フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです
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第7章 日常編
第29話 親睦
ナツとグレイの喧嘩を皮切りに発展した、アレンムカ着火ファイアー事件で奇しくもお仕置きの対象となってしまったルーシィ、レヴィ、ウェンディ、ビスカは、フェアリーテイルの酒場で、緊張した面持ちでアレンの到着を待っていた。
そんな中、ルーシィは、落ち着かない様子でカウンターにいるミラに言葉を掛けた。
「…はぁ、なんでこんなことに…」
「大丈夫?ルーシィ…」
ミラはそんなルーシィの様子を憐れみを含んだ目で見つめる。
「大丈夫じゃないですよー…あ、ミラさんは何されるか知ってますか?」
「ん-、私がお仕置きされたのは初めての時だから、皆ひたすら追いかけられて、泣きべそかきなりながら逃げまわってたわ」
ミラはまるで楽しい思い出のように語った。その言葉を聞き、ルーシィ含め、今回の指名4人の顔に恐怖と絶望が滲み出る。
「ううっ…」
「ふ、震えが止まらないわ…」
ウェンディとルーシィが恐怖に慄いていると、そんな様子を見た2人が声を掛けてきた。
「きっと大丈夫よ、アレンも、4人が関わってないってわかってるわ」
「恐らくは、前回の俺らと同じことをされるだろう」
2回目のお仕置き、指名方式としては初めての選抜を受けたウルティアとジェラールに声を掛ける。
「ほ、本当ですか?」
「なんでそういいきれるの?」
ウルティアとビスカの顔にほんの少しだけ光明が見える。
「いや、前回私たちもあなたたちと同じで全く関係なかったんだけど、アレンがそれをわかってくれてて、大したお仕置きじゃなかったのよ」
「だから今回も大丈夫だと思うぞ…。多分…」
ウルティアとジェラールは、それぞれに説明した。
「絶対ではないんだ…」
「もしかしたら大丈夫かも…って思ってたらとんでもないことされた…ってなったらダメージは更にデカいわね…」
レヴィとルーシィはいまいち安心できない話に、悩むような表情を見せる。
「まあ、さすがにそこまではね…。アレンの考え次第ってところもあるし…」
「…まあ、だが、お仕置きのために行く場所がスノードロップ村だったらほぼ確実に痛みや苦しさはないな」
「スノードロップ村って、確かマグノリアから馬車で2時間くらいの場所よね?」
「近くの村だわ…」
ジェラールの言葉に、レヴィとルーシィが思い出しながら口を開いた。
「そこでは一体何をしたんですか?」
「あー、7年前とは言え口止めされてるのよねー」
ウェンディの質問に、ウルティアは申し訳なさそうに頭をかく。
「えー、なんか余計に怖い…」
「実態が分からないのは恐怖よね…」
レヴィとシャルルが、落ち込んだ様子で答える。
「まあ、とりあえずはどこに向かうかを聞いてみたらいいんじゃないか?」
「それでスノードロップ村だったら少し気が楽だし、他だったら…まあ、その時は…ね」
ジェラールとウルティアの言葉に、対象の4人は「うー…」と低く唸る。そんな風にしていると、酒場にアレンが現れる。アレンが来たと同時に、4人は肩をぶるっと震わせる。
「よーし、んじゃ、4人とも行くか!」
「「「「…はい」」」」
4人は落ち込んだ様子で答える。そんな様子を見て、アレンは軽く笑って見せ、小さく呟いた。
「大丈夫、4人が何もしてないのはわかってるから、ひどいことはしないよ。俺と一緒に遊びに行くって思ってもらって構わない」
その声を聴き、4人の表情がパアッと明るくなる。
「ほ、本当ですか?」
「よかったー!」
ウェンディとルーシィがこれでもかと脱力する。アレンの言葉を聞いて、ウルティアが声を掛ける。
「ってことは、スノードロップ村にいくのかしら?」
「お、さすがウルティア!ご名答!」
ウルティアの言葉に、アレンは嬉しそうに声を発した。
「それなら、俺も一緒に行ってもいいか?久しぶりに顔を出したい」
「んー、そうだな。いいぞ」
