最下位で終わらない

「残念ながら」
「ぶっちぎりで優勝したな」
「それでよ」
　兄にさらに言った。
「あのチームはね」
「手がつけられないか」
「そうよ、まだ前半だけれど」
「優勝は間違いないか」
「どう考えてもね」
「じゃあクライマックスか」
「それを目指すことよ」
　まさにというのだ。
「阪神はね、けれどそれ言ったら」
「カープもか」
「そうよ、交流戦は駄目だったけれど」
　それでもというのだ。
「まだ戦力はあるから」
「Ａクラスか」
「それになるのはカープよ、いや」
　ここでだ、千佳は。
　少し俯いて考える顔になって兄に言った。
「巨人蹴落としたらいいわね」
「そうしたらか」
「ヤクルトはどうにもならなくても」
　あまりにも強くてだ。
「巨人はどうにかなるかも」
「だからか」
「巨人を蹴落として」
「阪神とカープがＡクラスか」
「そうなればいいわね、というかね」
　千佳は考える顔のまま言葉を続けた。
「巨人が負けたらね」
「そんないいことはないな」
「そう、もうどんどん負けさせてやって」
　そうしてというのだ。
「蹴落とせばいいのよ」
「あのチームが最下位になればいいな」
「ええ、そうしてやればいいのよ」
「そうだな、阪神だってな」
「もう最下位じゃなくて」
「これからどんどん上がるからな」　
　またこう言うのだった。
「だったらな」
「ええ、カープと阪神でね」
「Ａクラス目指すか」
「じゃあカープ以外に勝ってね」
　千佳は顔を上げて兄ににこりと笑って告げた。
「応援はしないけれど期待してるわ」
「こっちもだ、阪神以外に勝ってくれ」
　兄も兄で嗤って告げた。
「そしてＡクラスになってくれ」
「三位になってね、阪神」
「カープがな、もう最下位じゃないからな」
「これからはＡクラスね」
「そうなるからな」
　笑顔で話してだった。
　兄妹は共に牛乳を飲んでからそれぞれの部屋に戻った、そして自分達が愛するチームの今の順位と成績を確認してから勉強に入った。これからのことを楽しみにしながら。


最下位で終わらない　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０２２・６・２８