銀河転生伝説 外伝
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とある自由惑星同盟転生者の話 その3
<スプレイン>
第三次、第四次ティアマト会戦での功績が評価された俺は、少将に昇進して第十二艦隊の分艦隊2500隻の指揮官を拝命した。
旗艦はマサソイト。
原作の後半でアッテンボローが旗艦にしていたヒューベリオンの準同艦。
部隊の指揮どころか艦長経験すらない俺だが、ボロディン提督の推薦などもあって分艦隊司令という地位になったわけだ。
なんでも、『お前なら2500隻程度十分に指揮出来るだろう』とのこと。
正直過大評価だとは思うのだが、任されたからにはしっかりやる必要があるだろう。
…………
そんなこんなで訓練に励んでいるうちに、アスターテ会戦、第七次イゼルローン要塞攻防戦が起こり、結果もほとんど原作と同様だった。
ただ、第七次イゼルローン要塞攻防戦では要塞駐留艦隊が突っ込まずに撤退したらしい。
いったい何が起こっているのか……俺一人のイレギュラーだけでここまで原作との乖離が出るとは到底考えられない。
この世界に転生者が俺だけ……と考えるのはある意味傲慢だろう。
おそらく、帝国側に転生者がいる。
特に怪しいのが第三、第四次ティアマト会戦で活躍していた帝国の艦隊司令官ハプスブルク大将だろう。
ハプスブルク公爵家なんて原作では聞いたことも無い。
単に出て来なかっただけ……とも考えられるが、彼または彼の祖先に転生者がいるのは間違いないだろう。
もしくは、転生者の影響を何らかの形で受けているか。
だが、話はそう簡単なことでも無い。
転生者といっても、原作知識というアドバンテージがあるだけで、どこぞの小説のようにチート能力があったりするわけじゃない。
これは俺自身が実感したことだ。
しかも、原作知識も人であれば当然、時と共に忘れていく。
俺が原作を覚えているのは、覚えている内容を出来る限りメモし、それを見ながら時折思い出すようにしているからだ。
なので細かいところはもう色々と忘れている。
原作知識を有効に活用し、自身で艦隊の指揮もこなす……ただの凡人にできることじゃない。
俺にしても、ここまで(分艦隊司令官に)来るのにどれだけ苦労したことか。
………ここで考えていても真実は分からないな、この話はいったん置いておこう。
当面の課題は、帝国領侵攻を如何にして止めるかだ。
それが無理なら、どれだけ被害を減らせるか。
俺は前世でも今世でも民主共和制の国で生きてきた人間だ。
出来ることなら、それをこのまま続けたい……。
* * *
帝国領侵攻が決定された。
俺も少ないコネを使って色々と働きかけたけど無理だった。
いっそ思い切ってフォークを暗殺しておけば良かったか……。
いや、どちらにしろ帝国領への侵攻が同盟市民の大半の意思である限り出兵は避けられなかっただろう。
原作で、第十二艦隊はルッツ艦隊と交戦し全滅する。
つまり、このままだと分艦隊司令である俺も高確率で戦死してしまう。
もっとも、これは各星系の占領に艦隊を割いていたことや食料の不足による士気の低下という要因もあるため、それらを少しでも改善できれば結果はまた違ってくるはずである。
そして今、俺の属する第十二艦隊はボルソルン星域へ到達し、各地を占領下に置いている。
やはり、食料物資が引き揚げられてるな……。
「ボロディン提督、このままでは敵の焦土作戦に乗せられます。占領地を最小限に……いえ、この際ゼロにして敵襲に備え、撤退準備をしておきましょう」
『………そうだな。だが、司令部への説明はどうする?』
