DQ3 そして現実へ…~もう一人の転生者(別視点)
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やる気、元気、メルキど?
“はぁ~…何れ此処に『ゴーレム』が門番をする様になるのね!”と、一人感慨深くメルキド唯一の入口を潜る私。
小高い壁に囲まれた安全な町の中へ入ると、そこには怠惰な人々の溜まり場だった。
「何だ、このやる気の無い町は!?」
ザッとだが町並みを見回った私達は、お父さんの嫌悪の篭もった言葉に反論出来ない。
大魔王の存在により未来に希望を持てなくなった人々が、働く事もせずにただ生きている………そんな町が、このメルキドだ!
「確かに不愉快な根性の持ち主が多い町ですね!」
結構気が短い女…真面目っ娘アルルさんも、この状況にご立腹模様。
お父さんと同意見になるなんて珍しいわ。
天変地異の前触れで、明日にでも日が昇るんじゃないの?
「こんな町、さっさと滅んでしまえばいいんだ!」
「ちょ、父さん…流石にそれは言い過ぎでは?…それ程までに大魔王の存在が大きすぎるのですよ」
私も言い過ぎだと思う…それにしてもお父さんって、やる気のない人間や最初から諦める人間が大嫌いよね。
「ドムドーラを思い出してみろ!大魔王の影響に脅えるという点では同じなのに、あんなにも前向きに生きている!…しかもあの町は、もう少しで水が干上がってしまいそうなんだぞ!それなのに僕達が辿り着くや、レミーラの魔法を憶えようと努力した!井戸が枯れ、大魔王に滅ぼされるだけの運命であれば、人工の光を作り出す必要なんてない…でも彼等は生きる事を諦めてないんだ!……それに比べてここの連中は……」
確かにその通りね…
でも皮肉よね。
未来への希望を捨ててないドムドーラが滅びて、既に生きる気力も失っているメルキドが生き残るなんて…
「わ、分かりましたよ…そんなに怒らないでくださいよ…情報を仕入れたら、さっさとこの町から出ましょう…」
最早八つ当たり以外の何物でもないのだが、お父さんに責められて困り切るお兄ちゃん。
「じゃぁ…早く探さないと…ゾーマの島へと渡「オルテガ様!!」…え!?」
同じく嫌悪しているアルルさんが、目的を済ませようと話を纏めかけたのだが、突如現れた女性の一言に遮られる。
「オルテガ様ー!お会いしたかったです!!」
「あ、いや…私は…むぐっ!」
しかも、アルル様へ駆け寄ると徐に唇を奪う女性。
図らずも百合のお時間だ!(わぉ!)
「あ、良いなぁ…」
男から見れば、突如女にキスされるのは羨ましいのだろうけど、女の私から見れば、女にキスされて“良いな”と言われるのは不愉快です。
されてるアルルさんは、もっと不愉快でしょうね。
「ん~…ぶはっ!…い、いきなり何すんのよ!!!」
ほら…ヒステリック・アルルが大激怒!
あの姉ーちゃん本当に気が短いんだから。
「…あら?…オルテガ様…背が縮んだ?」
「ち、縮む訳ないでしょ!別人よバ~カ!」
「え…べ、別人…!?う、うそ…」
うん。見るからに頭の揺るそうな女が、極めて揺るそうな台詞で自分を現している。
あんな女に唇を奪われたアルルさんに同情を禁じ得ない。
私なら即イオナズンだ!
「良く見ろバカ!女よ…私は女なのよ!少しだけど化粧だってしてるでしょ!コレでも最近は少しは女っぽくなってきたって言われてるのよ!ぶっ殺すわよアンタ!」
出会った頃のアルルさんはボーイッシュだったけど、最近の彼女は色っぽくなってきた。
胸以外は女にしか見えない…って事は、オルテガさんって“オネエ”系?
「じゃ、じゃぁ…オルテガ様は…?」
「知るかバカ!こっちだってあのクソオヤジを探してんのよ!ホント不愉快な町ね!」
この町が不愉快なのは認めるが、この馬鹿女が理由の大部分を占めるのはどうだろうか?
