魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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GX編
第121話:ギアと魔法の融合
前書き
どうも、黒井です。
今回はイグナイトを用いた初戦闘。そして更には、イグナイトを見送っていた奏の新たな力もお披露目となります。
響・翼・クリスの3人がイグナイト・モジュールの起動に成功した。システムは正常に機能し、本部では装者を負担から守る為のセーフティ・ダウンまでのカウントダウンが開始された。モジュールの限界稼働時間は1000秒。それまでの間に勝負を掛ける必要があった。
新たな力を得た3人の装者が、唄と共に向かってくるのを見たキャロルはもう颯人への興味を失ったのか、彼の方には見向きもせず新たなアルカノイズを召喚した。次々と現れるアルカノイズの数は約3000、この場においてはあまりにも多すぎる数だ。
「たかが3000!!」
しかし響達イグナイトの力を手にした装者達に恐れはない。まるで新たに得た力の試し切りをするかのようにその力を存分に振るい、並み居るアルカノイズを次々と屠っていった。
その力、正に一騎当千。暴走状態を意図的に制御する事で、エクスドライブモードとは異なった決戦兵装としての力を遺憾なく発揮していた。
そんな状況下で、少しばかり窮地に陥っている者が居た。颯人である。彼はつい先ほどまで、奏から流れてきたダインスレイフの呪いの負担に耐えながらキャロルと戦っていた為消耗が激しかったのだ。まだ意識は保っているが、その動きには今までの様なキレが無い。
無論、その事に気付かない奏ではない。翼達がもう大丈夫だと見るや、奏は透と共に消耗した颯人の援護の為彼の元へと向かい、響達が取りこぼして颯人に向かってきたアルカノイズを片っ端から叩きのめしていた。
「おい、大丈夫か颯人?」
「問題ない……と言いたいところだが、ちょいとキツイな。後任せても良いか?」
「あぁ、ゆっくり休んでな。颯人の事はアタシと透が守ってやる。行くぞ、透!」
迫るアルカノイズを、奏と透が切り伏せる。その後ろでは、翼がイグナイトにより強化された蒼ノ一閃により小型どころか大型のアルカノイズまでをも仕留めてしまっていた。
その光景に颯人は口笛を吹く。
「ヒュ~、凄いもんだね。あれがイグナイトか」
颯人が響達イグナイトの力を得た装者の力に感心しているのに対し、キャロルは次々とアルカノイズを倒されていると言うのにもかかわらず獰猛な笑みを浮かべていた。
「臍下辺りがむず痒い!!」
どうやらこのままアルカノイズで相手をしていても埒が明かないと考えたのか、キャロルは自分も攻撃に加わった。手から糸を伸ばし、アルカノイズごと響を切り裂こうとする。響はその攻撃を難なく回避し、キャロルの攻撃は手駒のアルカノイズを仕留めるだけに留まった。
それだけに留まらず、キャロルはアルカノイズに被害が出ることも厭わず響達への攻撃を続行。アルカノイズは装者の攻撃のみならず、本来であれば主である筈のキャロルからの攻撃により加速的にその数を減らしていった。
次第にアルカノイズの数が減ると同時に、残りの兵力もイグナイトを起動した装者にのみ割り振られていき颯人の周りだけが静かになっていく。
脅威がなくなったからか、颯人は変身を解きその場に崩れるように腰を下ろした。
「く、だはぁ……」
「! 颯人!」
「心配するな、少し疲れただけだ。しかし、凄いもんだな」
額の汗を拭いながら、颯人は獅子奮迅の活躍を見せる響達を眺めた。明らかに今までのシンフォギアとは一線を画す能力。あれでは装者の中で随一の戦闘力を持つ奏も出遅れてしまうだろう。
「奏出番無くなるんじゃないの?」
「うるせぇ。心配しなくたって、アタシのギアも了子さんとアルドが改良してくれてるよ」
「どんな風に?」
「…………あ゛」
ここで漸く奏は、どこがどう強化されたのかをまだ了子達から聞いていないことに気付いた。漠然とバリアフィールドが強化されてアルカノイズの攻撃に対しても強くなった事だけは理解していたが、それ以上にどんな機能が追加されたりしたのかは聞かずに飛び出していたのだ。
その事を思い出した奏は、颯人からの問いに答える事が出来ず視線を泳がせる。
