モンスターハンター 〜故郷なきクルセイダー〜
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霊峰編 決戦巨龍大渓谷リュドラキア 其の十二
前書き
◇今話の登場ハンター
◇バンホー
ルトゥ村出身の竜人族であり、黒いリオレイア「リルス」を相棒としているライダーでありながら、ハンターでもある青年。武器はフレイムスロワーを使用し、防具はリオソウルシリーズ一式を着用している。当時の年齢は75歳。
※原案はscp-114514先生。
「う、うぅ……!」
「おい、しっかりしろッ! こんなところでくたばるんじゃあないッ!」
ドスイーオス達との戦いで激しく負傷し、回復薬も尽きているアーギル達は、瓦礫に潰されかけている防衛要員達の救助に当たっていた。その背後では、気力だけを頼りに老山龍に向かって行くクサンテ達の雄叫びが響き渡っている。
「……! あれはッ……!?」
だが――真っ先にラオシャンロンへの攻撃を仕掛けたのは、先陣を切っていたクサンテではなかった。
彼女よりも疾く、彼女よりも鋭い一閃を放ったのは――遥か上空から突如飛来して来た、漆黒のリオレイアだったのである。その両翼にある鋭利な爪は、老山龍の堅牢な外殻すらも破り、その内側の肉に深く食い込んでいた。
クサンテ達はそのリオレイアの登場に驚いてはいるものの、敵意は向けていない。そのリオレイアも――そこに跨っている「ライダー」の青年も、顔馴染みの仲間だったからだ。
「ようッ、待たせたな皆ッ! 『相棒』を連れ出す許可を取るのに、随分と時間が掛かっちまったが……ここからは、俺達も混ぜて貰うぜッ!」
「バンホー……!」
ルトゥ村出身の竜人族、バンホー。リオソウルシリーズ一式の防具を纏い、フレイムスロワーを構えている彼は――漆黒のリオレイアに跨り、上空からこの戦場に駆け付けて来たのだ。その様相はさながら、御伽噺の竜騎士のようであった。
若くしてアルカラ大陸を去り、ドンドルマ、メゼポルタ、ロックラックを中心に旅を続けて来た彼は、漆黒のリオレイアこと「リルス」を「相棒」としているライダーであり――その生態の解明を目指している、ハンターでもある。
強くなればなるほど、謎を解くための行動範囲は広がる。それ故に、ハンターとしての上位昇格を目指していた彼は、このクエストに参加する決意を固めていたのだ。
「リルスも連れて来たの……!? よくギルドの許可が降りたわね!?」
「この異常事態だ、ギルドだって藁にも縋る思いなんだろうぜッ! ……尤も、ウチのリルスは藁なんて可愛いモンじゃあないんだがなッ!」
だが、未だに謎が多いリルスをこの現場に連れ出す許可を正式に得るのは、容易ではなく――今に至るまで、バンホーはドンドルマから動けずにいた。
その鬱憤を晴らすかのように、バンホーが駆るリルスは両翼をはためかせ、ラオシャンロンに強烈な火球を放っている。最も得意とする絆技「フレイムシェイバー」の体勢だ。
「さぁ、こいつでとどめッ……!?」
だが、それを簡単に許す老山龍ではない。リルスを明確な「敵」と認識したラオシャンロンは、とどめのサマーソルトキックを放とうとしたリルスに狙いを定め――
「ぐわぁあぁあッ! リ、リルスッ!」
――その一撃が炸裂する直前を狙い、噛み付いて来たのである。老山龍の牙に囚われたリルスはそのまま勢いよく振り回され、バンホーもろとも投げ飛ばされてしまうのだった。
岩壁に叩き付けられたリルスとバンホーは、そのまま敢え無く地表に墜落してしまう。リルスの巨体が緩衝の役割を果たしたことで、バンホーは重傷を負いながらも一命は取り留めたのだが――リルスの方はダメージがより深刻なのか、そのまま気を失ってしまった。
「ぐ、ぅうッ……! や、野郎ッ……もうタダじゃおかねぇからなぁッ!」