「お、落ち着いてよアルル…この人も悪気があった訳じゃ…むぐっ!?」
真面目な彼氏が宥めようと試みるが、口直しをするかの様に唇を奪うアルルさん。
有無を言わせず吸い付きボンバー。
「………んぷはっ…な、何ですか?いきなり…」
嬉し恥ずかしビックリな彼氏は、取り敢えず自由を確保すると理由を尋ねる。
聞かなきゃならないのが、まだ残る青さだね。
「そんな事聞くなよな…消毒だよ!…アルル的に清めなんだよ!」
「しょ、消毒!?清め?」
消毒とか、清めとか…みんな酷い言い様だな。
「そうよ!私はあのバカ女に、唇を汚されたの!貴方の唇で浄化して!」
本人が目の前に居るのだから、言葉を選ぶべきだと私は思う。
でもコレがリュカ家のスタンダードなんだろうね。
「お嬢さんの唇は、僕が浄化しましょうか?」
この状況でナンパするのは私のパパです。
「い、いえ…私は大丈夫ですから…」
「じゃぁ私が…ん…」
あえなく玉砕…かと思いきや、奥さんに唇を奪われてマッタリ感100%
暫しの時間、イチャイチャ・ブチュブチュして居りましたが、これでは一向に話が進まないと感じ、さりげなく互いの自己紹介を促す私。
いきなりキス女はフィリさんと言い、アルルパパの残したヤンチャ記録のお一人です。
「………そんな…オルテガ様では無いどころか、奥さんと娘さんなんですか!?あんなに激しく愛し合ったのに…」
「は、激しくって…ふさけんじゃないわよ!アンタとは………」
おや、何やら言葉を濁したぞ?
「…リュ、リュカさん…ちょっと確認してほしい事があるんですが…いいですか?」
マイパパとコソコソ密談してます。
浮気現場?なワケ無いわよね。
「うん。確認してみるね…」
どうやら何かを依頼したらしく、快諾するお父さん…
そして徐にフィリさんのお腹を触りましたわ。
「ちょ、何ですかいきなり!」
これこそ浮気の現場よね!?
何なの一体?
「うん…大丈夫だよ。誰も居ない!」
「ふぅ~…ここでもかと思っちゃいましたよ…ありがとうございますリュカさん」
………あぁ!
アルルパパの成果確認だったのね。
「ちょっと、何なのよ!説明しなさいよね!」
「うるさいわね、アンタは黙ってなさいよ!」
言い方が酷い…相当先程の事を気にしてるのね…
「申し訳ございませんでした。アルルは…彼女は貴方のお腹の中に、オルテガの子が宿ってないかを確認しただけなのです…」
彼女と父親の無礼を詫びるのは、出来の良い彼氏兼息子です。
「はぁ?良く見なさいよ!私が子供を産んだババアに見えるの!?まだピッチピッチなんだからね!」
「「な…こ、子供を産んだババア!?」」
この馬鹿女…言葉を選べ!
「ふざけんな小娘!私なんか3人も出産したのに、このプロポーションを意地してんのよ!」
そうよ、私のお母さんは美しく可愛く素敵なんだからね!
その遺伝子を私は受け継いでるんだからね!!
「私だってアルルを産む以前の体型を、頑張って維持してきたんですよ!」
そうだそうだ!
きっと三十路を過ぎ去ってるはずなのに、そんな風には全然見えないんだぞ!
「ご、ごめんなさい…と、ともかく…ここでは何だから、私の家で続きを…」
流石に事態を理解したのか、たじろぎながら謝り、町中での騒動を回避しようと自家に招こうとするフィリさん。
お父さんとお兄ちゃんが、ご立腹三人娘を宥めつつ、フィリさんの案内に従いついて行く。
先程アルルさん達が騒いだ場所から少し離れた所に、メルキドでは一般的な集合住宅が存在し、そこの一室がフィリさんの塒だ。
なぜ“塒”と言う表現をするのかと言うと……汚いのだ!