ジェラールがそう言うと、ウルティアもその話に乗ってくる。加えて、ウェンディに着いていくようにシャルルもついていきたいと言い、アレンはそれを承諾する。
そんな様子を見ていた周りのメンバーの中からも、何人かついていきたいという者が現れる。
「俺もいいか?」
「おお、ガジル…。そうかー、レヴィが心配なんだなー!この!!」
「そ、そんなんじゃねー!!ただ興味があるだけだ!!」
ガジルは顔を赤らめながらアレンに激高する。そんな2人の様子を見て、レヴィも顔を赤らめていた。
「ぼ、僕も一緒にいいかい?アレンさん…」
緊張した面持ちで声を掛けてきたのは、ビスカと両想いのアルザックであった。
「おお、ビスカが心配なのか?もちろんいいぞ」
「え、ええまあ…。ありがとうございます」
アレンの返答に嬉しそうにしながら、アルザックは恥ずかしそうにしていた。ビスカはそんなアルザックを見て、感極まった様子で、とても嬉しそうにしていた。
更にその話に乗っかる形で、リリー、エルザ、ミラ、カグラ、ナツ、ハッピー、グレイ、ジュビアが乗っかってくる。まさかの総勢18名となり、その集団は大盛り上がりを見せていた。
スノードロップ村に向かうメンバーは、口々に雑談をしながら、アレンを先頭に酒場から出ようを歩みを始める。
「…なんか、当初より大所帯になっちまったな…」
「アレン!ルーシィをボコボコにするなら俺にやらせてくれ!」
「「鬼か!お前は!!」」
ナツのドS発言に、アレンとルーシィは華麗なるダブル突っ込みを放つ。
「…ルーシィ、お前も苦労してるんだな…」
「ああー、アレンさんはわかってくるんですね…」
ルーシィはアレンの言葉に、感銘を受け涙を流す。
「しかし、これだけの人数、馬車を手配するだけでも一苦労だぞ」
エルザがそうアレンに問いかけると、乗り物酔いをしてしまうナツ、ガジル、ウェンディの3人の肩がビクッと震える。最近はウェンディの、乗り物酔い防止の魔法トロイヤの効果が3人とも薄くなってしまい、ほぼ効き目がなくなっているためである。
「あー、最初は俺も馬車でと思ってたんだが、この人数だし、予定変更だ」
「おー!だったら歩いていくのか?」
アレンの言葉に、ナツは嬉しそうに答える。
「いや、さすがに歩いたら4時間コースだからな、面倒だ」
「じゃあどうするの?」
アレンの言葉に、レヴィが首を傾げる。そんな風に会話をしていると、フェアリーテイルの入り口前に着く。
「まあ見てなって…ちょっと離れてな」
皆がアレンの近くから遠ざかるように後退する。アレンは指を何度か奇妙は形に組む。そして、
「口寄せの術」
アレンがそう言うと、地面に一瞬にして黒い術式のようなものが現れ、大量の白い煙が現れる。その様子に驚いていたメンバーだったが、その白い煙が晴れると、更なる驚きが生まれる。
「「キィーーーー!!!」」
奇妙な鳴き声と共に、2体の巨大な鷹が現れる。20m弱と言ったところであろうか?まるでモンスターを思わせるような体格に、みなが驚きの表情を見せる。
「な、なんだこりゃー!!」
「大きい!!」
「鷹…か?」
「まじか…」
ナツ、ルーシィ、カグラ、ガジルが目を見開いてそれを眺めていた。鷹はぶるっと身震いしながら、床に腹ばいするようにその身を地面に預ける。
「これなら、分かれてみんな乗れるし、馬より早い。そして何より、乗り物酔いしないだろ?」
アレンの言葉に滅竜の3人の表情に笑顔が浮かぶ。他の者も、巨大な鷹をみて、惚れ惚れとした様子であった。
「さあ、翼を伝って背中に乗ってくれ」
アレンの言葉を受け、皆がそれぞれ鷹に乗り込む。アレンは皆が乗り込んだのを見届けてから、一方の鷹に乗り込むと、鷹の頭をポンッと叩く。
「道案内は俺がする。エグルは後ろからついてきてくれ」
アレンの言葉を聞き、2体の鷹は小さく頭を振る。
「言葉が分かるの?賢いわね…」
「この子エグルっていうんだ!」
エグルに乗り込んでいたウルティアとルーシィが驚いたように口を開いた。
「なあ、アレン、こっちのはなんていうんだ?」