「虚偽の報告を送ってしまえば良いかと。この戦い、我々の敗北は必至です。であれば、如何に多くの兵を生きて帰せるかが重要となるでしょう。この戦い後、罷免されるであろう司令部への虚偽報告など些細な問題です」
『ふむ、貴官の言う通りだな。我々はこれより各地の占領を放棄、撤退準備を整える』
・・・・・
そして、遂にその時は来る。
帝国軍の反撃が開始されたのだ。
「敵影確認。数、15000」
「攻撃開始!」
あれは戦艦スキールニルだな。
やはり、ルッツ艦隊か。
幸いこちらは各地の占領を放棄していたため、まだ余力はある。
今のところ、戦況は互角だ。
だが、時間が経てば数と士気の差からこちらはジリ貧になるだろう。
どうするべきか……。
『全艦突撃、これより攻勢に出る。敵が艦隊をいったん引いたら、全速力でイゼルローンまで撤退する』
なるほど、攻勢を仕掛けて敵をいったん下がらせ、その隙に脱出するというわけか。
「よし、突撃だ! 敵が下がったらこちらも引くぞ!」
「はっ」
こちらの攻勢によって艦列を乱されたルッツ艦隊は、艦隊の再編を図るためいったん後退する。
『今だ!』
「よし、撤退せよ」
この第十二艦隊の行動に、ルッツは慌てて追撃を命じる。
「敵、追撃してきます!」
「構うな! 全速で撤退だ」
* * *
第十二艦隊はルッツ艦隊を振り切り、恒星アムリッツァへ到達した。
その戦力は戦闘前の7割ほどに減っていた。
恒星アムリッツァに終結したのは、連戦したはずなのに何故か1割の損害しか出ていない第十三艦隊、3割を失いつつも撤退に成功した第五、第八、第十二艦隊、司令官と艦隊の半数を失った第九、第十艦隊、司令官を失い辛うじて全滅を免れた第三艦隊。
第七艦隊は原作通り全滅(降伏)したようだ。
計55000隻。
出兵時の約半分まで減っている。
各艦隊の再編を行った結果、各艦隊13000、計52000隻で帝国軍を迎え撃つこととなった。
損傷が酷く戦闘に耐えられない艦はイゼルローンへ帰したため、数は3000隻程減ってしまったが。
布陣は、左から第十二、第五、第八、第十三艦隊の順だ。
原作よりは多少マシな陣容だが……さて。
それと、気になることがある。
ヤン中将がドヴェルグ星域で遭遇したのはキルヒアイスではなく、ハプスブルク上級大将らしい。
いったい、どういうこ『ピー、ピー』
敵艦隊接近のアラームが鳴る。
やれやれ、考え事をする暇も無いか。
アムリッツァへ現れた帝国軍は8個艦隊10万隻。
こちらのおよそ2倍の数だ。
これに背後からの奇襲部隊が加わるんだから、この戦いでの敗北は既に確定していると言って良いだろう。
『全艦、砲撃開始!』
アムリッツァ星域会戦が開始される。
「提督、恒星アムリッツァに融合弾を投下し、恒星風に乗って敵を奇襲してはどうでしょうか?」
『なるほど、面白い戦法だ。試してみる価値はありそうだな』
第十二艦隊は、恒星アムリッツァへ融合弾を投下することで人為的に恒星風を起こし、恒星風による加速を得てロイエンタール艦隊を攻撃した。
この攻撃により、ロイエンタール艦隊の艦列が乱れ、混乱が生じる。
その頃、奇襲を受けたロイエンタールは、
「ほう、このような方法で奇襲とは……敵も出来るな。いったん後退して陣形を再編、敵が引いたところを反撃せよ」
と、生じた混乱を冷静に対処していた。
この辺り、さすが名将といったところである。
『深追いは無用だ。敵の反撃が来る前に引け』
敵はロイエンタール。
ボロディン中将の言うように、すぐに反撃してくるだろう。
「よし、これで十分だ。元の位置まで後退せよ」
そんな中、黒一色に塗装された艦隊が第十三艦隊に突っ込んで行く。