入室と同時にお父さんの顔が激しく歪む程、室内は喧噪としているのだ!
“メルキドでは一般的”と表したが、所謂『低所得層用住宅』の事であり、要約すると『貧乏人が住む汚く見窄らしい住まい』の事である。
私としては前世で暮らしていたボロアパートと大差ない状況に、それ程戸惑いはしないのだが、綺麗好きのお父さんはドン引き状態。
先程まで“隙あらば口説く”スタンスが一転、終始軽蔑視しておりますよ。
「あ、あの…機嫌を直して貰えませんか?これじゃ話も出来ないのですか…」
お父さんが嫌悪から口を開こうとしないので、渋々ながらお兄ちゃんがマイパーティーの女神3人を宥めるべく口を開く…
「………ティミー……分かってるの?私はババアって言われたのよ!子供を産んだ女はババアって!」
「そうよティミー君…私もビアンカさんも、競争率の高い夫の為に、日夜努力して美貌を維持しているのに、ババアって言われたんですよ。許せると思いますか!?」
お兄ちゃんも地雷原である事は分かっていたのだろう…
でも話を進展させる為に、自らを犠牲にして飛び込んだのだ。
だが結果は案の定…
女性問題の達人に目で助けを求めても、嫌悪状態で顰めっ面をするばかり。
「俺だったら出産をした女性を前にして『ババア』なんて言えないね!きっとフィリさんもそうだと思いますよ。お二人とも若くて美しいから、子持ちだとは思えなかったんですよ!若くて美しすぎるから、間違えて口から暴言が出てきちゃったんですよ!」
お兄ちゃんを助けたのは出来る弟子ウルフ。
『お前…何が狙いだ!?』と胡散臭く感じる台詞をスラスラと言い、戸惑う義兄を救出する。
やっぱりこの男から目を離せない…絶対に浮気するぞ!
「良い子ねぇ~ウルフ君は!」
ウルフの言葉に気をよくしたお母さんは、彼の頭を抱き締め、パフパフしながら撫でまくる。
キサマ…それが狙いか!?
「本当…貴方は若いのに、女心を解っているわ!」
次いでアメリアさんも同じようにウルフの頭を抱き抱え、パフパフのご褒美を行い褒め称える。
当のウルフは嬉しそうだ………ムカツク!
「さて…お姉さん!オルテガさんとはお知り合いのようですが、何処へ行ったのかご存じありませんか?」
これ以上ウルフを誘惑されては敵わないので、美女二人のパフパフ攻撃から引っ張り寄せ、話題を元に戻そうと試みる。
「いえ…今どこに居るのかは………でも以前この町に来た時に、魔の島へ渡る方法を探しているって言ってたの!その時は収穫無しだったけど…私がその後で情報を集めたのよ!この町の南端に住んでいるジイさんが知っているらしいの!オルテガ様にその事を伝えたいのよね…何処に居るのかしら?」
逆に居所を尋ねられた。
知らねーから聞いてるのに、尋ね返すなよ!