リオソウルシリーズの防具もすでに傷だらけとなっているが、それでもバンホーは己の傷や痛みに構うことなく、リルスを傷付けられたことへの怒りに燃えていた。フレイムスロワーを握り締める彼は、血みどろになりながらもラオシャンロンに向かって行く。
一方のラオシャンロンも、リルスの爪や火球がかなり効いていたのか、苦しげな咆哮を上げていた。すでにこの戦いは、終局に向かおうとしていたのである。
「……ッ! リルスが作った絶好の勝機、逃すわけには行かないッ! 皆、行くぞォオッ!」
城門を突き崩そうと立ち上がり、その巨大な体躯で全てを押し潰そうとするラオシャンロン。
その懐に飛び込んだエレオノール達は、肉質が柔らかい腹部を集中的に狙い、残された力を振り絞っての総攻撃に掛かる。全ては仲間達と、リルスが作った好機に報いるために。
回避も防御も度外視。ただ眼前の敵を打ち倒すことのみに全神経を注ぐ、無謀の極致。その愚直なまでに攻撃的な戦法が、下位という枠組みを超えた気迫と破壊力を齎していた。
その迫力と、濁流の如く襲い掛かって来た激痛に怯み。圧倒的な巨躯で人類を翻弄してきたラオシャンロンは、下位ハンターの攻撃で後退りし始めている。
生きて帰るため、多少なりとも己の命を顧みる。そんなハンターとしての基本さえ投げ捨てた、野獣の如き猛攻。
理性を犠牲にして得たその威力が、下位ハンターでありながら老山龍を怯ませた――という、荒唐無稽な現象を引き寄せたのである。その勢いに乗るがまま、クサンテ達はさらに畳み掛けようとしていた。
「きゃあぁあぁああッ!」
「クサンテッ……ぐはぁあぁッ!」
だが、この無謀な突撃は相応のダメージとなって、クサンテ達に襲い掛かって来る。立ち上がった状態で腹部を攻撃され、バランスを崩したラオシャンロンは――そのまま伏せるように倒れてしまったのだ。
その動きを察知したクサンテ達は本能的に四方八方へと回避し、下敷きになることだけは免れたのだが。老山龍が倒れた際に発生した衝撃波までは避け切れず、全員そのまま吹き飛ばされてしまったのである。
すでに満身創痍である彼女達が、その勢いで渓谷の岩壁に激突するようなことがあれば、今度こそ命はない。
「あうッ!? あ、あなた達……!」
「防衛要員達の救助は完了した! ここからは……俺達も混ぜて貰うぜッ!」
その窮地を救ったのは――防衛要員達の救助に当たっていた、アーギルをはじめとする他のハンター達であった。ラオシャンロンと渡り合える余力などないというのに、それでも彼らは渾身の力を振り絞って、吹っ飛ばされたクサンテ達を受け止めて見せたのである。
「クサンテ……!」
「えぇ、分かってるわ……! もう、今しかないってことくらいッ!」
彼らの手で激突を免れたクサンテ達は、すでに限界を超えている体をさらに酷使し、立ち上がって行く。
倒れ伏し、弱り始めている老山龍を打倒するための最後の攻撃。その好機は、今しか無いのだから。
「皆……この死地を超えた先に、上位という次の『高み』が待っているわ。絶対に昇格するわよ、全員でッ!」
防衛要員達を拠点に運んだ今なら、全員が攻撃に参加出来る。先ほどの総攻撃をさらに超えた戦力を、この好機に全て叩き込む。
そんなクサンテの大博打をとうに察していたハンター達は、姫騎士の合図を静かに待ち――
「……掛かれぇぇぇえーッ!」
――その怒号に突き動かされたかのように。一斉に走り出して行くのだった。
勝って。生き延びて。全員で昇格する。そんなおめでたい未来を、この手で勝ち取るために。彼らは血反吐と共に雄叫びを上げ、眼前の老山龍目掛けて最後の突撃を敢行する。
「あのイノシシ姫にばっかり良い格好はさせてられないわよ、クゥオ! ……テリル姉のような悲しい犠牲なんて、もう絶対に許さない! 生き残って見せるわ! 全員でッ!」
「はいッ! カノン兄様に会う日まで……私だって、負けるわけには行きませんッ! どんな相手だろうと、斬り払うまでッ!」
