| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

モンスターハンター 〜故郷なきクルセイダー〜

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

霊峰編 決戦巨龍大渓谷リュドラキア 其の三

 
前書き
◇今話の登場ハンター

◇アーギル
 ユベルブ公国第3都市「フィブル」出身のハンターであり、口は悪いがサポート役としての高いポテンシャルを秘めている。武器はダーティーバロンIを使用し、防具はフロギィシリーズ一式を着用している。当時の年齢は29歳。
 ※原案は踊り虫先生。

◇リリア・ファインドール
 「伝説世代」の1人であるレイン・ファインドールの妹であり、姉とは正反対な控えめな性格。武器はカムラの鉄笛IIを使用し、防具はクロオビシリーズ一式を着用している。当時の年齢は19歳。
 ※原案はヒロアキ141先生。
 

 
 ロエーチェとクゥオによる砲撃も意に介さず、老山龍は常軌を逸する速さで侵攻を続けている。決して効いていないわけではないのだが、それ以上に彼の巨龍は「先を急いでいる」のだ。
 一体何が、どのような存在がこのラオシャンロンを駆り立てているのか。その疑問は尽きないが、今はその真相を追い求めている場合ではない。

「おっ、重いぃ〜っ……! この砲弾、すっごく重いですぅう〜っ! こ、こんなの皆さん、どうやって運んでるんですかぁ〜っ……!?」

 クゥオと同様に大砲の砲弾を運んでいる他のハンター達も、漆黒の丸い鉄塊を懸命に持ち上げていた。クロオビシリーズの防具を纏う1人の女性ハンターは、その並々ならぬ重さにくびれた腰を震わせている。

(う、うぅ〜っ! こんなんじゃあ、一生掛かってもレイン姉さんみたいなハンターになれないよぉ〜っ! 何で私、昔からこんなに鈍臭いんだろうっ……!)

 カムラの鉄笛IIを背にしている彼女の名は、リリア⋅ファインドール。あの「伝説世代」の1人である、レイン・ファインドールの実妹であった。
 姉のようなハンターを目指して、その道の門を叩いた才媛……なのだが、性格の方は姉とは正反対であり。今もこうして、砲弾を運ぶ要領を掴めず泣き言を上げている。

「バッカ野郎、何チンタラ運んでんだリリアァッ! これから上位に昇格しようって奴が砲弾一つでピーピー言ってんじゃあねぇッ! あの考え無しなイノシシ姫がくたばっちまう前に、俺達でなんとか奴を止めなきゃならねぇんだぞッ!」
「は、はぃぃいっ! ごめんなさいアーギルさぁあんっ!」

 そんな彼女を後ろから叱りつけているのは――フロギィシリーズの防具を纏う年長者のハンター・アーギルだった。ダーティーバロンIを腰に下げている彼は、リリアを叱咤しながらも砲弾を軽々と運び続けている。

「いいか!? 重さは全然違うだろうが、要領は卵の運搬と同じだ! 両腕はあくまで物を固定するための添え物! 腕の力で持とうとするな! 腰で持つんだよ腰で!」
「こ、こうですかぁあ……!?」
「そうだよやりゃあ出来んじゃねぇかじゃあ言われる前にさっさとやれ! お前よりよっぽど非力な俺でもこんなもん楽勝で運んでんだ、お前に出来ねぇわけがねぇだろうが!」
「ひゃ、ひゃいぃっ!」

 共にこの防衛戦に参加した仲間達の中では、単純な戦闘力において最も劣っているアーギルだが――その知識と経験は、彼が上位に限りなく近しい域に居ることを何よりも雄弁に物語っている。リリアの中に眠っている才能を看破しているからこそ、彼は敢えて厳しく彼女を焚き付けているのだ。

「お前、姉さんみたいなハンターになりたいっていつも言ってただろうが! だったら足元なんか見てんじゃねぇ、前だけ見てろ! そんなことじゃあ姉さんに笑われちまうぞッ!」
「……は、はいっ……! 私、頑張りますぅっ……!」

 そんな彼の言葉に背を押されたリリアも、姉の背を追うように真っ直ぐ歩み出していく。慣れない砲弾の重さに肉感的な両足を震わせながらも、その瞳はただ前だけを見据えていた。
 僅かながらも、着実に成長を続けているリリア。そんな彼女の背に頷きつつ、砲弾を運んでいるアーギルは――この大渓谷に漂う空気の異様さに、眉を顰めていた。

(……嫌な予感がする。あの老山龍の異様な侵攻速度といい、妙なことばかりだ。「5年前のあの事件」の時にも、こんな気分にさせられた覚えがあるぜ……)

 ――ユベルブ公国第3都市「フィブル」。その地出身の専属ハンターだったアーギルは5年前、黒蝕竜「ゴア・マガラ」による襲撃事件に直面したことがあった。
 「黒蝕竜の変」と呼ばれたその事件の際、街の防衛に携わっていた時にも。今まさに感じているような不吉な予感が、絶えず脳裏を過っていたのである。

 形容し難い悪寒が背筋を突き抜けていく、その当時の感覚を思い起こしながらも。彼はリリアと共に砲弾を抱えながら、次弾を装填するべく大砲の元へと歩みを進めていく。

「クゥオ、次の砲弾だ! 頼むぞッ!」
「お、お願いひまひゅう〜……!」
「はいッ! アーギルさんもリリアさんも、お気を付けてッ!」
「この位置からラオシャンロンが狙えなくなったら、別の迎撃ポイントに向かうわよ!」

 ラオシャンロンの負傷という、微かな兆候から窺える勝機への光明。そこに希望を見出しているアーギルとリリアは、ロエーチェとクゥオに砲弾を託すと、次弾を用意するべく弾薬庫へと駆け込んで行った。

「さぁ、次の分だ! さっきの要領でさっさと運んじまうぞ、リリア!」
「はいっ!」

 鍛え抜かれたハンターの膂力でも、両手で抱えなければならないほどの重量を持つ特大の砲弾を担ぎ上げながら、2人は再び砲台を目指している。だが、弾薬庫から砲台までの通路には厄介な「邪魔者」が入り込んでいた。

「こいつらは……!」
「イ、イーオス!? でもこの数、普通じゃないですっ! しかもっ……!」

 「獲物」の予感に引き寄せられた無数のイーオスが、砲弾を運ぶ2人の前に立ち塞がって来たのである。アーギルとリリアは、その異様な頭数に瞠目していた。

 ――過去の防衛戦においても、砲弾の運搬中に小型モンスターによる妨害を受けたというケースは幾つもある。だが、それは数頭程度のごく小規模なものばかりだった。

 2人の眼前に立ちはだかって来たイーオスの群れは、10頭や20頭……という数ではない。決して広いとは言えないこの通路を、完全に封鎖してしまうほどの数だったのだ。

「……おいおい、こんな時に冗談キツイぜ……!」

 しかもそこには、従来の防衛戦ではあり得ない――ドスイーオスの姿もあったのである。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