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Fate/WizarDragonknight

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勇者部活動

「真司さ~ん!」

 見滝原の奥の方には、大きな山が広がっている。
 以前ハルトたちが戦い、山火事になってしまった箇所があるようだが、その近辺ならば、まだまだ遊歩道などがある。
 三月という季節なのも相まって、あちこちで桜が咲き始めている。そんな美しい場所に、城戸真司(きどしんじ)は同居人とやってきていた。
 だが。

「ぜえ、はあ、ぜえ、はあ……」

 真司は息を上げながら、見滝原の山道を見上げた。
 小川の傍の桜道は確かに美しいが、今はそれ以上に険しさが真司を襲う。

「真司さん! 大丈夫?」

 そんな真司に駆け寄って来る、花のような明るい表情を見せる少女。
 結城友奈(ゆうきゆうな)
 真司とともに生活している、自身の半分くらいの年齢の少女は、膝を曲げた真司と顔の高さを合わせた。

「さ、最近、運動不足だから、山登りも、一苦労だぜ……」
「大丈夫! なせば大抵何とかなる! ほら真司さん! もうちょっと頑張ろう!」

 友奈は真司の手を引き、走り出す。

「今日の勇者部は、山でのごみ掃除のお手伝いだよ! このあと頑張らなきゃだから、ここでへばっていられないよ!」

 友奈はそう言って、真司に手を伸ばす。

「分かってるけど……っていうか、すごいよな勇者部……」

 真司は彼女の手を握り返し、そのまま引っ張ってもらった。体の重心が歩くのには不適切な箇所に移動するのを感じながら、真司は友奈から視線を逸らす。
 山間いから一望できる、見滝原の街並み。
 見滝原の街並みを眺めながら、真司は両手で伸びをする。

「あっ……! こ、腰が……!」
「真司さん、大丈夫?」
「あ、ああ……何とか」

 だが、


「ふう……!」

 汗を拭う友奈。爽やかな表情で

「ようやく着いたよ!」

 爽やかな声で友奈が指差すその場所。
 見滝原という枠内に辛うじて入るのは、真司と友奈の生存がその証拠となる。
 友奈は真司の顔を覗き込みながら、笑顔を見せた。

「すっきりしたね! 真司さん」
「そうだな」

 キラキラの笑顔の友奈とは対照的に、真司はげっそりとしている。
 







「噂?」
「……ああ。すっげえ怖え噂だ」

 真司は幽霊を表現するように、両手を顔のそばでぶら下げる。

「何でもここ、出る、らしいぜ?」
「……」

 それに答えを察したのか、友奈の顔が青くなっていく。
 だが真司は、さっきまでの仕返しにとばかりに話を続けた。

「バイト先の友達から聞いたんだけどよ。満月の日の夜十二時、ここに来ると、あるはずのない人形が……」
「わわわわっ! そういうの駄目駄目!」

 友奈はそう叫んで、真司の肩を抑える。
 真司はほほ笑みながら、肩を鳴らした。

「さて。それで、今日はここで何をするんだ?」
「ゴミ拾いだよ。ほら、山って結構ポイ捨て多いでしょ?」
「ああ、確かにな」

 真司は頷いてキャンプ場を見渡した。
 一見するとのどかな緑の広場でも、あちらこちらに風情を台無しにする無機物が放置されている。
 ビニール袋、食品容器、バーベキューセット、エトセトラ……。

「確かにこりゃひどいな……」
「で、わたしのバイト先の店長の友達の妹の隣に住んでいる人が、結構自然保護に力を入れているんだって。それでわたし(勇者部)に声がかかったんだよ」
「それってもはやただの他人じゃねえか!」
「時間もそろそろだし、来るんじゃないかな?」

 友奈は真司の腕時計を確認する。
 そろそろ太陽が南中する時間に、真司はまた伸びをした。
 そのとき。

「にゃー」
「猫だ!」

 友奈の声に、真司は振り向いた。
 友奈の視線の先には、じっとと友奈を見つめる猫。
 友奈は「ほーら、こっちおいで~」と手招きをしている。
 猫は「にゃー」とジト目を浮かべてそっぽを向いた。

「あれ? おかしいな、来ないよ?」
「猫じゃらしでも使えばいいんじゃないか?」
「うーん、近くにないな……あれ?」

 猫は友奈の手に前足を押し当てる。すると、友奈が「わああっ!」と顔を明るくした。
 すぐに猫は友奈から離れ、走っていく。だが、見失うほどの距離を引き離すよりも先に、猫は足を止めて振り向いた。