今は亡き、姉代わりの先人を想い。ヒドゥンサーベルを振るうロエーチェが、老山龍に向かって吼える。睡りを誘う貝剣斧Iによる属性解放突きを見舞うクゥオも、ラオシャンロンの巨躯に怯むことなく兄への愛を叫んでいた。
「結局最後は、己自身を武器に……ってかッ! リリア、ここまで来たらお前も腹を括りやがれッ!」
「……はいッ! 行きましょう、アーギルさんッ!」
ラオシャンロンの足元を狙うアーギルが、ダーティーバロンIでその爪先を滅多斬りにしている中。彼のサポートに徹しているリリアは、カムラの鉄笛IIでの演奏でその攻撃力を強化していた。
「我が師より継承の印――流れる刃流水の如しッ! 居合抜刀、気刃斬りッ!」
師匠譲りの技と、「練気」を活かした気刃斬りの剣舞。見る者を魅了するフィレットの太刀筋は、ラオシャンロンの外殻すらも斬り裂いていた。
腰だめに構えた狐刀カカルクモナキIIを、相手の挙動に合わせたカウンターとして振るう必殺の剣技――「居合抜刀気刃斬り」。師であるヤクモすらも瞠目したというその技を放つ瞬間、笑顔を消した彼女の瞳はサファイアの色に輝いていた。
「あの勢い、まるで戦車ですねぇ……! よぉし! 私も同じ太刀使いとして、挑む気心で行かせてもらいます! ――みじん切りッ!」
そんな彼女の一閃に劣らぬ疾さで、カヅキもユクモノ太刀による気刃斬りを撃ち放っている。「みじん切り」……という覇気のない響きに反して、その鋭さはフィレットの剣技に迫る域に達していた。
「……父祖よ、ご嘱目あれッ! 雪の陰から祝福をッ! この私、エヴァンジェリーナは……グツァロヴァの血を穢しませぬッ! 独り生き残った臆病者でなく、私は古龍殺しの英雄となるのですッ!」
「俺は絶対に……カエデを超えて見せるッ! これから先、あれだけ実力が必要となると知った以上……この程度の修羅場、越えずにいられるかァアァッ!」
2人の斬撃によるダメージで、ラオシャンロンの頭部が降りて来た瞬間。その「急所」を狙い、怒号を上げてウォーメイスを振るうイーヴァに続き、ルドガーもレッドビートで老山龍の頭部を打ち抜いていく。
「ジュリィ、まだまだ行けるよねッ!? 最後にもう一度……私達の底力、見せ付けてやろうよッ!」
「最後だなんて、縁起でもないこと言うなッ! ……これからもずっと、あたし達の狩猟生活は続いて行く! 続けて見せる! これは、そのための……戦いでしょうがぁぁあッ!」
残された力を振り絞り、レックスディバイドIの属性解放斬りを放つエクサ。そんな彼女を襲う老山龍の爪先を大楯で凌いだジュリィは、ガトリングランスによる最後の突撃を敢行していた。
「エレオノールッ! 君が何と言おうと、その装備は君自身の努力によって勝ち得たものだ! それを私に証明して見せてくれ、今ここでッ!」
「……ッ! あぁ……証明して見せるとも! 篤と刮目せよ、ガレリアスッ! これがゼークト家に仕えしハンター……エレオノール・アネッテ・ハーグルンドの刃だぁああッ!」
ディアブルジートによる竜撃砲を見舞うガレリアスに続くように、エレオノールは渾身の「溜め斬り」で蒼剣ガノトトスを振り下ろしていた。この戦いを制することで、己の装備を心の底から誇るために。
「皆を守るための『力』は……俺1人じゃ届かないッ! ……ベンさん、同時攻撃お願いしますッ!」
「……おうよッ! ここはいっちょ、若人のためにも年季の重さってヤツを見せてやろうじゃあねぇかッ!」
鋸斬りヒ首【直参】による気刃斬りを放つヒスイと、里守用防衛鉄笛Iでの殴打を繰り出すベンは、同時に老山龍の腹部目掛けて渾身の一撃を放っていた。ラオシャンロンの各部位の中でも一際攻撃が通りやすい箇所であるそこからは、鮮血が噴き出している。
「クウド様ッ!」
「ぐッ、ぅううッ……! ヴェラ、俺に構わず行けぇッ! クサンテ達を生かすためにも……攻撃の手を緩めるなァアッ!」
「……いいでしょう。ならば、この老山龍めには一際キツい毒で苦しんで頂きますわ。今の私は、ちょっとばかり不機嫌でしてよッ!」