「ああ、こいつはアギラだ」
「かっこいいな…名前も見た目も」
ナツの質問にアレンが答えると、エルザが感心したように言葉を発した。
「んじゃ、出発だ!行くぞ、エグル、アギラ」
アレンの言葉を聞き、エグルとアギラは翼をはためかせ、空へと上昇した。空を飛ぶという体験と爽快感に、皆が驚きつつも、とても嬉しそうにしている。特に、移動の度に、乗り物に乗るたびに苦痛を味わってきた滅竜の3人にとっては、他のメンバーよりも爽快感がたまらないものであった様子で、あのぶっきらぼうのガジルですらも感心して笑顔が絶えなかったという。
スノードロップ村。他の村と変わらず、農業を主体とする村で、名産品などもない。村の総人口は200名程度であるが、とある大きな建造物に村の人口の50%が集中している。この村唯一の特徴ともいえるその建物にアレン達一行が到着したのはマグノリアを出発してたったの20分であった。
「もう着いたのか!」
「速いものだな」
グレイとエルザが、鷹から飛び降りながら言葉を発する。その後、皆も鷹から飛び降りて地に足をつける。
「この大きな建物は一体…」
「お城みたいね」
ウェンディとシャルルが不思議そうに眺めている。
「ここは孤児院、養護施設だ」
「孤児院?」
「身寄りのない子どもたちが生活する場所だよ」
「んで、なんでこんなところに連れてきたんだ?」
アレンが建造物の説明をすると、ナツが質問をするが、孤児院から一人のシスターが現れた。ふとっちょの壮年の女性が出てくる。
「これはこれはアレンさん、お久しぶりでございます」
「おお、久しぶりだな…。といっても1か月ぶりくらいだけど」
そんなシスターと知り合いなのか、アレンは挨拶を交わす。シスターは後ろのフェアリーテイルのメンバーを見て、驚きの表情を見せる。
「あら、フェアリーテイルの魔導士さんたちですか?ご一緒に来られるなんて、珍しいですね。以前に連れていらしたのは7年前でしたか?」
シスターは1人ひとりの顔を確認しながら言葉を発する。そして、とある2人の人物を見ると、目を見開いて視線を定める。
「あら、もしかして…ジェラール君とウルティアちゃんかしら?大きくなったわね」
「お久しぶりです、シスター」
「ご無沙汰しております」
ジェラールとウルティアがシスターに軽く頭を下げる。
「ふふっ!アレンさんに愛情たっぷりに育てられたのですね!」
シスターの言葉に、2人は恥ずかしそうに目線をそらす。
「いや、大したことはしてやれなかったよ…なんせ7年もほったらかしだったからな」
「いえいえ、愛情は単なる時間ではありません。大事なのは心ですよ」
アレンの言葉に、シスターは笑いながら言葉を放つ。その後、話しを戻すようにアレンに再度声を掛ける。
「それで、こんなにたくさんのお仲間を連れて、今日は何をされにきたのですか?」
「ああ、色々あってな、今日一日、手伝いをしてもらおうと思ってな」
「手伝い?それがお仕置きの内容?」
アレンの言葉に、レヴィが疑問をぶつける。
「そう、孤児院の仕事の手伝いと、子どもたちと遊んでやってくれ。あ、シスター俺はちょっと村の巡回に行ってくるからこいつらの案内と仕事よろしく頼むわ」
アレンはそう言って、そそくさと孤児院を後にした。そんな様子を見届けたフェアリーテイルのメンバーは、ポカーンとしていたが、ウェンディが小さく呟く。
「なぜ、アレンさんはこの孤児院に私たちに…」
「むう、シスター、一体この孤児院とアレンはどういう関係なんだ?」
ウェンディの疑問を掬い上げるように、エルザがシスターに言葉を発した。他のメンバーも状況が飲み込めていない様子であった。そんな様子を見て、シスターはふふっと笑って見せた。
「まったく、アレンさんは何もお話しされていないのですね」
シスターはそう言って、この孤児院について話し始めた。
「この孤児院は、アレンさんが私財を投じて作られたものなのですよ」
その言葉に、皆の表情が驚愕のモノへと変わる。
「なっ!」
「これだけの建物を…」
「一体どうして…」
