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おっちょこちょいのかよちゃん

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223 囚われた場所には

 
前書き
《前回》
 雷の山にて福岡の小学生達と共にトロツキー、さらに再び現れたアルバート、アリス、ヘレナと交戦するすみ子達。完全に追い詰めたと思われたが、トロツキーは緊急時に発動する能力を使用して別の場所へアルバート達と共に瞬間移動してしまった。そして一時休憩中かよ子達はムラト1世という人物に襲われる。攻撃しようとすると強制的に手を挙げられ動けなくなるという能力に苦悩する。そして敢えて武器を使用しないとその能力は発動しないという弱点を突いた事、ムラト1世の最後の能力(ちから)と石松の神の能力(ちから)のぶつかり合いの結果、何とかムラト1世を撃破した!!
 

 
 レーニンは中央の屋敷へと向かう。そんな時、通信が来た。
「レーニンだ」
『こちらトロツキー。雷の山奪還失敗です』
「そうか、了解した。戦力も削がれてしまったからな」
 そしてレーニンの中にあるもう一人の少年の心・杉山さとしは考える。
(そうか、皆は次々と作戦を進めているのか・・・)

 かよ子達は藤木の行方を追う為に先へ急ぐ。これまでシャルル・リゴーにラ・ヴォワザン、スターリン、ムラト1世と次々と敵が自分の杖を襲撃してきており、その1日だけでも攻めてくる敵が多かった。
「はあ、こんなにお腹空くなんて・・・」
「もうすぐ飯時だ。子供のお前にとってもこの連戦はかなり酷だったからな」
「うん・・・」
 その時、イマヌエルの声が聞こえる。
『皆の者、昼食時となりました。只今昼食を供給します』
「おお〜、やっと食べられるう〜」
「儂も腹ペコじゃ〜!」
 まる子と友蔵は歓喜した。皆の前にはスパゲッティと生野菜のサラダが送られた。
「おお、美味いのお~!」
「ああ、おかわり欲し~い」
 その一方、かよ子もまた空腹には耐えられず、がっついた。
「ふう、食べたら少し元気出たかな・・・?」
「それにしてもこのすぱげってぃとやらも美味いものだ」
 次郎長や石松もスパゲッティの旨さに感心していた。
「よし、午後も頑張るよ・・・!」
 かよ子は意気込んだ。

 とある少年は二人の遊女と部屋の中で寛いでいた。
「茂様と一緒にいると楽しいわね〜」
「ええ、私も茂様といると落ち着きます」
「うん、僕も君達と一緒で楽しいよ」
 少年はデレデレしながら言った。
「あ〜あ、私が茂様のお嫁になりたかったなあ〜」
「私も・・・です」
 そんな時、部屋の扉が叩かれた。
「坊や、帰ったぞ」
「だ、妲己さん・・・」
「いい土産を持って来たぞ」
「土産?」
「ああ、坊やの嫁だ」
「・・・!」
「一緒に行ってみるかね?だが、まだその少女は眠っているがな」
「う、うん・・・」
 少年はなぜか緊張するのであった。

