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アテナイの夜

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第一章

               アテナイの夜
 酒の神ディオニュソスはこの時オリンポスを出て旅を楽しんでいた、一緒にいたのは兄弟でもある友人の炎と鍛冶の神ヘパイストスであった。 
 二柱の神々はギリシア中を旅しその中でアテナイに立ち寄った。ここで酒の神は炎の神に眉を顰めさせて話した。
「兄さん、これはいけないですね」
「?栄えているし皆火をしっかり使っているじゃないか」
 ヘパイストスは自分が司るものから応えた。
「鍛冶も的確に行われ職人も多い」
「違います、葡萄酒がないではないですか」
「そういえばそうだな」
「ギリシア中にもたらしたと思ったのに」
「しかもギリシアで最も栄えているアテナイでな」
「何としたことか」
 ディオニュソスは地団駄を踏んで言った。
「これは私の失態です」
「落ち着くのだ」
 炎の神は地団駄を踏む弟神を諫めた。
「広まってないなら広めたらいいな」
「そうですね」
「そうだ、怒ることはない」
「確かに」
 ディオニュソスも言われて気を取り直して言った。
「それではです」
「これからな」
「はい、酒を広めましょう」
「そうしよう」
「ではどうして広めるか」
「とりあえず宿屋に入って休むか」
「そうしますか」
 兄神の言葉に頷いてだった。
 ディオニュソスは彼と共に宿屋を探してだった。
 これはという宿屋に入った、そこには赤髪と黒目に割れた顎の穏やかな顔の男と彼と同じ赤髪を長く伸ばした青い目の細面の麗しい外見の娘とだった。
 娘そっくりだが金髪の女がいた、三人で宿屋をやっていて。
 二柱の神々旅人に身をやつした彼等を宿代より遥かによくもてなしてくれた、男の名はイオカリスといい宿屋の主で金髪の女はエリネーといって彼の妻で娘はエーリゴネーといって二人の間の娘だった。
 三人は食事も出してくれて風呂も紹介してくれてよい床も提供してくれた。二柱の神々はこのことに至って感激した。
「いいな」
「全くです」
 朝起きてだ、ディオニュソスはヘパイストスに笑顔で応えた。
「これ程もてなしてくれた宿屋はこの旅ではじめてです」
「そうだな」
「ここまでしてもらうとなると」
 ディオニュソスは笑顔で話した。
「私としてもです」
「礼をせずにいられないか」
「はい」
「そうだな、わしもよい鍋と包丁を出す」 
 鍛冶の神としてとだ、武骨な外見の神は言った。
「そうする」
「兄上はそうされますか」
「是非な」
「では私はここで。です」
 中性的な外見で穏やかな顔立ちの酒の神も言った。
「葡萄酒をもたらします」
「そうするか」
「はい、あの二人に葡萄の栽培の仕方とです」
「アテナイにはその時点でないしな」
「酒の造り方を教えよう」
「それでは。しかしどうもです」
 ここでだ、ディオニュソスは。
 少し眉を顰めさせ右手を己の顎に当ててこう言った。
「この街の者達はやたらと堅苦しく小難しいことばかり喋っていますな」
「学問特に哲学の街だからな」
 それでとだ、ヘパイストスは答えた。
「それも当然だ」
「全く以て面白くありません」
 ディオニュソスは不愉快そうに述べた。 
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