「やはりオルテガさんは『魔の島』へ渡る正しい方法を入手して居らず、強引な方法で『魔の島』への上陸を決行する様ね…つまり、己の肉体への負担を顧みず、泳いで魔の島へ行くつもりよ!」
もうしょうがないから私が導いてあげますよ。
「…すげーなアルルパパは!」
「き、危険よ!止めないと!!」
「そうよ…早く止めないとオルテガが!!」
オルテガさんの娘と妻が血相を変えて心配するが…
「いや…止めようにも、今現在何処にいるのか分からない事には…それに既に手遅れかもしれないし………今僕等に出来る事は、少しでも早く魔の島へ行く方法を入手する事だよ!」
冷静に状況を判断し結論を下すお父さん。格好いいです。
「な、何言ってるんですか!?このアレフガルドの海を見た事ないんですか!?太陽がないから真っ暗で、方向感覚も無くなり、水温は極寒と言っていいレベル…尚かつ、魔の島近海では常に波が荒れており、泳いで渡る事など不可能なんです!」
だが馬鹿女が無駄に騒ぎ立てる。
「いや…魔の島に渡るだけなら、不可能ではない!問題なのは上陸した後なんだ!」
「じょ、上陸した後って…どういう事ですか?」
父親の事が心配で声も出ないアルルさんの代わりに、お兄ちゃんが問題点を尋ねてきます。
「うん。僕もラダトームに居た時に魔の島方面の海域を見たよ………暗くて方向感覚が無くなるって事だけど、目的地のゾーマの城に多少の明かりが見えるからね…方向感覚はなくならないだろう…」
「し、しかし…水温はどうします?とても泳ぎ切れないと思いますが!?」
「オルテガはメラを使えるんじゃね?」
「え、えぇ…確か使えましたけど…」
「じゃぁ大丈夫だよ!メラを体中に纏わせれば、ギリギリ泳ぎ切る事が出来るはず…」
「メ、メラを纏わすって…どういう?」
「エジンベアでビアンカが見せたろ。両手にメラの炎を纏わして、生意気な門兵を脅かしたじゃん!…アレを体全体で行えばいいんだよ!」
陸上で行った場合、下手をすると丸焦げなのだが、水中であれば即座に消火され大事には至らない。
ただし…すんげー魔法力を消費するだろう!
たかがメラでも、常に放出している状態なのだから。
「で、でも…上手くいくでしょうか?」
「そんなの分からないよ!でもオルテガは、その方法で渡る事を決意したんだと思うよ」
「なるほど………では、父さんの意見ではオルテガさんは既に魔の島へと渡っていると?」
「いや…それは分からない。泳ぐにしたって可能な限り最短距離にしたいはずだから、場所の選定中だと思うね…ただ、泳ぎ出す前に僕等がオルテガを見つける事は時間的にムリだと思う!それよりも彼が泳ぎ切る事を信じて、僕等は正しい魔の島への渡り方を探しだそう!」
お兄ちゃんの導きで、お父さんの冷静な状況判断を披露する事が出来、青ざめてるアルルさんもアメリアさんも発狂することなく聞き終える事が出来た。
「では父さん…『問題なのは上陸後』と言ってましたが、それはどういう事なのでしょうか?」
「うん。今言った方法で魔の島へ渡ると、体力・魔法力共に著しく低下した状態で、敵本拠地の強烈な敵達と戦わなきゃならないんだ…勿論、敵に見つからない様に何処かで体力回復を図るとは思うけども、完全回復は出来ないだろうから…これはとっても危険だよ!」
オルテガさんが危険である事に代わりはなく、早急に合流し共に行動する事が望ましい。
原作では、すんでの所で失われる命…
そんな事は回避しなければ、私やお父さんがこの世界に来た意味がない!
「あの…可能な限り急いで魔の島へ急行して下さい!そしてオルテガ様を助けて下さい!!…これは以前、私の部屋に泊まった時に忘れていったオルテガ様の盾です!その時は忘れ物だと思い、次に来た時に持ち帰るのだと思ってましたが…そちらの方の仰る事が正しければ、盾はワザと置いていったのだと思います。泳いで渡るのに、この盾は邪魔ですから………だ、だから貴女達にお渡しします!この盾は『勇者の盾』と言うそうです…オルテガ様がラダトームの北にある洞窟で見つけたそうです」
私が密かなる決意を胸に秘めてると、部屋の奥(そちらも大変散らかっている)から、フィリさんが一つの大きな盾を持ってきてアルルさんに手渡した。
「あ、ありがとう…必ず父(オルテガ)を無事に連れ帰ります!」
アルルさんの戦う姿は、女の私が見ても格好いいと思う事がよくあるが、勇者の盾を装備した彼女は更に凛々しく格好いい存在になる。
私は直接見た事無いけど、天空の武具を装備したお兄ちゃんも、一層格好良く見えるのかな?
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