観たくない理由
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第三章
「特撮の中で」
「そうですか、じゃあ言わないでおきます」
「あの作品のことはか」
「私も」
「頼むな、俺も言わないしな」
「そうしていきます」
空は約束した、そして実際にだった。
もうその作品の話はしなかった、そして後で先輩に対して言った。
「そんなことあるんですね」
「あれだけ特撮好きな人でもね」
「そうした理由でトラウマになっている作品あるんですね」
「人間ってわからないわね」
「そうですよね」
「直接関係なくても」
その作品から何か影響を受けた訳でなくともというのだ。
「トラウマになるのね」
「辛い時に観たから」
「ええ、しかしね」
先輩はこうも言った、二人で居酒屋で飲みながらで今はビールをジョッキで飲んでいる。
「岡崎さんって明るくてね」
「もう暗いものはないっていう位に」
「そんな人だけれどね」
「そんな人でもですね」
空も言った、やはりビールを飲んでいる。
「そんな過去があるんですね」
「トラウマもあるのね」
「そうなんですね」
「ええ、しかもその過去がね」
「壮絶ですね」
「滅茶苦茶じゃない、幾ら何でもね」
先輩はさらに話した。
「不幸過ぎるでしょ」
「本当にそうですね」
「私だったら壊れてたわ」
「暴力受けて言われて孤独で」
「八方塞がりだからね」
「そうなりますね」
「そこからあの明るさっていうのはね」
それはというと。
「純粋に凄いわ」
「そう言えますね」
「ええ、そのことは素直に思うわ」
「特撮好きの陽気な人と思ったら」
それがというのだ。
「過去もあるんですね」
「人間ってそういうものかもね」
「明るい人でも」
「過去があるものよ」
「そういうものですね」
「確かに明るいけれど」
岡崎はというのだ。
「明るい一面だけじゃないのよ」
「暗い一面もですね」
「そういうことよ、何でも誰でも光と影がある」
「そういうことですね」
「そう、それであの人の影の象徴がね」
「あの作品ですね」
「そういうことなのでしょうね」
こう空に言った、そのうえでまた冷えたビールを飲んだ。空もそうしたが。
以後彼女は岡崎とはその作品の話は一切しなかった、岡崎もしようとしなかった。そうして他の作品のことを楽しんで話したのだった。
観たくない理由 完
2022・3・15
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