「どした~? か~なで~?」
明らかに様子がおかしくなった奏に、颯人が手をひらひら動かしながら彼女の顔を覗き込んだ。
これ以上彼に顔を見られていると、自分のミスを見抜かれると察した奏は慌てて彼から顔を逸らした。
「あ、後で余裕出来たら教えてやる! それより、あんまり気を抜くな! まだ戦闘は続いてるんだからな」
「いやもう殆ど終わったも同然だろう、あれ」
そう言って颯人が指さす先では、既にアルカノイズは全て倒され残るはキャロル1人となっていた。
そのキャロルに対し、3人の装者が一斉に攻撃を仕掛ける。
響はキャロルが腕に巻き付けてきた糸を逆に掴んで引き寄せ、クリスと翼はミサイルとエネルギーの斬撃を喰らわせる。このままでは防御も儘ならないと悟ったキャロルは、響に掴まれている糸を切断し別の糸を防御に回した。
それにより発生した爆炎が、一時的にだがキャロルの視界を塞ぐ。その瞬間、響は拳を握り一気に接近し、炎を拳どころか全身に纏いキャロルに突撃した。
これは回避が間に合わないと、キャロルは腕を交差させて響の攻撃を防ごうとする。しかし響の拳の一撃は、キャロルの想像を絶する威力を持っていた。
「うあ、がはっ!?」
壁に叩き付けられ、防御を抜いた響の拳がキャロルの腹を抉る様に殴りつける。
攻撃の反動を使用し、響は大きく飛び上がると今度は急降下しながら蹴りを放った。獣の足の様な爪の付いた足による飛び蹴りが、まるで隕石の様にキャロルに降り注ぎ着弾と同時に大きな爆発が周囲を包む。
戦いはどうなったのか。誰もが固唾を飲んで見守る中、爆発により生じた黒煙が風に流され晴れていった。
煙が無くなるとそこには、周囲の建物を吹き飛ばし、ファウストローブも解除され元の子供の姿となったキャロルとそれを見下ろす響の姿があった。
それを見て誰もが思った。響の勝利だと。あれほどの力を見せつけた錬金術師のキャロルを、響が下して見せたのだ。
本部では切歌と調が勝利を確信し歓声を上げている。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ボロボロの姿で荒く息を吐くキャロルに、響は静かに近付き手を差し伸べた。
「キャロルちゃん、どうして世界をバラバラにしようとなんて――――」
優しく差し出されたその手を、キャロルはにべも無く払いのけた。
「くっ!?」
「!?」
「……忘れたよ、理由なんて」
響の問いにキャロルは力無く答える。その答えは、答えたくないからではなく言葉通りの意味だった。
「想い出を焼却……戦う力と変えた時に……」
キャロルは長い年月の間に蓄えた想い出をそのまま力と変えている。しかしそれは、同時に戦えば戦う程過去を失っていくという事。野望の原点すら失いながら、尚も戦う事を止めようとしないキャロルの過去には一体何があったのか。響はその事を考えずにはいられなかった。
「……その呪われた旋律で誰かを救えるなどと思い上がるな」
「ぁ……」
戦った相手に対しても思いやりを捨てきれぬ響の心に、キャロルの呪詛のような言葉が浸み込んでいく。キャロルとしては、せめて一矢は報いたと言ったところだろうか。その言葉に僅かにでも動揺した顔を見せる響の顔を見て、キャロルがしてやったりな笑みを浮かべる。
だがそれは所詮負け犬の遠吠えに過ぎない。もうキャロルは詰みだ。この後は捕縛されて本部へ連行され、そして彼女の野望は潰える事になる。
それはキャロル自身も分かっていた。分かっているからこそ、このままここで捕まる事を良しとはしない。こんな時の為に、彼女は口の中に自決用の仕込みをしておいたのだ。
その仕込みを実行に移そうと、顎に力を入れようとした。
瞬間、不可視の拳がキャロルの鳩尾に食い込んだ。
「がぁっ?!」
「えっ!?」
突然叫びを上げたキャロルに響が目を見開いていると、何かがキャロルの体を優しく抱き上げた。傍から見ていると宙に浮いているように見えるキャロルだが、徐々にキャロルを抱き上げている何かは姿を現していった。
「ハ、ハンス――!? お前、何を――――!?」
キャロルの自決を止めさせたのは、ビーストに変身していたハンスだった。彼はカメレオンローブを纏い、姿を消した状態で響とキャロルの間に入ると自決しようとしたキャロルを殴って止めさせたのだ。
