骸骨と姫とさめない夢
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さめない夢
「ねぇ」
空から星が優しく微笑む夜でした。お姫様はベットの中から骸骨に話しかけます。
「空を飛べないかしら」
骸骨は布団の端を整える手を止めて、お姫様を見ます。
「それは、難しいのではないでしょうか」
「どうして?」
「人間は、地を歩く生き物です」
「鳥は、空を飛べるのに?」
「鳥と人は違います」
「じゃあ、わたしは?」
骸骨は少しの間、言葉を探すように首を廻らせたあと、しっかりとした声で言います。
「きっと、飛べましょう。あなたなら。」
お姫様はその答えに満足して、頬を薔薇色に染め上げます。
「ねぇ」
ちいさなちいさな声で、お姫様は言いました。それでも骸骨は、お姫様の言葉をちゃあんと聞き取って、次の言葉をじっと待ちます。
お姫様は、それが嬉しくて、うれしくて。
「…姫様」
骸骨が驚いたように、戸惑ったように姫様を呼びました。
お姫様は、その声を避けるように頭まですっぽりとお布団を被って顔をかくしておしまいになりました。
「わたしが空を飛ぶ時は、一緒よ。どこへいっても。わたしを、置いていかないで」
くぐもった声でも、お姫様の声はしっかりと骸骨に届きました。
「わたくしのすべてはあなたのために。ですからどうか、泣かないで下さい」
「変ね。どうして涙が出るのかしら。嬉しいはずなのに」
お姫様は恥ずかしそうに布団から愛らしい瞳を覗かせました。
「ねぇ」
お姫様はそっと布団から白玉のような手をお出しになりました。
「手を繋いでも、いい?」
骸骨は何も言わず、お姫様の手に手を優しく重ねました。
お姫様はその手を見て、たまらなく嬉しい気持ちになって、また真珠のような大粒の涙をみっつよっつ、零しました。
「…目が腫れておしまいになりますよ」
「いいの。とまらないのだもの」
骸骨は丁寧にレースのハンカチでお姫様の涙を拭って差し上げました。
「さぁ、もうおやすみの時間です」
「わたしが眠っても、手を離さないでいてくれる?」
骸骨はじっとお姫様を見つめるだけでなにも言いません。
けれどお姫様には、骸骨が優しく優しく微笑んだように見えました。
お姫様も、つぎからつぎからとこぼれ落ちる涙を拭いて骸骨に笑いかけました。
「ありがとう。おやすみなさい」
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