ビッテンフェルトの黒色槍騎兵《シュワルツ・ランツェンレーター》だ。
黒色槍騎兵《シュワルツ・ランツェンレーター》は第十三艦隊に避された後、第八艦隊に突っ込み旗艦クリシュナを撃沈する。
「第八艦隊クリシュナ撃沈、アップルトン中将も戦死の模様」
「第八艦隊は崩壊しつつあります。このままでは我が軍は分断されますぞ」
「援護したいところだが、この状況では無理だ」
第十二艦隊は第八艦隊から離れている上、ロイエンタール、ケンプの両艦隊から攻撃を受けており、援護など不可能だ。
その間、ビッテンフェルト艦隊は第十三艦隊を撃つべく回頭するが、それを読んでいたヤンに強かに打ち据えられる。
依然、戦況はこちらが不利であるが、現在は膠着状態となっている。
しかし、それは帝国軍が援軍の到着を待って無理をしていないからだ。
向こうがその気になれば勝負はすぐに決まるだろう。
原作だと、もうすぐキルヒアイス、ワーレン、ルッツ艦隊が背後を突く。
だが、ワーレンのサラマンドル、ルッツのスキールニルは前方の敵軍の中にある。
どういうことだ……奇襲は無いのか?
「背後に新たな敵艦隊出現!数……お、およそ50000!!」
「なに!?」
50000隻だと!
確か原作では30000隻だったはずだ。
多すぎる!!
「敵中央に真紅の戦艦を確認。ヤン艦隊より報告のあったハプスブルク上級大将率いる艦隊と思われます」
敵の別動隊が砲撃を浴びせてくる。
だが、正面の敵で手一杯の同盟軍はそれに対応することができない。
「オレーグ被弾!」
「リューリク自走不能!」
「ロロ轟沈!」
「戦艦パルテノン、戦艦イスタンブール撃沈! カスパー提督、イワンコフ提督戦死!」
俺の元には絶望的な報告が引っ切り無しに入ってくる。
こころなしか、背後の艦隊が攻撃のリソースをこの第十二艦隊に多く割いているような気がするが……。
「戦艦コーカサス撃沈、副司令官ワイトル少将戦死!」
「ワイトル少将が……」
ワイトル少将は俺が大佐の時……第六次イゼルローン要塞攻防戦で俺の上司だった人物だ。
実力は中の上ぐらいだったが、良い人だった……。
これで、第十二艦隊の分艦隊司令官で生き残ってるのは俺だけか。
「旗艦ペルーン撃沈! ボ、ボロディン提督……戦死!」
ボロディン提督―――。
「………指揮権を引き継ぐ。装甲の厚い戦艦を外側に、火力と装甲の弱い艦を内側にして
敵の攻撃に堪えながら……撤退せよ!」
見れば第五艦隊、第十三艦隊も艦を撃ち減らされながらも撤退の態勢に入っている。
損害はこちらほどでは無さそうなのが唯一の救いだ。
・・・・・
逃げる同盟軍と十数万の大兵力で追う帝国軍。
一度でも止まれば、あの大艦隊に包囲殲滅させるだろう。
ヤン中将から殿を引き受けると通信があった。
原作では上手く切り抜けることが出来たが、あのハプスブルク上級大将とやらが転生者なら、ビッテンフェルト艦隊の薄さに何らかの手を打っているはずだ。
そうなったら第十三艦隊は……。
ここは原作通りに行くことを祈ろう。
俺に出来るのはそれだけだ。
* * *
結果的に、ヤンは疑似突出を使って撤退に成功した。
それは、ビッテンフェルト艦隊を突破することが不可能だとヤンが判断したことを意味する。
これで、『ハプスブルク公爵 = 転生者』は確定だ。
公爵ということは門閥貴族。
彼は、この後のリップシュタット戦役でラインハルトに付くのか、それとも……。
いずれにせよ、もっと帝国内の情報を集めなければならない。
戦死したボロディン提督の為にも……。
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