「悪いね、キャロル。でもやっぱりそれだけは俺納得できないからさ」
「う……ぁ……」
キャロルは自分を抱き上げるハンスの事を睨んでいたが、鳩尾への一撃で体力が限界に達したのかそのまま意識を手放した。
意識を手放し、自身の腕の中でぐったりとしたキャロルの頭をハンスは優しく撫で、次いでキャロルをここまで傷付けた響の事を睨み付ける。
視線だけで相手を射殺すような殺気を向けてくるハンスに、響は思わず半歩後退る。
「本当なら、キャロルを傷付けたお前達はこの手で八つ裂きにしてやりたいところだが……生憎とそう言う訳にもいかないんでな」
「逃げるつもりか?」
「逃がすと思ってんのか?」
明らかにこのままキャロルを連れて逃げるつもりのハンスを、翼とクリスが挟み撃ちにするように取り囲んだ。
しかしハンスは、絶体絶命の窮地であるにも関わらず余裕そうな態度を崩さない。寧ろ彼女達の事を嘲ってすらいた。
「くくくっ、お前ら俺にばかりかまけてていいのか? お前らの方にも足手纏いになってる奴が居るだろ?」
「!? しまった!?」
「奏! 颯人さんを!!」
ハンスの狙いが颯人であることに気付いた翼が警告するが時すでに遅し。今度は魔法使いが周囲に現れ彼女達を取り囲んでいた。
「あぁっ!?」
「くっ! 錬金術師の次は魔法使いか!」
「へっ! 上等だぜ、アルカノイズだろうと魔法使いだろうと、今のあたし達なら……」
意気込むクリスだったが、突如彼女達のギアが何時もの姿に戻ってしまった。イグナイト・モジュールのセーフティ・ダウンの時間を過ぎてしまったのだ。
「時間切れ!?」
「こんな時に!?」
「キャロル相手に、時間を掛け過ぎたか!?」
時間配分をミスったかと悔やむ翼であったが、それも仕方ない事だろう。まさかキャロルと言う敵の大将が倒れた後になって、追加の攻撃が来るとは思ってもみなかったのだから。
最大の脅威であったイグナイト・モジュールが解除されたのを見て、ハンスは笑いながらキャロルを抱いたまま数歩下がった。そこには何時の間に居たのか、メデューサの姿がある。
「それじゃ、後はよろしく頼んだぜ。せめて明星 颯人だけは確実に始末しといてくれよ」
「フン……」
ハンスはメデューサに一言告げ、テレポート・ジェムでその場から退避した。残されたメデューサは、鼻を一つ慣らして部下のメイジに指示を出した。
「やれ。ウィザードだけでも始末しろ」
メデューサの言葉を合図に、メイジ達が一斉に攻撃を開始した。幸いなことに集まったメイジの中には幹部候補の白メイジはいなかったが、しかしメイジはアルカノイズなどとは違い自分の意志で考えて行動してくる。
その厄介さはアルカノイズの比ではなく、更にはキャロルとの戦闘でかなり消耗していた装者達は劣勢に立たされつつあった。
「くそっ!? 相変わらず厭らしい連中だ!」
「言ってる場合か! 兎に角こいつらを退けるぞ!」
「颯人さん、逃げてください!?」
メイジ達は明確に颯人を目指して攻撃をしている為、装者達もそれを守る為の行動に徹せざるを得なかった。そんな中で、颯人も自分が彼女達の足枷になっている事を理解しているので早々にその場から立ち去ろうとしているのだが、苛烈なメイジ達の攻撃を前には逃げ回るのが精一杯だった。辛うじて奏の援護もあり何とか凌げてはいるが、この場で一番消耗した彼には逃げ切るだけの体力も無い。
必然的に持久戦を強いられ、徐々に奏の顔にも疲労が色濃く浮かび始めた。
「チクショウ! こんな時、アタシにも何か切り札があればな……」
思わず無い物強請りをしてしまう奏だったが、それがいけなかった。邪念が混じった事で心に隙が生まれ、その間隙を突かれてメデューサに突破を許し颯人に肉薄されてしまう。
「貰ったぞ!」
「しまっ、颯人!?」
変身と解いた颯人であればスクラッチネイルで十分とばかりに、メデューサは振り上げた左腕を颯人に振り下ろそうとする。颯人は咄嗟に腕でそれを防ごうとしているようだが、そんなもので防げる訳がない事は明白だった。
傍で見ている奏の目に、颯人に向けて振り下ろされる鉤爪がゆっくりと動くように見える。
「颯人ぉぉぉぉっ!?」
思わず叫び声をあげ、届かぬ手を伸ばす。今奏が考えている事はただ一つ、振り下ろされるメデューサの腕を止める事だった。この手が届きさえすれば、メデューサの腕を掴んででも止められると言うのに――――
