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恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS

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第百二十二話 闇、近付くのことその八

 その中でだ。ゲーニッツが社にこんなことを話していた。彼等も彼等の船に乗っている。
「さて、では間合いに入ればです」
「ああ、風を起こしてくれるな」
「そうしてですね」
「あいつだな、次は」
 社は唇の端を歪めさせて笑って言った。
「クリスが火を使えばな」
「火と風はそれぞれだけでも力を発揮しますが」
「合わさればさらにだからな」
「はい、力は二乗されます」
 まさにそうなるというのだ。
「都合のいいことにです」
「そうだな。そしてだな」
「あの連中も度肝を抜かれるな」
 楽しげに笑って言う社だった。
「そしてだな。奴等を全員焼き肉にしてな」
「この世界が私達のものになります」
「俺達の血は戦いとその流血の中で起こるもの」
「その戦いが今から行われます」
 ゲーニッツも笑っていた。そうしてだった。
 彼は恭しくだ。社にこんなことを言った。
「ただ、貴方は」
「俺は?俺がどうしたんだ?」
「オロチ一族ですが何処か人間的でありますね」
「ははは、そうか?」
 ゲーニッツのその言葉にだ。社は笑って返した。
 そうしてだ。こんなことを言うのだった。
「俺は生粋オロチなんだがな。れっきとした」
「何かを楽しむ様な。遊びを」
「遊びをか」
「はい、それは違うでしょうか」
「そうかもな」 
 少し考える顔になってだ。社もゲーニッツのその言葉に応えた。
「俺自身音楽は嫌いじゃない」
「そうですね、それは」
「それに同胞達を探して旅をしていたがな」
 旅をする目的はそれだった。しかしそれと共になのだったのだ。
「中々楽しんでたな、旅自体もな」
「そこが人間的だと思いますが」
「確かにな。言われてみればな」
「はい、そうですね」
「それはそうだな」
 自分でも言う社だった。
「ただ。それでもな」
「それでもですね」
「俺は人間には好意とかは持っちゃいない」 
 そのことは間違いなかった。社自身だけでなくゲーニッツも見ていた。
「何一つとしてな」
「むしろ滅ぼす相手としか見ていませんね」
「そうだ。文化も文明も必要ないんだよ」
 彼が楽しんでいるそれもだというのだ。
「自然、いや混沌だな」
「それこそが必要ですね」
「そうだよ。それはあんたもだよな」
「牧師というのはあくまでこの世をくらますものでしかありません」
 ゲーニッツにとってはだ。人の世なぞそうしたものに過ぎなかった。
 そしてだ。その仕事もなのだった。
「人は何故仕事というものに必死になるのでしょうか」
「生きる為だったな。それでだな」
「はい、その通りですね」
「下らないよな。生きることなんて金とかなくてもできるんだよ」
「人はそれを忘れてしまっています」
「何もかも。あの文化とか文明のせいだな」
「誰だったでしょうか」
 ゲーニッツの笑みが思わせぶりなものになった。
「あの自然に帰れという言葉は」
「あれか?確か」
「フランスの哲学者だったでしょうか」
「何とかいったな」
 首を捻りながらだった。社は話す。
「名前は忘れたがな」
「貴方も高校は出ておられましたね」
「ああ、出てるさ」
 それはだというのだ。
「ちゃんとな。ただな」
「それでもですか」
「正直人間の世界の勉強なんてのには興味がないんだよ」
 それもだ。全くなのだ。
 
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