アルザック、ビスカ、シャルルが驚いた様子で声を上げた。
「アレンさんがお優しい方だというのはあなた方もよく知っておられると思います」
シスターの言葉に、皆が肯定の意を表す。
「この施設は、身寄りのない子どもを中心に、その生活を守るもの…。アレンさんは過去に、子どもたちが、罪のない人々が奴隷のように働かされていたのを見たことがあると仰っていました。それをきっかけに、奴隷制というものが珍しいものではないということを知り、この施設をつくるに至った…と私はきいております」
シスターの言葉を聞き、皆の顔に驚きと曇りが見える。特に、エルザとジェラール、ソラノは他の者に比べて更に驚愕の表情を浮かべていた。
「ふふっ…まあでも、自身のことをあまり語らないのは、アレンさんの悪い癖ですね…。この施設の創設者がアレンさんであることは、私と、フェアリーテイルのマスター、マカロフ様しか知りえないことですから」
シスターがそう言い放つと、ナツが息を漏らしながら口を開いた。
「こいつは、子どもたちしっかり遊んでやらねーとな!」
「…ああ、シスター、力仕事なら、俺に任せてくれ」
「わ、私も頑張ります!!」
ナツ、グレイ、ウェンディが真剣な面持ちで言葉を発した。それを皮切りに、他の皆の表情にも驚きから笑顔に変わっていく。
「頼もしいですね…。あ、私が今の話をしたことはアレンさんには内緒でお願いしますね」
シスターはそう言って、18名のフェアリーテイル魔導士たちと孤児院の中へ入っていった。
時刻は夕方。孤児院での仕事を終えたフェアリーテイルのメンバーは、アレンが再び口寄せした鷹に乗って、孤児院を後にしようとしていた。鷹に乗り込んだメンバーは孤児院前に集結している子どもたちに手を振って別れを告げる。
「またなー!!」
「いい子にしているんだぞ!」
ナツとエルザが、大声で聞こえるように放つ。次第に孤児院が遠ざかり見えなくなると、皆は満足そうな顔をして手を振るのをやめる。
「随分と楽しんでたみたいだな」
アレンはそんなメンバーに声を掛ける。
「子どもと遊ぶのも、たまにはいもんだな」
「私もグレイ様との子どもができたら沢山遊びますわ!」
「な、なにいってんだおまえは!」
ジュビアの悪寒きわまる言葉に、グレイがツッコミを入れる。皆の表情は子どもたちと遊びつくし、力仕事や雑用をしたとは思えないほどに清々しいものであった。そんな様子に、アレンは少し怪訝に思う。
「…それにしても、ご機嫌すぎやしないか?なんかあったのか?」
「ふふっ…なんでもないさ」
アレンの質問に、エルザが含んだように答えると、皆は顔を見合わせて笑いあった。アレンの底知れぬ優しさと愛情に、心が満たされていたのだ。アレンは一体何がそんなに可笑しいのか理解できず、首を傾げながらマグノリアへと帰還した。
孤児院を後にした一行は、一度フェアリーテイルに戻り、お仕置き?が完了したしたことをマスターに告げる。すると、マスターが「アレンに客じゃ」という言葉と共に、ミネルバとスティング、ローグが顔を出した。アレンが「どうした?」と聞くと、ミネルバが「会いに来たのじゃ」という言葉を発したことで、特定の女性陣を中心に、酒場は不穏な空気に包まれた。
さて、そんな雰囲気を一切察知できなかったアレンは、こともあろうにミネルバたち3人に、「俺の家でもくるか?」という言葉に、まるで顔に花を咲かせたような表情になったミネルバであったが、そんなミネルバとアレンの密会を阻止しようと何人かの女性が「私も!」と名乗りを上げる。そうこうしているうちに、相当なメンバーが「アレンの家に行きたい」と言い出し、宴会のような様相を呈することになる。
フェアリーテイルの酒場からアレンの家へと移動したのは、ミネルバとスティング、ローグに加えて、エルザ、ミラ、カグラ、ウルティア、ウェンディ、レヴィ、ルーシィ、ジュビア、ガジル、ジェラール、ナツ、グレイ、ハッピー、リリー、シャルルの18名となった。メンバーの中にいないウルとリオン、カナとソラノとユキノは仕事でマグノリアから出ていたため、参加していなかった。