無情にも振り下ろされたメデューサの左腕。その腕に着いた鉤爪が颯人に迫っていき………………彼の体を切り裂く寸前で止まった。
「何ッ!?」
「え?」
「は?」
その瞬間、驚きの声を上げたのはメデューサだけでなく颯人、そして奏であった。
3人は同じ1点を見つめている。その視線の先には、今正に颯人に向けて振り下ろされようとしていたメデューサの左腕…………を掴んでいる一つの手があった。
黒とオレンジのボディースーツに包まれたその手。それは赤い魔法陣から飛び出している。その魔法陣と同じものが、奏の目の前にありその中に奏は左手を突っ込んでいた。
つまり、今メデューサの腕を掴んでいるのは奏という事になる。だがそれを行った本人である奏は、目の前で起こった出来事に驚き魔法陣に突っ込んだ自身の手とメデューサの腕を掴んでいる手を交互に見ていた。
「え? 何これ?」
「! 今だ!」
奏だけでなくメデューサも自身の腕を掴んでいる手に注目しているのを好機とみて、颯人は至近距離からウィザーソードガンの銃撃を喰らわせて引き剥がした。その衝撃で奏の手もメデューサから外れ、メデューサは颯人からの後退を余儀なくされる。
「ぐぁぁぁっ!? くっ!? 一体何が起こった!?」
「何だ? 今誰が何やった?」
「え? 颯人じゃないの?」
「俺じゃない、俺何もしてない」
奏は一瞬颯人がギリギリのタイミングでコネクトの魔法を使ったのかと思ったが、彼は何もしていないと言う。では今のは一体誰が何をしたのか?
そんな事を考えながら奏が魔法陣から手を引っこ抜くと、今度は奏のギアに変化が起こった。まるで赤い炎の様な光を奏のガングニールが発したかと思ったら、次の瞬間奏のギアが今までとは全く違う姿に変化したのだ。
黒いコートを纏い、胸には赤い宝石の様な胸当て。腰には黒いタイトスカートが巻かれており、手足も黒い長手袋とハイソックスで包まれている。
その姿は全体的に見て、颯人の変身するウィザードとどこか似た姿をしていた。
「何それ?」
「何これ?」
あまりにも唐突過ぎる変化に颯人と奏だけでなく、その場に居る全員が唖然となった敵であるメイジですら、奏の変化に思わず思考が停止したのか動きを止めていた。
そんな中で真っ先に再起動したのは、ギアが変化した奏自身であった。
「ちょ、ちょっと待った! 了子さん、了子さん!? ギアが何か可笑しくなったんだけど!?」
『流石私! 改良は成功、新機能はバッチリだったみたいね!』
困惑する奏を無視して、何かが上手くいった様子に喜ぶ了子。通信機の向こうでは、そんな了子に弦十郎も説明を求めていた。
『了子君、あれは一体なんだ?』
『簡単に言えば、奏ちゃんの中に流れた颯人君の魔力を有効活用するのに最適なギアに変化したのよ』
シンフォギア・システムは装者の肉体的・精神的成長に従ってシステムロックが段階的に解除されるされるようになっているが、装者の心象や外部からの影響によって特定分野に特化した形状・機能を獲得する事がある。
その機能の事を了子は、心象変化若しくは外部変化と呼んでいた。
『その姿は奏ちゃんの中にある颯人君のイメージを形にした姿よ。それに加えて今の奏ちゃんのシンフォギアには、アルドからの協力で魔法石の欠片も組み込んであるの。つまり、今の奏ちゃんのギアは奏ちゃん自身の心象に加えて颯人君からの影響を受けて変化したって訳。言うなれば今の奏ちゃんのガングニールは『ウィザード型ギア』ってところかしら?』
途中小難しい説明もあったが、要は奏の中にある魔法使いのイメージが形となったギアという事だろう。今の奏のシンフォギアは、ガングニールでありウィザードなのだ。
「へぇ~? ん? って事は今のアタシって魔法使えるの?」
『そうね。システムはシンフォギアだけど、奏ちゃんのイメージ通りに魔法が使える筈よ』
「どれどれ?」
物は試しと、奏は左手を翳した。するとそこに、颯人が魔法を使用する際に現れるのと同じ魔法陣が現れる。奏はその中に躊躇なく手を突っ込んだ。
すると次の瞬間、メイジの集団のすぐそばに大きな魔法陣が形成され、そこから飛び出した巨大な奏の腕が複数のメイジを纏めて吹き飛ばした。
それを見て、颯人は思わず目を見開く。
「はぁっ!? 何だそれ!?」
「ははっ! こりゃいいや!」
「ちょっと待て奏、俺そんな事出来ねえぞ!?」