斧モードのポイゾナスベイルIをラオシャンロンの外殻に叩き付けていたクウドは――隣に居たヴェラを庇い、巨大な尻尾で跳ね飛ばされてしまった。
そんな彼の言葉に背を押されたヴェラは――妖艶な貌に静かな殺意を纏い、ヴェノムウィングによる苛烈な乱舞を披露している。
「クウドがやられたッ……!? ええい、これ以上の犠牲は決して許さんッ! ジェーン、リリィベル! 奴の顔面に集中砲火だッ!」
「言われなくたって分かってるわよッ! ……キレてるのは、ヴェラだけじゃあないんだからァッ!」
「弾だってタダじゃないんだから……さっさとくたばりやがれってぇのぉおおぉッ!」
鬼ヶ島、スティールアサルト、ボーンシューター。その3丁による一斉射撃で頭部を狙うアルター、ジェーン、リリィベルの3人は、クウドを倒された光景にさらなる憤怒を燃やしていた。
「サリア、皆……! 俺は必ず、生きて帰って見せるぞ! 炎王龍も……老山龍も倒してッ!」
「諦めへん……ウチ、絶対に諦めへんでッ! 見ててや、シン兄ッ!」
「これが最後の攻撃ですわ……! 皆様、出し惜しみは無しでしてよッ! 全ての弾を、矢を、刃を、使い尽くすのですッ!」
デルフ=ダオラ、アルクセロI、カムラノ鉄弓。それらの得物でラオシャンロンの頭部を撃ち抜いていくソラン、イヴ、ブリュンヒルトの3人も、最後の攻勢に己の運命を委ねている。
「リルスの痛みッ……思い知りやがれぇえぇぇえッ!」
そして、リルスの無念を背負ったバンホーのフレイムスロワーが、渾身の竜撃砲を解き放った時――力尽きたように倒れ伏した老山龍の頭が、クサンテの目の前に降りて来たのだった。
(デンホルム……そして、アダルバート様ッ! どうか、どうか今だけでも……この無謀で愚かな姫騎士に、皆を導ける力をッ! この龍を討てる、力をッ!)
文字通り、身命を賭した最後の総攻撃。その限りを尽くしたハンター達に続き――デンホルムから託された、ディフェンダーを振り上げるクサンテは。
「……はぁあぁあぁあーッ!」
必殺の信念を込めた、渾身の一閃を振るい。その巨大な刃を、老山龍の顔面に叩き込む。ディフェンダーの刀身がラオシャンロンの頭部に沈んだ瞬間、その切っ先が外殻の先にある肉へと到達した。
「あうッ……!」
激しい血飛沫と巨龍の唸り声が上がり、クサンテはディフェンダーを振り下ろした体勢のまま、力尽きたようにそのまま倒れ伏して行く。
「ラオシャンロンが……帰って、行く……!?」
「や……やっ、た……!」
断末魔にも似た咆哮を上げたラオシャンロンが――踵を返したのは、その直後だった。
クサンテ・ユベルブをはじめとする、上位昇格を目前に控えていたハンター達は。下位という身でありながら、老山龍を「撃退」するという大快挙を果たしたのである。
城門に背を向け、苦悶の唸り声を響かせながら立ち去って行くラオシャンロン。その足踏みによる轟音は、徐々に遠いものとなって行った。
「へ、へへ……ざ、まぁ、見やがれッ……!」
しかし当然ながら、その勝利に沸き立てるような気力を残している者などこの場には1人もおらず。緊張の糸がようやく切れたハンター達は全員、クサンテと同様に倒れ伏していた。
撃退という結果である以上、剥ぎ取りも出来ない。ならば今だけでも、傷付き果てたこの体を休めるしかないだろう。
「みん、な……ありが、とう……!」
そう結論付けたクサンテ達は、指1本動かせないまま、深い眠りに沈んでいく。故に彼らは――目にすることがなかったのだ。
ラオシャンロンの撤退に呼応するかのように、この渓谷を包み込んでいた深い霧が晴れると。その霧に隠されていた紅い月が、妖しい輝きを放っていたのである。
その不気味な夜空に舞う「銀翼」こそが、老山龍やドスイーオスをこの渓谷に追いやっていた真の元凶であることなど、クサンテ達には知る由もないのであった――。
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