前回のウルとウルティアとの食事会とは違い、特に何も準備をしていなかったため、街で色々な食材を買いに行きつつ、アレンの家へと足を踏み入れた。
人数が多いこともあり、リビングで買ってきた食べ物やお菓子、ジュースに酒を広げ、適当な場所に座りながら各々が会話をしながら楽しんでいた。そんな折、ルーシィが思い出したかのようにアレンに声を掛ける。
「あ、そういえば、アレンさんって、いつからフェアリーテイルにいるんですか?」
「ん?俺は確か…10年弱位前からかな?エルザとジェラールと一緒に入ったんだ。まあ、最初は入る気はなかったんだけどな…エルザとジェラールに泣きつかれてよー」
アレンがやれやれと言った様子で答えると、エルザとジェラールが顔を赤らめる。
「な、泣いてなどいない!!」
「ちょっと不安がっていただけだ!」
エルザとジェラールの言葉に、皆が大笑いする。
「あの時はまだ2人も10歳くらいでなー、すっごい可愛かったんだぞー!アレンさん、アレンさん!ってよ!!」
「や、やめろ!恥ずかしいだろ…」
エルザはさらに顔を赤くしてアレンに抗議の声を上げる。
「それを言ったら、ここにいるものだけでも、ミラ、カグラ、ウルティア、グレイも子どものころアレンの紹介でフェアリーテイルに入ったではないか!」
「ええ!そうなの!私全然知らなかった…」
ジェラールの言葉に、ルーシィは驚きを見せる。
「ええ、そうよ。私はリサーナとエルフマンも一緒に、グレイはリオンとウルも一緒に、だったわね」
「そう考えると、アレン繋がりでフェアリーテイルに入った奴は、思ったよりたくさんいるんだな」
ルーシィの驚きを見て、ジェラールの言葉を補うように、ミラが口を開くと、ナツが骨付き肉に食らいつきながら呟く。
「アレンに対して恩を感じている者は多い。ソラノとユキノも子どもの頃に助けられたと言っていたな。そういえばルーシィもそうだったな」
エルザは腕を組みながら誇らしげに胸を張る。
「うん、アレンさんには盗賊に襲われてるときに助けてもらったの!確かあの時は、まだ7歳くらいだったかしら」
「あー、そういえばそんなこともあったなー。懐かしいもんだな」
アレンは思い出すように口を開く。
「ミネルバは、アレンとどういう出会い方をしたの?」
「わらわは…色々あって落ち込んでいてな…そんな時アレンさんに会ったのじゃ。泣いて落ち込んでいる私に、そっと寄り添ってくれたのじゃ…」
ミネルバは、ミラの質問に、当時のことを思い出しながら少し照れくさそうに答えていた。
「…無事に、乗り越えられたんだな…」
「っ!ああ、本当に感謝しておる…それも、このお守りのおかげじゃ…」
アレンの真剣な声に、ミネルバは首から下げ、胸の間に挟まっているお守りを出す。
「そういえば、ずっと気になっていたんだが、そのお守りは一体何なんだ?」
グレイが目を細めながらミネルバのもつお守りを見つめる。
「そいつは、守りの護符っていうアイテムだ。身に着けているだけで、物理防御力と精神防御力を上げてくれるものだ」
「そんな小さなお守りが…すげえな…いったいどれほど高価なモノなんだよ」
アレンの言葉に、皆が輝かしい目でそれを見つめる。
「んー、まあ大体S級クエストの報酬額くらいにはなるかな?」
その余りにも高額な金額に、ミネルバ含め、皆の目が点になり、次第に驚愕の表情を浮かべる。
「ちょっとまて、S級クエストの報酬額と同等ということは、1000万J…くらいということか?」
「まあ、そうなるな」
カグラの焦りとは裏腹に、アレンはしれっとした様子で答える。
「そ、そんな高価なモノだったとは…で、ではこれはアレンさんに返さねば…ッ!」
ミネルバが焦ったように守りの護符を外そうとするが、アレンは守りの護符を人差し指と中指で捉え、それをミネルバの谷間の上に押し付ける。守りの護符越しとはいえ、急に胸元を触られたことでミネルバは顔を真っ赤にする。
「それは一度お前にあげたものだ。返す必要ない…苦節を乗り越えたことに対する、俺からのプレゼントだと思ってくれればいい」