 りえは目を覚ました。コートは脱がされており、自身はいつの間にか寝台に横になっていた。
(ここは、どこなのっ・・・?何で私、こんな所で寝てるのっ・・・?)
 りえは記憶を辿る。確か戦争主義の世界の人間が狐となって襲撃し、その時、同じくその仲間が訪れ、更にはその仲間は杉山の姿になって・・・。あまりにも話がややこしい状態だった為、りえは状況が整理できなかった。
(そうだっ、杯はっ・・・!?)
 りえはハンガーのような物干しに自分のコートが掛けられていた。急いでコートのポケットを確認する。しかし、杯は入っていなかった。
(杯を盗られたっ・・・!!)
 その上、助けを求めようにも通信機さえも没収されていた。りえは焦る。そして部屋の周りを確認する。引き出しにクローゼットのような空間、自身が今横たわっていた寝台、便所に洗面所、スタンドの形をした明かり、そして窓が一つ、扉もあった。そして正方形の食卓がその場にあり、座敷となっていた。
「ここは、どこ?」
 部屋には自分以外は誰にもいなかった。
「鈴音ちゃんっ、みゆきちゃんっ、ありさんっ、悠一さんっ、冬田さんっ!!」
 りえは同行していた人物達を呼ぶ。
「シャクシャインさんっ、阿弖流為さんっ、母禮さんっ!!」
 しかし、返事は一切なかった。
(まさか、皆やられたっ・・・!?)
 りえは己が最大の失態を行ったと共に、最悪の状況が思い浮かんだ。
(に、逃げられるかしらっ・・・?)
 りえは窓を確認する。その部屋は4階にある。飛び降りられそうにもない。今度は扉を確認する。扉は自力で開かなかった。
(鍵が掛けられてるっ・・・!!)
 扉からも外には出られない。りえは絶望した。仮にこの屋敷から逃走できたとしても杯もなしの自分では何もできず、敵の世界の陣地から平和主義の世界の人間や他の仲間と運良く合流できる可能性も低く、逃げ切る事はできないのだが。諦めてりえは寝台に腰掛けた。
(ずっと、ここにいなきゃいけないのっ・・・!?)
 りえはそう思いながら数分動かなかった。その時、扉が叩かれた。りえは戸が叩かれる音で驚いた。そして一人の女性が入る。
(くつろ)いでいるかね?お嬢」
「だ、誰っ!?私をどうするつもりよっ!?杯を返してっ!!」
 りえはその女性に吠え掛かる。
「おっと、落ち着くがいい」
「こんな所にいて落ち着ける訳ないでしょっ!!」
「やれやれ、殺したりはしない。生け捕りにしてくれとの命令でね。私は妲己。この屋敷の女だ。それから杯は我々の世界に必要な代物。だが、本部に置いたのでは剣の二の舞となってしまうので別の場所にしまってある」
「どこなのよっ!?」
「それは言えない。それからお嬢、お前はある『坊や』に相応しい人物という事が解った。その『坊や』の嫁になって貰う」
「嫁っ!?」
「入るがいい」
 部屋に一人の少年が入って来た。その少年はどこかで会った顔だった。夏休みに静岡県の清水市を訪れた時にかよ子や杉山達と共におり、クリスマス・イブの夕方から行方不明となったというあの少年だった。
「えっ・・・?ふ、藤木君っ・・・!?」
「ええと、りえ、ちゃん・・・?」
 お互いは再会に驚いた。
「どうしてここにっ!?」
「いや、その・・・」
 藤木はなんと言えばいいか解らず困惑する。
(あの人、本当に連れてきてくれたのか・・・)
 藤木は心の中では夏休みに一目惚れした少女に会えて嬉しく思っていた。
「ふふ、坊やも本当の事が言い辛いらしいようね。私が代弁しよう。この坊やは友から卑怯と呼ばれて嫌われてしまった為に絶望していたのだ。それを(たまたま)私と出会い、その苦しみを打ち明けてくれた。それで私はこの坊やをここに連れて行き、苦しみのない生活を提供しているのだよ」
 妲己が説明した。
「苦しみのない生活・・・。藤木君、それで本当にいいのっ!?」
 りえは藤木に問う。
「・・・、いいんだ、僕は『あの世界』じゃ皆から卑怯って言われるだけなんだ。ここの生活がいいんだ・・・!!」
「まあ、お互い知り合いなら話も早いか。じきに祝言を取り繕う予定だ。私はこれで失礼しよう。杯の所有者、いや、今はただの『安藤りえ』か。お前の婿はこの藤木茂という坊やだ。お互い幸せになるのだ」
 妲己は部屋から出ていった。
「・・・りえちゃん、僕はまた会えてよかったよ」
 りえは藤木が少し泣いているのを確認した。そして藤木も部屋を出ていった。りえは藤木を追う。しかし、扉が開いていても外へは出られず弾き返された。
「この部屋からは私やこの屋敷の主人の許可がない限り外へは出られないようにしてある。お前が宿す異能の能力(ちから)を持ってしてもだ」
「そんな・・・」
 りえは完全に軟禁の身である事に改めて気づいた。
(杉山君っ、藤木君っ、どうして私の知っている『友達』が寝返っちゃうの・・・!?)

 藤木は己の部屋へ戻る。一人の遊女が待ち構えていた。
「茂様、お嫁さんと会えました?とても綺麗な人に違いありませんよね?」
「う、うん・・・」
「いいな、私がお嫁になれたら嬉しかったのに・・・」
「だ、大丈夫だよ。いつでも皆といられるだけでも嬉しいよ」
「ありがとうございます〜」
 だが、藤木はりえの言葉が気になる。
《苦しみのない生活・・・。藤木君、それで本当にいいのっ!?》
(でも僕は、もう戻れないし、戻りたくないんだ・・・!!りえちゃんにも解って貰わないと・・・!!)
 藤木は再会ともう離れる事はないという喜びで満ちていると共にりえが反発しているように見えていた。 
 

 
後書き
次回は・・・
「串刺しの吸血鬼・ヴラド3世」
 多くの敵が杖を狙いに襲う中、かよ子達藤木救出班は次へと進んでいく。だが、かよ子達の前に手榴弾や槍が襲い掛かる。そして現れた敵は七夕の豪雨の時に現れた赤軍の人間で、またもう一人の敵の槍がかよ子を襲う・・・!! 
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