今のはどう見てもコネクトとビッグの魔法の複合技。だが颯人が一度に使える魔法は基本的に一つだけであり、複数の魔法の同時使用などやった事も無かった。
驚く颯人の姿が面白いのか、奏は勝ち誇ったような笑みを浮かべてみせた。
「ふふ~ん! 頭硬いんじゃないの、颯人? こ~んな事も出来ちゃうもんね」
言うが早いか、奏は新たに魔法陣を作り出すと、そこにアームドギア(これもギアの変化の影響で形が変わり、槍の穂先に魔法石が組み込まれたような形になっている)を突っ込んだ。魔法陣を通ったアームドギアは、穂先が炎で包まれると同時に穂先だけが鎖に繋がれて一気に伸び、奏はそれを振り回して周囲のメイジを片っ端から薙ぎ払っていった。
その暴れっぷりは凄まじく、翼達は巻き込まれないようにと体を低くしたりする必要性に駆られた。
「わわわわっ!? 危ない危ない!?」
「先輩暴れ過ぎだ!?」
「奏!? ちょっと落ち着いて!?」
「おっと、悪い悪い。何しろ初めてなもんでね、ちょっと興奮しちまった」
翼達からの抗議を聞いて、漸く落ち着きを取り戻した奏は鎖を引っ込めアームドギアを魔法陣から引っこ抜いた。
その頃には周囲に居たメイジは殆ど倒されており、残るはメデューサだけと言う有様であった。メデューサは、まさか奏1人にここまで形勢を逆転されるとは思っていなかったのか倒れたメイジ達を見て唖然としている。
「まさか……こんな――――!?」
「さぁてと、後はお前だけだな!」
残ったメデューサに対し、奏は普段の颯人の戦いを思い浮かべながら魔法を組み立て、それを発動させた。
アームドギアをガントレットに戻し、腰に装着されたハンドオーサーを操作して右手を翳す。
〈チョーイイネ! キックストライク、サイコー!〉
颯人の影響を受けているからか、ウィザードが必殺技を放つ時と同じ音声を放ち奏の足元に形成された魔法陣が奏の足に魔力を集束させる。十分に魔力が足に充填されたのを見て、奏はコートの裾を翻すと颯人を模倣して側転からのバク転と言うアクロバティックな動きをしながらメデューサに向けて飛び蹴りを放った。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
[MAJESTIC∞FLAME]
炎を纏った飛び蹴りがメデューサに向けて放たれる。メデューサはそれを杖で防ごうと受け止め、しかしその威力に踏ん張りきる事が出来ず蹴り飛ばされた。
「ぐっ!? あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
蹴り飛ばされたメデューサは地面に落下し叩き付けられると、少しの間痛みで悶えていたが杖を使って何とか立ち上がった。
「はぁ、はぁ……ぐっ!? くそ、こんな筈では……」
「どうした? まだやるか?」
「くっ!? 覚えていろ、天羽 奏! 貴様も明星 颯人もどちらも纏めてこの世から消してやる!!」
〈テレポート、ナーウ〉
メデューサは捨て台詞を残してその場から去っていった。気付けば周囲で倒れていたメイジも姿を消している。
こうして本部周辺を始めとした各地で同時に起こった戦いは終わった。結果だけを見れば施設は破壊され、首謀者には逃げられると言う散々な結果ではあった。
しかしその代わりに、装者達は大きな力を手に入れた。イグナイト・モジュール、そしてウィザード・ギア。これらの力はこれから先、戦いで大きく役に立つだろう。
後書き
という訳で第121話でした。
奏の新たな力は、ソシャゲで言うところの心象変化です。ゲームの方ではウルトラマンスーツやグリッドマンやキラメイジャーの力を得たギアが出ているので、イグナイトが搭載できない奏には代わりにウィザードの力を得たギアを手に入れてもらいました。出来る能力は純正ウィザードと言うよりもジオウで登場したネオディケイドの変身したウィザードって感じですけど。
因みに今回は描写してませんでしたが、ウィザード型ギアの弱点は奏の中に溜まっている颯人からの魔力が切れると維持できなくなると言う設定です。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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