「じゃ、じゃが…」
ミネルバは、アレンの言葉にどこか迷っている様子であった。しかし、アレンの真剣な眼差しに耐えきれなくなり、受け入れる姿勢を見せる。
「じゃ、じゃあ、ありがたく…」
アレンはその言葉を聞き、ミネルバの谷間に指を入れるように守りの護符をしまい込む。アレンの指が、軽く胸元を触れられたことで、ミネルバは更に顔を赤くする。そんな様子を見て、皆も顔を赤くして驚いていたが、ミラが不貞腐れたようにアレンにすり寄る。
「ミネルバだけずるいわ!私も何かほしいわ」
「お、おい、ミラ。わがまま言うな!」
「そうだぞ!」
「アレンに失礼でしょ!」
ミラのわがままな発言に、エルザ、カグラ、ウルティアが怒ったようにミラに声を掛ける。
「だってー…」
ミラは頬を膨らませていた。
「ははっ!そうだなー…あ、それなら…」
アレンはそう言って換装の魔法を使って、とある2種類のアイテムを大量に取り出す。
「なんですか?これ?」
「木の実?」
それを見たウェンディとシャルルが首を傾げながら見つめる。
「赤いほうが怪力の種、茶色いほうが忍耐の種だ。怪力の種は攻撃力を、忍耐の種は防御力をそれぞれ3分間だけ上昇させる効果を持つ。このどちらかをお前たちにやろう」
「おお!すげー!もらっていいのか!!」
「アレン?本当にいいの?これも高価なものじゃないの?」
ナツとレヴィがそれぞれ異なる反応を見せる。
「ああ、いいぞ。好きな方どちらかを選べ、あ、もちろん、ミネルバもな」
「し、しかし…ッ!わ、わかった…///」
再度抗議の声を上げようとしたミネルバであったが、またもアレンに詰め寄られ、承諾させられる。
エルザ、ミラ、カグラ、ウルティア、ウェンディ、ジュビア、ガジル、ジェラール、ナツ、グレイ、リリー、ミネルバ、スティング、ローグは怪力の種を、レヴィ、ルーシィ、シャルル、ハッピーは忍耐の種をそれぞれアレンから受け取った。
「まあ、ここぞという時にでも使ってくれ」
「やったー!!」
アレンの言葉に、ハッピーが飛び回りながら喜んでいた。他の皆も、大切そうに種を掌に載せ、ポケットなどにしまっている。
「あ、そうだ。アレンさん!」
「ん?どうしたルーシィ」
「皆の昔のこと、教えてください!」
ルーシィの発言に、皆は少し驚きを見せる。
「おい、ルーシィ…」
「ギヒッ!俺も聞きてーな」「私もグレイ様の昔を聞きたいですわ!」
グレイが一瞬ためらいを見せたが、それに被せるようにガジルとジュビアが言葉を放つ。
皆は気恥ずかしそうにしていたが、「おう、いいぞ」とアレンが乗り気だったこともあり、正面切って止めることもできず、むずむずとした気持ちを持ちながら、承諾した。
「俺が最初に出会ったのはエルザとジェラールでな、まあ、そのあんまりいい場所で出会ったわけじゃないんだが、その時俺は重傷でよ、2人に助けて貰ったんだ。んで、2人がフェアリーテイルに行きたいっていうんで、3人で旅をしながらフェアリーテイルに行ったんだったな」
アレンの言葉に、エルザとジェラールは目を見開いた。
「何を言っているんだ、助けられたのは、私たちの方ではないか…」
「え?どういうことですか?」
エルザの言葉に、ウェンディが口を開いた。ジェラールはエルザの方を見る。話してもいいのか、悩んだからだ。エルザはジェラールに小さく笑いかけ、頷く。それを見たジェラールが意を決して口を開く。
「俺とエルザ…それに英雄感謝祭で出会ったシモンとミリアーナの4人は楽園の塔で奴隷として働かされていたんだ」
皆の表情に、驚愕の表情が生まれる。
「おい…ジェラール…」
「いいんだ、アレン」
アレンは、2人の過去を蒸し返さないようにと割って入ったが、エルザが小さく呟き制止する。
「そして、そんなある日に、重傷を負ったアレンが楽園の塔がある島に流れ着いてな…俺たちのいる独房にアレンが投げ込まれた。だが、アレンはそんな傷をものともしないほどの回復力を見せ、楽園の塔を破壊して俺たちを救ってくれたんだ」
