣味に“稟いじり”を持つ柳哉なら確実にからかっていただろう。その柳哉は担任の撫子に用事があるらしく、席を外していた。
その後もシアによる稟への告白タイムは続き、稟だけでなくデイジーも恥ずかしくなってきたところで試し録りは終了。“DAISUKI”と銘打たれたこのテープは後日、柳哉によって発見され、結局からかわれることになるのだがそれは全くの余談である。
「それで、少し思ったんだけどな」
「どうしたんですか土見さん。苦虫を噛み潰したような顔をしていますよ」
「普通の顔だからな!?」
「真面目な顔、って言いたかったんだよね。デイジーちゃん」
「まさにその通りです! さすがです姫様」
「まあいいや。それでだ」
稟曰く、デイジーのシアへの態度が少し仰々しく、放送でも空気が硬くなりそうだ、とのことだ。シアもそれに賛同する。
「あ、うん。それはわたしも思ったよ。同じ部活動ならもう友達だもんね。“姫様”とか“リシアンサス様”じゃなくて、もっと友達らしい呼び方がいいな」
「えと、その、友達らしい、と言われましても……」
「俺もシアと同意見だ。ここでならいいけど、外でも“姫様”なんて呼んでたら目立つぞ」
「うーん、デイジーちゃんはデイジーちゃんかな。そのままの響きが一番いいから」
「髪の色が紫っぽい……要するにパープルだから“パー子”なんてどうだ」
「何ですかそれは!? 私は某芸人で写真家な人の奥さんでもアイドルとヒーローを兼任している小学生でもありませんよ!?」
……作者の年代がばれそうな会話だ。
で、結局の所。
「それでは、“シア様”とお呼びするということでよろしいでしょうか?」
「本当は“様”もいらないんだけど。よろしくね、デイジーちゃん」
そう言ってシアは太陽のような笑顔を浮かべた。
「シア様ぁ……デイジーは、デイジーは……」
「良かったな、デイジー。で次の議題なんだが……」
「ちょっとぐらい感激する猶予をくださいよ!」
とりあえずスルー。
「この放送の名前は変えたいな……王女のお部屋って、なんだか恥ずかしいよぅ」
「“バーベナ学園放送部・お昼の放送”でいいだろ。というかさっき自分でも言ってたし」
「『でいいだろ』はないです。せっかく私の考えたタイトルが、ってちょっ……聞いてくださいよー!」
……そしてタイトルは強制的に変更され、引き続き、第一回放送部ミーティングは続行されたのである。
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