「どうしたんだろ?」

 猫はまた、友奈に近づく。数回友奈の周囲を回転したあと、また離れていく。

「もしかして、付いてこいって言ってるんじゃないか?」
「そうなの? 猫ちゃん」

 友奈の問いかけに、猫は「にゃー」と答えるだけ。
 そして。

「待って下さい、チトさん!」

 その声が、猫の動きを止めた。
 やがて、山道から、女性が姿を現す。

「あ、友奈さん! 遅れてごめんなさい」

 山道に適した服装に身を包んだ彼女は、髪に手を当ててほほ笑んだ。
 大人びた印象の強い彼女だが、誤魔化し笑いには幼さを残していた。
 その姿を見て、友奈も彼女に駆け寄った。

「ううん! 大丈夫だよ! ほら、ちゃんと手伝ってくれる人も連れてきたし!」
「城戸真司。よろしくな!」

 真司の挨拶に、彼女は「はい」と応じた。

「この度はありがとうございます。依頼人の木幡真琴(こわたまこと)です」

 高校生だろうか。
 まだあどけなさが残る笑顔だったが、随分と大人びた印象を受けた。
 真琴と名乗った少女は、自らの肩に飛び乗った黒猫___チトさんに手を当てた。

「こちらはチトさんです。よろしくお願いしますね」
「よろしくな。その猫、すっごい懐いているんだな」
「いえいえ。懐いているとか、そういうわけではないんです」

 真琴がそう言うと、チトさんなる猫は、彼女の頭上に飛び乗った。そのまま真司へ「にゃー」と鳴いた。

「遅れてごめんなさい、だそうです」
「そこまで言ってること分かんの!?」
「はい。でも、本当に困った山道でしたね。遭難するかと思いました」
そうなん(・・・・)だ……あっ」

 発言の直後に、友奈は顔を真っ赤にして自らの口を覆った。
 だが真琴はさほど気にすることもなく、頭上のチトの頭を撫でた。

「本当に


「ここの山道……一本道だったよな?」
「うん。真琴ちゃん、どこで迷ったの?」
「ええ?

「ミラーワールドにでも入ってたのか?」




 真琴はそう言いながら、持っている手提げ袋からゴミ袋を取り出した。

「さあ! それでは早速始めていきましょう!」
「おーっ!」

 真琴の宣言に、友奈も高らかに応じた。
 真司も真琴からゴミ袋とゴミ手袋を受け取り、「っしゃあ!」と気合を入れた。

「それじゃあ、始めようぜ。……と言ってもどこから始めるかな」

 真司はそう言って周囲を見渡す。レジャーとして人気がある登山だけあって、この見滝原山に来る人は多い。だが、人数が多くなれば、それだけ問題も顕在化してくるもの。
 心無い人々が捨てていったゴミが無数に散乱しており、ざっと見ただけでも、とても三人の人手で片付く量ではない。
 だが、真琴は「いえいえ」と手を振った。

「そこは問題ありません」

 不安げな表情を見せる真司へ、真琴が息を鳴らした。

「こういうものを一か所に集める、秘策があるんです!」
「秘策?」
「はい! 実はなんと! 私、魔女なんです!」
「え?」

 その単語を聞いて、真司の思考が止まった。知り合いであるはずの友奈もまた、真顔を浮かべている。
 だが、胸を張った真琴は続けた。

「私の手にかかれば、このようなごみ掃除なんて、お茶の子さいさいです! ……何ですかチトさん」

 チトさんが、真琴へにゃーにゃーと言っている。
 相槌を打っている真琴を見て、真司は思わず尋ねた。

「な、なあ。もしかして、猫が何言ってるのか分かるのか?」
「はい。魔女ですから、使い魔の言うことは分かりますよ」
「おお、なんか魔女っぽい!」

 友奈が思わず拍手をしている。一方真司の口からは、「ていうか、ここまでやるんなら俺たち必要あったか?」と言う感想だけしか出てこなかった。
 真琴は二人に礼を言って、準備を始める。
 怪しげなナプキンを敷き、チョークで魔法陣を描く。ポーチの中から無数の種類を収めたビンを取り出し、数摘まみずつ指定した場所に配置していく。
 季節に似合わない黒いローブを羽織った彼女は。