余りの過去に、皆は開いた口が塞がらないといった様子だった。
「だが、もう過去のことだ。それに、アレンが私たちを救ってくれた。そして何より…私の右目も…治してくれた」
「目が…見えなかったのか?」
ナツが言いづらそうに声を掛ける。
「潰されたんだ…拷問でな…だが、アレンがくれた薬を飲むとたちまち治ったんだ。…確か…いにしえの秘薬…だったかな」
まさかの告白に、皆の表情は恐怖を滲ませる。ウェンディ、ルーシィ、レヴィに至っては、「そんなことが…」と涙をためていた。
「…無理していうんじゃねーよ…」
アレンが畏怖を含んだ言い方で言葉を発した。だが、そんなアレンにエルザは小さく笑いかけ、口を開く。
「もう、気にしていない。私の心は、当の昔にあなたに救われている。皆も、気にしないでくれ。何より、私もジェラールも、すでに乗り越えたからこそ皆に話しているんだ」
アレンは怪訝な表情を見せていたが、エルザの言葉を聞き、ふっと笑いかける。
「あ、そういえば、…私の右目を治してくれた、いにしえの秘薬、相当高価なモノだったんじゃないのか?」
「まあ、そうだな…。小さな家が買えるくらいかな?でも、エルザの目に比べたら安いもんだろ…」
「…そんな高価なモノをポンポンと、あんたってホントにすごいわね…」
アレンの言葉に、皆が更なる驚きを見せるが、シャルルが呆れたように口を開いた。
「ははっ!そんなポンポンとやってるわけじゃないさ。いにしえの秘薬も、守りの護符も、怪力と忍耐の種も、お前らだから託したんだよ」
その言葉に、皆がへへっと照れたような表情を見せる。
「でも、いにしえの秘薬?で失った目も治せるなら、手や足を失っても治せるの?」
「まあ、死んでなければ大抵はな」
「そんな薬があるなら、安心だな」
ミラの質問にアレンが答えると、カグラが感心したように言葉を発した。
「あー、いや…」
しかし、アレンが頭を掻きながら言葉を詰まらせていたので、皆が首を傾ける。
「どうかしたの?」
「もうないんだよ、いにしえの秘薬…エルザに使ったのが最後の一本でな…」
その言葉に、ミラがすぐに「ご、ごめんなさい」と俯く。エルザとアレンに申し訳ないという気持ちがあったのだろう。
「いいんだ、ミラ…。そんなことより、アレン…そんな貴重なものを…」
「あー、ミラもエルザもそんな顔するなよ…言ったろ?エルザの目に比べたら安いもんだって」
アレンは頭を掻きながら答えた。
「し、しかし…」「それでも…」
エルザとミラは今にも泣きだしそうに表情を見せていたが、アレンがその2人の頭に優しく手をのせる。
「いいって言ってんだろ…使うべくして使った、それだけだ」
「アレンの言う通りだぜ。それに対してどう報いるかじゃねーのか?」
アレンの言葉にナツも2人を励ますように声を掛ける。エルザとミラは、アレンとナツの言葉を聞き、目尻に溜まった涙を指でふき取り、笑顔を見せた。
「ふふっ。そうだな…大事なのはこの大恩をどう返すか、だな」
「そうね…」
「やはり、アレンはすごい男だな」
リリーが感銘を受けたように言葉を発すると、先ほどまでのどんよりとした空気が一変し、盛り上がりを取り戻る。
その後も子どもの頃の出会いを皆で語り合い、皆が懐かしそうにしたり、驚きながら話を聞いたりなどして楽しんでいた。
余談だが、アレンがウルティアとの出会いを話したときに、「いやー、ウルティアに関してはお前を殺してやるー!って飛び掛かってきてなー」という話だったために、皆がウルティアに怪訝な表情を見せ、アレンに謝りつつも焦りながら皆に事情を説明していたのは言うまでもない。
後書き
・アギラ・エグル:アレンが契約をした、口寄せで呼び出せる鷹。元ネタはナルトで、イメージはサスケの呼び出す鷹。『キイィー』というネタにもされた鳴き声が特徴。竜種より一回り小さいが、かなり大きく、賢い。
・スノードロップ村:特に元ネタはないが、完全創作の村。強大な孤児院がある。
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