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モンスターハンター 〜故郷なきクルセイダー〜

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霊峰編 決戦巨龍大渓谷リュドラキア 其の五

 
前書き
◇今話の登場ハンター

◇エヴァンジェリーナ・アレクセーエヴナ・ゲンナージエヴィチ・グツァロヴァ
 愛称はイーヴァ。雪に閉ざされたグツァロフ村の生き残りであり、村を滅ぼした古龍への殺意を滾らせている中性的な美女。武器はウォーメイスを使用し、防具はバギィシリーズ一式を着用している。当時の年齢は24歳。
 ※原案はただのおじさん先生。

◇ルドガー
 「伝説世代」の1人であるカエデに窮地を救われて以来、ハンターとしての強さをひたすらに追求しているストイックな青年。武器はレッドビートを使用し、防具はガルルガシリーズ一式を着用している。当時の年齢は24歳。
 ※原案は団子狐先生。
 

 
 持ち場を離れたハンター達は砲弾を抱えているアーギルとリリアを進ませるべく、毒の脅威を知りながらもイーオス達の注意を引き付けようとしていた。
 狭い通路内で、毒液という飛び道具を持っているイーオスを相手に手間取れば不利になる。そう判断したハンター達は素早く間合いを詰め、矢継ぎ早にイーオス達に斬撃を見舞っていた。

「……鬱陶しいったらありゃしない。悪いけど、あんた達の死を悼む暇は無さそうだね」

 その一方で――巨大な鉄槌ことウォーメイスを振るい、イーオス達の頭を叩き潰している女ハンターも居る。
 バギィシリーズ一式の防具を纏う彼女の名は、エヴァンジェリーナ・アレクセーエヴナ・ゲンナージエヴィチ・グツァロヴァ……通称、イーヴァだ。

 グツァロフと呼ばれる、雪に閉ざされた最果ての村。その地の出身である彼女は、10年前に故郷を古龍によって滅ぼされて以来、古龍への報復を胸に生き続けて来た。
 代々村を守り続けて来たグツァロヴァ一族最後の生き残りとして、その誇りを守り抜くために。

「……私は、あの老山龍を倒さなきゃならないのに。こんな奴らに、構ってる場合じゃないのにッ……!」



 中性的な美貌と、薄いターコイズブルーの瞳。そして銀に近い白色の髪が、今にも消えてしまいそうな儚さを醸し出している。
 イーオスの頭を矢継ぎ早に叩き潰しながら、群れの統率を崩そうとドスイーオスに狙いを定める彼女だったが――首魁に気を取られた彼女を狙い、真横からイーオスの毒牙が迫って来た。

「……ッ!?」
「デカい口を叩く前に、もう少し周りを見たらどうなんだ。……お前1人で戦ってるんじゃないんだぞ」

 だが。イーヴァの首根っこを掴み、強引に後ろへと引き戻した青年の膂力によって、彼女の首を狙っていたイーオスの牙は空振りに終わってしまう。その牙は頭部もろとも、青年が振るったレッドビートによってすり潰されていた。

「ルドガー……誰が助けてなんて言ったの」
「許可が降りなきゃ助けられないんだったら、今頃お前は死んでたぜ」
「どうでもいいけど、邪魔はしないでくれないかな。私がどうしようったって私の勝手でしょ。私の命は私が使う」

 ガルルガシリーズを纏ったその青年の名は、ルドガー。「伝説世代」の1人であるカエデに窮地を救われて以来、ハンターとしての強さをひたすらに追求して来た期待のホープであった。

 ドンドルマを目指して砂漠を渡っていた旅の途中、上位個体のダイミョウザザミと遭遇し、完敗した時。死を覚悟した自分の運命を変えたカエデの刃は、今も彼の眼に深く焼き付いている。
 故郷の村を拠点に活動していた時は、無敵の狩人とも言われていた彼は。その時初めて、自分よりも遥かに格上な超越達の存在を肌で実感したのだ。

「こんなところで手こずってる場合じゃない、ってのは……俺にとっても同じことさ。イーヴァ」
「……」

 自分と同年代の女ハンターが、あれほどの高みに達しているというのに。自分は一体、こんなところで何をしているというのか。
 その悔しさをバネに強さを追い求めて来た彼は、「伝説世代」の高みを目指して己の技を磨き続けて来たのである。

 誰もが彼らを、雲の上の存在であるかのように見ている。ドンドルマに居るハンター達も、その多くは彼らをまるで神話の人物であるかのように語っていた。

 本気で彼らを越えようとする人間など、一握りも居ない。それは、太陽に近付こうとして翼を焼かれる愚者の行いだからだ。
 「伝説世代」が築き上げて来た幾つもの逸話は、彼らだから出来たことだ。普通の人間が真似しようなどと考えて良い内容ではない。誰もがそう言う。

 ――クソ喰らえ。それがルドガーの見解だった。

 少なくとも彼が出会ったカエデという女性ハンターは、紛れもなく「人間」だった。神話に登場するような超然とした存在などではなく、それどころか人一倍食いしん坊な困った女ですらあった。
 そんなただの女が、勝手に神様扱いされて祭り上げられているというのだ。そして己の弱さが、そんなただの女を救いの女神にしてしまった。

 ルドガーには、それが1番耐えられなかったのだ。「伝説世代」の狩人達を、遥か遠くから見ているような男にはなりたくなかった。ただの女を、ただの女でいさせられるような男になりたい。
 今はその想いが、ルドガーという男を突き動かしているのだ。イーヴァに背を預け、レッドビートを構え直す彼は、イーオスの群れに鋭い眼差しを向ける。

「……1人より2人の方が早い。さっさと片付けて、クサンテ達の援護に戻るぞ」
「……ふん。まぁ、そうしたいんならいいんじゃないかな。私は止めないよ、あんたのやることは」

 そんな彼の過去を知るイーヴァは、悪態を吐きながらもその逞しい背に身を委ね、ウォーメイスを握り締めていた。
 自分の生き方に口を挟まれることを何よりも嫌っているはずの彼女は今、ルドガーの言葉に己の命運を預けたのである――。
 
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