「なんかますます魔女っぽいね!」
「俺たちの知り合いの魔法使いはエセっぽく思えてきたぜ!」

 この時、見滝原のどこかで、真司たちの知り合いのエセ魔法使いはくしゃみをした。
 そして、目の前の本物の魔女は薬品と薬品を調合し始める。

「これ、どっちかって言うと化学実験じゃね……?」
「魔法の力ってすごい!」
「俺たちのすぐ近くにも魔法使いいるけどな」
「そうなんですか!?」

 薬品を調合している最中の真琴が振り返った。

「うん! 魔法使う時、すっごい変な音で歌うんだよ!」
「歌って魔法を使えるんですか? すごいです! お姉ちゃんからはそんな魔法聞いたことないです」
「あれってなんで魔法使えるんだろうな」
「後日、是非会わせて下さい!」

 目をキラキラさせながら、真琴が真司に顔を寄せた。
 真司は了承して、彼女の背後の薬品に目をやった。
 途端、調合中の薬品の色合いが一転して紫となった瞬間を目撃してしまった。

「わわっ! 真琴ちゃん真琴ちゃん! 前! 前見て! 薬がっ!」
「ほえ?」

 とぼけた表情の真琴が、紫になった薬を見て真っ青になった。

「はわわわっ!」

 慌て出した真琴は、懐から布を取り出し、煙を煽る。

「いけませんいけません! このままだと……」
「このままだと?」
「色んな虫が湧いてくるんです!」
「何でそんなデメリットあるやつを使った!?」

 真司が悲鳴を上げている間にも、まさにそのデメリットが発生していた。
 山というだけあって、無数の虫たちがその姿を現わす。
 緑で覆われた芝を染め上げていくような虫の大群は、そのまま何を目的としているのか、魔女の薬品に群がっていく。

「に、逃げて下さい!」
「うわああああああああああっ!」
「わあああああああああああっ!」

 真司と友奈は声を重ねて悲鳴を上げた。
 何とか虫たちから逃げ切り(その際真琴が用意した薬品類はすべて持っていかれた)、踏み荒らされた芝生だけが残された。

「……し、失敗しちゃいました」
「これ、結局魔法とか使わないで普通に片付けた方が速かったんじゃない?」
「言わないでください……!」

 真琴は目を瞑って耳を塞いだ。

「まあまあ。ほら、普通のごみ袋持ってきたから。やっぱり人の手でやってこそのゴミ掃除だろ!」

 真司はそう言って、リュックから持ってきたゴミ袋を取り出す。友奈と真琴にそれぞれ渡し、右手を掲げた。

「よおし! やるか!」
「お、おお!」
「挽回します……!」

 友奈と真琴も、それぞれ気合を入れてゴミを集めに山の中へ繰り出していったのだ。 
 

 
後書き
真司「よし……この辺は結構片付いたな」
真琴「ええ。ありがとうございます」
真司「にしても魔法なんてすごかったな。いつもあんなのやってるのか?」
真琴「はい。まだ見習いなんです。みなさん、色んなところで修行しているんですよ」
真司「そうなんだ……結構いるのか?」
真琴「もう数も少なくなっていますけど、いますよ」
真司「そうだよ、こういうのだよ魔法使いってのは! ハルトみたいなトンチキ詠唱より、もっと神秘的な奴だよ!」
真琴「お、お知り合いの魔法使いの方がどんな方かは分かりませんけど……そんな変な魔法なんですか?」
真司「もう、シャバシャバ言うんだぜ」
真琴「シャバシャバですか……?」
真司「……なあ、魔法使いって、沢山いるんだよな? あ、真琴ちゃんの界隈の魔法使いな」
真琴「ええ。さっきも言いましたけど、あちこちにいますよ」
真司「それで俺たちが知らないってことは、もしかして魔女って存在は、秘密にされてるのか?」
真琴「そうですね。魔女は、家族や親戚といった関係者以外には……( ゚д゚)ハッ!」
真司「おいおい今更かよ! 大丈夫か? 俺たち、消されちゃったりしないか?」
真琴「だだ、大丈夫です! 多分……」



___シャンランランラン 空を 飛んでこの街を見渡すの みんなといると違って見える 不思議なくらいに___



真琴「そんな私たち魔女の生活を描いた、ふらいんぐうぃっちです」
真司「2016年の4月から6月放送のアニメだぜ」
真琴「青森県弘前市を舞台に、多種多様な魔法使いや魔女さんたち、他にも色んな人との生活を繰り広げています」
真司「毎回毎回不審者が出てくるのなんだこれ……ていうか、今回は箒に乗らないんだね」
真琴「あれ股に食い込んで痛いんですよ」
真司「抑えない抑えない。……あれ? 友奈ちゃん? 友奈ちゃん、どこ行った?」 
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